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「公共交通の確保」を真剣に考えているのか

 

エル・アルコン  2004年10月28日

 

 

 新潟県中越地震に伴う交通網の破壊途絶に対し、航空 2社による羽田−新潟臨時便の運行(概ね 8往復)を筆頭に、災害支援車両専用となり通行止の関越道を迂回して磐越道や上信越道経由で高速バスが運行されるなどの対応がなされています。

 こうしたなかで、新幹線の脱線という事態で運休の長期化が懸念されている鉄道の対応には理解に苦しむものがあります。磐越西線、越後線経由信越線といったすぐ思いつく迂回ルートのほか、米坂線経由山形新幹線というルートまで戦力になっているのは、さすが鉄道のネットワークといいたいところですが、輸送力確保やダイヤ設定という意味ではベストにはほど遠いことも事実であり、航空、高速バスの対応に大きく遅れを取っていることは否めません。

 迂回ルートの輸送力確保という点については、車両や人員の手配など時間が必要であり、阪神大震災の時でもJR西日本が迂回輸送を軌道に乗せたのは一週間程度の時間が掛かっていたように記憶しています。

 しかし、それへの評価は割り引いても、以下の通り「輸送」への姿勢についてぬぐい難い不信感を与える事象が見られるのは極めて遺憾です。

 

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1.迂回ルートの案内について

 自社のみで行って欲しいということもあるのでしょうが、現実に対東京で航空機を除く最速ルートを構成しているのは、東京−郡山を東北新幹線、郡山−新潟を磐越道経由の高速バスというルートです。平素この区間のバスは 2往復ですが、地震発生に伴い 8往復に増強し、新潟交通のサイトでは新幹線接続ダイヤも掲示して誘導しています。
 ※新潟−会津若松の高速バス( 4往復)と会津若松−郡山の高速バスもしくは磐越西線経由での新幹線接続ダイヤも案内している。

 ところがJR東日本のほうは、新潟支社の案内にこのコースは入っていません。米坂線経由を案内するくらいなら、こちらを案内すべきではないのか。

 

2.迂回ルートの運賃について

 とはいえ一応対東京の迂回ルートとして越後線・信越線・長野新幹線ルート、磐越西線・東北新幹線ルート、米坂線・山形新幹線ルートをJR東日本が提示したわけです。ところがその案内に乗り継ぎ時刻表とともに、運賃、料金表が添えられていますが、これが問題です。

 3つのルートの正規運賃・料金(平常期指定席利用ベース)ですが、今回の上越新幹線、上越線が不通になったような時の対応は、JRの輸送約款である「旅客営業規則」に定められているはずです。

 その旅客営業規則第7条3項を見ると、
「列車等の運行が不能となつた場合であつても、当社において鉄道・軌道・自動車・船舶等の運輸機関の利用又はその他の方法によつて連絡の措置をして、その旨を関係駅に掲示したときは、その不通区間は開通したものとみなして、旅客の取扱いをする」
 とあり、今回のようにこれらの迂回ルートを確保した以上は、乗車券類の発売に関しては、上越新幹線、上越線は開通したものと見なさなければいけません。

 つまり、少なくとも乗車券については東京−新潟の5460円になるはずであり、長野経由の6830円、若松経由の6620円、米沢経由の7350円の徴収は「契約違反」なのです。

 ちなみに異経路乗車中の扱いとして、過剰額は払い戻し、不足額は徴収しないことが定めれているため、それに準じる扱いをするのであれば、東京−新潟の指定席特急料金4810円に対し、長野、会津若松経由は4080円ですが、米沢経由は4950円のため、長野、若松経由は4080円であることは当然であり、米沢経由も上越新幹線と比較して、その金額である4810円で乗れてもいいはずです。

 つまり、長野、若松経由は9540円、米沢経由は10270円で乗れるはずが、それぞれ10910円、10700円、12300円と案内されているのです。これは契約の問題であると同時に、このような異常時における倫理観の問題とも言えます。

 水上以北湯沢まで、上越線が不通で新幹線だけ開通している状態で、特急券をきっちりとっているのもその現れです。道路公団が災害支援車両への通行料金免除を発表してますが、台風23号による土砂災害が発生した京都府下で、国道 9号線の不通に伴い、並行する京都丹波道路の当該区間の通行料金を免除したように、高崎もしくは上毛高原−越後湯沢だけの移動くらいは特急料金を免除すべきでしょう。

 

3.迂回ルートにおける「リフレッシュ工事」の続行

 その迂回ルートのひとつである越後線ですが、臨時列車 4往復の設定があったためメディアでも大きく取り上げられましたが、実はこの越後線越後赤塚−吉田では10/25〜29の日中、リフレッシュ工事による運休(代行バスあり)が予定されていました。

 このような事態ですから、当然工事運休は無しになるかと思いきや、迂回輸送の告知ページに堂々と28日までに短縮して工事を行う旨が掲出されました。つまり、臨時快速も 1往復がこれに引っ掛かったのです。

 27日から運転開始の予定が、同日午前の震度6弱の余震の影響で対象列車が運休したため、影響は一日で済んだとはいえ、残されたルートを蜘蛛の糸を辿るように確保しなければいけない時期に、その生命線ともいえる路線を敢えて止めてしまったのはなぜか。

 奇しくも27日深夜から28日早朝に掛けて、上信越道信州中野IC−信濃町ICでは工事による夜間通行止が予定されていましたが、地震による交通機関の混乱を考慮して延期されましたが、「交通の確保」に対する姿勢として、当たり前の対応すら出来ないといえます。

 

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 異常時における対応こそ、その会社の真価が問われ、また、事業に対する姿勢が見える機会といえますが、阪神大震災以来という被害を出した今回の中越地震における対応で残したものに、重大な懸念を感じるのは私だけではないはずです。

 

 

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 中越地震の震度が「7」ということです。今の基準になって初めての震度7であり、阪神大震災の時の震度7が、揺れの数値ではなく被害状況を調査した結果という旧基準ゆえ直接比較は出来ませんが、震災以来の震度7ということで、被害の酷さを裏付ける格好となりました。

 さて、各社の対応についてですが、上越新幹線の脱線自体は不可避ということと同様、当日や翌日の混乱はまあ仕方ないでしょう。案内についても、当初、関越道の一般車に対する規制が上りが湯沢からなのに対して、下りは月夜野からだったことが、魚沼盆地へ徒に車両が流入することを防ぐ目的があったように、不要不急の利用など(遺憾ながら各臨時列車が「オタク」系のターゲットになっているとも聞いています)を回避するために、敢えて地元レベル以外での周知をしないという選択肢があるわけで、一概に批判することが出来ません。

 ただ、避難が一段落つき、ボランティアなどの人手が必要になった時点、つまり、地震から 3日程度たった時点からは、ボランティア受け入れなどを考えると、現地入りする交通手段を周知する方向に変換すべきであり、今回の各交通機関の情報が整ったのは奇しくもそのあたりであり、不満はありますが、言ったらきりが無いわけで、まあ及第点と言えます。

 ただ、今回のJRの対応で問題なのは、何かしらの理由があるとか、原則論としては正しいのであっても、こういう時に「とってはいけない態度」に等しいことです。有り体に言えば、迂回ルートの輸送力増強を怠ったり、迂回ルートの工事運休をすること、また迂回ルートで高い運賃料金を取ることはいわゆる「逆撫でをする態度」であり、CSの面から言っても最悪の結果をもたらしかねません。

 

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 ちなみに、料金の減免については、ボランティア目的などの利用者に対する減免とはレベルの違う話だと思います。つまり、東京から新潟へのボランティアに対する減免を、利用者一律の減免という形で実現することは過剰なサービスですが、並行在来線の復旧が無い状態で、唯一の手段となっている新幹線が料金を取るということは、「公共」交通としての資質が問われるという話です。

 たとえば、在来線しかない区間で、数日間特急列車しか運行せず、特急料金を律義に徴収するような話でしょう。これについては、高速道路、有料道路の対応に倣うべきであり、並行在来線の不通区間に相当する区間相互での新幹線の利用は料金免除、それを超える利用は免除区間を含む利用全区間での徴収とすればいいのです。

 ちなみにこの区間など上越新幹線では、今回だけでなく、毎年大雪で上越線が不通になった際には、同じ取り扱いをしてきているようです……。

 

 

 

 

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