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【政策評価】道路公団のマイレージ割引への疑問

 

エル・アルコン  2004年 9月28日

 

 

 9月24日、道路公団による新しいETC割引が申請され、即日認可されました。
  http://www.jhnet.go.jp/format/index12_09_24a2.html

 

●割引の骨子

  9月16日に国土交通省主催の「今後の有料道路のあり方研究会」が示した「料金割引の考え方」に基づき、深夜割引、早朝深夜割引、通勤割引の3つの割引と、大口・多頻度割引、マイレージ割引があり、11月 1日の深夜割引を皮切りに、 1月11日の早朝深夜割引、通勤割引、 4月 1日の大口・多頻度割引、マイレージ割引の順に導入される予定です。

 前三者の割引はこれまで実施されて来た社会実験の本格運用といえますし、後二者のうち、大口・多頻度割引は別納割引の代替で、これは異業種協同組合による「差益」問題などを機に廃止が決まっていた反面、バス会社や運送業者など大口業者がその側杖を食いっぱなしというわけにも行かないので、折込済みの内容です。

 問題はマイレージ割引で、前払割引やハイカと同等の割引とはいえ、 2年前に導入されてわずか 3年足らずの「移行」(JHリリース)というのは何ともはやで、この 6月まではETCシステムの事実上のスタートである2001年11月の全国展開から続いていた期間限定割引も並行していただけに、ようやく一本化したばかりなのにこれでは朝令暮改を地で行く対応です。

 これらの割引制度については、一応「あり方研究会」が「考え方」を提示するに先立ち素案を発表するとともに、パブリックコメントを募集してましたが、これらの制度新設、変更を周知してコメントを求めたかどうか非常に疑義のある内容であり、それで即日認可と言うのも公共料金の決定プロセスとしては非常に疑問です。

 

●マイレージの適用範囲は

 さて、このマイレージ割引ですが、「移行」と簡単に片付けられない重大な問題が山積しています。

 これまでの前払いによるプレミアム付与ではなく、利用金額に応じた「ポイント還元」ですから、資金的な死蔵部分が無いメリットは確かにあります。ただ、所定の期間(最大 2年)が定められており、期限切れによるポイントの消滅リスクがあるため、足下のような低金利においては前払いによる資金負担よりも厳しいです。

 素案や「考え方」公表時点で懸念されていたポイント還元時期については、JHリリースで「還元額の上限である8000円に相当するポイントが蓄積された場合に、自動的に8000円を還元出来るシステムを導入します」とあるので、蓄積と還元のタイムラグがほとんど無く(現行のように社会実験等の割引が記録に反映されるまでのタイムラグも無くし、車載機や路側表示機への表示を割引後で表示出来るようにすると発表している)、この点は懸念は氷解しています。

 しかし、最大の問題は、その適用範囲です。24日の申請、認可を受けた各紙の報道では、「一般有料道路は除外」と、アクアラインを右代表の例示として書かれていました。

 また、今回の発表はJHのみであり、現在ETCが使える(=前払割引の対象になっている)他の事業者(有料道路管理者)がどうなるのかが全く分かりません。

 社会実験系の割引はいざ知らず、前割は総てのETC利用可能(含む手渡し精算)な道路が対象になっており、マイレージがJHのみだとして、しかもJHの言うように「移行」、つまり、前割の制度廃止となった場合、何の代替措置も無い「大幅値上げ」になるのです。

 「ETC前払割引サービス利用約款」を見ますと、通則を定めた第1条1項で「この約款は、有料道路自動料金収受システム(以下「ETC」といいます。)を使用する有料道路管理者(以下「管理者」といいます。)のETC前納割引を適用するため実施するサービス(以下「ETC前払割引」といいます。)の利用に関し、必要な事項を定めます。」とあり、2項で「ETC前払割引の利用に必要なシステムの運営は、日本道路公団、首都高速道路公団及び阪神高速道路公団(以下「三公団」といいます。)が行います。」とあります。

 これを見ますと、割引の主体は有料道路管理者であり、運営(および約款の改定)を担当するのは三公団であり、JHが前割を適用するかしないかはJHの権限ですが、前割制度全体の改廃をJHが決定することは出来ないでしょう。上述の「考え方」も、JHの料金制度に関する答申であり、よしんばそれが民営化関連法案の対象となっている首都高、阪高ならびに本四公団にも準用可能であるとしても、民営化の対象外である名古屋高速や福北高速の都市高速、さらにはより公共性が強い神戸市、宮城県などの道路公社の制度の改変は出来ないはずです。

 現在のところ、JH、さらに首都高、阪高、本四公団のほかに、名古屋高速と福北高速、さらに神戸市、宮城県、大阪府、兵庫県、富山県、山口県、京都府、千葉県、長崎県の各公社が対象で、来年導入の愛知県公社も本来なら対象になるはずです。
  http://www.etc-plaza.jp/waribiki_road.html

 

●限定適用の問題点と矛盾

 これらで現在適用を受けている前割はどうなるのか。

 何もなければ最大で16%の大幅値上げになるわけです。ハイカについては現在の 1万円以下の券面のプレミアムすら廃止する意向(JHリリース)で、首都高や阪高の 100回回数券の廃止もほぼ決まってますが、マイレージに不参加で、回数券などの割引が存続した場合、ETCへの移行どころか、ETCからの還流すら有り得るわけです。

 それを考えると、JHのみ先行発表と言うのは利用者に非常な不安と不信感を与えた結果になっています。

 もっと問題なのは、報道では「適用除外」とされているJHの一般有料道路です。報道が事実であれば、こちらは認可されてしまったため値上げ確定であり救いがありません。さらに、前割込みでXX%の割引と言ってるアクアライン(その意味で本四道路の割引も前割を前提にした割引率で「釣っている」のでこれも問題)なんかは不当表示ですし、圏央道や東海環状道のような高速自動車国道のバイパス機能を果たす有料道路利用を忌避する流れを生みかねないわけで、非常に問題です。

 なお、社会実験系の割引についても、「考え方」によると、割引対象にならないにもかかわらず、IC通過の時間帯を計算する時には一般有料道路の通過時間で判断する一方、割引対象にならない一般有料道路区間の距離も合算する(= 100km以下の条件を充足する時に加算されてしまう)というような極めて分かりづらく、かつ理不尽な制度です。

 

●事業者別対応への移行が見えてきた

 もちろん、現在の前割スキームごとマイレージへ当然移行するのでは、という希望的観測もあるでしょうし、いくらなんでもそれくらいはするでしょうと信じたいです。

 ところが、これまで前割に先立ち実施されて来た期間限定割引を除き、各種社会実験などの割引は前割と重複適用されており(期間限定割引とも重複適用)、事業者ごとの個別の割引とは別に前割は存在してきましたが、その例外となる事象が出てきました。
  http://www.mex.go.jp/topics/etc_campaign/index.html

 ETC助成の一環で、新規導入+アンケート回答で通行料金を 10000円相当利用まで50%引きと言う制度ですが、これは前割との重複適用がありません。ちょうど前割と期間限定割引が併存していた時のような決済処理になると思われますが、事業者が独自の制度を定め、前割の適用をしないと定めることが有り得ると言うことを示したわけです。

 将来的にこのような事業者別対応になるとしても、前割のような資金管理を伴う業務が各事業者単位での手におえるわけも無く、上記の首都高のような後決済での割引対応に収斂すると見られます。

 ただ、問題なのは、これまで各事業者共通で 58000円分の利用だったのが、各事業者単位になった場合、利用者サイドとしては確実なるコストアップとなることです。これは、期間限定割引がJH、首都高、阪高それぞれ50000円分の利用まで20%オフという内容だったのに対して、三公団とも使い切った利用者がどれだけいるかを考えれば分かる話です。

 対象期間はマイレージよりも長い最小 2年(最大 2年 7ヶ月)であり、2002年 6月までにETCを導入した利用者は、よほどの新しもの好きを除けば、総じて相当利用頻度が高い利用者のはずですが、それであっても各事業者単位の枠を総て使い切るのは相当困難だったはずで、現在の利用者(04年8月平均の平均は02年6月の約10倍)全体で考えた時、マイレージの恩恵を前割と同等に享受出来る層は極めて限定されるのではないでしょうか。

 もちろん、事業者側にとっては一見さんにも最大級の割引適用と言う理不尽な対応を強いられてきた面がありますが、ハイカ導入以降、それがお互いの「お約束」だった事象を事業者優位に大きく舵を切ることが妥当かどうか。特にそれが公共料金に属し、さらに公共セクターにより運営されている地方公社の場合、慎重な対応が望まれます。

 

●今回の「割引」が示す矛盾と懸念

 社会実験系の割引も含め、朝令暮改と言うよりもどうも朝三暮四と言ってしまいたくなるような内容であり、かつ、広域、地域問わず交通バランスを本当に考えているかどうかも疑問な内容です(中京圏に通勤割引が適用されるので、今でも通勤時の渋滞が激しい東名や東名阪がパンクしかねない)。

 また、割引額の合計、地域性を現行の料金収入比に等しくなるようにしたと「考え方」で示していますが、大口・多頻度割引、マイレージ割引とも金額絶対値に応じた割引であると同時に、大口・多頻度では 1ヶ月、マイレージでは最長 2年の期限を切っていることから、一回あたりの利用金額が大きい大型車が絶対的に有利な制度になっています。また、料金収入全体での比率調整と言うことにより、現在の前割における割引の享受に地域性などの差異がないのに対し、社会実験系の割引における割引額を合わせた比率調整なので、割引の享受が利用区間、利用時間帯によって大きな偏りを生じることになります。これでは特定の利用者に過度の割引を享受させていたと批判が大きかった別納割引に代わる偏った割引制度の導入ともいえます。

 さらに、上述の「考え方」には首都高、阪高への対距離制料金導入も含まれていましたが、以前、これの導入の検討が発表された時、都心環状線を挟んで長距離を行き来するクルマは値上げするのでは、いや、現行を上限として近距離を値下げするのでは、という憶測がされた時期がありました。

 しかし、今回の前割のマイレージ「移行」を巡る対応を見ると、楽観は禁物であり、値上げの可能性は非常に高いと言わざるを得ません。

 

●パブリックコメントが示すもの

 国交省道路局がパブリックコメントの結果を発表しました。
  http://www.mlit.go.jp/road/sign/pc/040827/highway_ryoukin_ans.html

 この中で興味深いのは、47都道府県および13政令指定都市のコメントです。中には上記の論点を抱えているはずなのにほとんど白紙という信じられない自治体もありますが、概ね総論部分はETC限定割引である部分も含めて賛成と言う感じです。

 ただ、今回問題視した部分についてはやはり自治体サイドも問題視しており、特に本四道路(民間会社になる際はJH系と合体するが、「高速自動車国道」になるとは決まっていない)を含む一般有料道路が適用除外になることについては全体の 1/4を超える16の自治体が反対もしくは問題視しています。このあたりはバイパス機能を持つ一般有料道路の利用阻害になる懸念や、いわゆる国幹道なのに「薄皮」で整備された区間を抱える自治体にとっては踏んだり蹴ったりという思いがあるのでしょう。

 またマイレージの有効期限や還元時期(これは改善されたことは既出)への指摘も合わせて 9の自治体からありますし、都市部の指定範囲への言及も 5の自治体からあるなど、これでよくほぼ原案通り提出して認可が下りたものだと嘆息せざるを得ません。

 また、上述のような問題点があるため、割引に対する公平性が無いという指摘も多く、この部分は民営化に伴い一律値下げという民営化推進委員会の指針と決定的に矛盾します。今回は論評しなかった社会実験系の割引における問題点も多数あるわけで、今回の割引は、JH総裁がリリースのコメントでいかに「民営化に向けての第一歩」であり、「道路公団の民営化は国民のためであることをわかりやすく示す最初の施策」と意気込もうと、これではいったい何のため、誰のための民営化なのかを厳しく問われるものであり、民営化を前に早くも馬脚を現したと指弾せざるを得ません。

 

 

 

 

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