このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください

丹原まんじゅう



 横峰山へ向う道すがら、この【まんじゅう】は存在する。正確にはへんろ道から少しばかり離
れているのだが、決まって泊る宿がこの先にあるので、矢張り吾がへんろ道の【まんじゅう】に
なる。
 生木地蔵に詣で宿への一本道は必ずこの店の前を通る。当然餡に所縁のある商品は多々
あるのだが、「よう暫く」と愛想良く手を振ってくれるのは、何時もこの【丹原まんじゅう】君である。
義を見てせざるは勇なきなりと、店内に足を踏み入れるのが糖尿の為せる業でもある。
【丹原まんじゅう】と【糖尿】君の相思相愛の仲など、店の主人は知る由もあるまい。
 
 本体は御覧の通である。小振りだがふたつを合わせた感じで夫々に餡が入っている。
横峰寺の車道が尽き、愈々へんろ道らしき山の小径を上ることになる。その境には休息所とト
イレがあり、此処は誰もが心の準備をする場所でもある。
 足の運びが快調であれば余裕を持って一服することができる。そのような時は可哀相だが仲
を裂き、おちょぼ口で半分づつ味わいながら喉をゆっくり通すことになる。
 しかし、不注意で宿を出遅れた時は休む余裕無し。心の準備をしただけで不規則な階段を急
ぎ足で登ることになる。
仲を引き裂くことも無く、機関銃のように口に放り込んでいく。喉は美味さを感知すること無く、
下膨れの貪腹だけが【丹原まんじゅう】を歓迎する結果となる。
 こんな時【丹原まんじゅう】は紛れも無く、値の高い【買い物】になる。
喜んでいるのは、彼だけである。

CAN


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