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安全への一里塚

 

エル・アルコン  2005年 1月26日

 

 

 上越新幹線「とき325号」脱線事故については、1月24日に航空・鉄道事故調査委員会の中間報告が国土交通大臣に提出されました。

 まだ委員会のサイトでは内容がアップされていないので、報道された内容しかないのですが、脱線地点の手前 200mにわたり、左右のレールの間隔が11mm拡大していたことや、接着絶縁継ぎ目の破損が最後尾車両が大きく上り線側にはみ出た原因であること、また、先頭車両は脱線したものの、レールを排障器と脱線した車輪がうまく挟みこんだことでレールに添って進行したことなどが内容となっています。

 この中間報告を受けて、国土交通省とJR各社などでつくる新幹線脱線対策協議会は、脱線しても対向線路にはみ出さないための逸脱防止ガードを地上側、車側の両方に導入することを決めました。

 地上側のそれは線路の外側か内側に鋼鉄かコンクリートで作り、脱線した車輪を受け止める。車側のそれは車体に設置し、脱線してレールから落ちた時にレールを受け止める。これにより車両が元々のレールの方向から大きく逸脱しない効果を考えているようです。

 

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 今回の脱線は、先頭車両は排障器と車輪でレールを挟んだことで大きく逸脱しなかったが、それによりレールに沿って脱線走行した車輪がレール締結装置や継ぎ目を破損してしまい、後方の車両の脱線原因となったという非常に悩ましい現象になっています(脱線ポイントより後方のレール間隔拡大も、地震による変形というより、脱線とレール破壊による圧力で事後に広がったのでは?)。

 あるいは先頭車両自体がレールをキャッチできずに進路を逸脱した場合、転覆や激突の危険性があるわけで、編成が最後尾車両の大傾斜はともかくとして全体でほぼ進路を保つためには、レールそのものの破損という犠牲を払い、それによる脱線の被害が発生・拡大するという自家撞着のような状態になるようです。

 巨大地震に限らず、何かしらの原因で鉄道車両が脱線することがあるという前提に立ち、脱線した車両による二次災害や被害の拡大を防ぐ対策こそが重要であり、今回の協議会の対策は、レール以外で進路を確保出来る対策という意味では理に適っており、特に車側でも対応させるという点が目新しいです。ただ、それでもそのガード自体やガードの締結部分を破壊したり、乗り越えたりしたら意味がないわけです。

 その意味ではより安全性が確保出来る対策をさらに考える必要があるわけで、例えば対向列車との衝突回避を主たる目的とするのであれば、道路におけるガードレールのように、衝突した車両を跳ね返すというよりは受け止める目的で、対向列車が来ない外側に大型のガードレールを設置して、脱線したとしてもそちら側に誘導するような構造も考えられます。

 

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 さて、安全対策を完全に近づけることは実は可能ですが、結局それはコストとの兼ね合いになります。今回の地震で露呈しましたが、高架橋の耐震補強工事の進捗がはかばかしくないのもそれが原因という面が強いです。

 ただ、コストと安全はどこまで天秤に掛け得るのか。京福福井は二度にわたる正面衝突事故の末、強制退場となりえちぜん鉄道に引き継がれましたが、これも車両整備やATS設置という安全対策を負担可能なコスト見合いでしかしなかったことによる悲劇でした。これは極端な例であり、整備や基礎的な保安装置すら負担出来ない事業者は退場せざるを得ないと言うのは当たり前とも言える前提でしょう。

 問題は、その先であり、大地震にしても稀有な事例、とはいっても全国的に見れば鉄道が震度6レベルの地震に晒されたケースは、阪神大震災以降でも十勝沖、岩手県南、宮城県北、鳥取、芸予と数えており、十勝沖や宮城県北では列車の脱線が発生しているなど、決して「稀有」とは言えません。

 また、立客前提での輸送が可能なことが鉄道の競争力に寄与している(競争力を削いでいる面もあるが)わけですが、高速で移動している列車が急停車した場合の影響を考えると、他の交通機関には無いリスクに晒されていることは否定出来ないわけです。

 鉄道輸送に関する安全基準や対策を考えた時、航空機や自動車ほど事故発生を前提としてはいないようです。それは鉄道の事故発生率の低さとリンクするものではあるのですが、ひとたび発生した時のモロさも想像出来るものです。今回の事故は紙一重で交わしたとは言え、「絶対」は無い、発生する可能性はあるという認識を新たにさせたことにも意義があり、そこから謙虚に安全を考え直す機会になってもらいと考えます。

 

 

 

 

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