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道路公団の各種割引における問題点

 

エル・アルコン  2005年 1月20日

 

 

 道路公団のETC割引が、11月 1日の深夜割引に続き、 1月11日の通勤割引、早朝深夜割引のスタートで出揃いました。春から始まるマイレージ割引が現行の前払割引の置き換えと言う位置付けですが、上記3種の割引はここまで社会実験として各地で実施されて来たものを全国展開した格好です。

 ただ、この割引ですが、深夜割引が 0時〜 4時の間に高速道路を走行していれば適用という単純なルールなのに対し、通勤割引と早朝深夜割引はなんとも分かりづらく、かつ割引の適否に関しても合理性を欠く面が大きいです。これでは相当な知識を持っているか、たまたま有利な割引を享受出来得る立場にある利用者以外にとっては縁の無い話であり、かつ、複雑で分かりづらい適用判定は思わぬ「落とし穴」による適用除外にあたるケースを増やすわけで、「割引」を前面に押し出している道路公団への印象を悪くする方向に働きかねません。

 以下、今回の割引の問題点を指摘しましょう。

 

●割引適用エリアをまたぐ利用について

 取り敢えず「高速自動車国道」と「一般有料道路、その他」の問題は後で述べます。

 早朝深夜割引と通勤割引は、東京と大阪周辺で指定された大都市近郊区間で適用されるのが早朝深夜割引で、それ以外で適用されるのが通勤割引となります。当然、このエリア内で完結しない流動も多いわけですが、早朝深夜割引は、エリア外の利用も含めて割引になるのに対し、通勤割引はエリア外の利用は割り引かれません(利用区間の通し料金から割引適用区間の料金×0.5 を減算する)。

 一例を挙げると、エリア境界の厚木をまたいだ東京−御殿場の利用の場合(普通車2500円)、早朝深夜割引であれば単純に50%オフの1250円ですが、通勤割引は厚木−御殿場(1400円)の50%を全体の2500円から引いて1800円となるのです。

 利用者の立場としては早朝深夜割引のルールがありがたいですが、制度趣旨からいうと通勤割引のスタイルが妥当でしょう。大都市近郊区間の制度と言いながら、横浜町田−沼津の利用で、横浜町田−厚木がエリアにかかるから全区間割引と言うのは不自然です。あと、早朝深夜割引のルールだと、御殿場から厚木までよりも、遠い横浜町田までの方がはるかに安くなるという問題も出てきます。

 

●「高速自動車国道」との連続走行について

 道路公団管理の一般有料道路や、本四道路、地方公社管理の有料道路と料金所を介さずに連続走行出来るケースが問題です。

 これらの道路は割引の対象外ですが、時間および距離の判定には使われるということが問題です。時間判定については、対象外道路との境界線の通過時刻が分からないので、対象外道路の出入り時刻を判定材料にすることには合理性がありますが、料金計算は当然高速道路と分かち計算(前割明細も分かち掲載)であり、各々の道路の距離は明確というのに、なぜ 「100km以内」という距離に関して対象外道路の距離を加算するのか。

 山陽姫路東から和田山まで57kmある播但道や、仙台南から石巻河南まで60kmある仙台南部道路、三陸道なんかは、下手に使うと山陽道や東北道の割引を半分以上殺すわけです。なぜもともと分かち計算している高速道路区間だけで 100kmルールを算定しないのか。境界線に併合収受でもいいから料金所があればそこから計算と言うのに比べると甚だ不合理です。

 

●行き帰りでルールが違う!

 本四が絡むケースは不合理かつ不明朗の典型です。

 瀬戸中央道と山陽道、高松道の間、神戸淡路鳴門道と山陽道、高松道の間には本線TBがあるのですが、上下とも同じ位置にありません。つまり、本四道路から高速道路に入るところにあるため、本四区間を起終点にする時には同じ時間帯や同じ区間の走行でも割引の適否が異なるケースがあるのです。

 道路公団のQAにも出ている山陽姫路西−洲本のケース、洲本への往路は本線TBが無く、通算距離が 100.3kmで適用外になってしまいます。ところが復路は神戸西に本線TBがあるため、神戸西−山陽姫路西で距離を計算するため割り引かれるのです。さらに、距離制限が無い深夜割引の場合も含めて、時間判定に本線TBを使うため、洲本方面の場合は入口と洲本の時間が判定材料になるのに、洲本からの利用では神戸西と出口の時間となるわけです。

 全く同じ区間での往復で適用可否が分かれるというのは話になりません。時間判定については止む無しの面もありますが(神戸西判定に統一すべきだが洲本方面行きの判定が困難)、せめて距離については神戸西基準にすべきです。

 

●通勤割引の回数制限

 朝晩 3時間ずつの時間帯に何度も乗り直したら 5割引+出入りした回数のターミナルチャージで乗れるというのはさすがにこれで封じました。これはこれで合理的ですが、不自然ではないスタイルでの二度乗りも排除されることが問題です。

 例えば山陽道から山陽姫路東経由播但道を経て福崎から中国道とか、東名阪道名古屋西から名古屋高速経由名古屋南から伊勢湾岸道とか、小牧経由名神というケース。また、複数回利用の場合は初回を割り引くということですが、蟹江から名古屋西まで乗り、小牧から中津川までというようなケースで蟹江−名古屋西に割引適用というのでは泣くに泣けません。これなんかは高いほうを割り引くようになぜ出来ないんでしょうか。

 あと、東名阪や道央道の均一区間を挟んで前後の区間制の区間と連続走行するケースが気になります。均一区間の入口料金所と、区間制区間の各料金所でそれぞれ時間を判定するとあり、中部支社の伊勢湾岸道開通効果を示すページでは、豊田−名古屋−名古屋西−四日市の利用につき、全区間での通勤割引が適用されるように書いてありますが、その旨が明記されていません。通しで計算せず、料金を払い直すのですから、割引は初回の支払のみと思うのが通常の発想であり、表示の改善が急務です。

 これが連続走行の場合は本線TBと同じというのならまだしも、伊勢方面の名古屋西や、東名方面の名古屋は一般道からと均一区間からのレーンが分かれていないため、均一区間で一回降りて、名古屋西か名古屋から乗り直しても「2度目」の割引が適用されるのもなんだかの世界です。

 

●一般有料道路の適用除外における不合理

 伊勢湾岸道が東名と直結し、さらに 3月13日には東名阪道と伊勢道が直結し、東京方面と伊勢方面が通し料金となりました。ところがこの区間、東海−飛島のいわゆる名港トリトンの区間が一般有料道路扱いであり、料金体系は前後の距離を通算し、トリトン区間(普通車 700円)を加算するシステムになっています。このため、各種割引も前後の通算部分だけであり、トリトン区間は割り引かれません。利用者にとっては、なぜ50%、30%オフにならないのかと言う不信を抱かせるだけのシステムです。

 このような区間は、山陽道の真ん中にある広島岩国道路や、東関道と館山道に挟まれた京葉道路などがあるわけですが、一方で同じようなスタイルで名神の真ん中にある京滋バイパスの場合、通し利用は名神経由と料金をそろえたため、割引除外にはなりません。

 ここで問題なのが広島岩国道路で、中国道千代田方面からの通し利用でこの区間を通過して小郡方面に抜けると、中国道経由で計算されるため全区間割引なのですが、山陽道西条方面からだと、山陽道(広島岩国道路)経由で計算されるというように、広島岩国道路区間を実際に通過しても適用が異なるわけです。

 また、舞鶴若狭道方面や西宮北以東から小郡方面の利用の場合、微妙な差で山陽道経由の料金計算になっているケースでは、深夜割引に限っては中国道経由で計算したほうが安いケースがあるかもしれないわけで、明らかに高速道路の一部として機能している一般有料道路の適用除外は、混乱を深めるだけです。

 

●適用時間帯をまたぐ利用は有り得ないか?

 深夜割引は22時〜 8時と言うように0時〜4時を完全に含む利用でも適用されますが、早朝深夜割引や通勤割引ではそれが適用除外になります。「有り得ない利用形態」というのがその理由ですが、例えば名神多賀SAや東名足柄SAのレストインを使って泊った場合はどうなのか。もちろん大多数が大都市近郊区間外の利用に早朝深夜割引が適用されるがゆえの事態ですが、それが認められる以上、こうした利用が想定出来ます。まさか無理に深夜時間帯も走れということでしょうか。

 通勤割引も、例えば浜松西を 6時前に入り、浜名湖SAで朝食。そのまま走ってたら豊田や名古屋付近の渋滞に捕まり、名古屋を出たのは9時過ぎ、というのは充分想像がつきます。また、降雪地域でチェーン規制がかかったらやはり相当な時間がかかるでしょう。

 

●「割引」が招くトラブル?

 深夜という閑散時間帯の利用促進や、通勤時間帯の一般道からの転移促進という大義があるのですが、特に深夜割引については、上記の早朝深夜割引で休憩をすると適用除外の可能性があるように、この時間帯の利用を促進することで、過労運転、居眠り運転といった重大事故につながりかねない問題があります。割引率が高いため、特にただでさえ疲労しやすい長距離ドライブでの割引額の絶対額が大きく(東京−吹田で3000円以上)、少々無理をしてもこの時間帯に、という危険度を高める向きでのインセンティブが働くのです。

 また、伊勢湾岸道の東名直結により、首都圏−関西圏の複数ルート化が図られたのですが、伊勢湾岸道、名阪経由の場合、東京から来ると、亀山でいったん高速道路が終わり、西名阪天理、柏原の本線TBを経て阪神高速に入ります。この時、夕方から深夜に掛けての走行と仮定した時、名神ルートは吹田なり豊中なりで 0時過ぎに出れば東京からの料金全額が割引の対象になりますが、名阪ルートは亀山ですでに 0時を回り、 4時までに天理、柏原を通過しないと料金全額を割り引かせることは出来ません。

 これでは名阪ルート走行のインセンティブが損なわれるわけでして、せっかく交通分散効果を目論んで建設した高速道路の価値を損なう方向に働いています。また、交通分散のみならず、冬場は大垣から京都にかけては降雪による障害も多々あるルートですが、そこを敢えて深夜帯に通過するというこれも危険度を高める方向にインセンティブを働かせています。このあたりは、通しで時間を判定するなど、割引と交通政策の整合性を図るようにすべきでしょう。

 

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 もともと民営化推進委員会が打ち出した料金 1割下げの具体化がこれなんですが、分かりづらく、特定の利用のみが30%や50%といった破格の割引を享受出来るという非常にいびつな形です。メリットを享受出来る層と出来ない層に分化してしまうのもさることながら、高速道路の利用において第一に担保されないといけない安全にも疑義を生じさせている問題まであるわけです。

 汎用性のあった前割の廃止による実質値上げとあわせ、民営化がまだスタートしていない時点でのこうした「施策」が、民営化が利用者や国民にどういう効果をもたらすのかについての疑念を深めていくことでしょう。そして、民営化による将来像にも暗い影を感じざるを得ないのです。

 

 

 

 

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