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「JR西日本パス」のユニークな規制と論外な規制

 

エル・アルコン  2005年 2月 2日

 

 

 JR西日本は、「完全民営化」1周年を記念して全線フリー乗車券「いいね、すごい値 JR西日本パス」を発売しています。ただ、利用可能期間が1〜3月の各月月中の 1週間で、さらに 3日間有効ながら土曜日と日曜日の間を連続して使えない(日〜火から木〜土まで)、かつ 1週間前までの発売と制約が大きく、さらに 2人以上で無いと発行しないことから、JR東日本が同様に完全民営化を記念して発行した「JR東日本パス」に比べて使い勝手が悪いという批判が、特にマニア筋を中心に出ているようです。

 ただ、冬場の閑散期という時期や、ジパング倶楽部割引があること、さらに宿泊の割引があることから、主たるターゲットをある程度時間に自由が利く中高年層や富裕層に置いていることは明らかであり、そうした層こそ「完全民営化」で感謝する対象である株主層とも重なるのでしょう。

 また、「JR東日本パス」は社会現象化するほどのブームになりましたが、利用対象を広げすぎて、波動対応の余力がJR東日本(そのJR東日本ですら輸送力不足による混乱が生じた)ほど無いJR西日本が新幹線をはじめとする各線で混乱を招くよりは、売上を押えてでもある程度のサービス水準を担保して提供しようとする姿勢は、冷静に考えれば正しい方向でしょう。

 また新幹線を含む優等列車の指定席(グリーン車用はグリーン車も)を枚数制限なく利用出来ることで、「JR東日本パス」やそれに続くフリーきっぷで「指定券コレクター」や不見転での予約によるいわゆる「ドロンと」や、非常識な短区間での座席指定による長距離利用者の締め出しが多発し、結局発行枚数制限を付けたことや、グリーン車用の価格が特に中高生用で割安だったことによるグリーン車の「混雑」(混乱?)で、後に中高生用のグリーン車用の設定を無くしたというJR東日本で多発した弊害が再現される危険性があることを考えると、中途半端に枚数制限を掛けるよりは、旅行目的という敷居を高めにして、クリアできた利用者には制限なく旅を楽しんでもらうという方向を打ち出したのでしょう。

 そういう意味では、今回の「いいね、すごい値 JR西日本パス」が反面教師にしたであろうJR東日本での問題点の多くがマニア層によって引き起こされたわけで、この商品への批判がマニア層を中心として発生していることは、見方を変えればまさにJR西日本の「狙い通り」です。

 

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 さて、「いいね、すごい値 JR西日本パス」は、こうした特定の「利用者層」を締め出すというような「問題」だけではない、もっと本質的な問題を含んでいます。

  1月下旬にアーバンネットワーク沿線の各世帯に折り込み広告の形で配布された「電車&ウォーク」の最終面にこの商品の一面広告が出てたんですが、そこに記載されていた利用可能エリアの路線図を見ると、北陸線が谷浜、関西線が関で切れているのです。

 「JR西日本全線乗り放題」を謳う以上、北陸線は直江津、関西線は亀山まで乗れないとおかしいわけで、他の境界駅である高山線猪谷、東海道線米原、紀勢線新宮、瀬戸大橋線児島、山陽線下関は路線図に明記されており、なぜこの直江津、亀山の両駅が外れているのか。優等列車の指定席乗り放題、というセールスポイントを踏まえると、手前の優等列車停車駅である糸魚川(列車によっては富山)、柘植まででフリー区間が終わっているに等しいわけです。

 さらに、JR西日本のサイトには「JR西日本管内全線」とだけあり、JR西日本管内であるはずの谷浜−直江津、関−亀山、中土−南小谷間が乗れないことへの注記が一切ありません。これでは直江津や亀山に行ってトラブルになることも容易に想像出来ます。特に直江津は「はくたか」にでも乗ってみようかという流動が少なからずあるでしょうから。

 この妙な制限がなぜあるのかを想像した時まず思い浮かぶのは、JR西日本の会社境界駅のうち、この両駅だけが他社管理駅だということです。もっとも、その駅までの乗車に関してまで、その駅で接し、かつ管理している他社の管理下に入るというのはおかしい話です。

 似た話として、旧国鉄時代の南近畿ワイド周遊券の自由周遊区間から、紀勢線の和歌山市−紀和間が外されていましたが、これはこの区間に南海と国鉄のいわゆる国社分界点があったことによるものですが、普通乗車券が南海と国鉄の合算ではなかったことから、乗客向けには国鉄の賃率で計算するが、同区間を通過する乗客に関して何らかの支払いがされていたと推測出来ます。おそらく、自由周遊区間に含めると、たいていの人が乗らないのに発行数に応じて見做しで支払わないといけないといった規定があり、それを嫌ったのでしょう。

 今回のケースも、同区間の利用者数に応じた何らかの支払が存在し、同区間を含むフリーきっぷの場合は、何らかの見做し数量での支払わないといけない規定になっていて、それを回避するためにこのようないびつな規定になったと推測されます。

 

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 南海の国社分界点は歴史的経緯もあり、別会社としての権利関係に基づく境界が駅間になってしまったのですが、JR化後にJRが資産を買い取り、企画商品における制約がなくなっています。一方でJRの会社境界駅の場合、確かに別会社ではありますが、サービス等で「分断」することが無いようにすると言う前提での分割民営化であり、国社分界点と違い、境界駅までは各社の権利があるはずです。

 確かに駅の管理費の負担問題はありますが、それは実際の利用者数の概算で分担するか、定額であるべきで、もしこのような単独での企画商品を発行した際に「眠り口銭」のような形で負担を強いることは回避すべきでしょう。ただ、もしJR西日本が、実際に他社管理の会社境界駅での乗降を嫌がっていたとしたら、会社側の都合だけで自社管内の区間での輸送を拒むという異様な事態であり、厳しく指弾されるべきことではあります。

 

 

 

 

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