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今回の「新幹線脱線」について考える
TAKA 2004年10月26日
此の頃の災害の多さ、私も正直言って驚くばかりです(台風の対応を含め私も仕事で忙しい……)。被災者の方々にはお悔やみを申し上げる次第ですが、私も正直言って新幹線を含むマスコミの災害報道には大いに疑問を抱く次第です。
今日車で移動だったので、カーナビでテレビを見ながら移動していましたが、やっと落ち着いてテレビを見て、マスコミの新幹線脱線に関する報道を見たところ、正直言って辟易した次第です。
と言う訳で、多忙につき後付けのコメントになってしまいましたが、私もコメントしたいと考えます。基本的には和寒様・エルアルコン様・Tom様の意見に賛成です。
□「新幹線脱線」は「事故」なのか?
中越地震の報道で、状況の速報が落ち着いたのでしょうか? 今日は何処のテレビ局でも「新幹線脱線」について報道していました。其処で「事故」と言う表現をしていた所が有りましたが果たして「事故」だったのでしょうか?
未だ公的な発表が無い段階なので何ともいえませんが、少なくとも「地震と言う天災である」「ユレダスは作動した」「即座に非常ブレーキをかけた」と言う点から考えて、地震への対応は問題なかったと考えれれますので、JR東日本に過失は存在しないと考えられます。
今回の場合天災であり予知できる策を打った段階で防げなかった脱線です。此れを「事故」と言うべきなのでしょうか? 少なくとも今回は人的被害が発生しませんでしたが、もし人的被害が発生していたとしても、賠償責任義務は発生しない事例と考えます(私は保険の仕事もしているので、保険的に見れば「動産総合保険」は有責ですが、「賠償責任保険」は無責です。実際的には免責事項ですが、”責任が無い(無責)から免責”と言う意味が強い)。
その様な状況の中で、又公的な調査報告が出ていない段階でマスコミの一部が「事故」と表現することに私は明確な「違和感」を覚えます。少なくとも「脱線」したのは事実ですが、過失の存在した「事故」で有るというのは誤っていると考えます。少なくともマスコミは下記に述べている「防げたのか?」と言う内容を含めてもう少し専門的に考えて報道するべきです。
只JR東日本も未だ公式に記者会見等をして居ないみたいですし(見て居ないだけかもしれませんが)、この様な場合は、復旧作業で忙しいのは分かりますが、速めに「自分たちの対応は正しかった」と言う防衛的な発表をするべきでしょう。そうしないといたずらに「新幹線神話の崩壊」などと低俗なマスコミに騒ぎ立てられる事になってしまいます。
□「新幹線脱線」は防げたのか?
今回の場合は結果的に「脱線」しましたが、この脱線は防げたのでしょうか?私は「人間の英知の限界を超えた所での脱線」と考えます。新幹線には地震を感知すると自動的に停車させるシステムを持っています。しかし今回は作動する前に運転手が揺れを感じ非常ブレーキをほぼ同時に掛けていると報道されています。報道では「直下型地震の為地震の初期波と本震がほぼ同時に来た」と説明しています。
この様な状況で、しかも非常停止まで時間の掛かる高速運転をしている現状では、今の技術では脱線を防げなかったと言えます。又地震波が来る前に地震を予知するシステムが出来ないと言う今の技術の現状から考えればそれは致し方ないでしょう。
「何故防げなかった」と追求するのであれば、究極は「何故地震が起きるのをわからなかった?」と言う所に辿り着きますが今の技術では「東海地震等一部の地震を除き予知は不可能」と言う現実が有ります。その様な状況の中で、「新幹線脱線」だけ追及するのは片手間落ちの話です。
「何故脱線したのか?」「今後有効な対応策は無いのか?」と言う事は十分分析しなければなりません。又今回の教訓は生かさなければなりません。しかし自然の猛威は往々にして人間の英知を超えた力を発揮します。その様な状況の中で次の脅威に対応した方策を練るのが建設的な考えと思います。
今回の中越地震の新幹線の損害は、「今までの対応策が部分的に功を奏し人的損害は辛うじて食い止めた」と言うのが実態であります。そう考えれば「脱線は防げなかった」のですが、「脱線だけで抑えた」とも言えます。それは揺るがない事実です。
それはJR東日本等の関係者の努力が実を結んだ形です。其処は十分に考慮すべきでしょう。又この様な事を和寒様も言われるように、JR東日本もアピールすべきでしょうし、 マスコミもそれ位の関係を勉強した上報道すべきです。
□何処まで対策をすればいいのであろうか?
今回の新幹線脱線を受けて「全線に脱線防止レールを付けるべき」とか色々な対応策が出ています。しかし何処まで対策をすればいいのでしょうか?本来なら安全だけを考えれば「何をしても安全な新幹線」を目指すのがベストでしょう。しかしそれは現実的ではありません。人間の英知を超えた災害は襲ってきますし、それを防ぐのはコストではなく技術力です。其処までの技術開発は極めて難しいです。
安全の為に最善は尽くすべきです。そのためにJRも努力はしていると思います。耐震補強工事はその一例です。しかし完璧な安全対策を行うのであれば、それだけコストが掛かります。そのコスト負担を運賃に転嫁した場合利用客は耐えられるでしょうか? 又究極の地震対策は「常時すぐ止まれる速度で運転する事」です。しかし利用客は東京〜新潟で「地震対策の安全のために今の三分の一の速度で走りますので時間は三倍掛かります」と言う状況が常時続くようになった場合、それでも「安全の為だから仕方ない」と言って利用してくれるでしょうか? おそらくどちらもNOです。
よく工事現場等で「安全は全てに優先する」と言うスローガンが有ります。しかし現場の現実としては、「安全も重要だが利益と工期は超優先」と言う事例も有ります。新幹線にも此れは当てはまると思います。新幹線でも「安全は全てに優先する」と言うスローガンも当然の如く正しいのですが、現実としては企業の命題と利用者のニーズを踏まえて考えれば「安全も重要だが、安い運賃と高速性も重要」と言う事になると言えます。但し此れは交通機関の安全重視を否定する訳ではなく、安全も重要な事は言うまでも有りません。
しかし百年に一回の災害に備える為に可能な安全対策としての「ハイコスト施策」や「ローテクな速度低下策」を行う事が正しいのでしょうか?其処は現実的な施策の中で、利便性とコストと安全性のバランスを取りながら安全性を追求する事が大切になると思います。
現実的に可能な限りの安全対策を行うべきであるのは言うまでも有りません。それを怠った時の地震災害は正しく「人災」であり「事故」です。しかしその安全対策にしても「現在の技術で可能な事」や「現実的なこと」と言うのが有ります。それを踏まえた上で、幾ら対策しても、安全神話の新幹線でも人間の英知を超えた自然災害では、「神話を否定するような事故が発生する可能性が有る」と言う不回避なリスクが存在する事は、周知しておく必要が有ると思います。
□感想として
まあ今回の中越地震での鉄道の損害はエル・アルコン様の言われるように「地震地域周辺での運行本数が少なかった故の幸運」が有ると思います。読売新聞の中にJR東日本関係者のコメントとして「今回は本当に運が良かった」と有りましたが、此れは偽らざる心境でしょう。
地震列島である日本で、有る意味地震災害は宿命です。又「予知できない現実」を考えればその災害をゼロにすることは実質的に今の段階では不可能です。只学習して次に生かすことは出来ますし、コストと技術的に可能な対応策を取ると言う事は可能です。しかし可能な事と不可能な事・現実的な事と非現実的な事が有ることは地震列島日本の住民として十分自覚すべきでしょう。
又「新幹線神話の崩壊」等騒がれていますが、世の中の常識として「人間の叡智や努力には限界が有る」故に自然災害に対応策を考えてもそれを上回る災害に当たる確率は十分に有ると言う事を自覚すべきです。
確かに今まで「人的損害ゼロ」の新幹線の神話は素晴らしいものが有ります。しかしそれは想定した対策で対応可能な損害以上の損害を「人的損害ゼロ」で偶々クリアできたと言う幸運にも支えられたものであり、その点は十分考えるべきでしょう(阪神大震災が「新幹線運転時間前に発生した」のは正しく幸運としか言えない。あれが2時間後にずれていたら……。山陽新幹線の兵庫県内で発生したであろう損害は甚大であったでしょう。この様な「叡智や努力」でカバー出来ない「運のめぐり合わせ」「幸運」が存在したのは事実です)。
「叡智と努力が尽きない限り神話は絶えることなく紡がれる」という見方もあるようですが、それは極めて困難です。当然可能な限りの最大限の努力はされなければなりませんが、自然災害等の「叡智と努力の限界」が世の中には残念ながら有ることをリスクとして十分把握する必要が有ります。只闇雲に「新幹線神話」ばかりを振り回すべきではありません。
正直言ってその様な「地震での鉄道に人的損害の発生するリスク」は地震国日本の宿命的リスクです。そのリスクは低減することは可能でも、ゼロにする事は不可能です。なんせ予め「地震を予知」して運行を止めるような対応策が取れないのですから……。その不回避的リスクの存在を日本人全体が十分自覚し、リスクとその対応策とそのコストについて如何にすべきか検討する必要が有るでしょう。
只正直言ってマスコミ(特に民放)のレベルの低さ・偏った報道・世論受けしか狙っていない状況が何時もながらに明らかになったと言う事は感じました。
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