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果たして鉄道テロは防げるのか?



TAKA  2005年 7月10日



  2005年7月7日英国ロンドンで地下鉄・2階建てバスで爆弾が爆発するテロ が発生しました。犠牲になった方々には謹んで哀悼の意を示す次第ですが、残念ながら 9.11同時多発テロ 以来、世界中で宗教対立に起因する摩擦が原因で04年3月マドリッドでの列車同時爆発テロや今回のロンドンのテロ等世界中で交通機関を狙ったテロが発生しています。
 昔は交通機関のテロと言えば「航空機爆破(大韓航空機爆破事件・スコットランドでのパンナム機爆破事件)」や「ハイジャック」が主流でしたが、9.11以来航空機へのテロ対策が格段に強化された事もあり、近年では「身体検査・荷物検査が無く簡単に入り込め」「利用者が多く被害者を多くできる」通勤鉄道がテロの標的として狙われています。
 そうは言っても、我々は日常生活の一環として、鉄道等の公共交通機関を普通に利用しています。その中でイラクに自衛隊を派遣している日本に居る我々も残念ながらテロの危険に曝されていると言えます。そのような状況で果たして公共交通へのテロは防ぐ事はできるのか? 考えて見たいと思います。


 「1」鉄道へのテロは簡単にできる?

 非常に残念ながら、鉄道へのテロは航空機等に比べて簡単に出来ます。前述のように「身体検査・荷物検査」が無く乗車できる為に危険物を簡単に持ち込めます。ですから危険物さえ手に入れることが出来れば子供でもテロを行う事は可能です。その危険物の規模によりけりですが例えば「 山口光高校爆発事件 」の様な子供の作れる爆発物でも簡単に持ち込め、乗客を殺傷するテロを実施する事が出来るのです。
 実際に日本でも95年3月の「 地下鉄サリン事件 」という実例が存在します。爆発物と有毒ガスのサリンという差はありますが、「サリンの袋を車内に置き傘で刺して流失させる」という方法はテロとしては初歩の段階であり、サリンを精製する技術はそれなりに持っていても犯罪の実行技術は原始的です。しかしそのような状況でも12名の死者と5500名余りの負傷者を出すテロが可能であるという事は非常に思い意味を持ちます。
 例えば今手元に「時限式起爆装置」と「5kgの軍用高性能爆薬(ロンドンでは4.5kgの爆薬が使用された)」があれば、家にある鞄に入れてラッシュ時の列車に持ち込み椅子の下に置き爆発直前に置いたまま下車してくれば、発見さえされなければ今回のテロの1箇所と同じ規模のテロが可能です。
 その様な爆薬と仲間が複数あれば、今回 4箇所で起きたロンドンのテロ と同規模のテロは簡単に実施可能であり、日本の場合爆薬と時限装置の入手・製作が一番困難であり、それさえ手に入れば鉄道への大規模テロはやろうとすれば誰でも簡単にできるという事になります。


 「2」日本を狙うテロ集団は複数存在する?

 その様に簡単にテロが出来る状況で、残念ながら日本とて世界的に広がるテロから「一人蚊帳の外」を決め込む事はできません。日本を襲う可能性のあるテロ集団は複数存在するのは否定の出来ない事実です。
 例えば9.11同時多発テロ・マドリード列車爆発テロ・ロンドン列車爆発テロは「アルカイーダまたは同調する団体」の行ったテロです。これらの団体はイラクに派兵している国(スペイン・イギリス)を狙ってテロを行っています。これらの集団はテロで揺さぶればイラクからの撤兵を行いそうな国を狙ってテロを行う可能性が高いと言えます。(今回のイギリスの場合は当てはまらない。「サミットに合わせた」という点は政治的意図が強いが「危機に際して極めて粘り強く強い信念を持つ国民性」と「総選挙が終わり政治変動が期待できない」と言うイギリスの状況から考えるとテロでイラクから撤兵すると考え行ったとは考えづらい」)一部の新聞等では「 次はローマ 」と言う予告があったとの報道も有りますが、「揺さぶれば世論が撤兵に変わる」「アメリカの有力な同盟国をイラク派兵から脱落させる」という点から、テロの標的に日本がされる可能性は否定は出来ません。
 過去には「大韓航空機爆破事件・青瓦台襲撃事件・ラングーン爆破事件」等のテロを行い、日本への潜入手段(密航船)を持ち、優秀な実行部隊(特殊部隊)を持つテロ国家が残念ながら海を隔てた日本の近くに存在します。この国も「核問題に起因するアメリカからの先制攻撃」が現実となった時に、混乱する事での目くらましを狙い日本にテロを仕掛けてくる可能性は否定できません。
 そのように考えると日本は「テロとは無縁」とは決して言えません。ある意味潜在敵が多い分、欧州各国やアメリカよりテロに対する危険は多いと言えます。「今そこにある危機」と危機感を煽り立てるのは好ましい事ではないと思いますが、現実としてその危機の存在は自覚していないと大きなしっぺ返しを受ける事になります。


 「3」果たして鉄道へのテロは防げるのか?

 このように「鉄道への簡単にテロが出来る状況」で「複数の潜在テロ脅威」に囲まれている日本で、マドリードやロンドンで起きた様な鉄道爆破テロを防ぐ事が出来るのでしょうか?
 少なくとも日本でも危機感は持って対応はされています。マドリードの鉄道爆破テロの時にも、危険物の置場になるとゴミ置場が撤去され、東京の主要駅に機動隊が配置され、鉄道各社でもガードマンを巡回させる等の対策が取られていた事は記憶に新しいです。
 今回もロンドンでのテロを受けて 国交省が警備強化の指示 を行ったり、 監視カメラの増設要請 を行ったり、警備の死角になりやすい ゴミ箱撤去や巡回の強化 等の対策を行っています。警察も 機動隊員を主要大使館・主要駅に配置 し警備の強化を行っています。
 しかし現実には石原知事が「未然に防ぐのは難しい」と言っている様に、警察や鉄道会社が幾ら努力してもテロを未然に防ぐのは残念ながら極めて難しいと言えます。
 鉄道会社は報道のように危機感を持っているのは事実で、民間で出来る限りの対応を行っています。しかしやはり民間が行う対策ですから限界があるのは事実であり、もしテロリストが上記に挙げたようなテロのプロ集団である場合、鉄道会社は残念ながら対テロ活動では素人であり、素人がプロと戦って「鉄道会社の対策=テロからの安全を保障」する事は残念ながら極めて困難である状況です。
 では素人の民間で難しいのなら本来治安を保証すべき警察では如何かといえば(テロ=軍事活動と考えれば自衛隊と言う選択肢もあるが、自衛隊の治安出動(明確な侵略活動で無いので治安出動が該当すると考える)は現況では論外と考える)此れもテロの完全阻止には不安の残る状況です。警察も「 テロ対策推進要綱 」を策定し対策を取っていますが、日本の警察は70年安保・浅間山荘事件・成田闘争を行って以来実戦に近い警備活動を行っていません。此れ自体は「治安の安定」と言う点では好ましい事ですが「実戦が経験になる」と言う点で考えれば頼りない側面が残る事も事実です。その様に「実戦から遠のき」その上「国際テロを経験していない」国際テロに慣れていない日本の警察に「未然にテロを防げるか」と言えば、残念ながら不安が残る事になります。
 それは世界的に言える話であり、今回のロンドンのテロ事件もIRAのテロ活動対策等で対テロ活動になれており、ここ 数年何回もテロを未然に防いできたイギリス警備当局 でもテロの予兆をつかみ今回のロンドン同時多発テロをテロを防げなかった状況であり、国際的にも「 対鉄道テロ防止出協力 」という体制をとってもテロは防ぐ事が極めて困難な状況であるのは否定できません。
 つまり誰でも何も検査を受けずに乗れる等の「今の利便性を維持したまま」テロ防止をすることは非常に困難であり、非現実的な「通勤列車乗車時の荷物検査」等の航空機並みの対策を行わない限りはテロ防止は難しい(それでも完全阻止は無理であろう)状況であると言えます。つまりは鉄道テロをやる気がある人がいる限りは鉄道テロ阻止は難しいと言う事になります。


 「4」では如何すれば良いのだろうか

 このようなテロのリスクがある状況で、我々はどのようにして鉄道等の公共交通を利用すれば良いのでしょうか? 現実として我々は公共交通を使用しない限りは都市では生活できません。その公共交通が危険に曝される事は国民生活上の重大問題であるといえます。本来ならこの様な危険は解消されなければなりません。
 しかし検討してきたように「テロを未然に阻止する事」は今の現実としては非常に難しい状況です。テロは事故と違い「ミスをバックアップするシステム」を付ければ解決されるものではありません。相手を貶めたい傷つけたいと故意に狙う者が現にいるのですから、テロ実行犯を出し抜き阻止しない限り、阻止できません。その点が安全を確保する点で対応策を取るのに事故以上に難しい事であると言えます。
 そのような状況で我々に出来る事は、残念かつ悲しいですが「隣人が不審者であるかと疑う」事しか出来ません。 JR等では乗客への呼びかけを強化 しているとの事ですが、鉄道会社は注意喚起の「不審物を発見したらご連絡を」と言う呼びかけの意味で行っていますが、穿った見方をすれば「隣人が不審物を持っているかもしれません。隣人が怪しい人かも知れません。注意して!」と言うことになります。
 でも公共交通を利用していて隣に本当に怪しい人がいるかも知れません。今やそれを否定する事が出来なくなっています。小は痴漢から大は爆発物によるテロまで日本の鉄道には危険が極めて増えてしまいました。これは「公共交通の存続に関する重大問題」になりかねません。我々が利用時に車内の危険に注意を払う事も必要ですが、それ以上に公共交通の安全確保のために鉄道事業者・警察・自治体・国等の関係機関に「鉄道車内の治安安全確保」に最大限の努力を図って貰うしかありません。それが今できる最大限の対策でしょう


 今や時代が変わり国内治安問題に国際情勢まで複雑に絡むようになり、テロ等の治安対策が前述のように非常に難しい事であるのは承知しています。それでも「鉄道車内の治安安全確保」が今後の公共交通に取り、運行の安全確保と同じくらい重要になってくるのではないかと言えます。
 その中で特に一度の多くの人命を失う可能性がある「対テロ対策」に関しては、「利用客全員の身体・手荷物検査」までは非現実的であるにしても、駅・車内の警察官巡回等の鉄道車内の安全確保から始まり、上記のような国際協力や国境での水際阻止を含め総合的に必要であると言えます。それが今後の公共交通の安全維持やひいては公共交通の維持・発展にも密接に絡んでくるのではないでしょうか?
 
  





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