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「常識の実現」に戸惑い〜〜東武鉄道ダイヤ改正短信



和寒  2006年 4月23日





■意外な連動

 東武伊勢崎線がダイヤ改正を行うためには、当然ながら相互直通相手のメトロ半蔵門線及び東急田園都市線とのダイヤと連動する。事前に特段の情報がなかったため、半蔵門線のダイヤにはほとんど触れないという予断があったのだが、実は大きな変化があった。

 急行久喜行久喜行メトロ8000系急行(錦糸町)

 半蔵門線の日中ダイヤは従前 6分間隔の運行であったのが、改正後は 5分間隔になっていたのである。半蔵門線内相互の利用者にとっては大きな差としてとらえにくい変化ではあるが、所要の運用数が増えるという意味において、かなり思い切った施策といえよう。隅田川以東の利用者数の段落ちは清澄白河折返で調整する格好で、清澄白河−押上間では運行間隔が10分となることもある。あるいは、渋谷−三越前間の利用者数が日中でも相当に増え、その一方隅田川以東の利用者数があまり伸びていない、といった実態を反映している可能性もある。ともあれ半蔵門線ダイヤが 5分単位となったことで、10分単位が基本の伊勢崎線ダイヤとの整合が良くなった。





■上り朝ラッシュ

 利用者の流れというものは一朝一夕にして大きく変わるわけではないが、それでも以前と比べれば「だいぶ変わったなあ」という印象は伴う。

 浅草区間急行 北千住区間急行 半蔵門線直通準急
 左:東武 10030系他の浅草10連区間急行    中:東武8000系の北千住10連区間急行    右:東武 30000系の半蔵門線直通10連準急
   (後方 4連は北千住切り落とし)                            (いずれも西新井)

 まず、やってくる列車がことごとく10連という安心感はかなり大きい。勿論、北千住口ではどうしても混雑率 150%を超えてしまうとしても、短い編成に寿司詰めという事態はかなり少なくなったと見てよい。今まで6〜8連の浅草準急が半蔵門線直通10連に変わったことで、輸送力は大幅に向上した。

 また、以前にはまったく見られなかった利用者の動きが認められるようになった。上の3葉の写真は、浅草区間急行→北千住区間急行→半蔵門線直通準急の順で出発しているが、北千住区間急行を見送って半蔵門線直通準急を待つ利用者が少なからず見受けられたのである。半蔵門線直通が選択肢としての地位が上がったと解釈できる現象で、注目に値するところである。

 ちなみに半蔵門線直通列車の混雑状況は、筆者が試乗した(平日朝 7時台)ところでは、西新井出発時点で混雑率 150%弱、北千住到着時点で一旦50%強となるほど降車があり、直前の北千住区間急行などから受けた乗車とあわせ 100%弱程度で出発、曳舟からの乗車で 100%強、という具合であった。北千住での乗降のバランスがなんとも絶妙で、輸送力確保と混雑平準化という二つの命題に充分対応していると感じられた。

 また、ラッシュ時専用の輸送力列車には8000系など旧型車が集中的に充てられており、車両の「使いこなし」が巧いとも感じた。ただしこれは、ダイヤが旧型車の性能に合わせられていることの裏腹でもある。8000系は確かに名車であるが、加減速性能も最高速度も今日的水準からは劣る車両であり、都心側は新型車両に統一したいところだ。





■日比谷線の比重は?

 ちょっとした驚きが伴ったのはこの列車。

 普通北千住行北千住行東武 10000系普通(竹ノ塚−西新井間)

 週末とはいえ朝のうちである以上、東武動物公園や竹ノ塚などから列車を送りこむ必要のある時間帯だというのに、日比谷線直通列車の数はむしろ少なく、何本か北千住止まりの普通列車がやってきた。日比谷線に直通する利用者が少ないという実態に合わせたのか、列車運用の全体の都合に合わせただけなのか、たいへん興味深いところである。





■下り夕ラッシュ(直前)

 撮影のため陽光がある時間帯での観察となったが、極めて興味深い状況が見てとれた。

 太田区間急行 久喜急行 久喜急行
 左:東武8000系の太田 6連区間急行    中:東急5000系の久喜10連急行    右:東武 30000系の久喜10連急行(いずれも梅島)

 半蔵門線直通の急行は、全般に空いていた。まだ夕ラッシュには早い時間帯とはいえ、先頭と後尾は立客が少なく、中間車と合わせ均しても混雑率は高々90%程度というところだろう。こんなに空いていて東武の経営は大丈夫なのか、と不安がよぎりかねない状況といえる。

 もっとも、以前の 6連に単純換算してみれば混雑率は 150%に達する。それを定員乗車に近づけたという意味において、東武のサービス水準向上にかける良心は実に素晴らしいと評するしかあるまい。

 その一方で、定員乗車という交通事業の「常識」が実現しただけでたいへん良い出来事と受け止められてしまうとは、利用者としてはよほど「馴らされた」という感覚が伴う。そもそも「定員乗車」といったところで立客(吊革)定員を含めてのことで、着席可能な利用者は定員の五割を切るのだ。日本全体の人口が減少に転じた今日になって、ようやく「常識が実現」しつつあることに、複雑な思いを禁じえない。





■快速列車

 ある意味において、このたびのダイヤ改正で最も象徴的な列車である。

 快速 区間快速
 左:朝のうちに残る快速(西新井)    右:区間快速(梅島)

 快速をほぼ全面的に格下げしたことは、東武が如何にその意義を強調しようとも、栗橋以北利用者のJR逸走を許容したとしか考えられない。しかしながら、東武動物公園以南の利用者にとっては、今までとはなんら変わっていない点に留意する必要がある。また、どのみちダイヤ改正前の準急では栗橋で逸走していたわけだから、五十歩百歩という判断もあったかもしれない。

 野岩鉄道沿線への観光客の受け皿としても、日帰りであればかなり早い時間帯の列車を選択せざるをえないという状況がある。筆者は以前、浅草から東武日光行始発準急(快速車使用)に乗車した経験があるが、早朝ゆえに利用者数じたいはまばらであっても、その相当部分を観光客が占めていたものである。どのみち鬼怒川のように単独で特急を仕立てられない(需要の絶対数が少ない)不利は否めず、JR直通特急による掘り起こしに期待したくなる発想は理解できる。

 以上のように考えれば、快速格下げは最善手とまではいえないにせよ、試行錯誤としてはまずまずの線といえよう。ただ、中長期的に考えれば、更新車が主力というのは明らかに遜色がある。ダイヤ構成上も明らかに苦しいところであろう。ならばいっそ、区間準急を北千住・越谷・春日部・東武動物公園停車とし、輸送力調整とダイヤ構成上の性能調整を同時に図ったうえで、うち毎時一本を日光線に回す(出来れば速達運転を行う)という選択もあるだろう。

 現状の快速・区間快速は位置づけが中途半端という観が否めない。大都市圏列車としては輸送力も性能も不足、観光列車としては設計思想が旧いうえつくりが窮屈だ。そもそも東武のように多様な性格を持つネットワークを一つの車両でこなそうとする点に、根本的な無理がある。スペーシアを置換する際、編成を小単位に分割可能にし、野岩線直通列車を優等系統に組みこむ(ただし下今市以北優等料金不要とする)くらいのことをしなければ、巧く整理できないように思えるが、如何なものだろうか。





■快速列車間合使用への不満

 以上のように考えるのは、快速車の都心側での間合使用に無理を感じるからだ。快速の大部分が区間快速に格下げになったとはいえ、今回のダイヤ改正においても快速車の浅草直通が存置されていることから、当然といえば当然ながら、夜間の浅草発区間急行の一部に快速車が充当されたままとなっている。

 半蔵門線直通急行が前後を固めているため、ダイヤ改正前と比べれば混雑は確かに緩和されている。しかし、二扉クロスシート(しかも短い編成)という設備は都市圏輸送にはあまりにも不適であって、混雑率の割に扉付近の寿司詰め状況にはひどいものがある。

 この状況を改善するためには、快速車の四扉ロングシート車への置換が必須条件といえよう。四扉ロングシート車が広く普及している現状を考えれば、日光線沿線の利用者にもさほど抵抗感なく受容されるはずである。ただし、野岩鉄道への直通をにらむと、ロングシートでは設備が貧弱すぎるため、これには優等列車を充てるべきという発想に至るわけである。

 これは、車両の間合使用を行うにしても、それぞれの車両の適性に合わせたものにしてほしい、という要望でもある。車両を大事に使いたい発想は理解できるが、都心側に快速車を充てる無理は、なるべく早く解消してもらいたいものだ。





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