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何のための公道レースなのか



とも  2007年 3月 6日





 東京都の石原知事が三宅島の観光振興策として「オートバイレース」を企画、お約束のトップダウンであれよあれよと話が進み、今年の11月に開催が決まりました。ところが、このレースに対して「公道でレースなんぞけしからん!」というありがちな批判……ではなく、当のレーサーや関係者、はたまたメーカーからも反対の声が相次いでいます。

 コースは三宅島1周の周回コース(30km)。 125CC以下のバイクを使ってのタイムトライアルで参加資格はかなり緩く「草レーサー」も参加できます。このコース、道路幅が6〜7mと狭い区間もある上に、カーブが続く山岳道路が中心。集落内を通過しバッファゾーン(緩衝帯)も取れないという「危険」なコース設定もあって、「危険すぎる」「殺人レース」とまで評され、事実上の「待った」をかけた形です。

 日本国内では現在、大規模に公道を閉鎖してのモーターレースは北海道十勝地方で行われているラリージャパンが唯一で、フォーミュラーを使用してのレースも各地で構想にはありますが、モータースポーツ=暴走行為と捉えることが多く、特にバイクやレース用自動車そのものをあまり良く思わないこともあって、モータースポーツそのものへの理解が低い日本(自転車レースすらも「危ない」「子供がまねをする」と反対されて実施が難しい。その割にはマラソンは受け入れるところが如何にも「流行」に流されやすいところですが)ではなかなか難しいだけに、実現には至っていません。その中で三宅島という災害があっての振興策が必要とされる地で、しかも離島だけに交通規制がやりやすい場所において、バイクレースという発想には「巧いな」と思うものではありますが、周辺環境を考えると危険という印象はぬぐえませんし、バイクに固執する意図も見えず、またあえて三宅島でここまで危険なレースをやる意義というものが見えてきません。そしてここまで反対されると「どう考えても難しいだろ」という印象はぬぐえません。

 無論、三宅島でのレースによる観光誘発効果は期待できますし、大きいでしょう。しかし、この状態で開催することに何の意味があるのか。疑問を感じざるをえません。

 知事は「マン島より良い」(マン島TTレース。イギリス王室領のマン島で開催される世界最高峰ともいえる二輪レースの一つ。世界最古の公道レースにして最も危険と評される。1907年の開催から現在まで 200名以上が事故で死亡しており、一般参加も可能であることから余計に危険とされている。)と言うものの、マン島TTレースは 100年近い伝統があり、まさに島の「文化」となっているものであって、単なる客集めのための振興策でのレースとは訳が違います。新たな文化を創造するとしても、「レースは危険があるからエキサイトする。ある程度ライダーの自己責任もある」( 石原知事談話 )ということでは話になりません。レースは安全性が担保されているからギリギリのところでレーサーが攻め、エキサイティングなレースになる。でも安全性も保たれないレースではレーサーが危険を感じ攻めなくなるのでつまらなくなる。これはF1やバイクレースをちょっとでも見れば解ることです。

 また、クラッシックレース(古いバイクでのレース)にすればいいというのもあるようですが、二輪のクラッシックカーでも十分にスピードは出ますし、危険性に大差はありません。となると、結局何のための公道レースなのかわからなくなります。

 せっかく低公害車やEVの普及を図り、技術力を向上させるために公道レースや耐久ラリーなど日本の自動車技術をアピールするレースの開催が実現性を帯び、また「危険」ということでなかなか実施されない自転車の公道レースも各地で開催が出来るようになってきた中で、「一度やってみればいい」で死者が出て、各種公道レースが出来なくなるようなことになったらどうするのか。地元の長年の努力と運動の結果、ようやく開催され、大成功を納めている WRCラリージャパンの開催も出来ないかも知れません。

 世界で愛されている日本のバイク。「カワサキ」「ホンダ」「ヤマハ」「スズキ」は世界中のバイク乗りには常識といえるものです。そしてそれは「文化」と呼べるレベルにも既に達しているとも言えます。しかし、その日本でこんなレベルの議論がされ、それがまかり通ってしまう。その現状に暗澹たる思いがします。

 三宅島でレースをやるべきではないとは思いませんし、むしろ賛成です。基本的には私は公道レース推進の立場ですし。

 しかし、今のままで今の内容で開催しても何も残らない。確かに危険はつきものです。でも安全性は最大限確保されなきゃならない。そんなことも解らない状態で公道レースなどやるべきではない。レースが好きな人間だからこそ、モータースポーツファンだからこそ、その思いが強く残ります。





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