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「入るを図って出るを制す」は経営の基本だが
(経営面から見た合理化のありかた)

 

TAKA  2005年 4月10日

 

 

 私も気にしていた事なのでコメントさせて頂きます。私は「合理化」についても疑問を持っていましたが、あわせて「今の民鉄経営のビジョンの無さ」と言う経営の問題にも疑問を感じており、それも絡めてコメントしたいので、多少脱線するかもしれませんが悪しからずご承知置きください。

 

☆「合理化」を迫る日本の民鉄経営の現状

 鉄道会社の経営の鍵を総論的にいえば、エル・アルコン様の言われる様に「鉄道会社はその固定費負担をどれだけ軽減出来るかが収支改善の鍵」であり、それを言い換えれば「入るを図って出るを制す」ということになります。それは古今東西経営の原則であり、「如何に収入を増やすか」「如何に支出を減らすか」が重要になってきます。その点では「固定費項目の合理化」は「出るを制す」方策として正しいことになります。

 現在大手民鉄の鉄軌道事業は「乗客減・収入減」の波に襲われております。 大手民鉄16社平成17年 3月期中間決算概況および鉄軌道輸送成績(日本民営鉄道協会) によれば、鉄軌道事業の営業収益が対前年比プラスだったのは「京成・京王・東急・京急」の 4社で、16年上期の輸送人員で対前年同期比プラスだったのは「東急・京急(京王は±0)」 2社のみです。

 この様な10年近く続いている鉄軌道事業の乗客・収入減の流れの中で、今度は上記資料で営業利益を見てみると対前年比マイナスになっている会社は「名鉄・阪神」 2社だけで、それ以外の14社は鉄軌道事業の営業利益で増益を果たしてます。

 果たして「この増益要因は何なのか?」と考えれば、その理由は上記資料を見れば明白で、営業収益の減少以上に営業費用の減少が進んでいるということです。要は「合理化が進行し収益減少以上に費用減少が進んだことが増益要因」であり、従業員の身を削り乗客へのサービスを低下させてでも費用を減少させて生み出した利益であるといえます。

 エル・アルコン様例示の山陽電鉄の駅無人化・神戸電鉄のワンマン化・JR西日本の駅合理化は、上記の「乗客・収入減少下での増益」を達成させた合理化の具体的方策であり、それ自体はミクロ的な経営の側面で見る限り一番簡単にできることであり、「出るを制す」具体的事例として経営的には正しいことです。

 

☆経営における合理化の限界

 しかし問題はこれらの方策は「縮小均等・マイナスのスパイラル」に入っているということです。合理化では「出るを制す」ことは出来ても「入るを図る」ことはできません。エル・アルコン様御指摘のように「合理化がサービス低下を招き利用者が不満を抱え」利用者が減少し収入も減少するという「マイナスのスパイラル」に入る可能性もあります。これらは経営上重要な問題です。

 残念ながら合理化には限界があります。合理化を図って出血を減らすことは、収益が減少し利益が減少した時には必要ですが、出血を止めた後の収入増加の方策を考えないと企業の永続的な発展はありません。その「成長戦略」を持たない限り、企業は永続的に生きていくことができません。

 合理化だけでは、当座の止血はすることが出来ても、その先の企業の永続的発展の為の成長戦略にはならず、縮小均等という衰退の道しか描けないということが大きな問題です。

 

☆では今の日本の民鉄経営では如何か?

 翻って日本の民鉄企業を見るとどうでしょうか? 果たして根幹たる鉄軌道事業で16社全体で前年まで此処11年間連続利用客減が続いている日本の民鉄企業に「鉄道に利用客を増やし、鉄道収入を増やす方策」を持っているのでしょうか? 此処が問題であると思います。

 元々日本の民鉄経営は「小林一三モデル」という、「鉄道を軸に地域に関連事業を集め収益を上げる」ビジネスモデルがあり、これを東急の五島慶太氏等が拡大実践していき、つい最近までこのビジネスモデルに沿って民鉄経営は行われてきました。

 ただ現在では「小林一三モデル」は負の部分が注目されてきており、日本の民鉄経営では「含み益経営・個々の採算性軽視経営」の温床となったと批判され、民鉄経営者の中でも「小林モデルは崩壊した」と言われる状況になっています。

 ここでの問題は、民鉄経営の金科玉条のビジネスモデルである「小林一三モデル」が崩壊した後の「次のビジネスモデル」が無いことです。ビジネスモデルが無い以上、成長戦略も描けないことになります。

 実際のところ民鉄各社の中でも、「東急→鉄道沿線に軸足を置いた経営」「阪急→都市交通・不動産・レジャー・エンターテイメント・リテールの5つのコア事業を同列化し持株会社化して経営」等、色々な新たな経営方針を考え出しています。

 まずは上記のような新たな経営の方向性を定め、新たな成長戦略を持ち軌道に乗せることが経営的には必要といえます。

 

☆日本の民鉄経営に必要なのは単純な合理化でなく「成長へのビジョンとビジネスモデル」に基づいた合理化

 エル・アルコン様御指摘の「駅の合理化」の話も、詰まるところ「経営が長期方針を持たずに場当たり的に合理化をした歪」が出て来たものであるといえます。私は合理化そのものは前述のとおり否定しませんが、「サービスを低下させての合理化」はエル・アルコン様御指摘の「利用者の事業者への印象を損なう」負のスパイラルに陥れるものになると考えます。「経営の羅針盤」を失った今の民鉄経営には、そこまで考える「余裕」がなくなってます。

 このような「合理化とサービスのバランスを如何にすべきか」は、一概にいえるものではありませんが、まずは「鉄道経営を企業の中で如何なる位置付けで如何にして活性化させるか」というビジョンを定めた中で、最適な合理化方針を定め無いとどうにもならないと思います。

 例えば阪急は「リテール事業も同列に重視する経営」ならば、「コンビニを駅に併設し店員と駅員を兼務させ合理化と増収を狙う」とか。東急は「沿線のブランドイメージを守るために警備事業を立ち上げ沿線の治安悪化に対処」することで鉄道沿線に軸足を置いた経営を実践するならば、東急沿線の半径 2.5kmに 1箇所設置する東急セキュリティの警備員待機所に駅を活用し、同時に駅業務を東急セキュリティに委託するとか。小田急のように「輸送時間を短縮し競争して乗客を増やすことで『入るを図り』収入を増加させ、駅員を常駐させても増益できる原資をひねり出す」サービスを維持する等。以上のように手法は色々でも合理化とサービス低下防止を並立することは、新たな成長戦略を創り出し、実践させることが可能になると思います。

 ミクロ的な「駅サービスの合理化」の負の側面を解消させる為に、「まずは新たな経営モデルの構築が必要」というのは非常に迂遠な方策かもしれません。しかし、現在民鉄経営の現場から考えると、目先のことしか考えられないほど追い込まれているのもまた事実です。その中で、阪急・東急のように新たなビジョンを考え出せば、それに対応した合理化とサービス向上の並存策が出てくる可能性もあります。その為にも「大方針」たる新たなビジョン・ビジネスモデルが必要といえます。

 

☆(最後に)民鉄企業の経営に関しての個人的意見

 私は正直なところここ数年「民鉄経営の有り方・方向性」に関しては、「漠然とした不安」を抱いていたのは事実です。今の親の鉄道会社に寄り添い、関連の子・孫企業が存在し、鉄道の周辺・関連事業で鉄道に培養され生きてる現状は「ゆがんだ小林一三モデル」といえるかもしれません。

 しかし鉄道会社の子・孫会社がいきなり世間に飛び出しても生きていくだけの競争力は乏しい所が多々あるといえますし、競争力が無いからといって子・孫企業を倒産に追いこむことは、連結決算で繋がる会計制度上は親会社に大きな負担を強い、親会社の経営を傾けかねません。

 具体的には西武問題の「鉄道事業と含み益の信用で乱造した、関係の各種事業の不採算をカバーできなくなった」状況が象徴的です。でもこれは、規模を別にして大手民鉄企業グループにはどこにでもある話です。そして、これを解消して民鉄企業グループを成長軌道に誘導する為の新たなビジネスモデルを構築するのは至難であると感じてはいます。

 私は今日本の民鉄企業経営は「漠然とした不安」と「先の見えない閉塞感」の中にあると思います。しかし、地域の核企業であり公共交通を担う企業がそのような状況にあることは好ましくありません。日本の人口が減少に転じる中で、地域の活性(人口)を維持するには、地域に大きな影響力を持つ民鉄グループの存在は重要であり、地域や公共交通活性化の為にも活力のある民鉄企業の存在は今でも重要です。

 だからこそ至難であっても「漠然とした不安・先の見えない閉塞感」を打破する新たな民鉄経営のビジョン・ビジネスモデル構築が、公共交通の発展の為にも地域の活性化の為にも民鉄グループの存続と成長の為にも必要であるといえます。

 具体的にいえば小林一三氏の「鉄道会社の多角化は世の中に何かの革新をもたらすものでなければならない」という言葉です。いままでの大手民鉄の多角化事業は規模の差があれど中身は「金太郎飴状態」でした。ですから「あっと驚く内容の革新的多角化事業」は無かったといえます。地域に根ざし、地域が求める「革新的多角化事業」がある民鉄グループがあれば地域も活性化しますし、それが収益事業になれば革新的である分競争が無く収益を上げることが出来ます。ここにこそ、理念を生かした 「New小林一三モデル」ともいえる民鉄企業グループの新しいビジネスモデルのヒントがあるのかもしれません。

 

 

 

 

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