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福知山線脱線事故に関して

 

TAKA  2005年 4月29日

 

 

 JR西日本福知山線尼崎〜塚口間での脱線事故(以下福知山線事故と略す)に関しては、死者 106名という日本の鉄道歴史上でも極めて規模の大きい事故になってしまいました。事故の惨状をテレビ等で見るたびにその悲惨さに言葉を失い、亡くなられた方々に哀悼の意を表するとともに、負傷された方にお見舞いを申し上げます。

 各種報道は憶測を含めここ数日大量に報道されていますが、 国土交通省航空・鉄道事故調査委員会 では未だ現場での記者会見以外公式発表が行われておらず、国土交通省でも 限られた内容 の発表しか行われていない状況で、本格的な現場検証がやっと始まった段階であり原因も公式には調査中であり(4月29日現在)、刑事的責任が絡む問題でもあるので、無責任に原因について論ずることは出来ないと考えます。

 合っているかどうかは分かりません。間違えているかも知れません。先に意見を書かれた和寒様の意見に同意・重複する点も多々ありますが、今わかることを基に「原因」でなく「感じた事」について、後の批判を覚悟の上述べたいと思います。

 

 

☆「根本的に事故を起こさない方策」が必要

 基本的に考えれば鉄道は不特定多数の人を運ぶ公共交通であり、今回のように一度事故が起きれば多数の人命が失われる事になります。公共交通は利用者はその操縦を運転者に全て委ねなければならないという状況から、利用者は利用する限りは自分から安全を積極的に確保するのは困難であり受身にならざるえません。また鉄道は「現実的には定員以上の乗客の乗車を許容しなければならない」現状から、航空機のように「シートベルトで座席に固定する」ような対策も不可能であるのが特徴です。

 そういう状況では利用者が自己防衛することは不可能であり、あくまで運行者サイドで「事故を起こさない」対策をとることが絶対的に必要です。そこを考え違えると本来必要な「事故を起こさない」方策について考えが鈍ることになります。そのようなミスリードは避けなければなりません。

 ただし、本件を含む一連の鉄道事故が「鉄道の安全への信頼」を揺るがしてしまったことは否定出来ません。その点は重く受け止め、信頼を回復するためにも「根本的に事故を起こさない方策」が必要といえます。

 

 

☆安全のために機械的バックアップは施すべきでは?

 確信を持っていえることではないですが、今回の事故は「故意に起こしたもの」ではないと考えられますが、故意に起こさなくてもミスがあれば事故は発生します。人間は万能でない以上誰でもミスをするし、それが原因で死亡事故を起こす可能性もあります。ミスを完全に防ぐ事は不可能ですが、その確率を少なくする事は可能です。人間のミスをバックアップする機械を設ければミスによる事故を減らす事は可能です。

 原因が明らかになっていない現状では推測ですが、今回の原因の一つに「 曲線通過速度の超過 」があるといわれています。実際手前が 120km/h運転区間で、その直後に曲線に速度制限70km/hがかかっている場合、もし減速を怠れば曲線通過速度を越してしまう事は十分にありえます。それを防ぐには機械的バックアップが必要です。 ATC等の機械的バックアップが有れば防げていた可能性は高いといえます。

  土佐くろしお鉄道宿毛駅の事故 も、福知山線事故も、事故調査委員会の最終報告が出ていないので原因について結論付けられなくても、速度超過を防止できる ATCなり ATS-Pがあれば防げた可能性のある事故といえます。これらの問題は宿毛駅事故の時にも当フォーラムでも議論されてましたが、速度超過に起因する事故が立て続けに起きたことを考えると、なんらかの機械的バックアップが必要であるといえます。

 近年鉄道では在来線でも増発・速度向上等のレベルアップが進んでいます。ただし、人間は万能である訳ではないし、運行のレベル向上と同じように運転士のレベルが上がる訳ではありません。今回の事故の箇所でも 120km/h→70km/hに減速ということであれば50km/hも減速しなければなりません。減速の幅が大きくなれば、そのぶん小さなミスでも事故に結びつくことになります。増発・速度向上等の運転レベルアップ分に対する安全対策全てを運転士の注意力に任せるのは酷です。

 それらの特徴・状況から考えて、やはり運転(速度・ダイヤ密度)のレベルに応じた機械的バックアップ機能を備え付けさせる必要があるといえます。そのことを鉄道事業者に押し付けるのではなく、官民一体となり明確な基準を作り技術的・資金的に取れる方策を早急に実施すべきです。

 

 

☆競争と安全性は並立しないのか?

 今の段階で色々な報道で出てきていますが、「競争が事故を引き起こした」のでしょうか? 今回の事故に関連して「競争のために速度向上がなされた」「現場の曲線は8年前の東西線直通時につくられたもので昔はなかった」等の報道がされています。これらはJR西日本が民営化の中でアーバンネットワークで収益を上げる為に行われた競争力向上策において行われたものです。

 今回の事故関連の競争やネットワーク複雑化に伴うによる過度の定時性厳守の動きやJR西日本の労働政策等に関しては現状では憶測を交えた示威的報道しか情報が無いため今回敢て論ぜず、普通に存在する一般論を基に論じたいと思います。

 これらが事故の間接的原因になった可能性は有りますが、だからと言え「競争を否定」することが出来るのでしょうか? これは論の履き違えになります。実際的に「速度向上の為に所要時間が短縮した」「曲線をつくってまで東西線に乗り入れた」等これらの方策で福知山線利用客は大きな恩恵を受けてたのは事実です。その結果JR西日本も2割の乗客増で収益を上げてきました。これも否定できる話ではありません。事故さえ起きてなければ、これらは賞賛される事例として取り上げられてたものです。

 しかし、現実として事故が起きてしまいました。だからといって、単純に速度向上や利便性向上策が否定されるべきものはなく、一般論として考えれば利便性向上策と比例し安全性向上策を同時に実施されるべきものなのです。

 本来民間企業は収益を追求する為に行動するものですが、安全を軽視し事故を起こせば極めて大きな損失を蒙ることになります。そのことがわかっている以上、収益の向上の為に各種方策を採りますが、それ以上に安全への方策に関して対策を採るべきなのが、事故を起こした場合大きな損害が起きる企業の正しい方策です。そのようなリスク減少の方策が取られている限り「競争による利便性向上」は頭から否定されるべきではありません。

 一般論として「競争・収益向上・安全」は相反する物でなく共存できるものですし、させなければならないものです。

 「競争・収益向上・安全」が共存できない時に事故等が発生し、企業にも社会にも多大なる損失を与える事は誰もが分かっていることであり、賢明な経営を行うならそれらを共存させる方策で経営を行うものですし、当然のことです。けれど、もしそのような共存が出来ないのなら企業として失格です。そのような場合ならば企業は社会・株主から徹底的に非難されるべきですし、その考えは即座に改めなければなりません。それが出来ないのならば、最終的には市場から退去させられることになります。

 私には断言できませんが、今回の事故の原因にJR西日本のアーバンネットワークでの競争政策に問題があったというような要因があったかもしれません。それがあったのであれば、その競争政策は当然非難されるべきです。しかし単純に競争を否定する論調には違和感を感じます。

 後付けの結果論で言えば、近々に実施される予定であった ATS-P設置工事が速度向上や東西線乗入時に行われていれば、今回の事故は防げていたかも知れません。その点ではJR西日本は企業として競争・利便性向上方策と安全性向上方策が同時に行われず、安全性が落ちていたという点に関しては落ち度があった可能性はあります。

 

 今回の事故に関しては「事故が起きてはならない」という一点から考えても、実際に事故を起こしてしまったJR西日本の責任は絶対的であり、避けられるものはありません。今回の事故の原因に色々な要因が複合して起きたものであると思います。その点は事故原因が明らかでない以上、今の段階で具体的なJR西日本への非難は行えないといえます。

 今回の事故が「中越地震に伴うとき 325号脱線事故」のように自然の脅威であり、不可抗力に近く現有の技術で予知も阻止も困難な事故ではなく、現有技術で可能な速度照査機能付きのバックアップシステムがあれば防げたかも知れないという点で、悔やまれる余地は残るといえます。

 しかし絶対的にいえることは「同じような事故を起こしてはならない」ということです。そのためには「正確に全ての事故原因を明らかにし」「二度と起きないように対応策を取ること」が必要です。それが 106名の犠牲者の方々への最大の弔いになると思います。このような惨事が二度と起きない事を祈念しながら……。

 

 

 

 

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