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東西線・西武新宿線直通構想について考える



TAKA  2005年 7月25日



 さて7/20付の交通新聞に下記のような記事が出ていました。(最初に「メール配信の交通新聞ニュース抜粋版」で知り、その後携帯版の「交通新聞」で確認しました)
 『建設中の地下鉄13号線を活用した民鉄4社の相互直通運転計画や、相模鉄道のJR東日本直通化計画など、路線ネットワークの整備が進む東京圏で、東京地下鉄(東京メトロ)東西線と西武鉄道新宿線を直通化する新たなプロジェクト構想が浮上してきた。』
 詳細は「07年度以降『都市鉄道利便増進法』対象プロジェクト化」「東西線と西武新宿線を結ぶ連絡ルートを建設し西武新宿発着の列車の一部を乗り入れ」「設備投資費用は約700億円工期は7年程度」との事です。(交通新聞より要旨抜粋)
 今まで噂等では出ていたものの、西武新宿線利用客にとって「実現すれば便利」と言う話でしたが、「夢物語」と言うレベルの話でした。未だ関係両社から公式発表がされていないので本当の所はどうなるかは何ともいえませんが、今の段階で分かる範囲の話でこの話について考えて見たいと思います。


 ● 東西線・西武新宿線の現在の関係

 先ずはこの直通運転構想に関して、その前提になる現状にの両線間の関係ついて考えて見たいと思います。
 東西線と西武新宿線は現状は高田馬場で接続しており乗換が可能です。東西線に取り高田馬場は西側での山手線への接続ポイントと言う意味で重要な拠点駅で 乗降客が173,830人で全社で9位・東西線で3位 であり東京メトロでも大きな駅です。西武新宿線の場合、最後まで都心直通が無く苦戦していた旧西武鉄道が、川越〜国分寺間の路線を武蔵野鉄道(現西武池袋線)と中央線の間を通り都心直通を目指し昭和2年に造った新線のターミナルが起源で、その後昭和27年に西武新宿に延伸され中間駅になりましたが、現在でも 277,881人の乗降があり西武鉄道で第2位・西武新宿線最大の駅 です。
 西武新宿線に取り東西線は直接連絡する唯一の都心直通ルート(西武新宿は5分以上歩くので除外)の為乗り換える人は非常に多く、正確な資料は持ち合わせていませんが(誰かあったら教えてください)、私が見る限り西武新宿線の乗降客277千人の内3分の1程度(東西線・山手線・当駅乗降はほぼ同じ位?)9万人近くが乗り換えていると思われます。この数字は東西線の高田馬場乗降客の約半分弱と言う大きな数字になります。
 実際に約9万人と言う乗換客が存在してるので、今回の様な東西線・西武新宿線相互直通案が浮上してきたと考えます。
 

● 東西線・西武新宿線直通は元々考えていなかった話なのか?

 でも東西線と西武新宿線の直通と言う事は考えられていなかったのでしょうか?
 元々東西線は都市交通審議会第5号・第6号答申に基づき中央線・総武線のバイパスとして建設された路線です。その為「1960年の中央線中野〜三鷹間複々線化決定に先立ち営団から国鉄に相互乗り入れの提案がなされ」(参考文献ⅳより)1966年から東西線と中央緩行線の乗り入れが実施されています。
 しかし現在では上記のように概算想定でも西武新宿線から9万人の乗換客がいるのに対して、JRからの乗換客は 高田馬場乗降客173,830人に対して中野乗降客111,549人 と言う数字と高田馬場は西武新宿線・山手線2線からの乗換だが中野は中央線からだけの乗換と言う差から考えても、中野乗降客の8割が中央線乗換客とは考えづらいので、少なくとも「高田馬場での西武新宿線からの乗換客≧中野での中央線からの乗換客」と言う式は成り立つでしょう。
 その様な事も有り、少なくとも過去において東西線・西武新宿線直通は公式・非公式は別にして考えれていたと言えます。実際参考文献ⅰのインタビューの中で今城教授が「東西線は立地が良いですし、本来新宿線をターゲットに考えられた線ではなかったかと思いますが、実際には国鉄の線増と変わらない役割を果たしています。新宿線と東西線が相互直通する構想は無かったのでしょうか?」と問いかけたのに対し、西武長谷部常務(当時)は「非公式な話としては有ったと思いますが、当時は新宿への乗り入れで一応ターミナルに入ったと言う事もあって、乗り入れへの取組にやや立ち遅れがあったかもしれません」と答えています。
 この様な「状況証拠」から考えると、少なくとも東西線・西武新宿線直通は考えられていたと言う事は間違いないと言えます。上記インタビューなどから推察すると「話に西武が消極的だった。だから営団は国鉄に乗り換えた」と言うのが実情だったのかも知れません。確かに中野まで来てくれる国鉄の場合と連絡線を作らなければならない西武の場合では西武の方が難易度とリスクは高いのは事実です。しかしそれにひるんで失った物は大きいと言う事が出来ます。


 ● 現状では「追い詰められている」西武新宿線の起死回生策が「東西線直通」

 では何故今頃「東西線直通」が浮上してきたのでしょうか?少なくとも西武の狙いとメトロの狙いが有るのは明らかですが、その狙いの中で深刻なのは西武の方で有る事は間違い有りません。その狙いについて考えて見たいと思います。
 
 ☆西武の狙い 〜対中央線対策の切り札〜

 西武の狙いは明らかです。正しく表題に有るように「対中央線対策」の切り札が狙いで有ると考えます。西武新宿線は中央線と西武池袋線に挟まれた狭い地域を駅勢圏にしています。その為只ですら両線に乗客を取られる立場に有りますが特に南の中央線は「多い本数」「速いスピード」「バスが駅に直結」「新宿・東京へ直結」と言う状況を武器に西武新宿線沿線にまで利用客を増やしてきています。
 実際中央線の威力は凄く、和寒様が「 首都圏の鉄道利用動向から競争を読み解いてみる 」の中で「 未確認情報だが沿線利用客はバスに乗り中央線に流れている 」と言われていますが、正しくその様な状況が表れています。私は自宅の有る西武池袋線沿線から中央線まで良く練馬(赤羽)〜高円寺間の関東バスを利用しますが、この路線で一番乗客が乗るのは練馬〜中野区界の中野北郵便局で、路線乗客の1/3〜半分程度が中野北郵便局・豊玉中・豊玉中二丁目の3バス停から乗っているのが現状です。この事は本来なら西武線固有の利用客が中央線に流れている事を示しています。この路線の場合環七を通る為渋滞に弱いが新宿線の踏切を通らない為競争力が強くその上野方駅に入らない為新宿線には不利な路線設定と言う特有の理由が有りますが、他でも新宿線に直結するバス路線では大なり小なり同じ様な状況です。西武新宿線を超えてまで客を集めるほど中央線の力は強いと言えます。
 西武も新宿線の対中央線苦戦は自覚しているようで、参考文献ⅱのインタビューで小柳常務は「新宿線は2〜3kmの間隔で中央線と平行していますから、スピードアップしないと中央線に負けてしまいます。中央線は速いし都心に直通していますから競争力が有ります」とコメントしています。西武も競争を意識して通過駅の多い新「通勤急行」を設定したりしていますが、競争力が回復しているとはいえません。
 その様な認識と努力でも、現実問題として「中央線への乗客の流れを止める事はできない」という現状から、今回「起死回生の一策」として東西線直通に飛びついたと言うのが西武の狙いであると考えられます。

 ☆メトロの狙い 〜東西線の弱点「西からの乗客の少なさ」を新宿線を強化する事で中央線から奪いたい〜

 中央線に攻め込まれ切羽詰った西武に対し、東京メトロはもう少し「余裕の有る状況」と言うのが現状でしょう。余裕が有るが行き詰まっている事は間違いありません。それは中野での中央線からの直通客が伸びない事に有ります。
 メトロの場合「他路線からの直通客」が乗客数の基礎を支えていると言う状況から考えると、直通運転で乗客を囲い込むと言うのは今や必然の項目で有ると言えます。そうでないと乗客数はジリ貧になりかねません。それを阻止するには流し込んでくれる路線が活性化してもらう事が一番重要です。
 その為にも中野で直通客を流し込んでくれるJRに西武新宿線の客が取られた場合、中野で東西線には流れなく新宿方面に流れてしまいます。そうすると高田馬場で東西線に流れる客が減る為、間接的にメトロも影響を受けることになるので、西武新宿線とタックを組んで西武新宿線へ直通し活性化させる事は間接的にメトロ東西線を活性化させることになります。メトロの狙いは多分此処に有ると考えられます。

 ☆この2つの狙いを結びつけたのが「都市鉄道等利便増進法」

 この様な事を両社が考えていたのは、前にも述べたように昔からそれなりに考えていたと推察されます。しかし今までは両社とも積極的になれなかった、つまりはその工事に掛かる費用のリスクをとりことが出来なかったということです。
 しかし今回「 都市鉄道等利便増進法 」が出来たことで、この法律がリスクを恐れた西武・東京メトロの両者の背中を押したことになります。
 交通新聞の記事内でも「仮に今年新法として成立した国土交通省の都市鉄道等利便増進法の対象として認定されれば鉄道側の負担は3分の1に軽減され1社平均年間20億円未満の範囲に留まって減価償却の範囲内に収まる」(交通新聞より抜粋)と書かれています。
 この法律が無ければ、多分この話は動き出さなかったでしょう。逆に「地下で有れば良いなと思っていた話が都市鉄道等利便増進法で表に出てきた」と言うのが今回の事業の表面化の実情で有ると思います。


 ● 東西線・西武新宿線直通運転の現在可能な想定

 この直通運転構想に関して、現状において想定できる内容について考えて見たいと思います。
 交通新聞の報道では前述のように「東西線と西武新宿線を結ぶ連絡ルートを建設」「設備投資費用は約700億円・工期は約7年」と言う内容しか明らかになっていません。これでは何も分からないので、完全な予想になりますがどのような形で直通運転がされるか想定したいと思います。
 
☆運行本数等

 東西線と西武新宿線の直通に関して、実際に交通新聞の報道では「西武新宿発着の一部の列車」を乗り入れと有り、それ以上の具体的な内容は明記されていません。
 只西武新宿線は朝ラッシュ時の運転本数は 10両編成優等16本(本川越発通勤急行2・急行2・準急3、新所沢発準急1、拝島発急行4、田無発準急4)8両編成普通10本(本川越発1・狭山市発2・新所沢発1・拝島発3・玉川上水発1・田無発2) と言う状況です。この輸送力に対して西武新宿・高田馬場乗降人数477,616人に対して、私の想定の東西線乗換客は9万人(18.8%)になります。と言うことは朝のラッシュ時でも毎時26本の輸送力の約2割強の6本程度の乗り入れが輸送力との対比で考えると妥当と言うことになります。(昼間はもっと少ない?只今の段階では判断する材料に乏しく何ともいえない・・・)
 実際には朝ラッシュ時には「田無準急と言う変わった列車」(参考文献ⅰインタビュー内長谷部常務のコメント)が(拝島・本川越方面どちらかへの)輸送力増加時対応用に今も4本残されているので、此れに他の列車が+αで乗り入れる形になるのではないかと推測します。
 この様なダイヤを組めば「中央線から乗客を奪う」と言う目的に合致すると思います。田無準急は中央線との並行区間をカバーしているのでそれをメインに据えてその他に一部の列車(普通は8両編成なので地下鉄線内の輸送力に問題が有るから、残りの列車は中央線と平行している拝島線から回す?)で対応する形が「中央線への競争力」と言う観点から考えるとベターで有ると思います。

☆建設ルート

 この構想が今まで実らなかった大きな要因の一つに「連絡線建設の難しさ」が有った可能性が有ります。高田馬場では東西線は早稲田通りの地下を走り、西武新宿線は新目白通り沿いから山手線を潜り神田川を渡り急曲線・急勾配で山の手線駅と平行同レベルに高田馬場駅を設置しています。その為高田馬場では東西線と西武新宿線は直交しており、路線は地下と高架に離れており此処での接続線建設は不可能です。

 写真Ⅰ 早稲田通り(地下に東西線高田馬場駅)と西武新宿線高田馬場駅
 

 写真Ⅱ 高田馬場駅に向い神田川を渡る西武新宿線
 

 東西線高田馬場駅は2線2面の相対式ホームですが、前に混雑緩和の為にホーム拡幅工事が行われており、駅付近で片側2車線で多少広い早稲田通りの幅員をほぼ使ってしまっています。駅西側はJR・西武の跨線橋の下まで有りすぐ早稲田通り(この上は片側1車線)に沿っての左への勾配付きカーブになっており、そこに分岐線を設けるのは非常に困難です。その為高田馬場を接続駅にして連絡線を作るのはかなりの困難を伴うと言えます。(現ホーム直下にもう一つホームを作る位しか用地をひねり出せない?)
 それにこの時の改良工事がホーム拡幅・ホーム〜コンコース間のエスカレータ新設や階段拡幅がメインであり(今は地上へのエレベーター設置工事が行われている)、地上の西武・JRコンコースと地下のメトロノンコース間の階段等の改良工事が行われなかった為、今でも地上JR・西武コンコース〜地下メトロコンコース間の階段は混雑しエスカレーター等も有りません。その様な余裕の無い現在のメトロ高田馬場駅に連絡線設備を作るのは非常に難しいと言えます。
 
 写真Ⅲ 東西線高田馬場駅ホーム
 

 写真Ⅳ 東西線高田馬場駅落合側状況(線路内の照明がカーブの状況を示している)
 

 ですから連絡線は高田馬場に接着するのではなく、(接着のメリットは捨てがたいが)途中から分岐する方法の方がベターであると考えます。山手通りの下には「地下鉄大江戸線」「首都高中央環状線」が大深度で走っている為に山手通りを横断するような連絡線を作る事は非常に難しいと言えます。

 そうなると連絡線が出来るルートは高田馬場に接着するしないどちらにしても有る程度限られてきます。

(1)高田馬場駅を上下2段式に大改良→JR山手線ガード下から神田川へ方面抜ける細い道(写真Ⅰのガードの先に見える「東京信用金庫」の所に入り口が有る)の下を上下2段式シールド工法で細道路・民有地下を貫く→タカキュー本社脇の踏切の所で西武新宿線に合流し地上に出て下落合駅を目指す。

 写真Ⅴ 高田馬場駅からの細い道が西武新宿線とぶつかる地点(左のビルがタカキュー本社)
 

 写真Ⅵ 上記踏切脇の跨線橋から下落合方向を見る
 

 このルートは接着駅を高田馬場に出来ると言うのが大きなメリットですが、なんせ導入空間が狭いのがデメリットです。シールドで施工するにしてもシールドの発進縦坑と到達縦坑を作る所がありません。スペース的に分岐線だけを作ることも出来ないので必然的に駅の改良も必要になります。その分工費が増すのも欠点と言えます。この案は高田馬場を乗換駅に出来る点が最大のメリットですが、余り現実的とは言えません。

 (2)新井薬師駅〜中井駅間(妙正寺川付近)から南に大きく廻り上高田公園→上高田団地を通り早稲田通りに抜けて東西線と合流して落合駅に至るルート
  地図Ⅰ(2)連絡線ルート概要地図(予想ルート・状況等をPDFにして有ります)

 このルートは「建設のしやすさ」と言う点では一番理想的かもしれません。早稲田通りが片側1車線のため東西線との繋げる場所の建設が難しいですが、それ以外は「片側1車線の道路」「公有地」「河川」等を通る事が出来、民有地も「墓地・寺」等なので地下利用なら何とかなるかな?と考えると一番建設しやすいのではないかと考えます。
 (2)ルートはこの近くの道を私は高田馬場・新宿への抜け道によく利用します。逆に中野通り・山手通り以外の南北を抜けれる道がこの道と小滝橋通り以外に殆ど無いのがこの周辺の実情です。(小滝橋通りに関しては「西武線との接続地点の土地が見出せない」「下水処理場の下を通らないと線形が悪い」等の理由から今回は除外)特に(2)ルートは丁度谷間の地域であり多少は人口集積も低く通行量も少ないと言う状況から、連絡線建設には建設しやすさの点からベターな地点かな?と考えています。

 写真Ⅶ 連絡線・西武新宿線接続予想地点
     (今電車が写っている先の辺りを買収・拡幅して高架で連絡線を分岐させ南下させる)
 
 
 写真Ⅷ 西武新宿線・妙正寺川交差地点
    (左側第五中学・右側上高田公園の用地を使い南に向わせる。先の左側の赤屋根のマンションは要撤去)
 

 写真Ⅸ 地下トンネル開始地点
     (マンション2棟の先が崖になるので高低差を利用し地下に入れる。右が要撤去マンションでネック1)
 

 写真Ⅹ 民有地地下通過地点
     (左側の建物が曲線に引っかかるが、公務員住宅の為撤去・工事は容易だろう。奥の左右は墓地)
 

 写真ⅩⅠ 早稲田通りに出る手前の道
    (片側1車線の生活道路だがシールド工法で抜けるしかない?此処がネック2)
 
 
 写真ⅩⅡ 早稲田通り(下に東西線が走る)
    (片側1車線で開削で東西線との接続工事をするには道路幅員が足りない?此処がネック3)
 

 写真ⅩⅢ 東西線落合駅
    (島式ホームだが、上の早稲田通りの道路幅員にあわせホーム幅も狭い)
 

 写真ⅩⅣ 東西線落合駅から中野側を見る。
 
 
 この様に私がよりベターだと見た(2)の連絡線建設予定地についてざっと紹介しましたが、此れでも問題は山積していると言えます。しかし他の所には導入空間の道路や空地・公有地すらありません。この土地も写真⑨の所が「上高田4丁目団地」ですが、現在立て替えが進んでいます。写真の空き地の向かい側も既に都営住宅の「建設のお知らせ」が立っていました。この空き地を上手く使えば支障の都営住宅やマンションも立て替えは可能ですが、それも開発着手前で空き地が多く有る今だけです。
 はっきり言って「非常に建設が難しい」連絡線です。落合周辺は戦前から住宅開発が進んでいた地域ですから、昭和39年の東西線高田馬場〜九段下間開業時にはこの上高田の谷間の地域等の特殊な地域以外は住宅がかなり密集していたと考えます。その様な事も有り東西線と新宿線の乗り入れは進まなかったのかも知れません。
 この上高田地域を貫通する今回私が考えた連絡線ルートは「最後の連絡線建設予定地」と言えるかも知れません。都営団地の開発等を考えると連絡線建設に向けた残された時間は多くありません。


 ● 避けなければならない問題 〜西武有楽町線の失敗を繰り返すな〜
 
 最後になりましたが、今回の東西線・西武新宿線直通運転は実現すれば、「西武新宿線の起死回生策」になる可能性は高いと言えます。しかしその段階で一つクリアしなければならない問題が有ります。それは運賃計算の問題です。つまりは「高田馬場を運賃計算境にしないと上手く旅客は移転してくれない」と言う問題が有ります。
 此れで問題になったのは西武有楽町線を介した西武池袋線とメトロ有楽町線の乗り入れです。この時は「行きは直通運転で西武有楽町線経由・帰りは池袋乗換で座って帰る」と言うようなパターンはダメでした。その為自動改札の普及していない昔は(今は出来ないが)「池袋経由の定期を買って直通を使う」と言うパターンが良くありました。
 今回の場合(1)乗り入れルートで高田馬場に直接入ってくれた場合、メトロで降りても西武で降りても同じ高田馬場駅で計算するしどちらのルートでもOKと言う事が簡単に出来るので問題ありません。
 しかし問題が発生するとしたら(2)のように連絡線が落合で接続する、つまり西武有楽町線と同じ様な状況になる場合です。この場合有楽町線直通時の前例が有る以上、根本的にルールを見直さない限り運賃計算の特例等で簡単には解決できないと思います。けれども落合経由の運賃計算でないと直通運転利用は認めないとなると、列車本数を多く廻す事が難しい直通運転に利用者が流れ辛くなります。そうなると直通運転の効果は半減してしまいます。この様な制度上発生する不便はなんとしても避けなければなりません。
 けれども今やパスネットではどの様な経路を辿っても正しく運賃収受が可能ですし、今後はパスネットがICカード化される事が決まっています。この様なシステムを使えば昔と違い「何時何人がどのルートを使った」と言うことは簡単に把握可能です。把握が出来れば「定期は両経路利用可能にして運賃を比率で按分する」と言う事が可能になります。問題なのは定期だけなので、この様な事が出来る特別定期券を発行しても良いと思います。(この様な定期に手数料的な小額の割り増し(月当たり100円程度?)を付けても良い)
 ハード面の整備も肝心ですが、合わせてソフト面の整備も重要です。そうしないと上手く乗客が転移してくれません。特に今回は輸送力増強より利便性向上が主眼なのですから、特に利便性を損なう様な事は避けなければなりません。その様な事に関する過去の教訓は生かさなければなりません。


 私も西武新宿線は学生時代の通学路線でしたし、今も西武の沿線に住んでいるので今回の「東西線・西武新宿線直通運転」と言う構想は「有れば良いな」「でも実現できないだろう」と思っていたことです。今回の様な事が噂や妄想を脱し実現へ向けて動き出した事に関して驚きと同時に「西武もやっと本気になってきたな」と言う感じになりました。
 今まで西武は「鉄道事業に熱心でない」「複々線も連立も相互直通運転も遅れた会社」と言うイメージが強かったですが、此処10年で池袋線は複々線・連立・直通運転どれもが進んでいます。その為新宿線の状況に歯がゆく思ったことも有りますが、今回の事をきっかけに特に地域を分割している中杉通り・中野通り等の立体化等の新宿線の問題点も解消される様に動き出してくれる事を願って止みません。


 ※参考文献
 ⅰ)鉄道ピクトリアル92年5月増刊号「西武鉄道」(主に大東文化大今城教授と西武長谷部常務のインタビューを参考)
 ⅱ)鉄道ピクトリアル02年4月増刊号「西武鉄道」(主に大東文化大今城教授と西武小柳常務のインタビューを参考)
 ⅲ)鉄道ピクトリアル05年3月増刊号「東京地下鉄」
 ⅳ)鉄道ピクトリアルアーカイブスセレクション4「東京圏国電輸送1960-70」
 (特に国鉄本社運転局客貨車課小林喜幹氏著の「国鉄中央線・営団5号線の相互直通乗り入れ」を参考)





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