このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください





空港アクセスバス論



鳳凰の雛  2007年 6月 7日





羽田空港へのバスが敬遠される理由の考察

 羽田空港は年間6800万人もの利用者があるが、その実態を見てみると7割近く(4500万人)が関東近郊ではなく、他地方からの旅行・出張利用者であることが明らかになっている。さらに、羽田空港のバス停に立ってみたとして、耳慣れない地名へ行くバスが多く、初めての方は地名として分かりやすい「新宿・渋谷」(若しくは宿泊先のあるところ)などを選択肢とするものの、料金が若干高く、渋谷、新宿方面の渋滞にはまる確率は他線区の倍程度あると考えられる。

 これにはまってしまうと、羽田空港アクセスに関してはバスは縁遠くなってしまう。普段首都高を利用している方でも「首都高は混む」固定概念が強くてはバスを敬遠するわけで、その点で、和寒様の驚きは特別なものではなく、首都圏の一般の方の意見としていいだろう。また、いい印象があったとしても、その利用者がビジネスユースでもない限り、頻繁に行き来するような利用は稀に違いない。次に利用した時はそれを忘れている可能性も大いにあり、ビジネスの場合は時間がネックに、旅行者の場合は分かりにくさがネックになっているだろう事が予想できる。

 空港アクセスは致命的にリピーターを生みにくいものと言え、地方空港でも課題は同じではあるが、「首都圏の渋滞」なる正体不明の怪物がある限り、首都圏でのバスアクセスに関しては難しいという理屈も成り立つわけだ。



それでも、バスは生きている?!

 ただ、それでも羽田空港関連ではバスの存在感は一定以上ある。データは古いものの空港アクセスに関するシェアはそう簡単には変わらないため、2001年の全国航空旅客流動調査の空港アクセスシェアデータを参照した結果が下記のようになっている。

出発地\交通機関鉄道バス貸切タクシー自動車その他
羽田63%15%8%4%7%3%
関西43%21%19%3%9%5%(船1%)
伊丹19%38%15%12%12%4%
福岡42%9%17%11%14%7%
長崎0%31%12%8%25%24%(船14%)


 やはり軌道系が安定性を見せ、羽田へのシェアを絶対的にしているが、自家用車の利用は思ってるほどにはなく、やはり羽田の守備範囲の広さからか、自動車で移動できる範囲を超える事例が多いようだ。加えて、伊丹のモノレールのシェアの低さを見ると、軌道系でも「ある程度の都心に直結」しているのが必須だろう。対してバスは羽田ほどの守備範囲はないものの、絶対の拠点地域を押さえ、どこからでも最低30分ヘッドに運転する点が大きいようで、40%に届こうという、空港の中では全国トップのバスアクセスシェアを示している。



実は運行側も空港便には警戒する

 運行側からに視点を変えて言うと、空港アクセスではどうしても、空港の「穴」になる時間帯が小規模空港ではあるので、事実上の「空バス」を運行する必要がある。長崎はかつてアクセスバスが1400円程度だったように記憶しているが、県営バスが800円という価格で参入(その後同路線を運行していた長崎自動車も同じ料金で追随せざるを得ず県議会で「民業圧迫」との論争に発展した)。その安さも手伝い、長崎空港へはバスアクセスがトップシェアで、1時間に最大9本もの長崎駅行きバスを運行している。また、鹿児島空港発に至っては、鹿児島中央−空港間を全時間帯で10分間隔という、地方空港としては特筆すべきサービスなのだが、共に離島便連絡の場合は空気輸送覚悟になる。

 もっと顕著なのが広島空港で、88往復もの広島市内とのアクセスバスを出しているのにも拘らず、羽田発ANA677便(13:35)が到着した後は、なんと次の羽田発JAL1611便(15:50)まで到着便がない。しかしアクセスバスはそうはいかず、1時間以上は間隔をあけずに出発することになる(同空港の待機バスの対応について問題になったのが台風の日に50分遅れで到着した飛行機が到着した際に乗り場から視認できる手荷物ロビーの混乱をよそに定刻出発したアクセスバスだ。「もう少し待てないものか」という抗議の声だけがロビーにとりのこされた形)。

 それを考えると、羽田はまだ恵まれている。穴がまったくなく全時間帯に出発、到着便があり、相当の早朝・深夜でない限り、空バスとは無縁だ。



新たな空港バスのスタンス——セカンド・チョイス

 今回和寒様が乗車された路線は、確かに北千住という巨大な可能性を秘めた要衝を押さえ、成功する可能性は十分と言えるが、一つの疑問がある。それは、同運行会社が運行する空港バス「新越谷・草加線」だ。ここと北千住線の時刻表を見た時に、奇妙な違和感があった。そう、あまりにも時刻が近すぎてバッティングする可能性がものすごく高いわけだ。さらに、京急バスは柏線もバッティングしている。このバッティングは意図的なのか、なんなのか分からないが、今の羽田には(夜時間帯は特に)着陸ピーク時間帯は昔ほどなく、その考えでこうなっているなら、いささか古すぎるように思う。

 新越谷、柏線の乗客が多く、こちらに少しシフトしたい考えだとしても、10分とおかずに3本のバスを発着させており過剰供給は否めない(またこの3本雁行は日中時間帯にもありこれについての過剰供給は疑う余地がない)。

 むしろ新越谷、草加、柏の3箇所に間接的にアクセスでき、補完できないにしろ、セカンドチョイスとしてもかなりの能力がある北千住線はせめて、この2路線の15分前後に離す形で持って行きたいところ。北千住線を利用すると相当数の利用者が乗り換え1回で羽田に着くことができるわけで、東京地区の駅構内は広く、ターミナル駅だと数百m歩くことはザラなことを考えても、破壊力は非常に大きいものだ。このようなバスがあるなら、私だったら選択肢としたい。

 駅から最低でも10分ヘッドで列車が発着する羽田では、バス乗り場で20分以上待つことは考えにくい。この部分で1時間ヘッドしかない路線はかなりの乗客を逸走させていると考えられ、北千住線に習った「セカンドチョイス的」バスの存在はより顧客サービスの拡充、及び乗客の取り込みにつながるのではないかと思うのは、東京を知らない素人考えだろうか?

 東武線沿線という観点で見ると、羽田−TCAT線(東京空港交通)も間接的に東武沿線とみなしていいだろう。早朝・深夜こそ900円となるものの、日中は700円と水天宮駅で半蔵門線直通に乗り換えても北千住まで1020円となり、北千住ピンポイントでない場合、料金は安くなる。同時にこの存在が北千住線の価格の目安に違いないと見当をつけ、TCAT線の時刻表を見ると日中時間帯は見事に北千住線との競合を避けている。新越谷・柏線と30分時間をずらすとTCAT線にバッティングすることになり、こことは近い将来調整が必要となるに違いない。が、新越谷・柏線とのバッティングを見る限り、もう少し効率的な時刻設定にはできなかったものだろうかと考えざるを得ない。



羽田空港と地方空港の違い

 そのような道理はともかくとして、地方空港と羽田空港のアクセスバスの違いを確実に見ることができた。地方空港のアクセスバスは長崎、鹿児島に見られるように地域に対する貢献を主にし、利益は一部の路線を除いて二の次なのに対し、羽田空港を発着するバス会社は少なくとも単独黒字を目指した、利益重視に傾いているようだ。また、それを出来るだけの規模が羽田ほどの巨大空港ならあると言える。

 ただ、それだけに「なぜ北千住のような巨大な要衝が今までなぜ放置されていたのか?」という疑問がくすぶる。北千住線の路線開設について、最終的にはつくばエクスプレスの開業と発展が「とどめの一着」となったことが容易に想像できる。北千住は乗換えが主目的になると見られていて、しかも直通電車の人員も多く、実態の乗降者数はそれほど大きくはなかったのも事実だろう。

 それでも北千住の駅勢規模は総乗降者数80万人程度の「巨大」と表現していい駅だったはずで、「満を持して」というより遅まきながらの面がぬぐえない。が、その巨大空港が故にどの路線もそこそこ儲かってしまう側面を持ち、それが先ほど挙げたバッティングなど路線及び時刻設定の一種の杜撰さ・甘さにつながったのではないか、と見るのは穿ち過ぎだろうか?



あとがき

 路線バスでなく、高速バス、リムジンバスのようなクローズドな空間は、旅行・出張を終えて疲れた方が力を抜くのにちょうどいい乗り物です。1時間以上飛行機に座っていたのに、荷物を取り出して空港を出ると、「早く座りたい」これが人の心理であると思います。

 空港から荷物を膝に、ロングシートで家路につくと考えると、アクセスバス路線がこれほど多い羽田の実情が見えてくるような気が致しました。





※ブラウザの「戻る」ボタンでお戻りください





このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください