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問題が多すぎる開催案



エル・アルコン  2007年 3月 7日





 「東京マラソン」に続き、「三宅島オートバイレース」とは何ともイベント好きな知事だという印象です。まあ「東京マラソン」と違い、火山災害からの復興というテーマがあるわけで、大義名分は立っており、その点では非難する理由はありません。このレース、開催まで 1年を切っているという拙速や安全面での批判が出ていますが、そもそも論として、「東京マラソン」のような内外にアピールできるイベントと考えているのなら、それは無理筋では無いかという疑義があるのです。



●地理的・気象的問題

 伊豆七島でも南に位置する三宅島は、伊豆半島の南端から60km程度離れており、東京都心から 180km程度離れています。絶海の孤島と言うと語弊がありますが、それでも内海や沿岸部の島嶼に比べると、外洋に位置するため、「本土」からの距離があることは否めません。また、夏場の台風は言わずもがな、年間を通しても低気圧の通過ポイントでもあるため、それに伴う風浪による交通途絶といったリスクがあります。



●交通の問題

 火山災害後、空港が閉鎖されており、海路しかありません。定期便は 1日 1本の客船のみ。チャーター便などで対応するにしても、三宅島の港湾設備の能力問題もあります。上記のように気象状況により交通が途絶するリスクには、選手や観客の輸送の問題もさることながら、競技中の事故その他における患者輸送にも影響します。



●宿舎・設備の問題

 選手、スタッフに観客を収容できる宿泊施設があるのかどうか。伊豆七島の宿泊施設は、民宿も含めて島に 100軒あれば多いほうですから、1000〜2000人程度でしょうか。フェリーをホテル代わりにするという対応を考えていますが、これは本来無いはずの気象による影響まで考慮しなければならなくなります。

 また、供食体制、屎尿処理も問題であり、食材の輸送、屎尿の搬出、さらには清水という人員以外の輸送をどう確保するのかが課題です。

 いまから、また、来年の「第二回」に向けて能力をアップするというのも、年 1回のイベント対応のために宿泊施設や港湾施設その他の「ハコモノ」を用意すると言うのは費用対効果として疑問です。



●経済効果はあるのか

 地方でのイベント開催での経済効果は、直接的にはその地方でいくらお金を落とすかということになります。しかしこのケースでは、フェリーに宿泊する前提をはじめ、地元の施設が対応するケースが少ないといわざるを得ません。それに伴う食事についても「本土」の旅行会社などが「本土」で手配することになるでしょうし、そうした対応へのサービス提供要員としての一時的雇用が関の山と言う懸念があります。



●小さな島での大きなイベントは甘くない

 実はこのような問題が発生して、対応に苦慮しているケースがあります。鹿児島県十島村、トカラ列島と言う小さな島々が その問題 に揺れています。

 2009年 7月に観測される皆既日食、これを見ようと多くの人が押しかけることが予想されるからです。こちらは天体ショーゆえ、止めるとも止めてくれともいえません。輸送及び宿泊(テント村で対応)の条件下で、トカラ列島全体で3000人程度の受け入れ能力しかないが、需要ははるかに上回る可能性があり、受け入れ計画を今から念入りに検討しているのです。

 この取り組みと比較すると、三宅島における対応は甘いと言わざるを得ません。よしんばどこかのサッカーのように「無観客試合」にしてしまったとしても、選手とスタッフだけでも問題は多いのです。



●マン島と言う先例

 島における公道レースとして英領マン島のレースが引き合いに出されます。今回も安全面の問題も含め、マン島のケースが事例としてあがっていることはご存知のとおりです。

 しかし、そもそもの話として、マン島と三宅島では条件が違いすぎます。黒潮洗う太平洋に浮かぶ三宅島と、ブリテン島とアイルランドに抱かれたアイリッシュ海に浮かぶマン島では地理的環境がまず違います。マン島は人口 8万人と三宅島の20倍以上。保存鉄道もあるというそれなりに大きな島です。

 さらに交通でも、海路だと北アイルランドのベルファストまで高速艇で45分と近く、さらに空路が 1日にベルファストへ 6本、バーミンガムとリバプールが 5本ずつ、ロンドンが 7本など、ほぼ毎日運行の便だけで 1日37本もあるわけで、三宅島とは比較になりません。

 もちろん「三宅島オートバイレース」が定着すれば、「聖地巡礼」のような観光客が増えることが予想されますが、それでも人口が20倍とか、空路が37往復というようにはならないでしょう。

 マン島は、そもそも規模がそれなりにある島であり、だからこそあれだけのレースを開催する能力があるのです。



●エキサイトした後に残るものは

 確かに公道レースはサーキットに無い魅力があり、そのスリルに酔いしれることは請け合いです。しかし、安全を担保せずにレースを実施して、そのリスクにエキサイトした観客が帰った後のことを考えたらどうでしょうか。

 クルマを走らせていると、否が応でも見かける光景として、電柱やガードレールに供えられた花束などがあります。まさに自己責任といえる暴走行為の果てというケースが多いのですが、それでもそういう光景を見て胸が痛まないことはありません。

 自動二輪が締め出されたり、道路鋲などで走行が規制されている峠道も多々ありますが、これも「攻めて散った」ライダーが数多居たからです。その典型が東京、神奈川の都県境にある R20の大垂水峠で、1987年に土休日の 125cc以下の自動二輪の通行が規制されましたが、それから日も浅くない90年代初めには、神奈川県側の連続カーブ区間ではほとんどのコーナーで「花束」が見られるという壮絶な光景だったことを覚えています。

 今回のレース、安全が担保されないままにエキサイティングなレースを追えば、必ずや少なからぬ事故が発生し、場合によっては取り返しが付かないケースもでてくるでしょう。しかしその舞台は公道、生活道路なのです。軽々にエキサイトを追い求め、住民に花束で飾られた道を残すようなことは慎むべきであり、その一点を持ってしても拙速な今回の計画は見直すべきです。



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