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鉄道輸送に関する統計の怪
エル・アルコン 2006年9月13日
敬老の日が間近ですが、今年から厚生労働省は毎年行ってきたいわゆる長寿番付の公表を取りやめることにしました。
個人情報保護法などから非公表を希望する人が増えているからということですが、確かに高齢者狙いの悪徳商法や犯罪のターゲットを教えるようなものとはいえ、人口動静の頂点に位置するような人の情報ですから、詳細な住所を隠すくらいでいいのではと思います。
こうした流れの中で個人情報保護法との関係で見直しを迫られているものに国勢調査があります。これは個人や法人のありのままを調査することで、国の基本情報を把握するという意味で、国家国政の根幹とも言える調査ですが、調査員の前で個人情報を開示することへの抵抗感などから、回答を拒否する人が増えています。総務省でも電子申告や郵送による回答を認める方針を示すなど、対応を考えていますが、調査結果の信頼性へどの程度の影響があるのか、という問題があります。
国や地方自治体の統計調査については、統計法に基づき実施されています。また産業別の統計はそれを管轄する特別法に基づいて主務官庁に報告することが定められているケースもあります。
これらの調査結果は、個人法人を問わず秘密は保護されますが(統計法14条)、一方で公開も義務付けられており、(統計法16条など)、統計調査およびその結果は、国や地方自治体が握りこむのではなく、広く国民が共有することを想定しています。
ですから国民が所有すべき情報としての位置づけと考えた時、プライバシーや企業秘密などについても、それを広く認めるのではなく、実際に権利侵害が発生するケースに限定して非公開とするのが妥当です。そもそも知られるべきでない情報を公開を前提とした統計調査の内容とすることは本来ありえないからです。
さて、交通においても統計調査はさまざまな観点から行われています。
そうした中で、鉄道輸送に関する統計において不可解な「公開」がなされているケースが見られます。
各地方自治体は、都道府県や市町村単位でその域内での交通に関するさまざまなデータを集め、それを公開しています。道路であれば区間別の通行量、自動車であれば登録台数、バスやタクシーであれば各社の輸送人員など、その自治体での交通の実態を語る上では欠かせない情報です。特に役所や図書館に行かなくても最近ではウェブサイトで公開しているため、非常に助かります。
ところが鉄道輸送に関して、各自治体の統計書のうち当該部分を非公開にしているケースがあるのです。
これはもっぱらウェブサイトでの公開に限った話のようですが、それにしても一連の統計書のうち当該ページがサイト上では断りもなく欠落していたり、「HPでは不掲載」とか「都合によりこちらでは公開をしていません」となっているのは、地方自治体の公式サイトの表記としては違和感を通り越したものを感じます。
その典型例が岐阜県の統計書です。
「岐阜県統計書デジタルアーカイブ
で明治9年からの統計書の内容を閲覧できるのは非常に優れていますが、その「運輸・通信」の項目のうち、「鉄道の運輸状況」については、昭和39年以降のデータが見ることが出来ません。
これが「鉄道の運輸状況」全てであればまだ判るのですが、例えば昭和39年版は「国有鉄道、名古屋鉄道」だけ閲覧できません。時代が下がって昭和51年版は「鉄道の運輸状況」が全て閲覧できませんし、昭和57年版は「国有鉄道の運輸状況」だけ閲覧できません。これらの開示、非開示を組み合わせると残るのは国鉄だけであり、国鉄が統計情報の公開を拒んだことになっています。
では国鉄のデータだけ非開示かというと、昭和38年以前は開示されていますし、そもそも公共企業体である国鉄がこのように情報の開示を拒む理由はないはずです。実際、
千葉県の統計情報
においては国鉄時代の統計情報が最終の昭和61年度に至るまで掲載されており、名古屋鉄道管理局が非開示で、千葉鉄道管理局が開示するということはありえませんから、国鉄が非開示を要請したということはあり得ないでしょう。
そうなると、関連する自治体のサイトに明記はされていませんのであくまで推測ですが、現在に至るまで非開示となっているJR東海とJR貨物の両社のうち、JR貨物は
東京統計年鑑
などで統計データを公開しており、JR東海が国鉄時代のデータを含めて非開示を要請していることになります。
おそらく「民間企業」としてこれらの統計データは企業秘密に属するもので、およそ世間に普及していない書物としての統計書への記載は容認するものの、広く閲覧することが出来るウェブサイトへの掲載を嫌がったということなのかもしれません。
しかし、岐阜県においては名鉄、近鉄以下私鉄各社、また、上記の東京都や千葉県においてはJR東日本を含む各社のデータが公開されており、公共・公益企業として、公益性の高いデータの非開示という姿勢は疑問を呈せざるを得ません。
企業秘密という意味では、例えば財務省の法人企業景気予測調査のように、経営計画に属する部分の調査であれば個社別情報の非開示は当然でしょうが、結果としての数字については、上場企業であれば財務諸表から付属明細書まで経営に関する結果の数字を事細かに開示しているわけで、統計書に採択される区分である以上、それを決算書で開示するデータよりも秘する必要がある企業秘密と看做すことには無理があります。
また、どうしても秘匿しなければならないのであれば、それは統計書として公表すべきでない項目だとして統計書の項目から外すように統計書を編纂する自治体にまず要請するのが筋であり、自社だけ非開示で他社は開示のままで良しとするのは全く筋が通っていません。
そしてそれが通って各社が公開を望まないのであれば非公開とすべき、という流れになったとしても、遡っての非開示はいかがなものか。
特に法人格が異なり、民間企業ではなく公共企業体であった国鉄のデータにまで介入したり、同じページに掲載されている他社のデータの公開を妨げていることは非常に問題です。
巻き添えで非開示にさせられた中には、既に廃止になった北恵那鉄道や東濃鉄道、神岡鉄道(先代)など、歴史的分野の研究に影響が出かねないケースもあるわけです。
企業経営の透明性が重視される昨今、企業情報の開示に関してはむしろ重んじる傾向にあります。また、ウェブサイトでの公表にしても、新聞紙上などでの公表に代えてウェブサイトでの公表にするなど、開示におけるアクセス距離や時間といった制約をなくす方向にあります。
そうした中で、統計書という公開を大前提にした公的書類での公開が通例の情報を非開示にするなどの制約を課すということは、そのデータの出し手とともに、統計書を編纂している自治体の姿勢すら問われるものだといえます。
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