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単純な関空シフト強行では解決も納得も出来ない

 

エル・アルコン  2004年11月15日

 

 

 関西空港二期工事の予算に対し、財政審が計上すべきでないと言う答申を出したことにより、伊丹、関空、そして神戸の関西三空港問題がここに来て動いています。

 国交省の伊丹に対する「締め付け」も、ジェット枠の削減、対策費の減額、さらに地元負担となる二種空港化などの提案と露骨になっています。神戸空港の管制時間を 7時から22時までの15時間にするのもその一環としか考えられないわけで、伊丹を規制しても、その需要がそっくり神戸にスイッチしては意味が無いという考えなんでしょうか。伊丹の規制に関して伊丹の環境問題を理由にして、関空救済ではないというのが国の公式スタンスですが、神戸への「規制」を合わせると、関空救済以外の何物でもないわけです。

 もちろん、巨額の国費を投じて建設された国際空港を活かすと言う意味では、国の姿勢としてはこうならざるを得ないのでしょう。しかし、それが必ずしも利用者サイド、さらに運行する航空各社の意に沿っているかと言うとそうではないとしか言いようがありません。

 その「対立」の根源は関空と伊丹、さらには神戸を比較した場合の利便性であり、しかも関空サイドがその利便性を高める努力をしてきたとは言い難いことが、関空シフトを利用者も事業者も簡単には受け入れないことにつながっています。

 

●関空の「不便」の根源

 首都圏における国内線=羽田と国際線=成田の分離が内外間のトランジットに不便を強いていることを解消する結果になるはずの、国内線と国際線の総合的な空港というのが関空の特徴のはずです。ところが、そのアクセスにおいて、国際空港の「流儀」を持ち込んだことから、国内空港としての利便性を著しく削いでいます。

 つまり、伊丹にしても羽田にしても、他の空港にしても、まあ市内からのアクセスにかかる「料金」は1000円以内、3桁中盤というのが通り相場です。ところが成田空港の場合、都心からの距離もあってか、京成がまず有料特急によるアクセスを基本に据えましたし、JRが事実上、割高な特急によるアクセスだけにしました。リムジンバスもお世辞にも安いとは言えない状態ですが、それでも国際線利用者ということで、旅費全体に占める支出として考えると埋もれますし、嫌だから他に行くわけにもいかないことから、それを使わざるを得ない状況です。

 この流儀を関空に持ちこんだのがそもそもの始まりでしょう。時間や快適性が問われる国際線アクセスに対し、価格に対する目がシビアになるのが国内線です。

 JRも南海も有料特急がメイン。鉄道のアクセスを重視しているだけに、時間がいかに速くとも割高感が出ます。関空の国際線需要が復調である反面、国内線が伸びないのも当然であり、 1万円台の航空券に、1000〜2000円というアクセス料金は払えません。国内有数の利用を誇る千歳空港のアクセスが、企画商品で事実上料金免除だったとはいえ、特急中心のアクセスから料金不要の快速中心のアクセスに変換したことは示唆に富んでいます。

 さらに決定的なのがクルマでのアクセス。成田は駐車場料金以外の支出を回避することが可能ですが、関空は往復1730円のスカイゲートブリッジ(空連道)という「関税」が大き過ぎます。片道に直すと865円、対岸の泉佐野から伊丹までの高速代が1200円、堺の助松まで下道を行けば700円ですから、料金面では指呼の間にある街でも伊丹のほうが「近い」のです。

 しかも、これが一日分の駐車場料金込みならまだしも、さらに駐車場料金がかかるのです。この駐車場料金自体が、公式パーキングで成田の5割増し( 7日間で 10500円vs 16000円)から倍( 2日間で3000円vs6000円)ですし、周辺の民間もまあざっくり倍以上ですから話になりません。

 こうなると、こういう表現が不穏当に過ぎることは重々理解していますが、特にアクセス関係に関しては、関空会社、アクセス関係の各企業ともども「雲助」まがいの商売をしていると指弾せざるを得ません。

 公共交通、クルマのアクセスどれを取っても価格負担が大きいことが問題であり、関空と伊丹の両方に就航しているケースでは、関空便の運賃を下げないと「対大阪」で関空便が事実上割高になって競争にならないのです。これでは着陸料は高い、航空会社の運賃収入は低いと言うダブルパンチであり、事業者が伊丹シフトを進めるのも当然です。

 こうした問題点を関空が理解しているかと言うと疑問であり、利便性を説くのに、有料特急での都心到達時間を掲げたり、成田との比較をしてもなんの意味もないのです。

 

●「関空シフト」の問題点

 「関空シフト」を、対東京、福岡での対鉄道の競争力喪失を理由に批判すると、アクセスタイムを考えると鉄道で十分な時間距離であり、航空から鉄道シフトを図るべきであるというカウンターが見られます。

 この発想は、別にいわゆる「鉄道至上主義」というわけではなく、最適な交通機関を選択して最も効率的な輸送を達成するという発想であり、俗に「総合交通体系論」として語られる部分でもあります。

 確かにそれは正しい面はあります。ただ、それは輸送事業を行う側に偏った論理であることも確かなのです。つまり、最適な交通機関を選択して提供することが利用者にとって最適の選択になることで初めて、こうした「統制」が効率的に機能します。

 しかし、統制により独占を与えられた事業者が、それにより得られた利益を利用者に還元する、つまり、ベストの価格でサービスを提供しているかと言うと、そうは言えません。かつての運輸行政のように参入規制と運賃規制を連動させることで、独占化における擬似競争体系を創出して運賃の低廉化を図るという機能が、自由化により損なわれた現在、参入の自由化が担保する運賃の競争が、参入を統制することにより独占の弊害のみが顕在化する危険性があるのです。

 「自由化」「規制緩和」により、「総合交通体系論」の前提が崩壊していることをきちんと認識しての議論ならいざ知らず、そうでないのであれば、「この区間はXXに任せる」という発想は利用者の利便性を損なう結果しか生みません。

 具体例で言えば、東阪間の「競争」において、7割以上のシェアを握る新幹線を擁するJR東海は、2003年10月のダイヤ改正で「のぞみ」中心のダイヤにした反面、主力商品である回数券の価格を約1000円値上げしたり、企画商品の「のぞみ」制限を継続するなど、値上げや廉価な商品の利便性低下を強行しました(回数券の値上げは 7月に先行して実施)。

 しかも、改正一年以上前には、当時の「のぞみ」料金への収斂ということですから2000円以上の値上げを当時の社長が公言しましたが、各界の批判を浴びて一旦撤回した経緯のなかでの「値上げ」ですから、これが独占状態であればと考えると、航空の存在がなんとか1000円で食い止めたという評価になります。

 こうした現実を踏まえると、関空の問題点を温存したままでの関空シフトは、利用者にとっては、まさに百害あって一利なしといわざるを得ません。

 

●「関西三空港問題」の解決策は

 関空の問題点を積極的に解決することで、現在伊丹が持っている競争力を保持したままでの伊丹からの完全シフトを図るという事がベストでしょう。ただ、どうしても、関西の主要都市のどこからも遠いという泉州が持つ地理的問題だけは解決できないことを考えると、それは不可能です。

 この場合、東京や福岡へのビジネスシャトル専用空港として伊丹、神戸を位置付け、その他の便を関空に集約することで、伊丹の負荷を下げ、関空の稼働率を高め、国内有数の幹線交通における競争による効果を担保することになります。大阪湾上空の空域問題という意味では、関空が24時間、神戸のピークは伊丹の規制時間帯というスタイルで、事実上2空港による空域使用にすれば輻輳問題も軽減すると思われます。

 そして関空二期の問題ですが、足下は財政審の答申に従うべきでしょう。現在、一期分だけで足りており、かつ余裕があることは厳然たる事実であり、中部開港、神戸開港、成田暫定の本設化を踏まえると、その結果を見て着手しても決して遅くはないはずです。関空側は、今やらないとパンクする、と言いますが、残念ながらその主張は主観的なものであり、具体的裏付けが見出せないのも事実だからです。

 

 

 

 

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