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命題は正だが結論に至る過程は疑義含み
かまにし 2004年10月11日
「競争は利便性向上に寄与するのか?」という命題ですが、私も「YES」で構わないと思います。実際、「湘南新宿ライン」が本当に引き金になったかはさておき、東急の「東横特急」・小田急の「快速急行」の新設といった動きとあいまって、神奈川県内〜東京西部地区の利便性が高まったのはまぎれもない事実だと思います。私は学校の最寄駅が湘南台で、研究等で東京都庁に寄ってから学校へ向かう場合も少なからずありますが、そんな私から見ても新宿〜湘南台がついに45分となるなることに驚きを隠せませんし、多少なりとも恩恵はあると思います。
ただ、今回の問題提起で「湘南新宿ライン」と「東横特急」「快速急行」を引き合いに出し『競争は利便性向上に寄与した』と論じられておりますが、間接的には「湘南新宿ライン」の登場が東急・小田急両社を刺激することはあるにせよ、登場の直接的な原因を「湘南新宿ライン」と結びつけるのは間違いだと思います。「東横特急」は東横線多摩川〜武蔵小杉間の複々線完成と目黒線の誕生によって、同線の混雑緩和が実現され余裕ができたことからその半年後に導入されたものであり、「快速急行」も世田谷代田〜和泉多摩川間の複々線の完成によって、スピードダウンなしで本数を増やせるようになったから導入されたにほかならないのではないでしょうか。言い換えれば、複々線というインフラすなわち供給サイドの整備があったからこそ、神奈川県内〜東京西部地区のスピードアップという潜在的な需要サイドのニーズに応えることができたわけです。
ですから、結論部にも疑問が残ります。「東横特急」にしても「快速急行」にしても、複々線というインフラの整備を待って導入されたこともあって、“競争の負の側面”は極力最小限に抑えるためのフォロー体制がきちんと確立されているのではないかと考えます。もちろん、実際のダイヤはまだ公開されているわけではありませんが、今回の小田急のダイヤ改正を見ても、「快速急行」以外にも近距離をフォローする策として「急行の経堂停車」や「区間準急の新設」などが存在するわけです。
このように東急にしろ小田急にしろ、“力を入れたい部分の利便性の向上”と“それ以外の部分の利便性の維持”を可能な限り両立させることで総合的な利便性向上にもつなげていると言え、さらにそれを可能にさせているのは複々線というインフラであるということです。逆に言えば、小田急は既に「湘南新宿ライン」という脅威にさらされていたにも関わらずここまで「快速急行」を投入してこなかったのは、複々線がない状況では「快速急行」の投入による不利益の方が大きい判断したから、と解釈することもできるわけです。
最後に「“競争の負の側面”についても注目しつつ、総合的に利便性が向上する事を歓迎しながら見つめて行く事が必要」とされていますが、個々の利用者にとってみれば結局自らの流動と新しいダイヤを比較した上での評価になるわけですし、マクロにみたとしても事業者の視点で見るのか社会的効用の視点で見るのか、それぞれの立場で評価も大きく変わりうるわけで、「歓迎しながら見つめて行く事が必要」と締めくくられることには強い抵抗を覚えます。
この抵抗があるというのは、『競争は利便性向上に寄与する』と結論づけた根拠・過程の部分に疑問を抱いているからです。
詳しくは前述した通りですが、「湘南新宿ライン」が運行されたから、“敵”を打倒する“必死性”が存在し、そのことが「快速急行」や「東横特急」の運行に結びついた、というロジックだけで説明しようとしたことに疑問を感じます。そして「快速急行」や「東横特急」の場合はもっと決定的な動機(=複々線の完成)があり、それは「湘南新宿ライン」への対策という目的で整備されたものではない、と考えたのです。
もう一方041016では、複々線をはじめとしたインフラ整備が進んだ民鉄が必ずしも経営状況が良くない反面、インフラ整備は小規模にとどめて主にソフト面の改良を中心に行った京王電鉄が輸送人員を伸ばしている、という指摘がされています。これは必要ならば後ほどデータを示しますが、近年の都心回帰による人口増が京王沿線を含む都心+東京西南部で顕著に起きている一方、東武や京成の沿線ではそれほど人口増につながっていません。このことから考えて、京王はたまたま人口増加地域を多数抱えていたため、近年の業績が良いと考えることもできます。
もちろん、京王の優れた施策が沿線人口増に結びついたと考えることもできますが、人口増加は京王電鉄以外の東京西南部でも見られることから考えて、やはり人口増を京王の施策だけで説明するのは危険ではないかと考えます。また今は業績が良かったとしても、これまでは京王のライバル関係にあるJRや小田急が対抗したくても対抗できなかったのに対し、両線の複々線化が進む今後は京王が相対的にインフラの制約が厳しい状況下で苦戦を強いられる可能性も否定できません。
また鉄道の議論では、どうしても所要時間や運賃といった「鉄道の利便性」に直接結びつく要素ばかりを見てしまいがちですが、沿線の街を含めた様々な要素をトータルで捉え、各々の競争力を解明していくことも必要なのだろうと思います。
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