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なぜLRTやトランジットモールによって地域は活性化するのか?
かまにし 2005年 5月15日
近年、日本各地で路面電車によるLRT(Light Rail Transit)の導入を求める運動の機運が高まっている。そしてこれらのLRT導入運動の中で、必ずといっていいほど語られているのが「トランジットモールの導入による地域活性化」である。
しかし、一方で「なぜLRTやトランジットモールの導入によって地域は活性化するのか?」という上記の運動における根本的な論拠については、運動を行なっている本人たちの間でも十分浸透しているとは言いがたいのではないか。むしろ日本における一部のLRT導入運動には、この論点において大きな誤解が生じているというのが筆者の考えである。
では、「なぜトランジットモールの導入によって地域は活性化するのか?」。この問いに対して、筆者は「訪れる人々の街中での回遊の選択肢が増えたことで、結果的に1人あたりの立ち寄り数も増加したため」だと考えている。
ここで重要なのは、「1人あたりの立ち寄り数が増加した」のはあくまでも結果論であり、LRTとトランジットモールの導入によって直接もたらされたのは「訪れる人々の街中での回遊の選択肢が増えた」ことにすぎない点である。このことは意地悪に考えれば、「LRTとトランジットモールの導入によって訪れる人々の街中での回遊の選択肢が増えても、訪れる人はその選択肢を選ぶとは限らず、結果的に1人あたりの立ち寄り数は増えないことがありうる」と言い換えることができる。
★LRT・トランジットモールの導入がなぜ、回遊の選択肢を増加させるか
はじめに、「LRT・トランジットモールの導入がなぜ、回遊の選択肢を増加させるのか」について考える。ここでいう回遊とは、買い物や観光などで街を訪れる人々が街中をめぐることを指している。回遊は、商品を探したり街並みをじっくり眺める上では徒歩が最も適していることから、基本的に徒歩で行なわれることが多い。
このほかに、もしLRTのような公共交通機関が整備されていなければ、街を訪れる人々は自動車・自転車・徒歩を利用せざるを得ないが、自動車・自転車は基本的に置く場所を気にする必要があるため置く場所を起終点とした回遊にならざるを得ず、徒歩のみでは自動車・自転車に比べて同じ距離を移動する上での疲労が大きいため回遊が続きにくい。
一方、LRTによるトランジットモールを中心市街地に導入すれば、街並みを眺めながら歩かずに移動することができるほか、自動車・自転車の駐車場の位置のバリエーションを増やすこともできる(→例えば郊外駅のP&R)。さらにトランジットモールには一般的にきめ細かく電停が設けられていることから、乗車・降車地点の自由度も高い。このように、自動車・自転車・徒歩の弱点を補う意味でも、LRTのような公共交通機関を組み合わせることは、街中の回遊手段を増やし、ひいては回遊の選択肢を増やす上でも有意義であることが伺える。
ただしトランジットモールに導入する公共交通機関は必ずしもLRTである必要はなく、むしろバスの方が既存の公共交通網との連携という意味で柔軟性が高いかもしれない。このあたりは、地域の交通網との兼ね合いで適切な交通機関を検討する必要があるだろう。
★回遊の選択肢が増えたとしても、地域が活性化するとは限らない
次に、前述の「選択肢が確保されても、訪れる人がその選択肢を選ばない」状況について考えたい。これは端的に言えば『公共交通機関が人々の動線に合っていないこと』であり、『動線の目的地になりうる商業集積に魅力がないこと』にほかならないだろう。このことからも、LRT・トランジットモールの導入は「回遊の選択肢を増やす」にすぎず、実際に地域活性化と結びつけるためにはこれらとは別に「選択肢自体を魅力的にするためのまちづくり」が不可欠なのだと考えることができる。
しかし結局のところ、上記は「街を訪れる人々は、自らの目的に沿って魅力ある場所に立ち寄る」というごく当たり前のことを原点にして考えていかなければならない、と言っているにすぎないわけである。実はLRTやトランジットモールを導入した海外の事例は、人々の街中での既存の活動や潜在的なニーズを捉え、これを忠実に具現化していった結果、たまたまLRTを導入していたというだけなのかもしれない。
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