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大手民鉄のプロ野球経営から「プロ野球のビジネスモデル」を考える
TAKA 2005年 7月15日
昨年の近鉄バッファローズのオリックスとの統合問題以来、プロ野球球団の経営が世間を騒がせています。元々和寒様のご指摘通り、関西民鉄を中心に大手民鉄がプロ野球球団を保有する事例は多数ありました。
しかし現在では西武・阪神しかプロ野球球団を保有していません。この現実は和寒様の言われるようにプロ野球における「鉄道会社のビジネスモデル終焉」と言う事は間違いありません。その経営状況が苦しいと言えども大手民鉄に見捨てられたと言う事は、プロ野球と言う物を持つ意義が無くなって来ており、プロ野球と言う物自体のビジネスモデルその物も終焉を迎えつつあると言えると思います。
ではどのような形で「プロ野球と大手民鉄」の関係は変質して、時期は違うものの6社もの会社が撤退して行ったのか?和寒様の投稿の内容をを踏まえながら、私は大手民鉄の方に中心をすえて考えて行きたいと思います
(1)プロ野球と民鉄経営を上手くリンクさせた例 〜阪神電鉄の例〜
実際にプロ野球と民鉄経営を上手くリンクさせつつ収益を上げれるモデルを作れたのは、大手民鉄で球団を保有している各社の中で阪神電鉄と阪神タイガースの関係だけです。
阪神の場合「東の巨人・西の阪神」と言う絶対的な知名度で球団経営だけでも何とかなっています。実際阪神電鉄の連結決算では
阪神タイガース優勝の平成15年度では大幅増益
を達成していますし、
阪神タイガースを含むレジャーサービズ業の分類では46.5億の営業収益を上げ、前年に比べ180%の増益
を果たしています。
この状況から「連結のスポーツを含むセグメントで営業利益を上げている=球団経営もそれなりに成り立っている」「優勝年度に全体で大きく増益を果たしている=阪神タイガースの優勝による効果をグループで吸収するビジネスモデルが成り立っている」と推察する事もできます。
実際に阪神グループへの波及効果として、乗客を阪神電鉄で運んで収益を上げ、グッズを阪神百貨店で売り収益を上げる、その上大手民鉄でも最小の規模でも日本中で阪神の名前を知らないレベルまで引き上げたと言うビジネスモデルが確立していると言うことが出来ます。
単純に考えれば、阪神が好調で入場者数が10万人増えれば、その50%の5万人が往復利用すれば、260円(梅田・三宮まで利用したとして)*2*5万人=26百万円の増収になります。それに加えて阪神が快進撃するとニュースに出る阪神百貨店の阪神グッズ売り場等の増収や優勝バーゲン等の売上も有ります。
この様に考えれば、結果的に出来てしまったと言えるこの阪神のビジネスモデルは、阪神が優勝(もしくはそれに近いくらい盛り上がる)ならば、阪神グループ全体で極めて大きい収益を上げれる構造、つまり「プロ野球と鉄道経営の相乗効果のビジネスモデル」が作り出されていると言えます。
(只阪神もこのビジネスモデル連鎖の有益性に気付いたのが、つい最近と言う感じはします。)
※この様な阪神タイガースについての阪神のメリットと投資の重要性についての記事も有ります。
(2)プロ野球と民鉄経営のリンクに失敗した例 〜西武鉄道の例〜
上記の様に阪神タイガースはビジネスモデルを持つ事が出来ましたが、それ以外の民鉄は「全滅」と言う状況です。ダメな状況だから撤退していくと言えますが、その中でも
未だ踏ん張っている球団
が有ります。今や実質的銀行管理下におかれ、
経営改革委員会の答申
を踏まえつつ再建の道を歩みつつある、西武ライオンズと西武グループです。
西武ライオンズの場合、他の民鉄では明らかになっていない球団の入手の経緯を含め、今回の西武の株問題等の報道や過去の報道等で明らかになっています。
西武では最初創業者堤康次郎氏が「お前たちが将来手がけてはいけない事業を言っておく。それは3つ有る。出版業・プロレス・プロ野球だ」(吉野源太郎著「西武事件」より)と言う遺言を残していましたが、二代目の堤義明氏は遺言に逆らって球団経営に乗り出しています。
最初太洋球団(横浜ベイスターズ)買収を狙い、飛鳥田横浜市長に頼まれ太洋のホームグランド横浜球場建設に協力する等動きますが、結局太洋球団買収に失敗しその次に経営の傾いたクラウンライターライオンズを乞われて買収します。(江川指名権が有ったので買収したと言うのが今の定説→実際は空白の一日事件で巨人に持って行かれる)
そのクラウンライターライオンズ改め西武ライオンズも計算して買収されたとは言えません。上記引用の「西武事件」内で堤義明氏実弟の堤康弘氏が「義明氏は豊島園を買収して球場を作ろうとした」と言っています。(その事が色々な経緯を経て「
この様な事
」にまでなっている)これは結局失敗し観客動員上苦しい所沢に球場を作ります。
この事はどちらも西武沿線で「観客動員≧西武線利用客」になる物の、それなりの増収効果を期待できると言う点では相乗効果を期待できるが(所沢に球場を作った当時は「西武鉄道の増収を図るために野球観客を所沢まで電車に乗せる方策」と褒められていた事例ですが・・・)、現実は堤義明氏にはその様な考えは無く「何も定見無く球団を買収していた」と言うことが出来ます。
実際西武の場合、「
今も年間20億の赤字
」で観客が西武鉄道を利用する分西武鉄道には波及効果が有った物の、球場所在地所沢の立地の悪さとパリーグの悲しさ観客動員(=鉄道輸送客)は低迷し鉄道への明確な増収は表れず、創業者の実質的遺産分割で流通業が連結対象外で対立している異母兄弟経営のセゾングループ所属になってしまったため、あれだけ優勝しても優勝バーゲンの収益は実質ライバルに持っていかれ球団経営の相乗効果を自社の連結内に取り込むことにことごとく成功していません。
西武グループの場合、経営者の素質と言う問題も有ったのでしょうが、冷静に分析すれば阪神のような「プロ野球と鉄道経営の相乗効果のビジネスモデル」を構築する事にことごとく失敗したと言う、正しく「プロ野球と民鉄経営のリンクに失敗した例」と言うことが出来ます。
(3)果たしてプロ野球経営に「成功のモデル」は有るのか?
上記のように民鉄経営の立場に主眼を置き「プロ野球と民鉄経営のリンク」と言うビジネスモデル構築に「成功した阪神」「失敗した西武」の例を比較して見てきました。
正直阪神の例は「極めて熱狂的なファン」「甲子園球場の立地」等の有利な状況から偶然に近い形で(少なくとも明確に計算されていたとは思えない)作ることが出来ましたが、西武がビジネスモデルを作れなかった(それなのに球団を持った)と言うのは、理由は明白「野球はビジネスでは無く大旦那的名誉心を満たす物」と言う考えであったと言う一点に尽きると思います。(堤義明氏は周囲に「球団経営はこんなに楽しい物だとは思わなかった(中略)スポーツ紙の記者に毎日囲まれ一字一句が翌日の新聞に取り上げられるからだ」(前述「西武事件」より引用)と言っている。)
しかしそう西武に厳しく言ったものの、他にもプロ野球で「成功のモデル」を作ることが出来た例は有るのでしょうか?良く考えればプロ野球球団保有を上手くビジネスと結び付けていたのは、阪神以外に巨人人気で発行部数を伸ばした読売グループと再生機構入り直前の状態を「優勝バーゲン」で支える位本業で寄与したダイエー位でしょう。
それ以外の球団の経営は、残念ながら西武の状況を笑えない「多少の広告塔効果」と「オーナーの道楽」「野球へのタニマチ的な付き合い」と言う極めてお粗末な状況であったと言うのが正しいと思います。
ではプロ野球経営の成功モデルとは有るのでしょうか?それは数少ない「阪神・巨人・ダイエー」の例を見れば明らかです。この例から考えればプロ野球経営の成功に必要な物は「球団そのものへの絶大な人気(但し人気=観客動員数に結びつく物でないとダメ)」と「単体でなく周囲で協力にその波及効果を吸収でき、実際の収益に転換できる各種事業の体制が有る事」と言う2点が必要です。これが有ればそれなりに球団経営は成功できると考えます。
しかし今までの球団経営ではそれを意識していても積極的に行ってこなかったか、意識する事すらしなかった球団・オーナーが多かったので、今のような撤退問題が頻繁に紙面を騒がすことになるのです。本体の収益に貢献する体制が出来ているのなら、ダイエーの様に
「産業再生機構入り直前」まで(売却後も影響力を残そうとする位)球団保有に努力
するはずです。それが無かった他の球団はビジネスとして考えていたのではなく、所詮「金持ちの道楽」「野球はビジネスでは無く大旦那的名誉心を満たす物」と言うレベルであったと言う事が出来ます。
又同時にその様な状況で球団を保有し続きえてきた、阪神を除く大手民鉄各社の経営体質も又「事流れ主義」「虚栄心が強い」状況であり極めて非合理的な状況であった事を証明していたと言えます。(その点遺言でプロ野球経営を禁じた堤康次郎氏や早々に野球経営から撤退した五島啓太氏は、今から思えば「野球を収益事業にするのは難しい」(=そんな物を持っていても事業にならない)と言う事に気付いていたのかもしれません)
(4)しかし最大の問題は「苦しんでも旧態依然のプロ野球経営」
この様にビジネスとしての成功事例も少なく、保有オーナーが売却に走るなど今や完全にプロ野球経営は曲がり角に来ています。その事は昨年のプロ野球を巡る一連の事件で白日に曝されたと言えます。
しかし問題なのは、絶好の改革の機会に対して小手先の対応の対抗戦導入等でお茶を濁してしまった事に有ります。本来問題だったのは「如何に経営が成り立つようにするか?」と言う事であり、「経営が成り立つようにプロ野球人気を高める事」だった筈です。しかしこの様な根本的な問題には手が付けられませんでした。
そういう点では、「完全に全体が沈没する」前に撤退していった民鉄各社は、最低限の先見の明が有ったのかもしれません。これからどんどん没落していけば残念ながらプロ野球球団の価値は下がるだけです。買収も合併も新規参入もしてくれない時代がすぐそこに迫っているのは、昨年の状況を見れば明らかです。
今や前にあげた成功モデルの一つ「読売巨人軍」でも、巨人戦視聴率の低下(=系列の日本テレビのゴールデンタイムの広告収入に直結する)(オーナーを含む)色々な巨人の体質への反感(これは「長島解任問題」が証明したように読売・報知両新聞の販売に影響する)等々、成功のビジネスモデルに「黄色信号」が灯ってきています。
この様な変化に何も考えず、改革の機会を潰すだけの「守旧派」がオーナーをしている限り、少なくとも何も変わらないし、変わらなければプロ野球ファンは野球を見放し、野球の人気低落は決定的になってしまいます。その点から考えればプロ野球は既に「泥舟状況」であるとも言えます。
唯一の希望は新規参入した楽天とソフトバンクが、IT企業のノウハウをどの様に生かしてプロ野球に新しいビジネスモデルを作り出すかです。(同時に「地域密着」に舵を切った北海道日本ハムも注目だが、ビジネスとしては厳しいだろう)ITや地域密着の効果によってプロ野球が「新たな宝の山」になる可能性も有ります。しかしその時には「古典的「紙」メディアがバックボーンの守旧派巨人」のビジネスモデルが壊れ球界の流れが決定的に変わる時かもしれません。
でもそれ位の革命的改革がないとプロ野球は変わらないのかもしれません。今やプロスポーツは野球だけでは有りません。Jリーグが有ったり他の人気の有るスポーツも多数あります。その中で野球の人気を回復するには「特定個人がもたらしているダーティーイメージ」を無くし、ビジネスになる新しいモデルを作る必要が有ります。今のままではその道のりは厳しく長いものであると言えます。
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