このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください

 

 

ターミナル駅における乗換と街の活性化との関係に関する問題提起

 

かまにし  2005年 1月23日

 

 

 この2月3日に、リニア式ミニ地下鉄を採用した福岡市営地下鉄・七隈線(天神南〜橋本)が開業する。沿線には国立の九州大学・私立の福岡大学を抱えるほか、福岡中心部へのベッドタウンが広がっており、これまで主力だったバスに代わって、広く利用が見込まれるものと思われる。

 一方で七隈線は起点・終点どちらかが他の鉄道路線と接続していない、俗にいう「盲腸線」である(なお、ここでは、「盲腸線」は役に立たないという意味では使っていない)。その唯一の結節点である天神南の乗り換えに関する記事が、 朝日新聞の福岡・北九州版 で紹介されている。

 

地下鉄七隈線の天神乗り換え制限は 120分
街でごゆっくり

 乗り換えの途中で、買い物や食事をゆっくり楽しんで——。来年2月3日に開業する福岡市営地下鉄七隈線「天神南駅」と、地下街で結ばれる空港線「天神駅」との乗り換え制限時間が 120分に決まった。その間なら切符を持ったまま街に出て、買い物も食事も自由にできる。同様の乗り換えが認められている他都市の地下鉄と比べても長時間の設定で、天神の集客増と地下鉄の利用者増の相乗効果を狙う。
 天神南−天神の乗り換え通路となる「天神地下街」にはファッションや飲食の店舗が立ち並び、大丸や三越などの大型商業施設ともつながる。駅間の距離は約 550メートルで、大人なら10分程度で移動できるが、市交通局は「食事をゆっくりしても間に合うくらいの時間にしよう」と考えた。同じ方式を採用している神戸市営地下鉄の制限時間は60分、都営地下鉄は30分で、福岡市の長さが際立っている。
 だが、福岡市の場合も 120分を超した場合は一度下車したと見なされて、新たに切符を購入しなければならない。担当者は「乗り継いだ時刻が切符に自動印刷されるので、忘れないように気をつけてください」と呼びかけている。
(朝日新聞 福岡・北九州版 12月11日記事)

 

 確かに今回の福岡市営地下鉄の切符における措置は、「七隈線と空港線の乗り継ぎ客を天神の街に誘導するきっかけ」を作る上では大変有意義なことであり、他の都市においても参考になる事例だと思う。しかし、そもそも天神南駅と天神駅をあえて「地下街」を挟むように設置したそのこと自体については、疑問を呈したい。

 七隈線は今回の天神南〜橋本間の建設に加え、将来的に渡辺通から博多に至る路線、天神南から中洲川端を経由し臨海部へ至る路線の建設が検討されている。しかし、薬院から渡辺通に急カーブで入りながら、再び終点の手前で国体通りに急カーブする線形の「不可解さ」から、なぜ臨海部への延伸を空港線・貝塚線天神経由でしないのか、疑問を感じてしまう。たとえ経由地の変更が難しいとしても、空港線・貝塚線との連絡を考えれば、第1期整備の段階で中洲川端まで作るのが筋ではないかと考えてしまう。

 さらに七隈線の開業と並行して、こんな動きもある。

   毎日新聞記事(1)
   毎日新聞記事(2)

 これらの記事にもあるように、実は天神駅と天神南駅との「乗り換え通路」となる天神地下街を、七隈線の開業に合わせて南側に地下街を 230m延伸する事業を、福岡市が作る第3セクターが手がけているのである。この件については、実際に福岡市側が記者会見でも触れている。

   福岡市会見

 これらの点に加え、冒頭の朝日記事のようにあたかも回遊行動を誘発するかのような施策を打つところを見ると、「七隈線と空港線の乗り継ぎ客を地下街に誘導する」という意図があったと勘ぐられても仕方ないと言えるのではないか。

 確かに近年、天神地区の商業集積の重心は南下の一途をたどり、北天神は凋落傾向にあるのに対して、南天神は九州一円からの集客力を誇る商業施設群となっている。より集客力の高い商業施設のそばに駅を設ける方が、路線そのものの利用価値が増大することも事実である。七隈線の利用者の大半が、天神で買い物をする人々で占められているならば、それでも構わないのかもしれない。

 しかし、福岡市営地下鉄は九州のビジネスの中心地である博多駅周辺や福岡空港にも乗り入れている路線であり、当然、七隈線と空港線の乗り継ぎ客にも両者を目的地にする人々が少なからず存在するだろう。重い荷物を持ってごった返した天神地下街を10分かけて通行するのはもってのほかであるし、通勤・通学利用でも朝の急いでいる時と夕方ぶらっと立ち寄る余裕がある時では、同じ距離を乗り換えるにしてもその抵抗感は大きく異なるだろう。

 当然、抵抗感が大きくなれば、他の交通機関に転換する人々も多くなる。七隈線の沿線は鉄道空白地帯であることは確かだが、同時に西鉄のバス網も充実している。「七隈線と空港線の乗り継ぎ客を地下鉄に誘導する」はずだったのに、そもそも七隈線が利用されないのであれば、本末転倒も甚だしい。

 鉄道を街の活性化のため、より具体的に言えば「街にやってくる入込者数」と「1人あたりの回遊における立ち寄り数」をそれぞれ増やす、という発想自体は今後の都市鉄道の整備において非常に重要な視点だと考える。しかしその発想は、「来街者を歩かせる動線」を無理やり作り上げることで実現させるのではなく、「あくまで来街者の選択肢を増やす」ことで実現させる必要があるのではないか。前者の方法では、上記のような「落とし穴」に陥る可能性があることを踏まえるべきである。

 七隈線の場合であれば、たとえ天神南駅を国体通り付近に設けるとしても、やはり空港線・貝塚線の天神駅付近にも駅を別途設けるべきだったと考える。こうすれば空港線・貝塚線・七隈線ともに市営地下鉄での来街者は、行きと帰りで異なる駅を選択することも可能になり、北天神と南天神の間での回遊パタンも多様化すると考えられる。仮に北天神の商業が衰退の一途をたどったとしても、空港線・貝塚線ユーザーが乗換えが楽で長い地下道を歩くことなく南天神にアクセスできれば、それだけ「1人あたりの立ち寄り」が増える可能性もあるだろう。

 天神地区に限らず、駅やバスをはじめとした交通結節点の配置と商店街などとの非整合は少なくない。しかし、天神地区ほどの求心力のある商業集積であれば、「来街者を歩かせる動線」を無理やり作るのではなく、「来街者の選択肢を増やす」ことでむしろより活性化することができただろうと考える。今後の延伸時での改良に期待したい。

 

 

 

 

※ブラウザの「戻る」ボタンでお戻りください

 

 

このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください