このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください

 

 

「神話」は奇跡から導くものではない

 

エル・アルコン  2004年10月25日

 

 

 安全は「神話」ではなく、努力の積み重ねです。安全の記録が途絶えた時、そこには必ず何かしらの「原因」があります。

 その原因は、「対策」を講じたり、安全意識を高めることで回避できるものなのか、それとも不可抗力に属するものなのか。それによって、発生そのものを回避できるものなのか、発生は止む無しとして、その影響を最小限にする努力しろがあるものなのか、対応が変わってきます。

 

 今回の中越地震での上越新幹線の脱線については、発生そのものは不可抗力に属します。 レールと各車輪が1点で接しているだけの軌道系交通では、上下動での脱線を完全に回避することは不可能です。そこで問われるのは、脱線は不可避として、その被害をどう食い止めるかです。

 長岡駅到着を控えて減速中とはいえ、時速200kmで走行中の新幹線が停車するまでに今回、 2kmほどの距離と 1分以上の時間が掛かっています。脱線による抵抗がその距離と時間を短縮していますが、では距離と時間を短縮すればいいかというと、乱気流下の旅客機が急な減速で機内の乗員乗客が死傷した例があるように、例えシートベルトを着用していたとしても、二次的な被害は不可避でしょう。よしんば時速300km であってもシートベルトの着用が無いばかりか、立席すらある新幹線では、急減速による停車にも限度があります。

  2km程度の走行を許すことで、高架橋の落橋や盛り土の崩壊など軌道のアクシデントにみすみす突っ込む危険性がありますが、一方で、構造物の強度をどこまで高めるか、というテーマもあるわけです。

 阪神大震災の後、JR西日本の幹部が、「周囲が壊滅している時に鉄道構造物だけが無事であるようなことまで求められるのか」という趣旨の発言を新聞紙上でしていたのを目にした記憶がありますが、確かに全線で震度7にも耐えうる構造物であるべきなのか、という話です。

 

 今回の事故で気になったのは、脱線車両の除去と構造物の修理で 1ヶ月以上の運休とされていることです。不可抗力に属する事象での運転休止は止む無しという面がありますが、そこからの復旧については人知の及ぶ範囲です。

 高架橋が落ちたわけでもなく、なぜそこまでの時間がかかるのか。これがもし東海道新幹線で発生しても 1ヶ月の長期運休を余儀なくされるのか。

 単純比較は出来ませんが、台風23号による道床流出で電車が脱線転覆した飯田線は 3日で復旧しましたし、阪神大震災の時に高架橋が落ち、トンネル壁面の崩落などが起きた山陽新幹線も、 2ヶ月半で復旧しており、いささか時間が掛かり過ぎるのではないでしょうか。

 今回、問われるべきはそこだと思います。

 

***

 今回の中越地震は土曜の夕方の発生ですが、震源地付近を走る列車が少なかったことも幸いしています。新幹線は脱線した「とき」が最も近い列車であり、あと震源地付近を走行していたのは、上越線下り列車が越後堀之内を発車してすぐ、飯山線下りが内ヶ巻駅停車中だったと時刻表から推測されます。

 上越線はもう少し進んでいたら北堀之内−越後川口間のトンネル、橋梁区間(国道17号線のトンネルが崩落したあたり)ですし、逆に飯山線はすぐ手前が自然災害が多発する内ヶ巻トンネルでした。

 また、十日町といえばほくほく線ですが、幸い普通電車がまつだい駅停車中だったほかは、近くを「はくたか」が進行しておらず、160km走行中に単線トンネルで揺さぶられていたら、と思うと背筋が凍ります。

 阪神大震災の時、新幹線が営業開始前だったため走行中の列車に被害が出なかったことも、「奇跡」であり、今回も震源地エリアで走行している列車が少なかったことはこれも「奇跡」でしょう。

 「奇跡」はあくまで偶然に属するものであり、一歩間違えればと後から振り返り、最悪の自体を想定して対策、対応を考えることは必要です。

 「奇跡」をもとに「安全」を導いても何も意味がありません。阪神大震災の時も、ある鉄道雑誌で、阪神電車が高架橋が落ちながらも通過しきった件をとらえて、鉄道は安全とのたもうた大学教授がいましたが、落ちなかった高架橋側へ惰性で逃げ切っただけであり、逆向きならその場で脱線転覆は不可避というケースであり、その向きであっても落ちた橋がたまたま地上に着いていたのでそのまま着地できたクルマがあったやに聞いていることと比較すると、鉄道のほうが安全とはおくびにも出せないはずです。

 阪神大震災の時も、早朝とはいえ電車が動き出しており、JR、阪神、阪急で、振動でその場で脱線した列車が多数出ています。また、脱線により架線柱やホーム、トンネル壁面に衝突して廃車処分になるほどのダメージを負った車両も出ています。

 こうした結果、そして対応から何を学んできたのか、取り得る手段は見出せたのか。安全「神話」というものがあるとすれば、「奇跡」ではなく、考え得る、対応し得る対策が常に取られているということでしょう。

 

 

 

 

※ブラウザの「戻る」ボタンでお戻りください

 

 

このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください