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鮮明な輸送体系変革〜〜東武鉄道のダイヤ改正
和寒 2005年12月24日
■東武鉄道ダイヤ改正 ※本投稿は
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先日、東武鉄道(主に伊勢崎線・日光線)のダイヤ改正のあらましが発表された。沿線住民の一人として筆者は強い興味を持っていたのだが、事前の予想とは異なる点がだいぶ多かった。まずは以下の一覧表を御一読頂きたい。
列車種別 筆者予想(日中ベース) 実際 コメント 半蔵門線直通 区間準急から格上げ
久喜行新設
毎時 3本は現状維持急行(現通勤準急相当)に格上げ
南栗橋行・久喜行が基本
毎時 6本に増発格上げは的中
久喜行も的中
増発は大ハズレだが嬉しい誤算浅草準急 日光線方面は格下げ
伊勢崎線方面は廃止
その代替に北千住行各駅停車設定日光線方面が廃止
その代替に北千住行各駅停車設定
伊勢崎線方面は格下げのうえ久喜で系統分割まったくの大ハズレ
伊勢崎線だけではなく日光線でも系統分割
するとはまったく予想外優等 特急のJR直通開始
「けごん」廃止もありうる
特急の「通勤ライナー」化が進む
快速は格下げ特急の新宿直通毎日 4往復
「けごん」はいちおう存続
現急行転用の「きりふり」新設
快速は大多数が東武動物公園以北各駅停車にJR直通は既定路線
「けごん」は徳俵の上か?
的中だが「きりふり」とはあんまりだ……
快速は現準急なみの格下げもありえたはず
予想をこれだけ外しまくるとは恥ずかしい限りだが、言い訳がましく理由を一つ挙げると、東武鉄道は現状維持を基本線にすると想定したからである。東武伊勢崎線には、私鉄としては全国的に見ても随一の延長を誇る複々線区間がある一方、日中の列車(現準急)は 6連が標準となっている。インフラは明らかに大都市圏対応でありながら、輸送体系には濃厚に地方色が残っていたのが、現状の東武鉄道の流儀といえる。
そして筆者は、東武の経営姿勢はこのダイヤ改正でも変わらないと読んでいたのである。ところがあに図らんや、東武は輸送体系を大きく革めることを表明した。端的にいえば、久喜・南栗橋以南では大都市圏輸送に特化する姿勢を明確にしたのである。
この変化は、都心側の一利用者としてはありがたいものだが、東武鉄道にとっても重要な意味を持つものと考えられる。この点について、主に半蔵門線直通列車を中心として、いささか述べてみたい。
■利用者の流れ
東武伊勢崎線の複々線区間は北千住−北越谷間である。当然ながら、この複々線区間が伊勢崎線で最も混雑する区間である。そして、利用者のうち相当数が北千住で乗り換えていく。日比谷線直通列車ではあまり目立たないものの、準急では若干の立客が残るかどうかというくらい多数が降車する。乗り換える先は日比谷線・千代田線・常磐線など。都心側ターミナルの立地が中途半端な伊勢崎線独特の現象である。
そのため、朝夕のラッシュ時には北千住発着の準急も設定されている。浅草駅ホームが短いため、ほとんどの準急が 6連(一部 8連)で運行されているなか、北千住発着の準急は10連の運行が可能であり、混雑を極めるラッシュ時に大きな輸送力を発揮している。
北千住行10連準急(西新井)
ラッシュ時の輸送力列車といえば、かつては業平橋行10連準急も設定されていたこともある。また、北千住まで10連で運行され、 4連を解放して浅草まで 6連で運行される列車もある。多くの利用者が北千住で乗り換えていく現状を考えれば、とにかく北千住までは長大編成列車を確保することが伊勢崎線の重要な課題であったし、今もそれは変わらない。
営団(現東京メトロ)半蔵門線との相互直通運転開始は、ターミナル立地に恵まれない東武鉄道が、日比谷線に並びうる新たな相互直通路線を求めた結果、と今まで筆者は理解していた。しかしながら、このダイヤ改正の内容を見ると、まったく別の意図があったのではないか、とも思えてくる。
ヒントとなるのは、半蔵門線直通運転開始とバーターする格好で、業平橋行準急が発展的に解消された、という点である。当たり前といえば当たり前の対応ではあるが、今から考えるとなかなか意味深長な含みがあるような気がしてくる。
半蔵門線直通10連区間準急と浅草行 6連準急(曳舟)
■半蔵門線直通運転
半蔵門線との直通運転は、当初あまり期待されているとはいえなかった。冒頭の路線図を見ればよくわかるとおり、北千住−水天宮間での迂回距離が長いため、速達運転しても時間短縮効果が大きく見こめないうえ、運賃面での不利もあった。さらにいえば、伊勢崎線の緩行線には「東武日比谷線」なる通り名があるほどで、日比谷線沿線に通勤することを前提として沿線に宅地を求めた層が多いと考えられるため、半蔵門線直通へのシフトはあまり発生しないのではないか、とも想定されていた。
東急8500系の半蔵門線直通10連区間準急(曳舟)
極めて私的な感覚ながら、筆者は日比谷線のサービスに満足していない。秋葉原−銀座間の迂回距離が長く、しかも急曲線区間が多く介在するため、所要時間が長く感じられる点がおおいに不満なのである。そのため、半蔵門線直通には大きな期待を持ったわけだが、その一方で前述の想定にも一理あると考えざるをえなかった。
実際のところ、運行開始直後の半蔵門線直通列車は、利用者に選好されているとはいえなかった。朝ラッシュ時でも、北千住での大量降車で車内はだいぶ空いた(立客がまばらに残る程度)。日中はさらに閑散としており、曳舟−北千住間では写真のようなさびしい状況であった。この実績を考えれば、半蔵門線直通列車の運行本数が 3本/時(日中)に抑えられたのは、当然の成り行きだったのかもしれない。
半蔵門線直通区間準急車内(曳舟→北千住)
しかしながら、時間が経つにつれて、半蔵門線シフトは確実に進んだ。朝ラッシュ時の北千住大量降車は変わらないが、車内に残る人数が増え、相応の混雑状況を呈してきた。錦糸町で降車する利用者も多く、しかもJR乗換ばかりでなく、およそ半数近くが北口に向かう状況を筆者は見たことがある。おそらくは今まで業平橋を最寄駅としてきた利用者の再配分が進んだものと想定される。日中の列車は相変わらず空いているものの、少なくとも以前よりは人影が増えてきた。
■大都市圏輸送への脱皮
以上の状況を踏まえると、伊勢崎線利用者にとって、現状のダイヤには大きな不満足点があると指摘しなければならない。それは、朝ラッシュよりむしろ夕ラッシュに顕現している現象である。
北千住駅地平ホームで列車を待つ。前の列車から10分経ち、ホーム上はかなり混雑している。そこに到着するのは 6連の準急。準急はまさしく寿司詰めの状況となって出発する。準急より 3分遅れて半蔵門線直通区間準急が到着する。ホーム上の利用者は先ほどと比べまばら、しかも列車は10連と輸送力たっぷり。かくして区間準急は余裕綽々の状況で出発する……。
この現状には明らかに問題がある。現下の準急の混雑を考えれば、せめて春日部あたりまでは10連で揃えておかないと輸送力が充分とはいえない。しかしながら、東武は今まで準急の全面的10連化に踏み切れなかった。浅草のターミナルとしての位置づけ、その一方に存在する厳しい制約条件、さらに群馬・栃木方面への直通列車存置などがあいまって、 6連準急が主役となる輸送形態を改めることができなかった。これは同じ東武鉄道のなかでも、東上線と比べると極めて好対照である。
もう一点挙げれば、半蔵門線直通が利用者にどのように受け止められるか、見きわめがつかなかったということもあるのだろう。押上−曳舟間を新設したことによる負担が重くとも、利用者のシフトが進まなければ、現実はそれに合わせて調整しなければならない。幸いにも半蔵門線直通シフトは進み、かつ準急と区間準急の混雑がアンバランスでもあり、その「現実」に合わせた調整の結果が、大都市圏輸送に特化したこのたびのダイヤ改正につながったものと推察する。半蔵門線直通10連急行を基本に据える大都市圏輸送への変革、それがこのダイヤ改正の本質であると筆者は見る。
快速と準急(鐘ヶ淵)
しかしながら、このダイヤ改正を果たすため、今までのダイヤの良さをも捨てなければならなくなったのは皮肉といえようか。日中のダイヤで伊勢崎線が久喜で系統分割される(※)のは予想の範囲内だが、日光線まで南栗橋で系統分割とは意表を衝かれた。快速は事実上全列車が格下げとなり、東武動物公園以北で各駅停車となる。南栗橋−新栃木間では増発かつ所要時間短縮となり、同区間の需要掘り起こしを図る梃子入れ策である一方、栗橋でのJR逸走をほぼ全面的に許容した方策といえる。
※朝夕ラッシュ時には浅草発着新区間急行が直通するため、実は完全な系統分割とはいえない。
ちなみに、半蔵門線直通の新急行を久喜直通とすることについては、東武の深慮遠謀が感じられ、たいへん興味深い。
ともあれ、東武はダイナミックに方向性を転じた。久喜・南栗橋以南での大都市圏輸送特化、及び以北でのローカル輸送特化。以南については確実に利用者に好感され、成功と評価されるに違いない。だが、以北の展望は必ずしも宜しくない。このたびのダイヤ改正は意図が明確であるために、以南・以北の需要の落差もまた明確にならざるをえないからだ。近い将来東武がどのように変わっていくのか。沿線住民の一人として目が離せない。
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