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セキュリティ軽視のナンバープレート政策
エル・アルコン 2005年 6月 8日
「ご当地ナンバー」の導入が決まり、導入を目指す地方が熱くなっています。かつては新しい検査登録事務所の開設時に、「ご当地」らしさを打ち出した名称にして、事実上の「ご当地」ナンバーを導入する動きや、ナンバーに記載される地名を巡っての近隣自治体の「綱引き」が見られるなど、たかがナンバーでありながら、されどナンバーの趣でした。
しかし、こうしたナンバーを巡るヒートアップも、見方を変えれば地名、地域名の好き嫌いから来る地域対立や、他愛の無いレベルではあるものの地域差別の芽も含むわけで、さらにはパッと見では馴染みの無い地名の氾濫に、ナンバーが果たす役割、機能を損なっているのではという疑いもあり、こうした視点から今回の「騒動」を見てみましょう。
●「ご当地ナンバー」導入への流れ
国土交通省の「ナンバープレートの地域名表示細分化等に関する懇談会」が、2004年 3月に地域名表示細分化を認めることが適当という報告を受け、自動車交通局は、意見募集を行い、同年11月に「新たな地域名表示ナンバープレートの導入について」として要綱をまとめました。
国土交通省(1)
国土交通省(2)
この要綱で示された「地域名表示の基準」は、
1.地域特性等について一定のまとまりのある複数の市町村の集合が原則
2.登録されている自動車の数が10万台を超えていること
3.都道府県内の人口、登録自動車の数等に関して極端なアンバランスがないこと 等
となっており、市町村が住民の意向等を踏まえた上で、都道府県を通じて国(地方運輸局)に要望するスタイルになっています。これを受けて2005年 5月31日を期限として「ご当地ナンバー」を募集した結果、「仙台」「金沢」など20地域から申請がありました。
●ナンバープレートの地域名の変遷
かつては各都道府県単位となっており、その頭文字等の一文字をナンバーに記載していましたが、1964年より陸運事務所または支所等の所在地の名称を表示することになり、現在に至っています。
支所の所在地の名称も、その支所等がある自治体名かというと必ずしもそうではない、例えば「相模」が神奈川県愛甲郡愛川町であり、地域の旧国名を採用していたり、「習志野」は千葉県船橋市習志野台という「字」名にもかかわらず、隣りに「習志野市」があるのに採用されたりするケースがありましたが、概ね所在地もしくは行政等で公式に用いられる地域名になっています。
それが怪しくなってきたのが、支所(事務所)名そのものを「ご当地」チックな名称にすることで事実上「ご当地ナンバー」を実現してしまった「湘南」や「なにわ」であり、周辺との相克で、実際には存在しない地名をつけた「尾張小牧」(愛知県小牧市)もそうでしょう。
そして「尾張小牧」は小牧事務所ということで名称とナンバーが微妙にあわないのですが、ついに「とちぎ」に至っては、栃木県佐野市にあり、佐野事務所でありながら、「とちぎ」と全く合わなくなってしまいました。
●これまでの細分化、今回の細分化
これまでは専ら支局管内の登録台数が多くなりすぎて分離するという、極めて実務的な要請だったわけです。事務所を設立して別の地名にすることでキャパシティは二倍になるわけです。
また、同一県内でも山形県庄内地方や岐阜県飛騨地方のようにエリアが大きく分かれているようなケースの救済としての支所(事務所)新設と言う側面もあるでしょう。ただし、これは対馬や奄美大島、沖縄宮古島や先島諸島のように、事務所はあるがナンバーの地名は支局と一緒というケースもあるわけで、絶対に必要とは言いきれません。
しかし、今回の細分化はそうした実務面での要請ではなく、ナンバープレートの「見栄え」や「宣伝効果」以外の何物でもなく、どうしても細分化しなくてはならないものでもない、つまり、地元の「経済効果」を除けば、国費でこれを行うことはまさしく冗費なのです。
●細分化でなく統合のチャンスはあった 実務上の要請から細分化して来たのは、同一ナンバーを払い出すわけには行きませんからこれは止むを得ないことです。しかし、登録台数の増加に対応する細分化ではなく、逆に1964年以前のように都道府県単位に統合するチャンスが実はあったのです。
1998年に先行26地域、そして翌1999年から分類番号(地名の右、500とか300の部分)が三桁化されました。これにより、単純計算でひとつの地名で登録できるナンバーは十倍以上になったわけです。
もちろん東京の5箇所、埼玉、千葉、神奈川、愛知の4箇所のような都道府県の場合は十倍でも心許ないように見えますし、実際、三桁化のきっかけになったのは「名古屋」ナンバーが普通車の「5X」を埋め尽くし、さらに「7X」も終わろうとしたことが原因なだけに、相当なキャパシティが必要です。
しかし、一方で分類番号が二桁時代はオート三輪に「6X」、特殊用途の小型・普通車両に「8X」、大型特殊に「9X」、大型建機に「0X」が割り当てられていたことを考えると、たとえばこれらを総て「00X」に押し込めてしまえば、相当な余裕が出るわけです。
登録台数は多いですが、普及率その他を考えると、現状の十倍になり、さらに100の位を三つ捻出すれば、それを総て小型自動車に充てたとしたら現状の25倍ですから、いくらなんでも埋まることは無いでしょう。
しかし、この時出来た余裕は、希望番号制という形で使ってしまうことになります。並び数字や語呂合せというような数字を取得出来る制度で、フィーがかかるので収入への期待もわずかなれどありますが、この時の「遊びごころ」が、後の「ご当地ナンバー」の底流となっているようです。
●ナンバー細分化の問題点
「ナンバープレート」の社会的意義というのは何でしょうか。車体に取りつけて公示する意義を考えた時、自動車税関系の納税背番号か、車検制度の管理と言う意味では、車台番号での管理で十分でしょう。
そう考えた時、ナンバープレートと言うのは所有者、運行者の「ID」としての機能に他ならず、同時に事故や犯罪に自動車が関係した時の「証拠」としての機能、まあこれも広義の「ID」でしょうが、そういう機能が社会的に存在すると考えます。
その時、ナンバー細分化と言うのはどうでしょうか。走行しているクルマの「ID」を即座に見分けるとき、地名の「知名度」は大きくその認知を左右します。その意味では広く知られた地名を掲げる「ご当地ナンバー」はプラス面もあるわけですが、少なくとも一般常識として全国四十七の都道府県名くらいは覚えていて然るべき存在であり、それ以上に細分化することは、知名度によるプラスよりも数が増えることによるマイナス面が大きいです。
このあたり、「セキュリティ」としての視点が全くないとしか考えられないわけで、全県一名称だった栃木県の「栃木」を「宇都宮」と佐野にある「とちぎ」に分離した時、「栃木」と「とちぎ」が同一エリアに併存することになったのです。
例えばひき逃げ事件や誘拐事件と言うようなクルマを使った犯罪の目撃者が、 110番で「『とちぎ』のXX-XX」(500とか「い」などは見えないことが多いでしょう)と口述した時、「栃木」なのか「とちぎ」なのか、どう識別するのでしょう。
知名度が低く、かつ四文字とごちゃごちゃして見づらい「尾張小牧」に、知名度が高いとは言い難い「春日部」「袖ヶ浦」あたりの場合、知らない地名はぱっと見では理解出来ないわけで、「なんだったっけ」とスルーしてしまいそうです。
昨今、治安の悪化が深刻化しており、また、無謀運転や運転マナーの低劣化による重大事故の増大もあります。そういう社会環境の中で、犯罪抑止力、また捜査の手助けとなるナンバープレートの細分化は、百害あって一利無しと言えます。ついでに言えば希望ナンバー制も実は問題で、本来同時期に払い出されることが少ないはずの同一ナンバー(「20-05」や「11-11」など)が大量に出回ることにより、IDの識別が地名部分や平仮名、また三桁化した分類番号の下一〜二桁に頼るしかなくなることで、これもナンバーの社会的意義を損なっています。
●覆水は盆に返らないが……
希望ナンバー制、そして今回の「ご当地ナンバー」は、ユーザーサイドの希望に応えた、「味のある行政」だという勘違いはもはや修復が不可能です。それにしても行政たるものがナンバープレートの社会的な意義を見失いさえしなければこのような事態にはならなかったはずであり、セキュリティを損なう形にならないことを祈るのみです。
***
今回の一連の動きで思い出すのは、20年近く前に、クルマの「前ナンバー」はカッコ悪い、と前ナンバーの廃止を求める動きが一部にあり、前ナンバーを外したグループがNHKでも取り上げられたことがあったことです。
さすがにその当時はそのような見栄えだけを理由にそのような意見を容れることは無かったのですが、その後そういう動きの一部には、別の「真意」があったわけで、いわゆる「オービス」逃れとしての前ナンバー外しが流行し、遂には罰則がこれまでなかった前ナンバー外しに罰則を与えることで前ナンバー外しの横行に歯止めをかけました。
これは特殊なケースとはいえ、ユーザーサイドの希望とナンバープレートの持つセキュリティ面での意義が表裏一体であることを現しています。
ちなみに、その当時の団体がいみじくも「EC(今のEU)諸国のナンバーに比べてカッコ悪い」と言っていましたが、そのEU諸国のナンバーは、国籍が一目で分かる様になっており、IDとしての機能を重視しているのは皮肉な話です。
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