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ダイバートにおける課題整理



とも  2009年 5月 8日





 空港のリダンダンシーはアクシデントの種類により対応が極めて細かく別れるため、「閉鎖されたらここで」という単純な勘定が出来ません。そこが悩ましいところですね。





■今回の意外な事実

 成田の閉鎖に伴う他空港への代替着陸、いわゆる「ダイバード」は成田に発着する約 500便のうち 110便となっています。つまり 8割はB滑走路を利用して着陸が出来たのです。容量制約・機材制約があるB滑走路でも実は 8割を捌けた。運用時間延長や貨物の繰り延べ、キャセイパシフィックや大韓などの臨機応変な機材変更(暫定B発着可能機材への変更)という「協力」もあり、旅客に関しては対応はできたのです。実際、サンフランシスコ行きやパリ行きすら暫定Bから離発着してます(ただしアンカレッジ・関空などでテクニカルランディングをしてますが)。

 とすると、遠隔空港へのダイバードの対象となったのはなぜか日系各社と、仁川にダイバードしたイラン航空、欧州・アジア系の一部が関空やセントレアへ行ったくらいで、他は羽田か無理矢理に成田に到達できたということになります(ただし貨物は関空・那覇・新千歳に加え横田などもあった)。





■代替受入をどこで行うか

 今回のような天候(に起因するとも言えなくはないが)ではないアクシデントによる閉鎖対応という意味では、至近の空港である羽田が最適であることは疑いようがありません。羽田には数年以内に国際ターミナルが整備され、こちらは日中は北東アジア線に限定されるであろう運用が予想されますから昼間の受入は可能でしょう。

 しかし、成田は世界有数の規模を持つ空港であり、その代替を羽田だけでまかなうのは不可能です。もう一つとして御呈示の関空・セントレアがありますが、ここも意外と問題が大きい。

 まず関空は今回は貨物便のダイバード受け入れ先となり、ただでさえ余裕がない発着状況に貨物便を受け入れたために旅客の受入は困難だったことが想定されます。また、ターミナルビルの増築がされていませんから旅客の受入は限界がありますから、こちらも余裕が全くない状況です。この拡充は本来的にはリダンダンシー以前に容量逼迫なので考えても良いのですが、なにせあの関空なので批判が極めて強い。とするとその拡充が難しいという本質的ではない点が出てくるのかもしれません。

 セントレアは今回は受け入れ先となりましたが、その割には余り多くはありませんでした。国際線の枠には余裕があり、貨物受入も問題ないはずですがシンガポール航空が目立ったくらいで他は受入は少々。スポットやターミナルの処理能力の問題があるのかもしれません(移送手段の乏しさという問題もある)。

 他に国際線受入が可能な空港で考えると少し光は見えます。新千歳に関しては今回はグダグダでしたが、現在国際線ターミナルの整備が進められており、コレが完成すればnorth-wind様の体験されたような事態はある程度回避できます。

 同じく那覇も国際線ターミナルの改築とスポット増設が既に決まっているうえに、 ANAカーゴが拠点化を発表したほか、沖合滑走路も何らかの形で整備がされる方向であり数年以内に代替機能を持つ空港として十分機能することになります。貨物を関空から那覇に移すことで関空の受入増加も可能です。福岡は立派な国際線ターミナルがあり、新北九州と一体的な活用も可能ですから受入は出来るでしょう。

 ほかにも仙台・新潟・広島などが国際線機能の拡充が計画されています。さらに成田近傍に茨城空港が整備されます。こちらは国際線発着も出来ますし滑走路もクローズとはいえパラレル。ケチケチ整備で規模は縮小になってますが成田の代替を受けるだけの素地はあります。とりあえず飛行機を降ろしバスに乗せてそのまま成田に移送というワザも可能というのは魅力です。

 このことを踏まえると、羽田・茨城・関空・セントレア・那覇・新千歳の 6空港を基本受入、新潟・新北九州&福岡・仙台・広島をサブと考えれば幅は広がります。





■羽田の問題

 羽田の問題ですが、特に ANAは第二ターミナルが暫定整備状態であり処理能力に若干の問題がないとはいえません。日頃は預託手荷物が少ないですから良いですが、こうなると混乱する。沖縄線がグダグダ状態で羽田に集中するととんでもない状況になりますが、それと同じです。

 第二整備後、及びそれに伴う再配置が完了してどうなるかということでしょうか。





■CIQの問題

 昨今の新型インフルエンザ問題でも注目されている CIQ(税関・出入国管理・検疫)ですが、今回の事故の場合、成田で 8割を捌いていますから単純に言って千歳なりに割ける人員は 2割です。しかも羽田・関空・セントレア・仙台に分散させなくてはならず、実際に千歳に割ける人員は数人でしょう。

 民間なら対応できると役所叩きをするには格好の材料なのですが、現実問題としてその対処を考えると意外と難しい。最も簡単なのは近隣港湾等にいる職員の応援派遣ですが、新千歳は近隣出入国管理事務所が苫小牧と小樽。ここの海港業務に携わる人員を回してもどれほど対処が可能かということになります。

 さらにいえばダイバード先は航空会社が決めますが、決めてから受入までのリードタイムでその対応が出来るかです。たとえば到着時間ギリギリになっても「成田着陸を予定」とし、寸前に「羽田ダイバード」という決定がされたケースがあります。そうなると成田の職員は「どこでもドア」でもない限りは瞬間移動できないわけで当然対処は出来ない。

 航空会社は極力ダイバードを避けますから成田着陸を強行したいのが本音です。ですから状況がどう変わるか判らないなかで、早い段階でのダイバードは示しません。 CIQはそれを受動的に対応せざるをえず、そこでいきなり千歳へ行け!となっても召集して配置につく移動時間の間に、旅客はダイバード先に着いてしまっている可能性が高いのです。

 那覇や関空のように空港と港湾が目と鼻の先ならものの30分もあれば対処できるかもしれませんが、仮に成田から人員を派遣するにしても数時間はかかる。とすれば意外と難しい問題があるといえます。





■国内線設備の転用

 いわゆる内際共用という運用で、地方空港では良く行われていますね。ただ、これはセキュリティとの兼ね合いや不法入国の問題、関税の問題などがあって早々簡単にできないものでもあります。ゲートやターンテーブルに関しては内際共用はそれほど難しくはなく、各地で茶飯事的に行われていることです(ただし関税の問題があるが・・・・・・)。

 ですが、待合室の共用はさすがに難しい。また日本人のみ顔パスの出入国管理も管理記録との照合の問題もありいろいろ課題がありそうです。国内線設備の転用をすると国内線を制約することになりますし、加減が難しいです。





■対応策として考えられること

 抜本的には国際線ビルの拡充ですが、もう一つの方策として保税輸送の活用が考えられます。これはバリやランカウイ、プーケットなど東南アジアで日常的に行われているものですが、到着地では出入国審査のみを行い、荷物の受け取り及び税関はその先で行うというものです。

 例えば新千歳にダイバードした客は新千歳で入国審査を行います。その場合、事前審査を機内で実施しビザの確認及び照合をあらかじめ機内で行うのです。そして外国人の指紋記録、日本人のデータ記録をゲートで確認する。あくまでデータ照合だけですから、極端な話 LANとシステムが入ったPCとカードリーダーさえあればOKなわけですから(ICのみハンディリーダーでチェックし、非ICは時間がかかっても仕方がないという考え方も出来ます)。

 当然指紋によるチェックは確実に行えますし日本旅券所有者のチェックも出来ます。手荷物の税関検査は降機時にできますし、預託分は別送品扱いで再チェックが可能です。預託荷物はその間に国内線便に保税貨物として搭載し、国内線到着空港ではダイバードした旅客のみ到着ロビーからバスで指定するゲートに移し、荷物をピックアップして税関検査を受ける。その後はバスで到着ロビーに送ると。こうすることで多少時間のロスはありますが機内で待機となりますし、荷物も保税区域内での受け取りですから法令上の問題も多くはありません。

 また、今回のような場合には新千歳から成田に国際線扱いの臨時便を出すことも考えられます。新千歳に降ろして成田と関空と羽田にたとえばB767やA300などB滑走路着陸可能な機材で非常時ですのでエリートとかは関係なくとりあえず乗せられるだけ乗せて運び、着地入国させれば問題の多くは解決します(ただし 767だとコンテナの積み替えという嫌な問題が・・・・・・日系にA330があればなぁ)。

 こういうシステムをあらかじめ用意しておけば、例えば代替時だけではなく災害時などにも利用できますし、機内でも使えるカート型で動けるシステムなら繁忙期にも使えますしね。さらによく言われるチャーター時の仮設CIQ等への応用も出来ます(どっかのメーカーで開発しないかな・・・・・・)。





■まとめ

 事故による代替の問題は突発的なものが多く、空港だけではなく航空会社側の問題も関係します。今回も日系二社の機材が成田に合ってる?という問題もあるわけで、問題は多様。これを解決すればという問題でもありません。

 少なくとも成田・関空など空港側は可能な限りの対処を今回は行えています。 CIQの問題は人員配置という物理的な制約が関係しますし、また新千歳・羽田が改修中、百里供用前という悪いタイミングではありますが。

そのなかで日系、特に青系もなぜ新千歳ばかりだったのか。関空ではダメだったのか。クルーの問題や機材の運用・整備の問題はあるのでしょうが、そこも本来は総括されるべき内容かもしれません。百里・茨城空港の活用方法という面を含め、成田・羽田の代替策は真剣に考える時期といえるのかもしれないですね。





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