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企業倫理に悖る「つまみ食い」就航



エル・アルコン 2005年10月13日





スカイマークエアラインズは10月12日、 「第二の創業」と称して来春に路線の大幅集約を実施する ことを発表しました。
旅客需要の高い路線への集約と多頻度運行を第一に掲げており、安価でわかりやすい運賃で需要総数の多い区間での「薄利多売」路線に集中するようです。
新規参入航空の嚆矢として注目を集めた同社は、他社が大手の傘下に入ったり、運航開始を断念するというような事態に追いこまれているのに比べ、一定の地位を確保した感があります。しかしながら知名度と派手やかさの影で経営成績は今一歩であることは否めず、2004年10月期(2004年10月期までは10月決算)で初めて経常利益を計上するというように、黒字に転換してまだ1年も経っていません。

こうした経営環境で、大手との競争、燃料費の高騰というような外部環境まで考えると、相対的に脆弱な経営基盤の同社が抜本的な経営戦略の見直しを強いられるのも当然でしょう。しかし、その内容が非常に問題なのです。

●既存路線の大半を撤退することの是非
スカイマークは、羽田を起点に創業からの福岡線に加え、鹿児島、徳島、関空線を運航しています。
しかし今回の計画では福岡線のみ残し(増発)、後は総て撤退し、新規に羽田−札幌線と、今夏臨時運行していた羽田−那覇深夜便を開設し、既に来年2月の開港と同時の就航を発表していた羽田−神戸線とあわせて、羽田起点の幹線ルートに集約するという、総取っかえに近い状態です。

これでは「スカイマークエアラインズ」という事業者としての事業の連続性すら疑わしいわけですが、問題なのは撤退する路線です。
もともと創業路線である福岡線自体が98年9月就航という歴史の浅さですが、鹿児島線が02年4月、徳島線が03年4月、関空線が05年3月と、最も長い鹿児島線ですら4年で撤退、関空線に至っては1年で撤退と、「定期」航空路線の改廃としては異常に短期間と言えます。
実はスカイマークはこうした短期間での撤退の「常習犯」であり、伊丹−札幌、福岡線を99年4月に開設し2000年6月に撤退、羽田−青森線を03年4月に開設し同年11月に撤退と、羽田−福岡線以外で開設済みの路線は現時点では撤退もしくは撤退が決まっているというありさまです。

もちろんスカイマーク側にも言い分はあるんでしょうが、参入しておいて利用状況を理由にして早期撤退というのは単に自社の見通しが極めて甘かったか、競合路線に対する営業戦略が間違っていたわけで、そもそも最初から参入する資格を疑うべき話です。
公共交通における路線認可は、当然その事業の継続性も重要視されるわけで、1年や2年で撤退するような甘い参入計画に認可が下りるというのは、取り敢えずやって見ようと言う「つまみ食い」的な参入を招きかねません。特に経路上に特別の資産を持たない航空産業の場合、既存路線とまったく縁がない区間への参入も容易であり、収益が見込まれるところに見込まれる期間だけと言うような不定期運航と変わらないような形態の事業形態での「定期」航空を許してしまう問題があります。

●就航先との信義の問題
羽田を拠点にするスカイマークは、羽田発着枠の関係で増便がままならない大手両社の間隙を縫うように収益性の高い羽田線を開設出来る強みがあります。一方で羽田線の就航や増便を望む地方にとっても、スカイマークの就航は渡りに船であり、かつ地方と中央の交通を確保するという重要性があります。
交通機関というのは成績如何で改廃があるとはいえ、公共性が高い事業ゆえ参入時に事業の継続性について審査され、退出も規制されるのですが、航空に関しては「休止」の一言で事実上の撤退が可能な分、他の交通機関に対して路線の改廃が激しく見えます。
とはいえ公共交通ですから、地元は当然末永い就航を考えていますし、それを前提にした経済活動や行政活動を行っていますから、会社側の都合で呆気なく撤退されるというのは掛けたはしごを外される話であり、到底容認出来るものでもないでしょう。
特に羽田線は首都圏以外の都市にとっては基幹交通として位置づけられますから、需要喚起名目やニッチ需要狙いで設定された路線とは質が違うわけで、簡単に撤退することは公共交通の意味を根底から崩しかねません。
特に今回の場合、関空線と徳島線は搭乗率が3割程度と地元の分が悪いのですが、鹿児島線の場合は搭乗率も堅調であり、これで撤退されてはなすすべもないと言う感じです。

鹿児島線の問題はこれだけではなく、同社が鹿児島就航直前に実施した02年3月の第三者割当増資のうち約6億円を地元企業が引き受けているということがあります。
スカイマークは今回の発表に先立ち鹿児島線からの撤退を表明していましたが、そうした経緯があることから、つまみ食いどころか食い逃げにあったが如きの地元財界の反発は大きく、県知事は「縁切り」宣言をするなど、地元との関係はおそらく修復不可能であり、今後もし再就航を希望しても地元の協力は得られないでしょう。

増資引受がなく、利用成績が悪かったとはいえ、徳島、そして関空でも同じように地元との軋轢が出ることは必至です。特に関空は国の関空国内線強化策に乗る形で開設されたわけで、だからこそ幹線系統で羽田枠4往復の確保という新規参入会社とはいえ破格の待遇が得られたのであり、伊丹からの強制的なシフトにもかかわらず利用が思うように伸びない関空にとって、幹線系統であり関空発の国際線連絡という役割も担う羽田線の撤退は論外といえます。

●「つまみ食い」で得たメリットの問題
上でも触れましたが、スカイマークが持つ羽田の発着枠は、新規参入会社の優遇枠であるとともに、地方路線や国策路線という趣旨で獲得した面があります。
ところがそのほとんどを短期でご破算にして幹線系統の新規就航や増発に振り向けるというのは、「見せ金増資」並みの詐術ともいえるわけです。では撤退の分を肩代わりしようにも、このままでは羽田の発着枠が確保できないので、このままでは「減便」になってしまうわけで、鹿児島では地元政財界が撤退で「浮く」羽田発着枠は鹿児島の枠だと主張しているほどです。特に撤退で半減になってしまう徳島は話にならない事態です。

既存大手にしても、大手同士の競合が激しい幹線での増便もままならないはずなのに、別の名目で得た発着枠を転用して参入されるのでは、新規参入会社優遇と言う名目にしては度が過ぎる優遇と感じるでしょうし、裏道と言うかルール違反といえましょう。
実際、ここまでのスカイマークの就航や計画表明は、その都市への就航ではなく、羽田発着枠確保が主目的ではという観測があったわけで、今回の発表はそれを裏付けた格好になりました。

●他社に与える重大な影響
「強力なライバル登場」、と言う影響まで否定することはありませんが、公正な競争という観点からは大きく逸脱した形での「ライバル撹乱」の発生が懸念されます。

鹿児島線撤退だけ先行表明したときの理由は、8月に参入表明した羽田−新北九州線への転用が名目でした。来年3月開港予定の新北九州空港は、先に新規参入会社の スターフライヤー が羽田線の開設就航を表明していましたが、残り半年近い時期でのスカイマークの参入表明で、提供するサービス内容に差があるとはいえ、経営戦略の見直しを図らされたことは想像に難くありません。また、新北九州空港自体も就航便数の見通しに応じた事業計画を立てていたはずです。
それから2月も経たないうちの就航見送りですから、場当たり的ともいえる就航表明に振り回され、開業準備費の一部をドブに捨てさせられた格好です。

また、関空線はスカイマークの全便がJALとコードシェアになっていますが、撤退でJAL便として利用していた層を失いかねないばかりか、国際線乗り継ぎの利便性まで損なわれる格好になるため、国内線の利用のみならず国際線にまで影響します。

さらに今回、幹線系統へ集中するということは、既に大手による競合状態にあり、供給力不足というより飽和状態に近い形で均衡している路線に「多頻度」で参入するわけで、供給過多に陥る危険性があります。
こうなると不要な競争による不毛な消耗戦を仕掛けることで、既存大手も含めた共倒れに巻き込みかねず、国内航空産業そのものを疲弊させる危険性があります。

●神戸空港への懸念
こうなると今回の発表でも就航の意思に変化は無いとはいえ、来年2月開港の神戸空港もスカイマークとの付き合い方を白紙で見直すべきでしょう。
関西財界上げて歓迎された関空線をわずか1年で撤退、と言うか撤退表明の時期で見たらわずか半年ですから、神戸も含む関西財界の顔を完全に潰した格好です。
企業としてそこまで平然とする以上、神戸線が関空線の二の前にならない保障はありません。事実、今回の発表では当初の8往復が7往復に減少しており、その兆候が見えているともいえますし、搭乗率が関空より良いとしても、鹿児島線を撤退するくらいですから分かりません。

神戸空港の発着枠上限は30往復で、このうちスカイマークの計画通りとして7往復を占めますが、万が一スカイマークが早期に撤退したら、いきなり発着枠の1/4が宙に浮くわけで、いきなり空港存亡のときを迎えかねません。
神戸空港は就航表明が最初だったと言うことでスカイマークを優遇していますが、今回の「仕打ち」を踏まえ、神戸空港の将来を考えたら、現在言われている発着枠は最低でも半減し、大手二社に再セールスいないと、重大なリスクを抱えての開港になるでしょう。

また、利用する側も、羽田−神戸線のメイン需要はビジネス需要と言うのは確実ですが、ただでさえネットワークやサービス、また法人ビジネスで劣るスカイマークが、いつまで続くか不安と言う場合、こうしたビジネス需要、法人需要が回数券の購入などを通じて積極的に利用することはまず無いでしょう。当初はJALとのコードシェアも喧伝されていましたが、関空線の対応を見る限り、それでも手を組むかは微妙ですから、ビジネス需要が付くか怪しくなったと言えます。
そこまで考えると、メインの羽田便がスカイマーク頼みというのは、本来あるはずの需要を取りこぼすと言う意味でも非常に危険であり、配分の再考をすべきです。

●儲けを向いた公共交通の究極の姿
今回のスカイマークの対応は、儲かる路線への集中と明言しているわけで、既存事業を捨ててでも儲かる事業へ集中すると言うスクラップアンドビルドの大規模なスタイルと言うことができます。
一般事業法人では、それが例え創業の分野であっても事業として存続させる価値がなくなれば撤退しますが、公共交通の場合は、基本的には独占事業と言うこともあり、事業の継続に主眼が置かれ、退出にもそれなりに規制がかかっています。

今回撤退する路線は他社も就航しているとはいえ、徳島線では全部の半分、関空線は日中の空白時間帯を埋める存在と、独占とまではいきませんが、寡占体制を構築している側面は否定できず、事業におけるサービスの提供方法や事業の改廃は、利用者がライバルを選ぶことによって回避することが難しい状態にあります。
こうした多くの公共交通に共通する事業者と利用者の関係において、公共交通の維持確保よりも収益を向いた経営を行うことの是非が厳しく問われるとともに、現在話題の村上ファンドによる阪神電鉄株の買占め問題にしても、その帰趨をこの類似形に求め得る気がします。

すなわち、収益の極大化を図るためにダイヤ編成を頻繁に変更し、儲からない駅の利便性は極小化するというようなことも考えられます。
サービスをきめ細かく見直すことはある意味良い事なんですが、例えば運行区間や停車駅がコロコロ変わると言うようなことが現実になった場合、沿線に居住する、いわんや住宅を購入するようなことはリスクが大きすぎて出来なくなります。なぜなら、今は特急が停まっていたとしても、いつ何時、普通しか停まらない、朝も14分に1本しか来ない駅になるかもしれないというのでは、最寄り駅にすることは出来ないでしょう。

こうなると「つまみ食い」就航に振り回された自治体と同様、沿線自治体も地域のてこ入れやまちづくりに簡単には手掛けられませんし、本来地域を豊かにするはずの交通が足かせになることも充分にありえます。
今回の発表と村上ファンドによる買占め、同時期とはいえ全く違う事象ではありますが、社会に与える影響や警鐘という意味では不思議と共通点があるのです。








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