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大手民鉄ローカル線廃止問題の根底にあるものを考える

 

TAKA  2005年 2月12日

 

 

近年鉄道事業退出規制の緩和をうけて大手民鉄不採算ローカル線の廃止・廃止表明等が急増しています。昨年から本年にかけても南海貴志川線・名鉄岐阜4線というように廃止の動きが出てきています。

   名古屋鉄道 岐阜市内線・美濃町線・田神線廃止許可について (名古屋鉄道HP)
   南海電鉄 貴志川線鉄道事業撤退について (南海電鉄HP)

 廃止の直接的要因は退出規制緩和と企業の採算重視の方針があるにしても、何故中小民鉄より大手民鉄のローカル線に廃止が連続するのでしょうか? 名鉄岐阜4線・南海貴志川線の廃止問題を参考に要因と背景について考えてみたいと思います。

 

 

☆大手民鉄ローカル線廃止の根底にあるもの

 廃止路線毎に原因・状況は異なりますが、根本は「大手民鉄の経営環境の厳しさから内部補助によるローカル線維持が困難になった」ということであるのは間違いありません。

 単独で運営する中小私鉄に比べ「ローカル線赤字が内部補助で隠れ鉄道事業全体では黒字」という大手民鉄では、ローカル線の経営状況の悪さは一見すると表には出てきません。それに大手民鉄では当然幹線もローカル線も社員待遇等を分けている訳ではありませんから「人件費も大手基準で割高」「各種経費も概して割高」ということは避けられません。

 中小民鉄より高コスト体質で収支は厳しいが、損益的に会社存立には直結しないので、公的セクターは深刻に「補助しなければならない」という状況にあることに気付かない。しかし、実際は経営状況が厳しく、上場企業であるため、より一層不採算事業を放置できないがゆえに、廃止に踏み切らざるえないという点がこの様な現象を引き起こしていると考えます。

 実際のところ、大手民鉄のローカル線は、何故か補助の対象として公的セクターは考えていない節があります。

   「地方鉄道復活のシナリオ」 (運輸政策研究機構)
   「中小地方鉄道助成の概要」 (国土交通省HP)

 上記「地方鉄道復活のシナリオ」では「JR・大手民鉄ローカル線は含まない」としていますし、最後の「地方鉄道のあり方」という表の中でも、大手民鉄は「鉄道事業者において適切に対処して行くことが必要」「地域においても危機感を持って早め早めに積極的に利用促進に励むことが必要」という極めて抽象的な内容になっています。

 国交省の「中小地方鉄道助成の概要」では「近代化補助・踏切補助・災害補助にはJR等を含む」となっていますが、特に地方鉄道補助の主力の「近代化補助」では大手民鉄が補助を受けたという話を聞いた事がありません。その一方で、中小民鉄の場合経営が苦しくなると「近代化補助」だけでなく地方自治体が中心となった色々な補助が検討され実施されています。

   上田交通を上田市が支援3年間で 2億6800万円 (信濃毎日新聞)
   上毛電鉄上下分離方式支援による鉄道整備 (国交省ベストプラクティス集より)

 実際上記のような差があり、運営者が大手民鉄の場合、大手民鉄が「補助が欲しい」とは言い出さないこともあるのでしょうが地方自治体は補助に見向きもしてくれません。大手民鉄はローカル線でも色々採算性や利便性向上に投資等の努力をしていますが(名鉄→新型低床車導入/南海→ワンマン化・増発・冷房化)、沿線自治体や住民は大手民鉄の運営・改善策におんぶに抱っこでまかせっきりの状態が今まで続いています。

 逆に岐阜の廃止問題の時にも話に出ましたが、鉄道活性化には力を貸さず逆に冷たく放置するという例もあります。その様な高コスト体質と採算性の悪化による経営上の苦しさと地域の協力と補助の無さが大手民鉄ローカル線廃止の根底にあると思います。

 

 

☆大手民鉄ローカル線廃止の原因は沿線自治体と沿線住民にある?

 実際問題として地元自治体や地元団体でも、踏み込んで大手民鉄と手を携えて地方ローカル線を維持しようという考えは極めて乏しく、公共交通維持の責任ばかりを追及する考えがあるといえます。

   貴志川線存続へ向けた市民報告書
   南海貴志川線廃止時期に関する意見陳述 (国土交通省近畿運輸局)

 これらの意見の中に幾ら運営者の大手民鉄が廃止を表明した後とはいえ「運営者の大手民鉄と手を携えて維持しよう」という考えは皆無であり、上記意見陳述でも和歌山県こそ「赤字路線であるにもかかわらず運行していただいた南海電鉄に感謝したい」と言明していますが、利害関係人両者は「他鉄道事業は黒字なのに貴志川線だけ赤字だから切り捨てるのはおかしい」といっています。

 しかし、これら利害関係人両者のいっている事は大手民鉄がローカル線維持に払ってきた努力を無視し極めて自己中心的な考えであるといえます。地域の実態は上記陳述で和歌山県担当者がいっているように「25万名に及ぶ署名が集まり真剣な熱意を感じたが、その後も利用者が減少しており地元の皆さんの真剣な熱意と客観的数字を如何理解したらいいか複雑な思いである」というように「残って欲しいが積極的に利用しない」というご都合主義であるといっても否定は出来ないでしょう。

 その様な状況で、大手民鉄に「出血を強いてまでローカル線を維持する」ことを求めるのは酷でしょう。大手民鉄にそこまでの運行義務・公共交通維持義務があるとは考えられません。それらを踏まえ本来なら今まで運営していたノウハウを持つ大手民鉄の協力を得て分社化等の技法を使いコスト体質を低下させつつ、公共セクターと沿線住民が支援と支持しつつ運営して行く事が一番好ましいことであると思います。

 けれどもそのような方策を沿線自治体や沿線住民がとることもせず、大手民鉄もいきなりの廃止届出を行うようになっています。それが今の大手民鉄ローカル線廃止を引き起こしているといえます。

 

 

☆大手民鉄ローカル線廃止の裏に有る物は?

 そのような「大手民鉄ローカル線廃止」の原因の真相はどこに有るのでしょうか? 大手民鉄にしてみれば「我々は努力してきたのに自治体や住民に今まで放置されてきた」という不信感があったでしょうし、特に沿線住民は「公共交通維持の責任があるのに赤字だといってすぐ切り捨てる」という考えの差があるからでしょう。ここに大手民鉄ローカル線廃止が発生する真相が有ると考えます。

 この感覚の差は名鉄岐阜4線廃止の時にも、今回の貴志川線廃止の時にもずっと埋められずに来ています。しかしどちらの言い分が正しいのでしょうか? 私は大手民鉄の言い分が正しいと考えます。

   名鉄岐阜4線廃止問題時の名鉄柚原常務のコメント (岐阜新聞)

 この記事のコメントはある意味「大手民鉄の偽らざる心境」を示しているといえます。名鉄柚原常務は「存続して本当に市民のためになる展望があるのか。仮に廃止が決まったとして、土地などを売却できなくてもレール撤去費、固定資産税などを支払うことを承知して撤退を決めた」と発言しています。この発言の裏には「存続させても生かすだけのビジョンを皆さん持っているのですか?」という問いかけと、「我々はもう耐えられないから廃止関連の損失覚悟の上で損切りをする。私たちはここまで追い込まれて居るのに皆さん助けてくれましたか?」という恨み節が有ると推察されます。コメントから考えるとかなり事業者としてのフラストレーションはたまっていて、それがこの様なコメントを言わせたのではないかと推察されます。

 実際には大手民鉄はそこまで追い込まれ、独り単独で赤字に耐えながら公共交通維持に頑張ってきたが、それが限界に達したというのが大手民鉄ローカル線廃止の裏にあるものだと思います。

 

 

☆大手民鉄ローカル線維持に必要なものは?

 今まで上記のような大手民鉄の悲鳴に近い言葉に応えた自治体や沿線住民はいましたでしょうか? 皆無であったと思います。果たしてこの様な状況で良いのでしょうか? 少なくとも好ましくないことは明らかです。

 大手民鉄にしても、今までの投資による改善の他に、分社化等の中小私鉄並のコストで運営出来るような根本的コスト低減策をとる必要性はあるとはいえます。しかしそれ以上に沿線自治体・沿線住民が「大手民鉄だからおんぶに抱っこ」というような考えを捨て、「共に地域の公共交通改善に努める」姿勢を示すと同時に実際に利用することで「公共交通が必要で今後とも支持していく」という事を明示すべだといえます。地域住民には「喉下すぎれば熱さを忘れる」傾向が有りますがそれでは済まされません。

 まず自分たちも血を流すことが必要であると考えます。ただですら不採算のローカル線の維持なのですから、利用者が逃げ出すようでは民間企業が公共交通を担うにはあまりにもリスクが大きくなります。リスクが高くなれば当然逃げ出したくなります。それなのにリスクだけを押しつけ、廃止を非難するのではあまりにもエゴが強すぎます。

 公共交通機関運営者に全てのリスクを負わせる時代は終わりました。沿線自治体と沿線住民も相応のリスクを負い責任を果たす時代が来ていると言えます。大手民鉄も沿線自治体も沿線住民も皆が応分の負担を払いつつ、協調してローカル線を維持する必要性があると思います。具体的には地方ローカル線に対しては、運営者が大手民鉄であれども中小民鉄並の補助や協力を地方自治体や沿線住民が行って行くことが必要であると考えます。

 そうでなければ補助を受けられる中小私鉄ローカル線以上に、自助努力で頑張っている大手民鉄のローカル線の方が力尽き突然に廃止されるという状況は逃れられないと考えます。

 

 

 

 

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