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サービスに愛想笑いなどいらない

とも 2006年5月24日

 

数年前のこと、香港からのキャセイパシフィック航空の帰国便がストライキのために中国北方航空(当時 現在は中国南方航空と合併)の代替運航便(ウェットリース)となったことがあります。
キャセイパシフィック航空は香港を拠点とし機体こそ中国籍ですが資本はイギリス系、新しい機材が多く安全でも定評があるだけではなく、機内や空港サービスも高い評価を得ており、レベルは世界屈指といえるもの。世界的に権威のあるスカイトラックス社のエアラインランキングでも上位に常にあげられる航空会社です。(2005年には1位)
一方の中国北方航空は当時は成田に乗り入れてはおらず、当時の中国系では当たり前の「映画なし」「オーディオサービスなし」「無愛想」という「共産圏の王道」を行くようなサービス水準でした。機材こそA300-600Rでしたが世界屈指のキャセイとの差は大きく、乗った瞬間に落胆したものです。

香港を離陸、水平飛行に移りしばらくするとドリンクそして機内食のサービスです。乗務員は通訳を除き北方航空の乗務員。サービスをして回る乗務員は「お約束」ですが無愛想(苦笑)。それでも「お客様」「Mr」「マダム」と声をかけ、片言の日本語でできるだけ頑張ろうとする一生懸命さは伝わってきます。
カートはキャセイパシフィックのものであり、搭載されている飲み物や機内食はキャセイパシフィックのエコノミーとおなじものです。おかげで中国系にありがちな何を頼んでも「チンタオでいいですか」「ペプシでいいですか」と返答されるという漫才のような掛け合いにはならず、コールドドリンク(アルコール類を含む)と、ホットコーヒー、紅茶、日本茶とそろい、キリンでもハイネケンでもフォスターでもなんでも出てきました。

ところが、ここで思いがけないスペシャルサービスがありました。この日だけはこれらに加えて「温かい中国茶」が。どうせウーロンかプーアール(香港ではプーアールが一般的)だろうと思ったのですが、聞くと「ジャスミン」とのこと。ほぉ〜と思い頼んでみると、美しい透き通った白茶色に日本の高級茶店で出てきそうなすばらしい香り。飲んでみると「うまい」の一言。CAさんに「ハオチー」と言うと片言の日本語で「チャイナノーザンのクルースペシャルです。」と言い、先ほどまでの機械的とも言える無愛想はどこへやら誉められたことがうれしそうなほっとしたような満面の笑みでした。

この一件で印象はがらりと変わりました。
無愛想と思えたCAさんも映画やオーディオサービスがないことがあっても、それよりも何よりも「中国北方航空で飲んだ茶が美味く、クルーが一生懸命だった」という印象が非常に強く残っています。いわゆる「もてなし」である1杯のお茶サービス、そして対応したクルーの本当の笑顔。たったそれだけで航空会社の印象がポジティブなものに変わるのです。


さて、この逆はどうでしょうか。
2年半ほど前、某社の近距離国際線に乗ったときのこと、機内はエコノミーを含め全シートに個別のモニターがあり、映画もオンデマンドで楽しめる上に豊富な音楽にゲームサービスとまさに至れり尽くせり。とりあえずは文句なしという印象でした。
この便、フライト時間も約3時間と短く機内食は「軽食」のみでしたが、そのサービスで思いがけない事が起こります。
軽食ということで、機内食サービスはいわゆる「ランチボックス」の配布(米系航空会社によくあるようなもの)ですが、CAさんは顔は笑顔ニコニコ。でも無言、しかも有無を言わさない形で、寝ていようが映画を見ていようが乗客に「ポン」と投げるように配っていきます。
アメリカの国内線などでも缶ジュース等を無造作においていくということはありますが、その場合でも「Excuse me」ぐらいは声をかけますがそれもなし。機械的に、いや事務的という表現が正しいでしょうがポンポンと配っていく。そしてそのボックスの中身は小さなエビアン1本とコンビニ鮭おにぎり1個と某大手製パン会社のアップルパイ1つと小さなチョコレート1枚。
そして配った後に機内放送「到着地へは検疫上これらの軽食の持ち込みはできませんのですべて機内でお召し上がりください」。

正直、唖然としました。
この会社、サービス面でのPRを積極的にしているし日本人には評判も良い会社です。日本国内でのエアラインランキングでは当然ながら上位に入る。いくら子会社のローコストキャリア運航便でも、これじゃまさに「エサ配り」。何も豪華なメシを期待するわけではありません。コンビニのおにぎりでもアップルパイでも良いのです。極端な話、機内食もドリンクサービスも無くたっていい。でも、サービスするのならせめて「お客様」と声をかけて配るとか、寝ている客にはシールで知らせる(国内線ではやられている)とか、「不要なお客様はお声を」とするとか方法はあるはず。配るだけ配って「機内で食え」と言い、飲み物は「取りに来い」と。
所詮はエコノミーです。文句を言える立場ではないかも知れない。でもこの対応は正直なところこの会社を「二度と使うか」と思わせるに十分なものでした。たとえビジネスでもこのエコノミーのサービスを考えればと思ってしまうのです。

一つの悪い対応でその航空会社への印象がネガティブになる。先の中国北方航空の例のまさに逆です。


近年、LCC(ローコストキャリア)が注目され「無サービスこそ新たなビジネスモデルだ!」とばかりに無サービスを売りにした航空会社が世界中に誕生しています。日本も例外ではなく、スカイマークが無サービス運航を行っています。
一方で、料金を安めにはするがサービスを落とさない航空会社がアジアやオセアニアで誕生し、日本でもスターフライヤーがそのコンセプトを受け継いで運航しています。
日本では「サービスの有無」「ビールがタダ」「何もない」といったところが注目されがちですが、本当のサービスというものは何かを考える必要があるのかも知れません。

スカイマークなどのモデルとなったサウスウエストは「無サービス」が日本では注目されていますが、「客を楽しませる」「もてなす」ことを第一義としているのではないかというほどホスピタリティに富んだ会社です。またヴァージンアトランティックなどはフルサービス&高いサービスに目が奪われがちですが、実はホスピタリティという点でも高い評価がされています。LCCの成功例であるエア・アジアや高サービス便のバンコクエアウェイズなども同じです。

スカイマークやスターフライヤー、そのサービスや経営手法に様々な場でいろいろ意見が出始めています。しかし、本当の意味で成功するには何が必要なのかという点で、ホスピタリティという面を強くした意見はあまりみられません。

そういう視点から、航空会社として成功するには、既存LCC成功の本来の要因は何か。そしてなぜ無サービスで好印象を持たれているのか。なぜ高サービス会社はサービス以外の評価も高いのか。じっくり考える必要がありそうです。

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