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蛇足レビュー



和寒  2006年 1月15日









■人口はあるけれど

 日本は、ただでさえ人口密度が高いうえに可住地面積が狭いために、見た目の人口密度はさらに高いという国です。外国に旅行すると、風景の違いから日本の人口密度の高さがよくわかります。平野部にいて目に見える範囲に必ず住宅が見えるという国は、そうそうありません。

 群馬県南部の人口密度は、そんな日本の平均的な位置にあると思われます。というよりも、東武伊勢崎線の沿線でいえば、草加以北の状況がそう大きく変わるとはいえません。それなのに片や10連化が進み、片や系統分割や短編成ワンマン化が進むのはなぜか。端的にいえば、利用者の流れが集約されるかどうかにつきます。

 首都圏に人口が集中するにあたっては、高層住宅を中心としたコンパクトな都市構成にはならず、鉄道による(ある程度以上長距離の)通勤輸送を前提として低層住宅が郊外に展開されたという、世界的に見て特異な経歴を経ています。そのため、郊外から東京都心へ通勤するという太い流れがあります。それゆえ、駅勢圏がやみくもに広い。バス路線が接続してもいますし、そうでないところは自転車でアクセスされ、広範囲から多数の利用者が集まる形になっています。

 これに対し、群馬県南部(あるいは栃木県南部)にこのような太い流れがあるかといえば、状況は異なります。通勤の目的地が幅広く分布しているはずです。そういう地理では、いくら人口があっても利用者の流れが集約されず、公共交通なかんずく鉄道が成立するかといえば、極めて厳しいものがあります。



■東武鉄道の歴史的経緯

 とはいえ東京都心への遠距離通勤、あるいは県都前橋や高崎への流れは相応に太く存在するでしょう。ただし如何せん、既に指摘されているとおり、東武鉄道伊勢崎線の歴史的経緯により、路線の向きがそのような流れに対応していません。

 東武鉄道は、大手私鉄では実は少数派なのですが、地域間輸送−−貨物輸送−−を中心に輸送体系を構築してきた歴史があります。日光街道沿線や両毛地域の物産を東京に運ぶ、という路線構成です。東武鉄道開業当初、東京都心直通は隅田川に阻まれましたが(当時荒川放水路は存在していない)、北千住すぐ南側の足立市場に乗り入れることにより充分目的は達していたのです。群馬南部に視点を移してみれば、佐野線や小泉線も貨物輸送に対応する支線であり、そのほか既に廃止されている貨物支線もいくつか存在していました。

 利用者の流れが集約されないうえに、以上のような路線構成では、鉄道経営は難しいといわざるをえません。埼玉県以南では東京都心への通勤流動が伸びたため、鉄道の特性を発揮できる状況になっていますが、以北では状況がまるで異なります。今までの私の筆法ですと、単純に「無理」と突き放しているところですが、この議論でせっかく想を得て、また現在鉄道路線が営業していることも確かなので、「今の状況でも鉄道経営を安定的に続けられる方策はないか?」と問題提起しておきたいと思います。もっとも、これは皆様に対する問題提起というよりも、私自身への自問自答に近いかもしれませんが。



■利用者ニーズの把握

 たいへん良い論点です。この一点だけを採り上げても、価値の高い議論になったように思われます。

 私の感覚からすれば、東武を含め鉄道会社は「利用者ニーズを把握しているのか」以前に「利用者ニーズを把握しようとしているのか」との疑問を持たざるをえない段階にあると思います。

 例えば、有料特急ひとつをとってみても、このたび深夜下り「きりふり」が設定されることからわかるとおり、通勤ライナー的ニーズが存在することは明確です。しかし、上りに同様の列車がない(このダイヤ改正でも設定されない)のは何故なのか。まったく理解に苦しみます。完全な片方向ダイヤでは採算をとることも苦しいでしょうし、その点でも理解できません。

 あるいは、東武動物公園以南の区間では各駅停車がきっちり10分毎に設定されています。亀戸線や大師線のような支線でも同様です。これは利用者にとってはありがたいサービスですが、利用者が本当に望んでいる運行間隔が、15分なのか12分なのかそれとも 7分30秒なのか 6分なのか、ということは必ずしも明確ではありません。

 その一方、野田線柏−運河間では 7分30秒毎の運行間隔になっている。勿論、単線区間の15分毎ダイヤに合わせるという制約はあるとしても、明らかに需要が(相対的に)少ない区間に対し、より高いサービスを提供している意図は不明確です。

 こうしてみると、利用者ニーズにマッチするというよりも、ミニマム・サービスの提供にとどめているのではないか、とも疑いたくなります。もし本当にそうであれば、商売というよりも社会的奉仕に近い世界で、それはそれで会社の負担が重いといえます。

 群馬県南部についても同様ですが、利用者が満足でき、かつ企業経営が成り立つ、双方にとって幸せなシナリオを描く必要があるように思われます。勿論そう簡単に答が出る話ではないのですが、需給調整規制が撤廃されたとはいえ「つまみ食い」「いいとこどり」が社会的に許容されているわけではないので、利用者・鉄道会社双方にとって重要なことになると思われてなりません。





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