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フルキャストスタジアム宮城に見るスタジアム輸送の変化

〜地域密着型球団・スタジアム・・・そして新たな交通事業者のかかわり方〜

とも  2005.8.7 

 

「今日の先発は・・・」と居酒屋で話をしたとしましょう。東京ならば「上原か?まさかマレンなんてことしねーよな」、大阪ならば「井川か杉山だね」・・・となりますが、仙台ではもちろん「今日は有銘か・・今日こそは勝つだろうね」となるでしょう(パリーグは予告先発)。

プロ野球への50年ぶりの新規参入となった「東北楽天ゴールデンイーグルス」。

楽天イーグルスのオーナー企業は交通とは縁も無いIT関連企業の「楽天」。しかし、球場輸送などにかかわる交通事業者の姿勢は、新しい形でのプロ野球への交通事業者のかかわり方を示しているものでした。

 

1 Take me out to the ball game. Take me out with the crowd.

楽天イーグルスの本拠地は「フルキャストスタジアム宮城」。この球場は昨年までは「宮城球場」と呼ばれ、プロ野球公式戦なども何度か行われていましたが老朽化が進み、はっきり言って「古い」球場。「プロ野球が開催される球場で最も汚い」という有難くない評価もされていたものです。

しかし、2004年の楽天イーグルスの仙台進出にあわせて全面改装がなされ美しい球場となりました。

フルキャストスタジアム宮城

このフルキャストスタジアムの最寄り駅はJR仙石線の宮城野原駅。アクセスのメインは宮城野原駅からになります。

この駅は2000年に完成した仙石線の連続立体交差事業による地下化により、都市的な地下駅となった新しい駅です。

しかし、開業時は「宮城球場」の時代。イーグルスの新規参入と宮城球場本拠地化はJRにしてみれば「降って沸いた話」であり、当然ながら施設などもプロ野球などの定期的な開催による旅客集中に対応したものとはなっていません。もちろん、近年開業した駅であるので階段及びエスカレーターの2方向通路化、幅の広い地上出口、エレベーターの設置等は行われていますが、それでも全体的な規模は小さく最低限の規模といえます。

とはいえ規模は小さいながらもさまざまな工夫はなされており、「JR東日本は楽天イーグルスを応援しています」とのキャプションがついた「楽天イーグルス」のデコレーションもあって「フルキャストスタジアムの玄関口」としてのイメージを強く打ち出しています。

また、試合終了後には、あおば通〜小鶴新田間でおよそ5〜10分毎の運転となるように増発がされるなど輸送面の努力も見逃せません。

宮城野原駅の改札空間宮城野原駅のホームと電車
駅名標とデコレーション「楽天イーグルス」デコレーションの出入口

宮城野原駅からフルキャストスタジアムまでは徒歩5分ほど。仙台育英高校とJRバスの車庫、運動公園にはさまれた何もない道路を歩いていく。距離感はあり、人の流れがあるから良いものの人がいなければ歩きたいとは思いたくは無い歩道です。

しかし、「なんだかいやだなぁ」と思うころにはスタジアムが見えてきます。この距離感は絶妙で、狙わずしての成功と言えるものでしょう。

フルキャストスタジアムのアクセスは鉄道だけではなくバスもあります。

バスは仙台駅東口、定禅寺通市役所前の二箇所から。本数が圧倒的に多い仙台駅東口発では実質「頻発」といえる頻度で運行され、高い利便性があることから利用者も多いようです。

仙台駅東口からのシャトルバス(富士交通)

仙台駅東口で発車を待つシャトルバス(仙台市交)

待たずに乗れる随時運行で本数も多い

バスには共通のサインが掲示されている

バス停も共通デザイン(フルキャストスタジアム前)

ルート的には「フルスタイーグルス通り」(宮城野通)をまっすぐ走るだけということで速く、高頻度の運行がされていることもありシャトルバスの成功例とも言えるものです。

このような関係企業ではない交通事業者の観客輸送はサッカーなどでは見られるものですが、プロ野球でここまで徹底するのは「鉄道会社経営」の例を除くとなかなか無いものです。仙石線のそもそものスペックの問題からということはあるにしても、駅の内装どころか外装も変えてしまう意気込みは「地域密着球団」への新たなかかわり方を見せているといえましょう。

 

2 Buy me some peanuts and crackerjack. I don't care if I never get back.

フルキャストスタジアムでは弁当を含め食べ物の持込はできません。また、ペットボトルや缶の持ち込みもできません。

ですから球場外の店舗では食べ物や飲み物の販売は積極的には行われておらず、バスを待つ人々や仙台駅から歩く人々向けに販売されている程度で、他の球場やサッカー場のように「出店」が連なることはありません。

これにより球場周辺の道路への出店などが無いことですっきりした景観が保たれ、「憩いの場」という傾向のある道路構成が活かされるなど、持ち込み不可に対する賛否両論はあれど、副次的な効果を生んでいます。

すっきりしたスタジアム前の道路仙台駅東口周辺も道路に出店は無い

また、供食という意味では楽天イーグルスは思わぬ効果を生んでいます。仙台駅の売店や弁当店には「楽勝弁当」なる楽天をイメージさせる弁当が売られていたり、イーグルバーガーなどの新たなメニューも誕生しています。

特にJR仙台駅の売店などでは「イーグルス」関連の売り方が目立ち、食べ物だけではなく各種グッズなども飛ぶように売れています。さらに、仙台駅構内にはイーグルスのオフィシャルショップがあり、お土産を購入したい新幹線利用者にはうれしいものです。

このような駅構内店舗での「イーグルス」ブームは、「仙台」のシティセールスに貢献しています。交通事業者のこのような徹底した「キャンペーン」ともいえる商業分野での応援展開はシティセールスにも、そして東北全体への「楽天人気」の波及に寄与しており、これまでにない交通事業者の関与といえます。

 

 Let me root, root, root for the "Eagles". If they don't win it's a shame.

楽天イーグルスの1年目の2005年シーズンは「100敗ペース」といわれ、8月5日の時点でシーズン負け越しが決定という成績ながらも、元近鉄の若きエースにしてアテネ五輪日本代表の岩隈、選手会の副会長としてカリスマ性を見せる磯部、さらに各球団からやってきた吉田や福盛など「野武士」とも言うべきベテランの活躍もあり、地元仙台の盛り上がりはなかなかのもの。観客も平均14000人以上とひとまずは成功といえる成果を挙げています。

仙台の街中の店には「楽天イーグルスを応援しています」というステッカーが貼られ、イーグルスショップには人が入っている・・・いかに仙台という街がプロ野球を望んでいたかがわかります。

もう一つの最寄り駅である榴ヶ岡駅のデコレーション街中にはためく「イーグルス」応援フラッグ

フルキャストスタジアムへの道、仙台駅東口からまっすぐ伸びる宮城野通には「フルスタイーグルス通り」という愛称がつけられ、応援フラッグがはためき、市民や企業の意気込みが良くわかります。このような応援には前述の通りさまざまな形で交通事業者も関与が見られます。

中でもJRの場合、車内にイーグルスの日程が掲示されていたり、宮城野原駅や仙台駅をはじめとする各駅でのフラッグ設置などはプロ野球に限れば他にはJR北海道と北海道日本ハムファイターズ(資本関係あり)、JR九州・福岡市営地下鉄と福岡ソフトバンクホークスが目立つ程度で、地域密着という意味では先進的と言えるものです。

同じような例は地域密着が進むサッカーのJリーグでは珍しくないだけに、新たな可能性を見せているといえましょう。

 

 For it's one two, three strikes you're out, at the old ball game.

鉄道事業と球団運営、そして鉄道輸送と観客輸送。この代表例は阪神電鉄であり西武鉄道でしょう。

阪神電車西武山口線

これらの会社は球団を保有するオーナー企業であり、関与の仕方は自社線の利用促進ということはもちろんとして、地元チームを応援するというマインドのものではありません。

しかし、今回の楽天イーグルスに対する各社の姿勢は異質といえます。

もちろん、JR東日本の場合には背景には仙石線をはじめとするJR線の利用促進というものは当然あるでしょうが、それにしては駅の手の入れ方は派手ともいえるものであり、黙っても利用してもらえるところにわざわざ手を入れているものです。神宮球場最寄の信濃町にも東京ドーム最寄の水道橋にも千葉マリン最寄の海浜幕張にもここまでの手の入れ方はありません。

地域に密着する球団を地域密着企業である鉄道事業者をはじめとする交通事業者が応援する。何も「出資」「オーナー」ではなく、純粋に「地元企業」として応援を行う。そしてその中で自社の利用促進につなげていく。単に球場が最寄だから輸送しよう・・・ではなく、より積極的に関与していく。

「私を野球に連れてって!(Take me out to the ball game)」の歌詞の最後は、「For it's one two, three strikes you're out, at the old ball game.(ワン、ツー、スリーストライクでアウトだ、それが野球ってモンだ)」。野球の基礎は何も変わりません。ルールの徹底は別としてもゲームの内容を変えてまで関心を持たせても意味はありません。

でも、球団経営の方向性と関与の仕方は変わっていくことができます。積極的な「応援」と「輸送徹底」により野球を見に行きたいと思わせたり、関心を持たせることができるのならそれは球団にもプラスですし、またそれにより輸送が伸びれば事業者としてもプラスです。

昨今の球界再編やプロスポーツへのあり方としては、「企業ではなく地元のチームである」というあるべき姿のプロ野球やスポーツへの関与の仕方と考えることもできます。

このような楽天イーグルスと各事業者の関係がどう発展するか、注視していきたいものです。

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