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村上ファンドと阪急の思惑



エル・アルコン 2006年4月17日





MACアセットマネジメント(以下「村上ファンド」)による阪神電鉄(以下「阪神」)株の買い占め問題に付いて、阪神が企業価値の向上について村上ファンド側と協議するというような話もあるなか、基本的にはあまり動きの無いままに新年度を迎えました。

ところが年度始めの4月13日の大阪朝日朝刊は一面トップで、阪急ホールディングス(以下「阪急」)が村上ファンド所有の阪神株の取得を検討していると報じました。
JRを挟んで阪神間で競合している阪急が阪神の半数近くの株式を押えると言うことですから、関西大手私鉄の再編というインパクトを読者に与えています。

ただ、阪神、阪急両社とも報道を否定しており、その後も朝日が記事にしたほかは、センセーショナルなネタがあれば飛びつく在阪のスポーツ紙や夕刊紙が「阪急タイガース誕生か」と煽る程度で、どうも朝日の飛ばし記事の様相が強いようです。

しかし、火のないところに煙は立たぬの言葉もあり、何らかの背景がこの報道にはあるのでしょう。以下、簡単に考えて見たいと思います。

●村上ファンドの焦り
まず考えられるのはこれでしょう。
村上ファンドは1300億円程度を阪神株取得に費やし、時価で2000億円ですから5割近い利益を半年程度で生み出したことになります。
しかし、この利益は所有する阪神株を処分して初めて現実化します。とはいえ金額もさることながら、発行済み株式の45%という規模ゆえ、阪神の経営に濃厚にコミットするのでない限り手を出す投資家はまずいないでしょう。
京阪電鉄など受け皿になる企業探しをしていることが報じられて来ましたが、まさに関西大手私鉄のバランスに大きく関わる話だけに、難渋しているようです。

つまり、村上ファンドは買い進みすぎたが故に阪神と言う沼地から足が抜けなくなっているのです。鉄道事業は規制産業ですから会社を解体して処分すると言うわけにも行きませんから、阪神の経営に責任を負うか、鉄道事業を営む買い手を見つけないと行けません。
そして時間が経てば経つほど利回りは下がり、投資した資金の効率が下がるのです。
見方を変えればほとんど詰んだ格好の阪神経営陣にとっては、唯一刺し違いで一矢報いることが出来るのが、この泥沼作戦なのです。
そう考えた時、さらには投機による実業の攪乱を良しとしないと考えるのであれば、阪神株を引き受けない、この至極単純な対応を貫くことで、投機に対する意思表示と実効性のある対応を見せることが出来るのです。

ですから、村上ファンド側の焦りの発露とも言える「観測気球」に飛びつかぬことこそ肝要であり、またそうした提灯に簡単に乗っかるメディアは誰のお先棒を担いでいるのかを振り返るべきでしょう。

●阪急が本当に買収を考えているケース
買収額と現時点での有利子負債総額のバランスを見て無謀と言う評価がほとんどですが、その点がネックとは言え、実は阪急にとってはメリットが無いとも言えないのです。

阪神の財務体質は阪急に比べると良好であり、阪急の泣き所である不動産の損失を筆頭に、阪神側の利益を使えば財務体質を好転させることが出来るわけです。
梅田の北東側に偏倚している商業施設も、阪神を吸収して梅田の西南に地歩を築くことで、自社施設による回遊性を創出できたり、各線の様々な利用者を自社関連に取りこむことが出来ます。

また、頭ひとつ抜け出した感のあるJRに遅れをとっている阪神間の鉄道輸送に関しても、阪神間速達の特急は阪急線に集約、というように合理的な運行が可能になります。
そう考えると、村上ファンドの観測気球と言う推測と同時に、京阪への打診という流れのなかで、ならばウチが、と阪急が虎視眈々と狙っていないとは言いきれません。

●うがった見方をすれば
その阪急もプリヴェチューリッヒ企業再生グループ(以下「プリヴェ」)という事実上の投資会社が筆頭株主になっています。阪急の企業価値の増大は阪神の吸収にあり、という意思決定を形作るような「圧力」があったとしたらどうでしょうか。
同じように目論む投資家を連れてきて資金を付ければ買収も可能です。そして企業価値が増大すると言う流れになれば阪急株も上がるでしょう。
そして村上ファンドと違い、プリヴェは発行済み株式の6%程度の所有ですから売り抜けへの障害も少ないでしょう。

そうなると、魔法のように最初舞台で主役を演じていた2つのファンドが利益を確定させて退場してしまうのです。
なにも両社がグルとは言っていませんが、投資組合やファンドの資金はどこがどうつながっているか定かでありません。ライブドア事件では自社株購入用の匿名投資組合が指弾されましたが、本来ああ言う匿名投資組合は容認されており、なぜかライブドア事件だけ槍玉にあがったとも言えるからです。

●阪急と阪神の経営統合の意味
では阪急が阪神を本当に統合したらどうなるでしょうか。
阪神間の輸送は阪急線に誘導することで、西宮北口以西で顕著だった乗車率の悪さがカバー出来ます。 朝の輸送力不足は阪神線経由の特急を設定することでオーバーフロー分だけ対応し、阪神線は難波、近鉄直通流動に特化するような位置付けになるでしょう。
対梅田では駅勢が重ならない甲子園あたりから力を入れる感じで、いわば西宮以西の阪神線は阪急線が輸送力不足の時と、ミナミへの流動の通過路線として存在すると言う感じになるのではないでしょうか。

並行する路線を同じようなスタイルで運営した例は過去にありません。南海に対する阪堺、阪神に対する国道線と、どちらかというと都市間輸送と言う面では「格落ち」の路線でのみ存在し得るようです。
また阪急が系列の鉄道会社を育てたかどうかを考えると、神鉄や能勢電のように、阪急ブランドとはほど遠い、悪く言えば自社の培養線としての機能以外は放置される可能性もあります。

●今回の評価
何はともあれ、村上ファンドの焦りに乗って、村上ファンドの「大逃げ」を許してしまうと、確実に「悪しき先例」になってしまいます。
村上ファンドが買い上がった時に、信用売りをしていた投資家が現物を用意できず、逆日歩で真綿で首を締められるように追い込まれたのですが、実は買えない、売れない、という状態は意外と効果的な対応になるのであり、ここで売買を成立させたら敵に塩を地で行く感じですし、明日は我が身と思うべきでしょう。

阪急が「再編」を敢えて仕掛けてくることも、阪急にとって見れば当座の財務体質の改善などメリットがあるだけに、あながち否定は出来ませんが、自社メリットはともかく、沿線、特に阪神沿線にとってはメリットが見えないだけに、傍迷惑な話ともいえます。

ここは自重が肝要な局面でしょう。







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