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栗橋接続の意味〜〜一般論から展開する
和寒 2004年10月21日
■まえがき
鉄道に限らず多くの交通機関において、「人」と「人キロ」の持つ意味は異なります。「人」と「人キロ」の意味が異ならないのは、航空など全乗客が同じ区間を乗るモードに限られ、逆にいえば区間毎に乗降があるモードは全て「人」「人キロ」の意味が異なってきます。
例えば東北線列車に上野発時点で千人乗っていたとして、尾久で全員が降車してしまうのと、千人全員が宇都宮まで乗り通すのとでは、同じ千人の乗車でもJR東日本の収入には大きな開きが出てきます。意味の違いとはそういうことで、要するに収入が違ってくるのです(その割には「人」にこだわる統計や報道がいまだ多いのは解せないが)。 だから各交通事業者は、なるべく多くの利用者に、なるべく長い距離を乗車してほしいわけで、まともな会社組織であれば、そういう本源的な希望に沿った戦略なり戦術なりを立てるはずです。
ここまでが、いわば一般的な原則です。
ところで041011で指摘があったように、鉄道利便性と沿線人口推移との間に明確な相関があるかどうか、立証することは極めて困難です。ニワトリ卵の世界でどちらが先行事象か断定しにくいこともありますし、それ以上に、人口や地価を説明する要因はあまりにも複雑多様だからです。少なくとも、鉄道利便性のたった一要因だけで沿線人口推移を全て説明できる、とみなすのは明らかに無理があります。
しかしながら、鉄道利便性と沿線人口推移との間には、なんとなく相関性が認められることも確かです。近年の人口推移は「西高東低」と呼ばれていますが、大手私鉄のうち「勝ち組」が西側、「負け組」が北〜東側に集中しているなかで、より有効な利便性向上施策を打っているとされる事業者が西側に集中していることは、極めて示唆的といわざるをえません。
立証は事実上不可能であっても、厳密な論拠がなくとも、なんとなく相関性があると皆が認める事象はほとんど公理のようなものです。
利便性向上に積極的な鉄道事業者とは、かような機微をわきまえて、沿線人口増加や駅勢圏拡大に対して熱心であると考えられ、それはより高いモチベーション−−競争があるとより真剣に業績向上を図る必要に迫られる−−に支えられているといえます。これも実はニワトリ卵の世界だったりしますが、ともあれ、競争と利便性向上の間にはそれなりに相関性があるとはいえます。
■足の長い利用者を育てるJR
ここで、通勤輸送における直接的な競争相手が(現在のところ)存在しない東武伊勢崎線では、北越谷まで複々線化が完成したとはいえ、遠近分離が中途半端であり、かつ供給されているサービスはどちらかといえばミニマムサービスに属するもので利便性は必ずしも高くない、という点を指摘しておきたいです。
東武伊勢崎線沿線では、今日でもマンション新築が相次いでおり、それなり盛況であるようです。しかしそれは草加あるいはせいぜい越谷くらいまでで、ほとんどの物件は都内に集中している。夕夜の日比谷線直通に乗るとよくわかりますが、五反野・梅島・西新井で大量の下車があり、埼玉県内に入ると車内はかなり空いてしまいます。準急はもう少し北まで混みますが、JRほどの縦深性はありません。
以上のとおり、東武伊勢崎線には相応の利用者数(人)はあっても、全般に短距離利用者が多く、収入(人キロ)はさほど高いとはいえません。これは企業経営上、面白い要素ではありません。
そして、住宅地としての「埼玉県」が持つブランドイメージはとりあえず措くとしても(実はほとんどこれだけで説明できてしまうのかもしれないが)、短距離利用者が太宗を占める理由の一つに、準急の利便性(速達性)がいまひとつ、という点を挙げてもよいでしょう。準急がより速ければ、利用者にとって物件の選択肢は広がるわけで、より長距離を乗車する層が確実に増えるはずです。地域間競争に優位に立ち、沿線人口と長距離乗車がともに増えるならば、「人キロ」は相乗的に増えるわけで、業績向上につながるといえます。
この戦略を忠実に実行しているのが実はJR東日本で、その典型例が京葉線の通勤快速であり、あるいは中央線快速の大月直通とびゅう桂台開発だといえます。
■湘南新宿ラインの意味
ようやく本題に近づいてきました。
湘南新宿ラインに関する投資は、すくなくとも東北・高崎線側では消極的なものです。なぜなら、その主目的が「埼京線の混雑緩和」にあるからです。
埼京線赤羽−池袋間には、東北・高崎・京浜東北線からの乗換が集中するため、今日もなお殺人的なラッシュが存在しており、この混雑緩和は緊急の課題です。ところが、十条駅両側直近に踏切があるためホーム延伸はままならず、現状でも既に「開かずの踏切」であるのをさらに悪化させられないことから増発もできずと、埼京線そのものの改良は困難です。そのため、貨物線を活用してバイパス的に増発・増結し、埼京線の混雑緩和を図るというのが、湘南新宿ライン東北・高崎線側の持つ意義です(10月14日付交通新聞記事でのJR東日本営業担当部長インタビューによる)。
ところがこれを実現するために、池袋駅の配線変更(立体交差化)などの投資を必要としています。十条駅付近を自社事業で立体交差化するよりましだとしても、これは決して軽い投資とはいえません。
よって、20041011に示されているように「せっかく投資した設備を最大限に活用」するという発想は、当然にありうる話です。栗橋で東武に接続し、日光線に直通しようというのは、その線で考えるとかなりわかりやすくなります。
■栗橋接続の真の狙い
ではJR東日本の真の狙いはどこか。以下は推測としてお考えください。
第一義的には報道のとおり鬼怒川・日光直通特急の運行にあるのでしょうが、これだけでは必ずしもおいしくありません。「きぬ」「けごん」の全数が新宿発着となれば相当な収益源となりますが、そこまで需要を育てるまでがまずたいへんですし、そもそも東武側も全数を渡したくはないでしょう。
ところでここで、東北線大宮−土呂間の断面交通量は栗橋−古河間では3割ほどの水準まで落ちてしまうことから(都市交通年報による)、この方面での利用者実数・乗車距離を伸ばしたい、というのがJR東日本の本音でしょう。
その観点からすれば、東武日光線は未だ手垢のついていないフィーダー路線といえます。ここに梃子入れして、東武日光線沿線に新たな人口が定着し(東京都心はさすがに遠いが大宮・浦和付近ならば充分に通勤圏内)、利用者実数・乗車距離が伸びれば御の字、観光客から特急料金がとれればなおけっこう、というところでしょうか。
つまり、すぐに具体化しないまでも、将来的には普通列車の直通をも想定されていると考えられます。そうでなければ 700mもの接続線を敷く(※)理由など見出しにくいです。
ひょっとすると、そのうち新宿駅で、「次の列車は湘南新宿ライン新栃木行です」などというアナウンスが聞けるのかもしれません。それくらいの「夢」があるからこそ、東武ばかりでなくJR東日本も積極的になっているのではないでしょうか。
■補足〜〜現地調査
補足的に栗橋に行ってみました。
まずは、接続線のつなぎ方。最初は立体交差化もありうると考えましたが、これは無理とわかりました。なぜなら、栗橋駅は橋上駅でこれを移設することはありえず、また栗橋駅南方で東武日光線が東北線を跨いでおりこの移設もありえない。両クリティカル・ポイント相互区間で立体交差化するには距離が短すぎるからです。
そうなると平面交差しかないわけですが、延長 700mという妙に長い距離が引っ掛かるところながら、現地を見てなんとなく想像がつきました。
現状のJR栗橋駅は、2面3線(上り線のみ副本線あり)となっていますが、おそらくこれは棒線化すると思われます。上り本線はそのまま。現上り副本線は下り本線になるのでしょう。で、栗橋駅南方で上下線を渡ってきた接続線が、現下り本線に入ると想定されます。つまり、直通列車は現下り線ホームに停車するのでしょう。ホームを離れてすぐに東武日光線側にシフトし、栗橋駅北方で上下線を渡るのでしょう。
接続線の距離は、JR側渡り 200m強+15両対応ホーム 300m+東武側渡り 200m弱と考えれば辻褄は合います。
ちなみに、普通列車の直通もあるとすれば、当初は中央線−富士急行に類似した形態で出発する可能性を指摘しておきたいです。余剰化しつつある 211系編成を活用できることと、夜間滞泊をかねて、朝上り夕下りのみの設定という線が、初めの一歩としては妥当ではないでしょうか。富士急に前例があるのだから、充分にありえるはずです。
なお、栗橋に行った以上は東北線に乗っているわけですが、大宮出発時点では吊革まで一杯だったのが、蓮田で櫛の歯が引け、久喜で立客がまばらになりました。栗橋降車段階では空席が生じたほどで、交通量の段落ちはかなり大きなものがあります。さらにいえば、栗橋で多数降車した利用者のうち、東武日光線に乗り換えた層はごく少数であり、利根川を越える流動の細さが見てとれます。
この細い流動を太くすることは、東武はもとよりのことJRにとってもメリットのあることと考えられます。
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