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東武鉄道竹ノ塚踏切事故について考える

 

TAKA  2005年 3月21日

 

 

 この 3月15日に東武伊勢崎線竹ノ塚駅近くの伊勢崎線37号踏切(第一種乙踏切)で踏切警手の操作ミスで歩行者4人が死傷する事故がありました。

  「 <手動踏切>女性4人はねられ2人死亡、2人軽傷 足立(毎日新聞)」
  「 伊勢崎線37号踏切と竹ノ塚駅周辺の概要

 今や第一種乙踏切は機械式の第一種甲踏切が主流になりかなり減少しており、 全国で59箇所しか存在していません 。東京では東武竹ノ塚・京成高砂が有名ですが、今や人間が監視・操作する事によるメリットが活かせる「複々線区間」「車庫の出入庫区間」「開かずの踏切で歩行者・車の通行の多い踏切」でしか存在しなくなってます。

 今回の事故は、踏切警手が業務上過失致死で逮捕されているものの、未だ事故報告・裁判判決等公的に原因は発表されてませんが、報道を見る限り原因は「 上り準急列車の接近を十分に確認せず、内規に違反しロックを無断ではずし遮断機を上げた (3月16日毎日新聞)」 ということです。ここではそれに基づき、この踏切事故の原因について考えたいと思います。

 

(1)何故この踏切事故は起きたのだろうか?〜開かずの踏切対策が裏目に?〜

 まずは事故の原因についてですが、今までの報道で明らかなように直接的な原因は「 列車運行連動盤で、電車の接近を示す赤ランプの点灯を確認したにもかかわらず、通過までに時間に余裕があると思い込んで遮断機を上げた (3月16日産経新聞)」 という点にあることは間違いありません。表面的に見れば踏切警手の人為的ミスであるといえます。

 しかしその裏には「開かずの踏切を緩和し少しでも踏切の解放時間を長くする為に、「 電車が近づいていても遮断機を上げていた (3月17日産経新聞)」 ということがあるといえます。

 鉄道会社が「人が操作することでの柔軟性」、つまり手動式では電車が踏切に近づくぎりぎりまで遮断機を上げ、通行人や車両が少しでも渡れるようにできるために、一部で「開かずの踏切」対策として残されているということが、今回の事故では裏目に出たという事だと言えます。  実際東京都の「 踏切対策基本方針 」でも伊勢崎線37号踏切は重点踏切に分類されており、竹ノ塚駅周辺も鉄道立体化検討区間に指定されている都公認の「開かずの踏切」です。しかし東武角田常務がいうように「車庫か竹ノ塚駅を動かさない限り立体化は難しい」のも事実で、道路単独の立体化も周辺の再開発を絡ませないと難しい(隣接の竹ノ塚西口南地区再開発時に舎人2号線の拡幅はしたが単独立体化等の工事は無し)状況です。「東武は犠牲者が出ないと動かないと住民同士で話していた。まさか本当に犠牲者が出るなんて」と住民が言っても、東武も動くに動けない状況であり、可能な対応策として色々な意味で柔軟性のある「第一種乙踏切を残す」方策で対応したということです。

 その手動ゆえの柔軟性を使った「開かずの踏切対策」が裏目に出たのが、今回の場合事故の直接的原因になったということです。

 

(2)踏切事故の裏に有る物は?(その1)〜通行人のプレッシャーが内規違反をさせた?〜

 以上のように直接的な原因は「内規違反の踏切操作」で「電車が近づいても踏切を上げていた」点にありますが、なぜそのような危険な踏切操作をリスクを犯して行ったのでしょうか? その遠因は 「『何時開くんだ』『早く開けろ』という通行人の怒鳴り声 (3月21日時事通信)」 だったようです。

 上記記事にもありますが、 1時間に50分も閉まる踏切での操作で踏切警手は通行人から恒常的なプレッシャーを受けていたようです。その為に内規違反の「ロック解除」という技術の穴を使い踏切をなるべく長く空けていた。その危険な操作を間違えて操作し今回の悲劇を引き起こしたということが、陰に隠れたもう一つの真相であります。

 この伊勢崎線37号踏切は、歩行者には北側 100mに竹ノ塚駅自由通路が、南側 150mには自転車も使える歩道橋が迂回路として存在します。しかしそれらの迂回路を利用する人は上記記事によると少なく、歩行者が車道に溢れて踏切が開くのを待っている状況です。

 基本的に「踏切は電車優先」というのは世間の常識です。これが機械式の第一種甲踏切なら通行人は機械には文句を言いませんし、機械も故障しない限りはプログラミングされた操作以外の危険な操作は行いません。しかし手動式で踏切警手の居る第一種乙踏切では、通行人にしてみれば踏切警手と言う「当たる相手」がいますし、踏切警手は自己の判断で「技術の穴を衝く操作」で通行人の不平不満に対応してしまうことができます。

 このような「人間が介在することで発生する隙間で外野のプレッシャーをかわしたこと」が今回の事故の原因の裏にあるものだといえます。確かに危険な操作をした踏切警手が悪い事は否定できませんが、そのような操作をするように圧力を掛けた通行人の人々も今回の事故の間接的加害者であることも事実です。法令や整備された迂回路を無視した心無い人々の罵声が、今回の2名の方々を死なせてしまう遠因になったのです。その点に関していえば、我々を含む一般の人々もその行動・言動について十分注意しなければならないといえます。

 

(3)踏切事故の裏にあるものは?(その2)〜東武鉄道の体質が問題?〜

 いままで挙げた原因から踏み込んで、この事故の裏にあるもう一つの問題に「東武鉄道の体質」があるといえます。「踏切が下がっていた時には運行連動盤と連動してロックされる機能が内規に違反して恒常的に無断で解除されて運営されていた」「一昨年に今回の警手が踏み切りを下げ忘れる事故を起こしていたが、駅長からの厳重注意で済ませていた」という今までの報道で明らかになっている事例から類推すると、東武鉄道の管理体制に問題があったといえます。

 私は東武鉄道の内情を知っている訳ではなく、確証はありませんが、「本社は現場を把握していない」「上は何も知らず風通しも悪く危機感も無い」という東武鉄道の体質について、今回の踏切事故とは関係ない内容ですが、社内状況を類推する材料があります。

 私の手元に「 3月 7日号日経ビジネス〜西武時が止まった経営〜」があります。その中に「西武を笑えぬ東武」という記事があり、そこで昨年12月の東武鉄道中間決算説明会での池田操副社長の問答の一シーンが出ています。記事で記者の質問に池田副社長は、

「会津若松〜鬼怒川温泉間の他社との乗り入れはどの程度の収益増になるのか?  →正直ねぇあまり計算していないですねぇ。便利になっても本当にお客さんが来てくれるのかなぁ」
「グループの東武百貨店の経営について  →御大将(根津嘉澄東武鉄道社長の兄根津公一氏が東武百貨店社長)がやっておられるからねぇ。何か言ったら、お前何を言っているんだということになる」

 と答えています(要旨抜粋)。

 これらの記事の内容が正しいかはわかりません。しかし正しいとするならば、企業のIRから考えても問題がある問答ですが、それ以上に「現場の行った事に上は何もわかっていない(新規事業の採算性についてすら把握していない)」「副社長ですら上(実質三代目のオーナー社長)には何も言えない」ということを表しているといえます。

 このような体質では、上は下を把握していないでしょうし下はミスを上手く現場で収めて上に伝えないでしょう。そのような状況から、開かずの踏切対策で内規違反の操作が行われても、上には伝わっていないもしくは上は黙認している。通行人から圧力を現場の踏切警手が受けても何もしない。重大ミスでも表に出なければ内輪で処理して終わりにする。という体質が東武鉄道の中にあった可能性も指摘できます。

 前述の日経ビジネスで東武の根津社長は「うちの社員は全員鉄道が好きで、公共の為に働いている」とインタビューで答えていますが、会社の実態がこの根津社長のコメントに偽りがないように改善する必要があるのではないでしょうか?

 

 

 今回の踏切事故は「踏切が開けば安全に渡れる」という一般人の踏切への安全神話を打ち破ってしまったという点で「開けてはいけない穴」を開けてしまったことになります。

 自動車で踏切を渡る時に「左右を確認し窓を開け音を確認したうえで踏切を渡る」というのが法的には正しい渡り方ですが、誰もが「踏切が開いていれば列車は来ることがない」と信じており、窓を開けて確認までしていません。

 それだけ踏切の安全性に対して、我々は信用していたことになります。「左右を確認して渡るぐらいは安全の常識」かもしれません。しかしそのようなことを強調されるほどまでに、その安全性・信頼性を揺るがしたという点では、今回の事故の影響は甚大なものであるといえます。

 またその原因が「企業体質」「一般公衆の対応」まで含んでいる点が事故の背景を複雑にしています。今回の事故を教訓にし事故が再発しないように鉄道事業者・道路管理者・道路利用者を含めみんなで対応策を考えなければならないと思います。

 

 

 

 

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