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年の瀬に寄せて〜〜スケートの話
和寒@編集子モード 2005年12月28日
現在のフォーラム表紙の写真は三代目であるが、そこに盛りこむ写真を選んでいる過程のなかで「犬橇」が出てきたのには、常連諸賢ともどもおおいに笑わせて頂いた。上段の右から四枚目のコマがそれである。確かに極寒地の交通手段ではあり、洒落っ気もあるので、文句なしの採用となった。
犬橇の駆動機構は犬という動物の走る力である。そして、進行方向の制御は人間が司ると同時に、メカニズム的には橇がガイドする。橇はスケーティングということで、極めて強引なつなげ方であるが、年末にあたってスケートの話をしてみたい。
年が明ければトリノ冬季五輪が開催される。日本代表も人選が固まりつつあるが、特に女子フィギュア・スケートは稀に見る大激戦であった。
今年の話題の中心は、なんといっても浅田真央であろう。とにかく、可愛らしい。この可愛らしさは天賦の恵みというしかなく、老若男女いずれにも通じるものがある。また、運動能力・表現技術ともに高い水準にある。運動能力の高さは、史上初の2回のトリプル・アクセル成功、片手でのピールマン・スピンなど枚挙に暇がなく、まさに世界に通じるものがあるといえる。表現技術は、バレエの素養がしっかり身についているのであろうか、情感も豊かであり、村主の後をも襲えるかもしれない。
浅田真央が素晴らしいと思えるのは、表演を終えた後の笑顔にある。「なにかを表現し尽くした」満足にあふれた高揚の笑みは、フィギュア・スケート選手の持つ特別な資質をよく示している。
村主章枝は故障明けがたたり、今シーズンは間に合わないかと危惧されたが、土壇場で底力を発揮した。「泣き顔」村主の表演はまさに情感豊かで、見ていてもぐいぐいと魅きこまれてしまう。当然それは高い運動能力に裏打ちされており、全日本最後のスピンにはまったく痺れた。観客を酔わせるなにかを、村主は確かに持っている。
中野友加里は、不覚にも今までよく知らなかったのだが、一度その表演を見た瞬間魅きつけられた。中野のスピンは凄い。フィギュア・スケートは複数の技を組み合わせて表現する競技であるが、仮に「ジャンプ禁止」という制限をつければ、中野が最も良い表演をするかもしれない。五輪に出られないのは惜しい。
男子の高橋大輔はそのステップだけでも見る価値があるが、このように特徴のある選手は強いし、華がある。浅田真・村主・中野は、特徴のある選手という意味において卓れている。
荒川静香は、浅田真・村主・中野と比べてしまえば特徴が際立たないものの、よく表演をまとめ上げている。闘志あふれる姿はまさにスポーツ選手そのもの、しかし荒川の場合はそれが良い方向に作用しており、表現技術も高い。インタビューの応対もしっかりしており、五輪での活躍が期待される。
安藤美姫は、表現技術が高まり成長著しいものの、まだ運動能力に頼り切っている傾きがある(男子では本田武史にその傾向がある)。かつてカタリナ・ビットが伊藤みどりを揶揄して「観客は素敵なゴムまりよりも素敵な女を見にくるものよ」と言ったというが、それは実は安藤にもあてはまる。安藤の表現には、決定的ななにかが足りない。
フィギュア・スケートの技はいずれも高度で、例えばスパイラル・シークエンス一つをとってみても、よほど高い運動能力とたいへんな鍛錬を経なければこなせないに違いない。そして、安藤ほど綺麗なスパイラル・シークエンスを滑れる選手は少ない。しかし、今の安藤の表演は見ていてちっとも面白くない。
浅田真・村主・中野・荒川、そしてここではコメントしないが恩田美栄や澤田亜稀などには、インタビューの際にもオーラが出ている。それに比べ、安藤のオーラのなんと薄いことか。二年前の安藤本人と比べてさえ薄れているから、深刻だ。自信が揺らいでいるのか、目標を見失ったのか。安藤は間違いなく日本の第一人者なのだから、トリノでは是非にも頑張ってもらいたいものだが、残念ながら全日本翌日のインタビューを見る限り期待できそうにない。
そしてもう一点。フィギュア・スケートの世界は、二十歳になるはるか前から第一人者にならなければ通用せず、二十代になればもはやベテランと呼ばれてしまう。実年齢に心の成長をどう追いつかせればいいのか。追いつくことができるのか。なんとも過酷な資質を要求する競技、それがフィギュア・スケートなのである。
最後に挙げたいのは、浅田舞。あるテレビ番組で「女らしさは姉スケートの実力は妹」と姉妹ともに認めていたのが興味深かった。おそらく浅田舞は、妹にはもとよりのこと、五輪代表を争う誰にもかなわないと自覚していたはずだ。実際のところ、順位は第8位。澤田の下位に甘んじた。しかし、浅田舞は持てるものの全てを出し尽くして表演を終え、爽やかな笑顔を残した。
長い人生の道筋には、どれほど頑張っても、真摯に努力しても、決して報われない局面がままあらわれる。そんな局面にどう対処するのか。人生を生き抜いていく人間の永遠の課題であろう。浅田舞の表演は、結果が見えていても最善を尽くすという意味において、人生の手本を示したといえる。
それは実は全日本という舞台そのものにもあてはまる。今の女子フィギュア・スケートのレベルは高く、稀に見る大激戦となったが、どれほど実力がありかつ個性があろうとも、争う限りは順位がついてしまい、必ず誰かが一位になり、必ず誰かが選から漏れてしまう。なんと過酷な結末、しかしそれが人間社会の縮図でもある。多くの敗者の涙の上に、栄光は輝く。
最後にまったくの余談だが、個人的には白原六花&北里吹雪ペアの「ドン・キホーテ」、及び梧桐陣の「ジュピター」を実写版で見てみたかったものだが、いつか実現しないものだろうか(笑)。
(このネタの出所がわかる方はフォーラムの読者層にいるかなぁ?)
冒頭ではフィギュア・スケートと交通を無理矢理関連づけてみたが、正直にいえばただのこじつけである。しかしながら、交通というものは、歴史・地理・文化・風俗・芸術・技術・戦略・貿易・経済・経営、そして人間の夢・欲・希望など、人間社会のさまざまな要素と関連している。それゆえにフォーラムでは「人文領域」というカテゴリーも設けている。今年一年の話題では阪神買収問題が採り上げられたのが典型で、これは経営に企業戦略、それにスポーツさらに興業という要素も絡む、たいへん幅広いテーマであった。
交通を論じるにあたっては、テクニカルな専門性を求められる局面もある一方で、人間社会に幅広く通じる普遍性が最も求められるといえる。このフォーラムのように、立場や履歴の異なる方々が集まる場では尚更のこと。フォーラム開設以来、なかなか良い立論ができたと思っているので、今後も質の高い論を呈示して頂ければありがたく思います。
それでは皆様、よいお年を。
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