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すぎ丸最初の正念場
和寒 2005年 2月 1日
■共有できる違和感
動機は異なりますが、すぎ丸の運賃設定に関してはTAKA様と同じような疑問、より正確にいえば違和感のようなものを覚えています。
もともとワンコイン 100円という運賃の設定には、需要喚起・利用促進という意味あいがあると理解しています。ただし、その運賃設定でもしっかり採算をとるのか、それとも赤字必至で運営費補助投入が前提か、というニュアンスの違いはあるといえます。
とも様が挙げた、近距離利用者の利用促進を意識した運賃設定という点は理解できます。一般の路線バスでも、例示された小田急バス(吉祥寺付近)もそうですが、長野市内でも「びんずる」「ぐるりん」が走り回る市街地区間で、長電バス・川中島バスも運賃 100円と設定している例があります。
ここですぎ丸の場合、近距離(鉄道駅からのフィーダー)区間だけが重点ではなく、全区間を乗り通すような、いわば「基幹交通」としての性格もそれなり濃厚にあります。であるならば、乗り通して 100円という運賃設定はあまりにも安すぎる感じがします。路線バスのように200〜210円では高すぎますが(同区間の鉄道運賃と比べ優位といえなくなるので)、 100円では安すぎというものでしょう。都電が 160円、都バス学01(上野駅前−東大構内間)が 170円という設定ですから、すぎ丸乗り通し 150円という設定はありうるでしょう。
■区間制運賃導入の難しさ
以上のような、近距離と乗り通しの運賃設定使いわけが妥当であると、個人的には確信するのですが、実現するにはかなり難しい技術的課題があります。それは運賃収受方法をどうするか、です。
TAKA様が指摘された「バスカードが使えない」というのは、おそらくコミュバスの他の事例に共通する「コスト抑制策」と考えられます。バスカードシステムの機械は相当高価だと聞きますので、その搭載を省いてコストを抑えるということなのでしょう。同じように考えると、すぎ丸に区間制運賃を導入すれば、(一般的には)整理券方式を採らざるをえないですから、その初期投資が負担になる、ということかもしれません。
そもそも、すぎ丸に整理券方式を採ると、必然的に後払いとなって、狭隘路上区間での停車時間が伸びてしまうという問題もあります。だから現状のままでいかざるをえないのでしょう。この問題の解決方法としては、新京成バスなどの「区間制前払い方式」の採用しかありませんが、あまりにも特殊で馴染みのない方式なので、導入はまず無理でしょう。
だから、違和感は伴っても、今の運賃でいかざるをえないのかな、と思えます。
■矛盾多きバス(均一)運賃
TAKA様の指摘どおり、バスの運賃設定には矛盾が多く見られます。最近噂されている例の一つに、「舎人新線では舎人付近からのバスからの転移が少ないのでは?」ということがあります。
冷静に考えてみればさもありなんで、里48で舎人二ツ橋から日暮里駅まで全線乗車しても 200円均一運賃しか課せられません。舎人新線の運賃体系は未確定とはいえ、都バスと比べ倍近い(あるいはそれ以上の)水準に達するでしょうから、価格競争力に欠ける面は否定できません。
長距離区間での均一運賃には、上記のような矛盾が内包されているといえます。普通はかくも長距離を乗り通す利用者は稀、ということで片づけられるのでしょうが、軌道系にステップアップする(区間制運賃と比較する)と、途端にほころびが見えてきます。してみれば、長距離区間では区間制運賃を導入するのが筋でしょう。
■バス運賃はなぜ 200(or 210)円なのか?
TAKA様が主張されたい点を要約すると、
「一般のバス路線ではワンコイン制を導入するのが困難なのに、すぎ丸は自治体の
支援があるから実現している。プロセスが不平等だ」
ということなのだと思います。これは一見もっともなようにも思えますが、実は、それぞれの路線の需要特性による面を見落としているといえます。
なぜ一般のバス路線では運賃が 200(or 210)円なのか。ザクッと大雑把に要約すると、それは「内部補助」のためです。ただし「内部補助」といっても、昨今では不採算路線はだいぶ整理されてますから、路線間の補助ではありません。ラッシュ時の逆方向だとか、日中早朝深夜の閑散時間帯ですとか、「時間帯をまたぐ補助」がその太宗といえます。
大抵の場合、利用者は朝夕など特定時間帯に集中しており、日中はガラガラに空くのが普通です。だからといって日中の運転を間引くと、利用者が途端に逃げることが経験的に知られており、ある程度の運行頻度を確保せざるをえないのです。結果として、日中などでは空気輸送を行うことに耐えなければならない。その負担の原資を、ラッシュ時の利用者に求めなければならないのです。
これと比べ運賃水準が低い路線では、極端に混雑する時間帯がなく、いわゆる「のべつ幕なし」の需要があるという特色があります。すぎ丸はまさにいつも混んでいる路線ですし、バスではありませんが、都電や東急世田谷線の運賃水準が低いのも、需要の時間変動が少ないことと無縁ではありません。
つまり自治体の支援があろうとなかろうと(ただし運営費補助が前提の路線を除く)、需要の時間変動が少ない路線においてこそ、運賃の低水準化が可能であると考えられます。すぎ丸の事例は、かようないわば「おいしい路線」を自治体が主導して開設したという点に巨大な特色があるわけです。即ち、「どのセクターが主導したか」に社会的意味や意義を問うことはできても、運賃水準に直結しているとは実は必ずしもいえない点には、留意してしかるべきかと思います。
■すぎ丸最初の正念場
すぎ丸の場合は、わずかでも黒字になったから良いと一応はいえます。採算をとることを前提したスキームで、低額運賃のまま赤字が続き運営費補助をしているようでは、その方が区民の公平・平等という観点からはよほど問題があります。
一般のコミュバスでは、利用者層が限られ(即ち福祉バス的な意味あいが強く)、どのみち採算がとれない、でも一定の利用者負担も求めたい、ということで運営費補助前提の低額運賃設定事例が多いと聞きます。また、ムーバスでは、駅前放置自転車対策としての路線及び低額運賃の設定であり、駅前に自転車置場を新設するより負担が小さいとの判断から運営費補助が選択された、といわれています。このように個別の政策課題と運賃政策がマッチしている限り、問題とするにはあたらないでしょう。
これらと比べ、すぎ丸の苦しみは今から始まるはずなのです。ワンコイン 100円運賃で、しかもあの小さなキャパで採算がとれてしまったということは、相当激しい混雑が恒常化していると考えざるをえません。道路が極端に狭いですから、コスト面を措くとしても、中・大型車の導入は論外です。増発するにしても、新車導入・スタッフ増員はかなりの増コスト要因になります。
また、黒字を計上しているからには、(部分的にであれ)値上げするというのは、現在すぎ丸を利用されている利用者に対して、合理的に説明するのが難しい、という苦しさも伴います。
これから採算が良くなればなるほど顕在化するであろう、利用者からの混雑緩和要求にどう応えるのか。すぎ丸は最初の正念場にさしかかったといえます。
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