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中国の高速鉄道〜〜その後の展開
TAKA 2004年 8月30日
“第六次大提速”用200km運転用高速車両の応札結果を受けて
先日は「中国鉄道高速化の現状と北京上海間高速鉄道を含む中国鉄道の将来」について書きましたが、その中で書いている「“第六次大提速”用200km運転用高速車両」について今日( 8月30日)国際入札の結果が出たとの報道がありました。
この応札の結果を見ると、私の想像した流れが多少流変わってくるので応札結果を受けて、補筆を書かせていただきました。
☆何故この様な結果になったのか?
今回は「アルストム・日本連合・ボンバルディア3社が揃って落札」と言う、想像もして居ない結果になりました。ありえない話ではありませんがボンバルディアまで落札と言う結果は正直言って驚きです。
今回の入札は前述の通り“北京上海間高速新線”の前哨戦で、此処でシーメンスが不参加(此れには色々情報が錯綜していたみたいだが)の段階で、“北京上海間高速新線”もICEは脱落、TGVと新幹線の一騎打ちが当確した状況でした。この2つなら前述のように技術に関して新幹線の評価が高くても,TGV有利間違いなしというのが私の予想でした。
しかし今回の“3社落札”の結論は、“北京上海間高速新線”採用技術に関しても、先送りと言う事になります。両方の技術を採用してしまった以上“第六次大提速”が実施され、技術が現実に直面した上での評価を下すと言う事になります。玉虫色ですが、此処は敢えての先送りで“政治的・外交的摩擦”を避けたと言うのが実際の今回の結果の理由かもしれません(政治的には間違っていない決断といえます)。
ですから今回の落札は、アリバイ作りかもしれません。国内的事情で日本製を採用しづらいと言う事が有るにしても、日本を無視する事もできません。未だ中国にとっては日本は重要なファクターです(特にODA)。そう考えると“日本を完全に敵に廻す決断も出来ない”“何処かで日本にも実績を上げさせておかないと”と言う理由から今回の“みんなの顔を立てる3社落札”という結果が出たと考えられます。
日経の記事では「ボンバルディア1割・残りをアルストムと日本連合に振り分ける」と出ていました。その記事や状況から推察して、分担比率に関しては以下の三つの選択が有ります。
1)ボンバルディア10%・日本連合40%・アルストム50%(南車四方機車車両50%・長春軌道客車50%)
※中国の提携先(実際製造の南車四方機車車両・長春軌道客車)のバランスを重視
2)ボンバルディア10%・日本連合45%・アムストル45%
※対外関係を重視し日本・フランスの顔を立てる
3)純粋に線区毎に製造グループを割り振り技術的整合性を重視して最終的比率は重視しない
上記三つのうち、国内企業の提携先に国家(党)が関与しているであろう状況から考えると、1)の場合すでにアムストル優遇が中国政府内部で決定している可能性も有ります。しかし、2)・3)の場合は今後に関しては未定と言う可能性が有ります。但し比率が出てくれば先の展開についても読めるかもしれません。
☆何故”3社落札”を読みきれなかったか?
今回の入札は中国の主力客車製造工場と海外メーカーがパートナーとなり入札する形ですが、日本連合・ボンバルディアは中国の提携先が同じ南車四方機車車両(ボンバルディアは南車との合弁会社/でも実質的には同一)であった為、単独で長春軌道客車と組んだアムストル有利と思っていました。
南車・長春どちらも国有企業ですから、入札の相手の組み合わせには“国家(党)の意思”が反映します。そこで2社と組んだ南車四方機車車両には、“国家(党)の意思”が強く反映していないと考えたのです。
そう考えると“ボンバルディアにその先に続く 300km/h対応技術が無い”ことと、“此処が北京上海間高速新線落札の前哨戦”こととを考えあわせると、参加者の中ではアルストムと日本連合の一騎打ちになる、その先を見通すと前述のようにアルストムのTGVが落札すると言うのが無難な予想です。
それに加えて、応札パートナーの組み合わせを見て、其処に重要である政治的意図を感じ取り(此れは傍証と感覚で推察するしかない)、TGV有利と考えたのです。
中国では“経済的合理性”“法・契約”“技術的メリット”と言う様な世界的に一般的な判断基準が重視されないケースがままあります。政治的要素が強くなるに従い、それらの客観的基準よりかも“政治的判断”が重視されるケースが多く有ります。これを見誤ると判断を誤ります。今回も私の予想はその“政治的判断”を読みきれなかったと言うのが実情です。
☆又々今後中国の高速鉄道はどの様になるか?
とりあえず今回の落札で、“第六次大提速”に関しては「海外技術を導入して高速化を進める」「海外技術に関しては複数導入して比較する」と言う事が、如何なる政治的背景・考慮があるにしても実際進む方向性として明らかになりました。
しかし問題は“第六次大提速”以降のステップです。“第六次大提速”以降は“北京上海間高速新線”等の大規模な新線建設・ 300km/h走行への超高速化を控えています。今回の“3社落札”で常識的には、“第六次大提速”の結果が出ない限り、外国導入技術の一本化を図れない状況になります。いまだに中国経済の根幹指針である“第十次五カ年計画”で来年着工の方針があろうと、これで次のステップは08年北京五輪・10年上海万博には間に合わず、次のステップの着手は2〜3年後・完成は10年近く後という事になります。
この状況を踏まえてもう一度「中国の高速鉄道の将来」について再考したいと思います。最終的なステップは前の予想と変わらないとしても、“第六次大提速”以降の第2ステップについては今の状況から次の2つのパターンが予想されます。
1)“第六次大提速”の結果を踏まえて、比較して結果(政治的な側面を含む)の優れた外国技術を採用して、
第2ステップの“北京上海間高速鉄道”等を実現させる。
2)“第六次大提速”で海外技術を導入すると同時に、当座の高速化・輸送力増強を果たして時間を稼ぎ、
その間に“中華之星”の様な中国独自の高速鉄道技術を熟成させ、第2ステップに関しては中国の“自力更生”により達成する。
今回の決断で、逆に第2ステップが2010年に間に合わなくなる事がかなり決定的になりました。幾ら中国の建設スピードが速くても、あと 6年で1000kmを超える高速鉄道の建設をシステムを含めて建設する事はかなり困難です(技術開発と並行であった東海道新幹線も構想発表からは7年、着工から5年、完成までに掛かっている)。
今回の決定に対しての中国政府(共産党)の真意は、第2ステップの“自力更生”達成への方策と言う深謀遠慮が有った可能性は高いです。色々な産業にしても中国(共産党)は今でも根底に“自力更生”と言う発想があるのは前述の通りです(それこそ“自力更生”は中国共産党の伝統です)。今回の決断で第2ステップは2010年完成の縛りから脱却させる事が出来ました。今後は中国は自力更生へのスピードを加速させる可能性が高いです。
しかし中国の場合“自力更生”といっても、実を言うと「外国の技術を巧くパクリながら自分たちに吸収させる」というのがお得意技です。ソ連からの技術移転が政治的理由で挫折したものの、それまでの移転技術(前に他で供与した技術)を上手く使い、“自力更生”とスローガンを掲げて8年掛けて完成させた“南京長江大橋”はその代表例です(南京長江大橋は前にソ連の技術援助で作った銭塘江大橋のコピー)。
実際ヤフーニュース(ソースは産経新聞)は新華社の発言として「在来線高速化計画が『先進技術を導入し、共同で設計、生産し、中国ブランドをつくる原則』に従っていることを強調」と有ります。これは言葉はきれいに聞こえますが、実態は「技術移転で巧く技術を吸収して自分たちの高速鉄道に転用する」と宣言しているに等しいです。
今後とも中国の高速鉄道は世界の鉄道産業にとってビジネスチャンスですが、十分注意して技術移転をする必要が有ります。迂闊に技術移転をすると、核技術の一部を極秘に移転したら中ソ断交してしまい、技術を引き上げても無形のノウハウ(知識等)を基に中国が“自力更生”で核爆弾を完成させて、その核爆弾が自分に向けて突き付けられてしまったと言う、ソ連の悪しき前例の二の舞になりかねないおそれも有ります。
上記に記した様な“明暗”両面に注目しつつ、しっかりと中国の高速鉄道について動向を見ていく必要が有ると思います。どちらにしても興味・関心と注意を注ぎつつ“目の離せない”状況が今後とも続くでしょう。
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