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キーワードは「競争と協調」

 

TAKA  2004年10月19日

 

 

 JR〜東武直通の新宿〜日光・鬼怒川直通特急運転の話、色々な所で話題になっていますね。相鉄〜JR直通の話を始め、此の頃JRのシームレス化への話が積極的なのには、傍目から見る限り驚く限りです。

 ましてや東京〜日光間は昔は国鉄と東武で激しい競争が繰り広げられていた区間で有るので驚きは尚更で有ると思います。しかし提示された新聞記事内に有るJR東日本大塚社長の
「これからの鉄道は競争と協調。利便性が向上するのであれば、会社の壁を超えた方が利用者の役に立つ」
というコメントが、この提携へのJRの真意を示していると思います。

 

□東武に予想されるメリットは?

 東武のメリットは御指摘の通りです。それ以上にこの提携を上手く会津地域にまで波及させようとの動きすらあります。
   福島民報〜会津鉄道都心“直結”快適に18年春にも鬼怒川温泉乗り入れ実現へ〜

 こう見れば、東武は栗橋連絡線を上手く使い都心直結で新しいルートを切り開き、自動車に流れていた需要(東京西部等から日光へ)を鉄道に引き寄せようという考えは明らかですし、それにより少しでも劣勢を回復し、浅草・北千住両ターミナルのマイナスを解消しようと言うのが狙いでしょう。

 上記記事のようにこの直通の波及効果は栃木県内だけでなく福島県会津地方にも達します。それに間接的であれ、私が前に述べた東武とも関係の深い赤字第三セクターの野岩・会津両鉄道の活性化に繋がります。日光・鬼怒川・会津への波及効果は、インフラ改善した近郊区間への乗客流入のマイナスと差し引いて考えても、鉄道だけでなく東武の観光事業等がメリットを受けることと合せれば十分ペイすると言うのが東武の考えでしょう。

 これは、相鉄〜JR直通構想の相鉄の狙いと同じく、「東京都心に乗入れられない現状を如何に乗入で改善させるか?」という抱えている命題の達成も同時に果たす事になります。

 

□JRに予想されるメリットは?

 それに対してJRのメリットも正しく「競争と協調」の使い分けでの利益の極大化でしょう。競争は勝算無く挑んでも意味がありません。東京〜日光間の競争にJRが勝算がないのは、歴史が証明しています。今運転の臨時快速もそんなに成功して居ないのでしょう。まあ成功していれば“正面決戦”を挑んでいる筈です。

 幾ら衰退傾向が強い日光観光と言えども、東武利用客やマイカー客等JR以上に利用されている乗客獲得の対象が有る以上、単独で勝てるのなら競争を挑むのが、企業に収益極大化の観点からも正しい企業の行動です。

 但し“勝算のない戦”を仕掛けるのなら、取り分が少なくても協調して、取り分を貰おうと言う考えが発生してもおかしくありません。ましてや「利便性向上」と言う錦の御旗が有る以上当然です。

 それの方が最大では無いですが確実に収益を確保できます。その当たりがJRの真意で有ると思います。まあ「収益確保には手段や面子を問うては居れない」という事も有るのでしょうが……。

 

□本当の意味での“JRの真意”は何だろうか?

 又「競争は利便性を向上するのか?」と言う私の提議(20041011)に対し、和寒様が述べられた「本論」の中にも答えが出ています。 東京メトロの解説 に有ると私は考えます。

 上記の中に「他路線からの直通利用者の伸びにより不労所得的に受益」というコメントが有りますが、東京メトロがJR・民鉄との相互直通で流し込んで貰っている乗客は固定的であり、相互乗り入れの名の下に不労所得と言わなくても、楽して送り込んでもらっていると言う側面は否定できません。東京メトロに取り、その相互乗り入れによる流入と言う受益は大きな物が有ります。

 JRの狙いは正しく其処でしょう。「協調」「シームレス」の名の下に、都心に路線を持っているメリットを最大限に生かし、今まで都心に乗入できずに苦労していた民鉄に声をかけ、最低限の投資の下に協調してメリットを得つつ集客しようと言うのが、JRの真意でしょう。

 相鉄にしろ、東武にしろ、其処に利害が一致し、しかも競争が少ない同志を見つけたので、此処は協調し苦労が少なく(相鉄は接続線を作ってくれる。もしかしたらボトルネックの解消にも手を貸してくれる。東武も内容は不明だが、確実に自力で日光線改良に投資するより、投資は少なくて済む上にリターンは確実)収益を上げさせて貰おうと言うJRの考えは、綺麗に言い直せば前述のJR東日本大塚社長のコメントになるのだと思います。

 

□競争と協調の関係について

 前には私は「競争は利便性向上に寄与するのか?」と問いかけましたが、鉄道どうしの競争が利便性を向上させる例も有るでしょうし、協調が利便性を向上させる例も有るでしょう。前者の例は私が挙げた湘南新宿ラインの例でしょうし、後者の例は東武〜JR直通の話でしょう。

 只後者の場合にも“他交通モード”と言う所まで考えれば、鉄道業界と言う器の中で見れば協調でも全体的に見れば競争が存在する事になります。ここら辺が一概に言えず難しい所なのでしょうが、鉄道全体で見ればこの様な鉄道内での「競争と協調」と言う事は全体に利便性を向上させ利用客を増やす事になり、利用者にとっては“利便性の向上”をもたらし鉄道にとっては“乗客増→収入増”(利便性向上競争だけで運賃競争が無い前提では)というWIN・WINの関係をもたらします。

 其処で「競争を選択するか?協調を選択するか?」と言う事は状況によりケースバイケースで有ると思いますが、利便性の向上→乗客増→収入増という善の循環が有る限り、利便性の向上の為に最善の選択をする事となり、それが結果として“競争”であり“協調”で有ると考えます。

 そう考えると、その片方のみを考えるのは片手落ちであり、極論すれば競争と協調は「利便性向上の車の両輪」と言う事も出来ます。競争や強調をする相手が居ない独占下では利便性向上へのインセンティブが発生しないですから、そういう意味では競争にしろ協調にしろ相手を意識した利便性向上策を行える相手の居る環境は、社会全体の利便性向上には重要で有ると考えます(本来なら経営的には独占・寡占下に事業が存在するのがベストでは有りますが、社会全体の活性化・利便の向上という点社会全体を見回した視点で考えれば、競争や協調(これはカルテル等の不正義的協調を含まない)する相手が存在する事は、好ましいことで有ると考えます)。

 少なくとも未だ和寒様の言われるように色々な要素がかみ合わされた結果で有るので「今後尚分析が必要」である事は有るとは思いますが、興味深く見ていく必要は有ると思います。

 

 

 

 

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