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茨城交通湊線存続問題



TAKA  2007年10月 7日





 和寒様がご紹介頂いた茨城交通の第三セクター化による存続決定は、本当は自分のサイトに書いた「 「銀行管理」でローカル線も整理されてしまうのか?−茨城交通・湊線− 」のフォローを兼ねて一度纏めたい事ですが、時間も無くなかなか纏める事が出来ません。ということで、今回は茨城交通の話を感想を含めて「さらり」と書いて見たいと思います。



 ☆茨城交通湊線存続のスキーム

 このことに関して私が知ったのは、 9月28日付の毎日新聞 でしたが、此方には存続のスキームに関して大体纏めてありました。(以下要旨抜粋)

  ・茨城交通湊線は茨城交通とひたちなか市出資の第三セクターで存続。08年4月運行開始を目指す。
  ・新会社への茨城交通と市の出資金は1対1を想定。市の出資部分は市民有志や法人による寄付や出資も考慮。市
   の出資額の3分の1程度は県が補助。
  ・安全運行に不可欠な設備投資として試算した5億4000万円は、国の鉄道・軌道近代化設備整備費補助制度を活用、
   国、県が3分の1ずつ負担し残る3分の1は市が補助制度を創設し公的セクターで全額負担。
  ・茨城交通は5カ年で鉄道運営で1億1000万円の経営支援が必要との試算に対し、県と市が路線維持費や電路維持費
   などの修繕費を補助し市は固定資産税相当額の補助もする。
  ・茨城交通湊線最大の収益事業の光ケーブル事業者に敷地を提供している収益事業は新会社に組み入れる方向。

 正直いって「官の主導下での典型的なスキーム」といえるでしょう。基本的には今まで色々な地方のローカル鉄道で存続へ向けて作られたスキームと大筋では変わらないといえます。



 ☆このスキームについての評価は?

 このように決まった湊線存続のスキームでしたが、基本的にひたちなか市が存続に向けて力を入れていた以上、「ひたちなか市の応分の負担」はある意味当然ともいえますが、補助制度を使いつつ茨城県も間接的に補助を与える形となっており、同時に茨城交通も不採算の鉄道事業と採算事業の光ファイバー事業者への敷地賃貸事業も第三セクターに合わせて供出というように、当事者である茨城交通・ひたちなか市・茨城県が「応分の負担」をするという「バランスの取れたスキーム」となっているといえます。その点は評価に値すると思います。

 如何なる形であれども「銀行管理下企業の不採算事業」という極めて危ない立場にあった茨城交通湊線が、地域の公共交通を担うのに安定した形での存続へのスキームの下で運営が出来る様になったことへは、率直に評価してもいいと思います。

 加えて当事者の茨城交通にも出資を求め「関係者に留めた」ことは、並行して存在するバス路線との関係を考えても、湊線の将来を少しでもバックアップする体制であるといえます。

 こう考えれば今回のスキームは「官が主導で作るスキーム」の中では、今出来る一番良い形といえるのではないでしょうか?

 

 ☆今後の課題は?

 今後の課題は湊線の将来に関して「これがゴールでなくスタートである」という点に尽きると思います。民主主義の制度的には上記のスキームの補助に関して「民意の洗礼を経た首長が決定したこと」ですから、茨城県民・ひたちなか市民の民意は反映しているといえます。加えて上記補助の予算について市・県議会の承認の上で決められるものですから、民意で選択された民意の代弁者である議員の承認を経ている以上、制度的に動いた反対の市民運動が制度的に成立しない限り「民意が決定した湊線存続」と胸を張っていえると思います。

 ただし『「なくなったら困ります。(市の)負担は仕方ないと思う」「地元の足として必要だ」』という意見がある反面、『「車で移動する人も多いし、運賃もJRより高く、今後は厳しいかもしれない」「なくなると不便だが、ほとんどバスにしか乗らない」』(『』内は 毎日新聞記事 より引用)というように、市民は消極的賛成が多く実体は賛否両論に近いという実情もあります。

 しかも存続へ向けての実際の市民活動の盛り上がりも欠けている感じがします。湊線存続についての活動をしている「 おらが湊鐵道応援団 」も盛り上がっているようには見えませんし、「官製の市民活動」的な香りのする団体ともいえます。このような活動が上滑りして実際の市民の支持・利用が根付かないと、「利用者の減少」という形で「不信任」が湊鉄道に突きつけられかねません。

 湊鉄道の利用客数は今年度は地元住民らの利用促進運動もあり、4〜8月で対前年比0.2%増と下げ止まりの傾向にありますが、長期的に見れば1960年代には300万人を超える利用者がその後下落に歯止めがかからず、06年度は70万828人と過去最低を記録している厳しい状況です。この状況が今後も長期的に続けば幾ら乗客減の継続を前提に事業計画を作っていても、将来再び破綻する可能性も否定できません。

 そのような点から考えると、将来の課題はただ一つ、「如何にして今より湊線を利用して貰えるようにするか?」という点に絞られてくると思います。

 ここまで来れば、とりあえずの存続スキームを作れた以上、如何にしてこのスキームを生かして「地域に根付いた公共交通を作り、地域の支持を得ていくか?」という点が大切になると思います。鉄道は一度無くしてしまえば再生する事は殆ど不可能になります。確かに「バスで十分の需要量しか湊線には無い」という事は出来ます。しかし輸送量に見合うように「バス化」をすれば公共交通を維持できるか?となるとこれはNOということになります。これはフォーラムでも「 鹿島鉄道のその後 」について書きましたが、鹿島鉄道代替バスの現状が示す通り、「バスにすると一層乗客が逸走して公共交通の市ビルミニマムたるバス輸送も維持出来ず」に公共交通の崩壊を招く可能性が高くなるということが出来ます。

 地域交通を維持するためには、どこかで踏み止まらなければならない点があるのではないでしょうか? 「それがどこか」となると個々の事例により異なるでしょうが、湊線の場合その「点」が正しく「今」だったのではないかと感じます。ここで踏み止まって如何にして湊線に人を集め地域に人を集めて地域と公共交通を活性化させるか?が湊線とひたちなか市那珂湊地域の将来を大きく左右するのではないか?と今回のニュースでは感じさせられました。





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