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公共交通に関する問題点の縮図とも言えるのです

 

とも  2005年 1月31日

 

 

■なぜ 100円か

 「なぜ 100円?」は簡単に言えばコンセプトの決めで 100円と言われてますね。乗りやすい=ワンコインということでしょう。とはいえ、それもなんとも妙ですから一応それらしく考えてみると、対距離運賃換算するとなんとなく解ってきます。

 一般の路線バスの平均乗車距離はおよそ2.5kmです(出典:東京都市圏交通計画協議会資料)。一方、コミュニティバスの場合、すぎ丸で全線の延長で約 4km、ムーバスは循環ですが約 3km。両者のルートを駅勢圏カバーで見てみるとほぼ全線がどこかの駅(すぎ丸は阿佐ヶ谷・南阿佐ヶ谷・浜田山、ムーバスは吉祥寺・西荻窪)の 1km圏に属します。つまり、駅から直線距離で 1km、バス停距離を含めても 1.3km前後がその平均的利用者の乗降地点になることが解るかと思います。とすると平均的なバスの乗車距離の約半分程度の距離にしかなりません。

 そこで 210円とした場合、一般バスの平均乗車キロのおよそ倍の対キロ料金を払うことになります。それでは短距離ターゲットのコミュニティバスとしては使われ難いので 100円という運賃もあり得るのです。無論、一般路線バスで短距離利用の場合には割高ですが、それは均一運賃という制度の問題であって、短距離利用ターゲットのバスは 100円という発想自体は許容されるものでしょう。

 この発想を一般バスで取り入れた例としては福岡の西鉄バスや熊本市内の路線バス、岡山の電車・バスなどです。松ノ木線や荻窪団地線との比較であれば、松ノ木線は松ノ木住宅で既に永福町から 1.7km、新高円寺から 2kmとかなり距離があります。さらに路線の50%以上を他路線と競合してます。また、荻窪団地線はおおむね 1km超のエリアまではバス停も少なく、また実際に利用者も多くはありません。終点の荻窪団地こそ駅から 1km強ですが、途中の松渓中あたりの 1.5km圏での乗降が多いことを考えると、平均乗車距離は 1.5km程度と考えられます。また多くの区間が他路線との競合です。

 よって、すぎ丸が極端に安いとは言い切れないかと思われます。

 

■民業圧迫か?

 これは微妙です。行政=公共がバスをそのルートに設定したいと思っても、バス会社として採算が乗らなくては当然導入はしません。しかも、そのルートが車両制限令の関係などからリエッセなどの小型車を新規に導入しなくてはならないとなればなおさらです。

 すぎ丸の場合、ほぼ全線が狭隘道路ですから一般の 2.3m車幅の中型バスでも運行は困難です。とすれば 2.0m車幅のリエッセ(運行開始当時はこれとマイクロバスしかない)を導入するしかない。しかし、リエッセ1台はおよそ1400万円(稲城市が購入した価格)とされていますから、区が道路などの環境整備をするとしても、この区間のすぎ丸は予備を含め5台運用ですので7000万円超の新規投資を車体だけでもしなくてはなりません。ましてや既存路線でもないわけですからとすれば事業者が自ら名乗り出る可能性は低くなりましょう。

 特にすぎ丸運行開始時には規制緩和がされてはおらず、路線も免許制ですから新規参入も困難です。となれば区が自ら乗り出し、どこかへ委託するという発想はあり得ましょう。

 では松ノ木線はどうか。もともと京王バスが運行していた路線の延伸であり、関東バスと組めば車両の入れ替え(旧来の車両の代替導入で専用小型車を用意すればいい)で済みます。関東バスは新規の導入で増車ですが、引き替えに高円寺−五日市街道線を数年かけて減便し、車両数を維持してますので結果として一時的な投資はあれど代替導入となるメリットがあります。

 つまり、専用車を用意せざるを得なかったすぎ丸と既存代替でクリアできた松ノ木線を直接比較するのは難しいことです。

 また、荻窪団地は関東バスは専用車(現在は他路線でも運用)を昭和50年代から運用している路線で誘導員の乗務があるなどこちらもタイトで有りながら純粋民間でしかも環境整備すらも行われていません。しかし、同区間は松ノ木線やすぎ丸とは異なり、2.3m車幅の中型車で運用可能であり、環境整備自体も必要とはなりません。また事業者自らの発意の路線であり、松ノ木線のように区の調査で選定された南北軸でもなく、区としての導入を図った路線ではありませんからこれも比較対象とするには少々異なりましょう。

 

■公平性が保たれないのでは?

 短距離相手のコミュニティバスの有無で公平性が保たれないのでは?ということもありますが、これは仰るとおりで、本来的には各駅前で同様のサービスが得られるよう、西鉄バスの「駅から 100円」的なシステム導入が望ましいでしょう。

 しかし、それは事業者側の問題であり、区にそこまでの行政権はありませんから事業者の協力がどう得られるかという問題になりましょう。実際、小田急バスが吉祥寺付近で 100円運賃を採用した例もありますし、事業者側と公共がどこまで連携できるかということになりましょう。

 

■他との比較

 このように書くと、小田急バスが受託する三鷹市バス、足立区内の複数事業者が受託する「はるかぜ」などとの差が疑問になりましょう。

 三鷹市の場合にはコミュニティバスといっても空白域をカバーするというよりも市内アクセス路線であり、性格的には「行政福祉バス」に近いものです。そこで 210円を採用していますが、このような路線は比較的乗車距離が長く、駅至近のワンコインにする意義はさほどありません。短距離利用救済も必要ないのです。

 「はるかぜ」の場合にもある意味ではすぎ丸同様の問題はあります。しかし全線 200円または 210円となっています。「はるかぜ」の場合にはすぎ丸とは異なり規制緩和後であったため、新規参入を促せたことが大きな要因です。つまり、事業者自らが運行に参画できることで、結果として運賃も事業者の裁量に任せられたということになります。

 昨今話題の「醍醐コミバス」なども「はるかぜ」と同じく新規事業者であるからこその自由度があると言えます。

 

■では解決策はないのか

 究極は大阪のようにコミュニティバスの一般バスとの融合でしょう。短距離は 100円。そこそこ乗ると 200円。一般バスはどれだけ乗っても 200円。つまり、コミュニティバスと一般バスで連携を図り、地先サービスのコミュニティバスとスキップして速達性を保つ一般バスという形での利用形態変化が考えられます。このような解決策を採用することが近道とは言えます。

 

■運賃に関しての問題

 前乗りワンマンでの区間運賃収受は乗客を信用したシステムであれば事前申告制(東京多摩地区の一部路線など)でよいわけです。しかし、不正乗車が後を絶たないのは皆様ご承知の通りで事業者としてなかなか踏み切れないのは事実でしょう。

 すぎ丸やムーバスのような路線であれば、香港のバスで採用されていることから「香港式」とも呼ばれる「対距離斬減前払い」を採用すれば割と容易に区間制を導入できます。たとえばすぎ丸なら、浜田山駅から乗車時には 150円徴収し、交通公園からは 100円、阿佐ヶ谷住宅からは50円とします。逆に阿佐ヶ谷発は阿佐ヶ谷駅乗車時に 150円、阿佐ヶ谷住宅からは 100円、交通公園からは50円とします。乗車地点で徴収料金を変えるというものです。一見不合理ですがその実、非常に上手く出来ているシステムで、

  浜田山〜阿佐ヶ谷駅間の利用 往復300円 片道換算150円
  浜田山〜阿佐ヶ谷住宅間、阿佐ヶ谷駅〜交通公園間 往復250円 片道換算125円
  浜田山〜交通公園、阿佐ヶ谷駅〜阿佐ヶ谷住宅間 往復200円 片道換算100円

 となり、区間制運賃が成立します。こういった工夫で直通利用者には割高の運賃を徴収する方法はあります。少なくとも乗車時に均一料金であることはスムーズな乗車にメリットがあり、今すぐにでもできる方法です。

 香港では近距離利用をこのような形で誘発しており、料金区間は長距離路線では10以上に及びます。しかしスムーズに乗降がなされており、日本でもすぎ丸程度の路線であれば十分導入の可能性があるものと考えられます。

 この手法を一般路線バスで採用し、駅に近いエリアは50円といった価格にすれば 210円の運賃でも駅近距離利用者の負担は片道130円程度に抑えられますので検討に値しましょう。今の料金箱のままでできる策です。

 

■官のコントロール

 すでに15年ほど前から市町村レベルや広域行政レベルでの官のバス事業に対するコントロールというか提携関係は導入されています。オムニバスタウンや1980年代には始まっていたバス活性化事業などが典型でしょう。

 ですが、よほど事業者と行政の関係が上手くいくとか、事業者が多くても2社〜3社、もしくは音頭とりができる事業者がいるような地域、あるいはバス事業がそれなりに上手くいっている場合でしか上手くはいきません。

 成功している金沢や浜松は1社独占体制、岡山は岡電・両備グループの音頭とり、秋田は2社独占で1社が公営といったように相当条件がよくないと上手くはいきません。典型は沖縄で、4社が競合関係にある上に経営問題を抱え、さらにバス事業者の意識と行政の意識がずれている。結果として再編はできず、連携も組めず、事業者は連携に意義を見出せず、行政は疑心暗鬼になる。

 この辺は過去の規制の弊害という見方が根強いですが、どちらかというと行政が鉄道やバスに口を出すことができないという過去のシガラミともいえるものが大きいといえます。理想的なスタイルは欧米のようなシステムでしょうが、国内ではそこまでは難しいでしょう。しかし、こういった問題はいずれ解決が必要といえます。

 

■すぎ丸が黒字の秘密

 最大の要因は「初期投資が0」です。ですがそれは派生的なものでしかありません。

 なんといっても基礎需要の大きさがあります。23区外縁部でも有数の人口集積地であり、なおかつ高齢者だけではなく子供づれなどのファミリー層も多い。そういった堅実なニーズに応える路線としたことで、安定的な利用がなされ、なおかつ乗車実績も残る。結果として黒字であるといえましょう。

 でもそれだけではないのです。最大の要因は「基本に忠実」ということです。コミュニティバスで黒字というのは都市部路線であるすぎ丸、ムーバスだけではありません。地方部でも香川県詫間町営バスや徳島県木屋平村営バスなどでも黒字経営とされています。

 では人口集積以外に何が要因なのか。これら4路線に共通するのは「徹底したニーズ把握」です。住民の行動パターン、動向、意向などを徹底的に調査し、実に緻密な計画を練り上げるという「基本に忠実」に路線設定した結果が黒字なのです。つまり、すぎ丸の黒字の真の秘密は「緻密な調査と徹底したニーズ把握」といえます。

 確かに慢性的な混雑が続きます。今が限界といえる規模ではあります。12分間隔までは過去の実績で可能といえるものですので、そこまで増便してどうなるかでしょう。2号路線開通で次のステップに進めるようになったところです。今後に注視したいところですね。

 

■最後に

 コミュニティバスは良いシステムではありますが、一方で既存路線や運賃体系との不整合という大きな課題を有します。日本では公共交通に行政関与が少ない(というか事業者のフリーハンドである)が為に生じている問題でもあるのです。

 日本のこれまでの規制は社会主義的でしたが、かといって先進各国のスタンスとは全く違うわけです。むしろ先進各国は競争原理を導入しながらも運営の一元化や権利制度導入によるサービス確保を行いながら、路線設定などを行政と連携して事業者自らがいろいろ制約無く実施できる体制をとっているのですが、日本はなにもかもをフリーにしており、いわば東南アジア並の自由な形態となっています。

 地方部こそ先進国、特に北米や南欧のシステムに近い形態になっているものの、都市部ではタイやマレーシアも真っ青なモザイク模様であり、むしろこういった国々のほうが公共交通がわかりやすく使いやすいシステムになっているのです。今や、このバスの複雑さは中国並み。運賃の交渉が必要ない程度の差しか今やありません。

 日本と同じように規制緩和でグチャグチャになった韓国ソウルは規制ではなく調整を行い自由度を持たせたままバスシステムをわかりやすくしました。香港では規制緩和後にサービス低下を招いたため行政が監督権を持ち出し不正事業者の排除を行いました。合わせて統一サインなどの導入も行っています。今の日本はそれすらも「抵抗勢力」となる状態。この点は今後の是正が必要な点ではありますが、昨今の風潮に逆行にもなるだけに難しいことです。

 

 

 

 

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