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二十三枚の切符(カード)



和寒  2006年 6月11日





■サッカー・ワールドカップ

 サッカーのワールドカップがいよいよ開幕した。今のところ、ドイツ・イングランド・アルゼンチンなど有力国が初戦に勝ち星を挙げている。さて、予選三戦で日本は如何なる活躍を見せてくれるだろうか。

 希望と願望を含めて、筆者には予測があるが、それは最後に。





■分厚い選手層

 日本は過去に二度ワールドカップに出場しており、今回が三回目の出場となる。まずはそのメンバーを見比べてみよう。

位置今回前回前々回
GK川口
土肥
楢崎
楢崎
川口
曽ヶ端
川口
楢崎
小島
DF宮本
田中※
中澤
坪井
三都主
加地
駒野
中田浩
森岡
松田
中田浩
秋田
宮本
服部
井原
秋田
小村
中西
相馬
名良橋
服部
斉藤
MF中村
中田英
福西
小野
小笠原
稲本
遠藤
森島
中田英
小野
稲本
明神
戸田
福西
小笠原
三都主
市川
中田英
名波
森島
平野
山口
伊東
小野
FW高原
柳沢
大黒
玉田
鈴木
柳沢
中山
西沢

呂比須
中山
岡野
※田中は負傷のため離脱。かわりに茂庭が代表入り。


 おそらくスポーツ選手全般に通じる話なのだろうが、日本代表となるサッカー選手とはなんとはかないのだろう。ドーハ世代の代表と見比べてみればさらに明瞭で、四年を経てさらに続けて代表選手に選ばれることが如何に難しいことか。フランス世代の中でも若く、伸びしろがまだまだあったはずの中西や城が、代表から外れて既に久しい。前回の守備で大活躍した森岡や明神や戸田も、攻撃面を重視する現体制にはマッチせず、今回代表選出時には候補のはるか圏外だった。その意味において、三大会連続出場となる川口・楢崎・中田英・小野の資質は驚異的である。

 また、今回の代表は選手層が極めて厚い点が特徴である。前回・前々回及びドーハ世代は、誰かが離脱すれば大きな痛手になる、という意味での脆さと危うさがあった。今回はその点で恵まれている。今回の選出から漏れた有力選手といえば久保・佐藤・松井・阿部・長谷部などがおり、いずれも今回代表選手に劣らぬものをもっている。多くの代表戦で守備を担ってきた田中の離脱は確かに痛いものの、すぐ茂庭を呼べるという贅沢さはなんだろう。

 仮定の話になるが、中村が負傷しても小笠原にまかせられるし、中田英がレッドカードを貰っても小野がいる。加地が出られなくとも中田浩がいる。土肥が川口・楢崎をも凌ぐ資質を持っていることは数少ない出場試合で立証済みだ。これは過去に例がない状況ではないか。だから、今回の日本代表は過去最強と評してさしつかえないと思われる。





■人選の基準

 今回代表FWに巻が選ばれ久保が落選したことは、世には「サプライズ」と報道された。しかし、ある観点からすれば当然きわまりない人選であったともいえる。これと対になるのが、代表に呼ばれたもののサブとなった小野である。

 久保は負傷で欠場していた時間がかなり長い。アジア一次予選のオマーン戦ロスタイムに決勝ゴールを決めたのはよかったが、これ以降一次予選・アジア杯・最終予選の大部分に欠場している。どの場面でも日本代表は苦しい戦いを強いられ、厳しい状況の中で記憶に残るゴールを決めたのは、柳沢であり大黒であった。

 さらに、実際の負傷回復状況を斟酌すべきとしても、横浜FMが久保の代表召集に消極的であった面は否めない。ジーコが久保を高く評価していることは明瞭だ。しかし、横浜FMがその評価に応えようとしなかったという事実は残る。その点が凝りとなって、人選基準に影響した可能性を指摘できる。もっとも横浜FMにとってみれば、有力選手を多数代表に呼ばれてしまい、Jリーグの試合運営に難儀しているわけで、この点を挙げておかなければ不公平であろう。小野についても実は同様のことがいえ、A代表よりも五輪代表オーバーエイジ枠を希望した事実が、ジーコの不興を買ったのかもしれない。

 それにしても、ジーコという人は、本当にわからない。長期に渡り日本代表をトレースしている「スポーツ・ナビ」の宇都宮徹壱氏をして、評価に相当なブレ幅を生じさせしめている。いったいどういう観点でチームを構成しようとしているのか。二十三枚の切符を得た顔ぶれからわかるのは、攻撃的な布陣をとるというただ一点のみである。

 筆者は当初、巻が選ばれたからには玉田とツートップを組ませ、アジア杯の再現を狙うのではないかと予想した。完全アウエーの逆風のなか、苦しい戦いを勝ち抜いて優勝した事績は、現日本代表にとって最も心に残る成功体験といえよう。当時のツートップは主に玉田と鈴木。ポスト役に徹し泥くさいゴールを決められる鈴木のかわりといえば、巻しかいるまいというのが筆者の読みだった。

 しかし、どうやらジーコは、柳沢・高原・大黒・玉田・巻の順で評価しているらしいのだ。ということは、アジア杯での成功体験は横に置き、別の雛形を求めていることになる。これは意外ともいえるが、過去の成功体験をなぞらないという意味では底知れない非凡な勝負師とも評せよう。宇都宮氏がいうところの「深遠なる存在」ジーコがどのような采配をふるうのか、具体的には誰を先発メンバーに選ぶのか、二十三枚のカードをどのように切るのか、目が離せない。

 もっとも、誰が出ても活躍できそうなのが、今の日本代表の強みである。その意味では安心できる一方、「○○に活躍してもらいたい」という個人的思い入れもあるので(苦笑)、やはり先発メンバーには要注目である。





■展開の予測

 さて、極めて個人的で、かつ希望願望こみの勝敗予測である(笑)。

国名
ブラジル
日本
クロアチア
オーストラリア


 二勝一分で意外にあっさり二位通過、というのが筆者の読みだ。勿論、今の日本代表が強いとはいえ、勝負の綾はどう転ぶかわからない。初戦のオーストラリア戦を落とさないことがポイント。引き分け以下であれば、後の展開が極めて苦しくなる。逆に勝ちを得れば、おおいに楽になるだろう。

 現実はどうなるか。まさしく目が離せない。







■初戦速報

 まいったぁ! オーストラリア戦、1−3というスコアも衝撃だが、それ以上に内容があまりにも悪く、絶望感すら覚える。敗因としては、

  1)追加点を奪えなかった攻撃陣の緩慢さ
  2)美技連発に驕って飛び出しすぎたGK川口の慢心
  3)後半足が止まった相手以上に動けなかった守備陣

 という三点を挙げられる。2)は個人の資質であるが、1)3)は「体力のなさ」と形容することも可能である。たいへんプリミティブな要素であるだけに、簡単に修正・挽回がきくものではなく、それゆえに絶望感を覚えざるをえないのだ。

 ラッキーな先取点を得て、リードしたまま後半に突入し、すっかりオーストラリア選手の足が止まった様子を見て、「これなら勝てる」と確信したのはひとり筆者だけではないだろう。実際のところ、オーストラリアの攻撃は淡泊で脅威が伴っていなかった。中盤での支配力こそ劣後し、結果として追加点こそ得られなかったものの、日本の攻めの老獪さは、フランス大会では決して見られなかったものだ。同点にされるまでは、実に安心して観戦できた。

 しかしながら、伏線はあった。坪井の交代がそれである。まだ詳報を得てはいないが、足がつったか痙攣したかで、おそらくは疲労性のもの。坪井には大怪我から復帰してきた履歴があるとはいえ、途中退場するほど消耗するには、あまりにも早い時間帯での出来事ではなかったか。

 本戦直前の親善試合、ドイツ戦及びマルタ戦でも、運動量がないという指摘があった。今大会に臨む日本代表選手は、スキルこそ過去最高水準ながら、三試合を戦い抜くだけの体力に欠ける、ガラス細工のようなもろさがあるという実態が見えてくる。次なる相手はクロアチア・ブラジルとさらに厳しい。まともな試合になるのか、というレベルでの不安さえ伴う。

 特に守備陣の手薄さはおおいに気になる。田中が離脱した現在、坪井が90分間フル出場できないとあれば、宮本・中澤・茂庭にサブ駒野・中田浩(・坪井)という組み合わせとなる。駒野は初戦既に攻撃的MFとして先発しているし、中田浩も攻撃参加が想定されている以上、選択肢が大幅に狭まってくる。

 この試合で先発した中田英・福西はともに「攻撃的ボランチ」であって、今のチームには中盤に「専守防衛」的選手がいない。柳沢に代え小野を投入した判断も、中田英・福西・小野と強力な選手で守備固めしておけば光ったのに、中途半端に攻撃的な布陣となり、ほころびを招いてしまった。後半ロスタイム茂庭に代え大黒を投入したのは、敗勢に焦るあまりの大失策と評すべきで、やらなくてもよい三点目まで献上してしまった。

 そう。今大会の日本代表チーム最大の特徴は、攻撃を重視するあまり守備が軽視されている点にある。DF登録の三都主・駒野が攻撃的MFを務めた布陣が、その尤なる証だ。この特徴が、W杯本戦という土壇場で、大きな弱点となって顕現した。観戦する側としては不安に苛まれるばかりだが、ともあれ残り二戦、守備的布陣を採ることを含め、最善を尽くしてほしいものだ。





■第二戦速報

 なんという凡戦。これが本当にW杯の試合なんだろうか、という疑いさえ持ってしまう。日本の穴だらけの守備網をクロアチアはこじ開けられなかったし、日本は日本で超攻撃的布陣を採りながらも攻撃に精彩を欠いた。クロアチアはあれだけ攻めこみ、PKなど決定的場面を随所に展開したものの、詰まるところ日本ゴールに脅威を与えることがなかった。日本はクロアチアの固い守備陣をまるで抜けなかった。

 相互にカウンター攻撃を繰り返し、攻めながらも攻めきれず、相互にスタミナ切れで力尽きてしまうという、観ていてなんとも切ない試合になってしまった。初戦の経過を見ると、ジーコ采配には批判の余地があると感じたが、第二戦の先発・途中交代は相応に的確であり、それでいながらこの結末とは、選手側にも大きな課題があると考えざるをえない。技術や決定力以前に、前後半90分をたたかいぬく体力に欠けるのでは、やはり勝利を得ることは難しいだろう。

 予選突破はもはや絶望的な状況だが、敗退が決まったわけでもない。最終戦に向けて、ひとはな咲かせてもらいたいものだ。





■第三戦速報

 さすがに起きられず、後半から観戦。正直なところ、言葉もない。ブラジルは、強い。圧倒的に強い。

 一失点目は守備陣の穴、二失点目はGK川口のミスと思えるが、三失点目、四失点目はどうしようもないレベルで、これこそまさに力量差と形容するしかないだろう。ブラジルの守備がまた実に固い。玉田が先制点を挙げたものの、後半は相手に脅威を与える場面がほとんどなかった。

 かくして日本はF組最下位、予選敗退となった。負けに不思議の負けなし。世界の壁はまだまだ厚い。実は今の日本代表チームは「初めて」の成果をいくつかかちとっているのだが、やはり勝ち抜けないと輝けない。中村の寡黙なインタビュー、中田英が倒れこんで起きあがれない、という事実に、「こんなはずではなかった」選手たちの悔しさ無念さを感じられる。まさしく残念無念。総括レビューはまたのちほど。







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■サッカー・ワールドカップの落胆

 今年のスポーツイベントのなかで最も印象に残った一つが、サッカー・ワールドカップであろう。ただし印象といっても、どちらかといえば悪い方向である。予選三連敗という成績そのものは、勝負を争うなかでの結果にすぎないから、やむをえない。しかしながら、「良いところなし」の展開しか示せなかったことは、情けないというか不甲斐ないというか。日本代表は、この四年間を棒に振り、無駄にしてしまった。

 これに対する論評は、今さら筆者が云々するまでもなく、多くのものが出ているから、敢えて屋上屋を架すまでもないかもしれない。とはいえ、「客観的評価」は不足しているようにも思えるので、なにか書き残しておくことも意味なきことではなかろう。こじつけを通り越し、本HPの主旨に沿うとはいえない一文となってしまっているが、未完のままでは気持ち悪いので、一年の総括がわりに認めておきたい。





■史上最強の日本代表

 客観的評価がなされたといえない最たる部分が、日本代表に対するものである。予選の結果だけを見れば惨憺たるものだが、「史上初」の実績も多々残していることを見逃しては、あまりにも不公平というものであろう。

 まず、アジア最終予選を一位で通過した。プレーオフという段階を経ることなく、堂々とアジア代表となったのは、実は初めてのことである。プレーオフまでもつれた仏大会、出場が保障されていた日韓大会と比べれば、胸を張っていい実績だ。さらに仏大会と対比すれば、八年前は本当にまったくいいところなしであったのが、二試合で先制点をとり、一試合で勝点を獲得するなど、ワールドカップ国外試合で初めての実績をいくつか重ねている。

 本編にも記したとおり、選手層の分厚さも今大会代表の特色であり、これほど力のある日本代表を編成できるというのも、時代の変遷でもあり、サッカーにおける日本の進歩といえるだろう。

 そんな日本代表が惨敗したという結果そのものが、今大会の本質といえる。実力も実績もある日本代表でさえ、ワールドカップの本番ではまるで歯が立たなかった現実を、よく見据える必要がある。個々の選手を見ても、例えば中田英寿の調子は決して悪くなかったと見受けるが、それでも通用しなかったというのが、酷薄なまでの現実ではあるまいか。優勝候補ブラジルにはまさに惨敗、強豪クロアチアの守備網をこじ開けることは出来ず、新興オーストラリアにさえあっけなく逆転されてしまった。見渡せば同レベル以上の国々しかなく、そのなかで勝ち抜いていくことの困難さが、ワールドカップ本大会の「壁」といえよう(※)。

  ※同じことが実はアジア予選にもいえる。一次予選をぶっ千切りの成績で勝ち抜いてきた国々であっても、その半数は最終予選で良いところを見せられずに敗退していくのである。これら敗退国がアジア予選で直面している壁に、日本の場合ワールドカップ本大会で直面しているといえる。





■日韓大会で勝てた理由はなぜか

 こうして考えると、四年前の日韓大会ではなぜ予選を勝ち上がれたのか、という疑問が出てくることになる。「あれはフロックだった」という悪意的な解釈を(特に外国から)されてもやむをえないとしても、日本人みずからが「ホームの利があった」という評価に安住してしまうのは、安易にすぎるだろう。

 日韓大会ではアジア予選参加を免除されたため、最初から本大会向けの戦術に徹底することが出来た点が大きい。トルシエ監督のいうフラット3が本当に有効な戦術であったのか、疑問がないわけではないが、徹頭徹尾守備重視の戦術を貫いたことは、本大会で勝利を得る原動力となった。

 そして、アジア予選をフラット3で勝ち上がれたかどうか、わかったものではないのだ。一次予選では実力差がありすぎ、相手の超守備的布陣を如何にこじ開けるかがポイントになる。最終予選になると実力が拮抗してくるが、それでも相互に攻撃的戦術を展開するのが通例である。少なくとも、本大会出場を目指すほどの国は攻めて点を取る意識が高く、守備は相対的に扱いが軽くなる。

 ところが本大会では、日本を初めとするアジア代表の国々は、残念ながらまだまだ格下の存在にすぎない。そもそも、アジア代表の国が決勝トーナメントに勝ち進んだ事例そのものが未だ稀少なのだ(※)。その現実を直視すれば、ワールドカップ本大会では守備的戦術を採る必然性が理解できる。実際のところ、今大会で勝ち上がった国の多くは守備が充実していた。以上の意味において、トルシエ監督は具眼の士であったといえる。

  ※今大会においてアジア代表4国は全て予選敗退している。前大会で準決勝まで勝ち進んだ韓国も、あっけなく予選敗退となり、前大会の快進撃に伴う風説を補強する結果とあいなった。

 しかし、ジーコ監督は守備を軽視した。より正確にいえば、無視したという方が実態に近いかもしれない。これについて宇都宮徹壱氏が興味深い指摘をしており、端的にいえば宮本主将の統率力に依存しきっていたというのである。それゆえに、宮本主将の限界が即日本代表守備の限界となるという見方であったが、現実もそうなってしまった。宮本主将の技術と体力の限界がもとで、守備に綻びが生じた面は否定できないのである。

 だからといって、宇都宮氏がいうとおり、宮本主将を責めるのは酷というものである。守備を軽視したジーコ監督の責任はかなり重いといわざるをえず(人選面でも松田を日本代表から外したのは問題)、また守備コーチの梃子入れをしなかったサッカー協会の姿勢にも批判されるべき余地があるだろう。

 さらにいえば、トルシエ監督時代の成功の原因について、正当かつ客観的な評価がなかなか出てこない現状は、日本のサッカー評論の底辺の薄さを示唆するものであり、この点でもまだ発展途上の国といえるかもしれない。「客観的評価」が少ないとは、以上の観点に基づく評価が見られないことを指す。世の論者はなぜ、この点を指摘しないのだろうか。





■今大会の敗因と今後の展開

 守備軽視は、実はジーコ監督に限ったことではない。オーストラリア戦で突出しすぎ、三失点を招くきっかけをつくったGK川口の姿勢は、代表選手のなかでは最も問題があるといえよう。「攻撃的守備」をするのはいいとしても、一点リードしている場面でなぜ、一か八かの勝負を仕掛ける必要があるのか(ただし堅実に守っていても失点した可能性はある)。詰まるところ、ジーコ監督が標榜した「超攻撃的布陣」とは、全てを失う危険を負いつつ得点と勝利を求めるものにすぎなかった、と評することができる。堅実さらしきものはまったく見当たらない。四年間を棒に振り、無駄にしたというのは、こういうことを指すのである。積み重ね、残した財産が、まるでないではないか。

 選手の人選にも問題が多かった。点を取れないFWを5人も揃えたこと、海外チームに所属するがゆえに出場機会が少なく、好不調が定かでない選手を5人も加えたことには、批判を受けるべき余地がある。高原・柳沢・稲本らを外して、別の選手を選ぶべきだったように思われてならない。巻・駒野そして茂庭(田中誠の負傷離脱というアクシデントに伴うものだが)らの、アジア予選に出場していない若手選手の抜擢もしているのだから、「貢献度」なる曖昧な基準を持ち出すこともなく、上り調子のすぐれた選手を的確に選抜出来たはずなのだ。

 では誰を選べば良かったか。現在オシム監督が試行錯誤している状況からわかるとおり、正解を確定することは困難である。一ついえることは、真っ先に本大会出場を決めてから約一年間の準備期間に、この試行錯誤をやっておくべきだったのではないか。ジーコ監督の海外組偏重はよく知られているところだが、それ以上に人選の固定化(※)は、選手の士気を削ぐこと甚だしいものがあった。また、代表候補選手に海外チーム移籍の動機づけを与え、それにより飛躍した選手もいる一方で、出場機会を失いかえって力を落とす選手が少なくない点は見逃せない。特にFW選手の海外移籍は、成功と目せる事例がほとんど見当たらない。それぞれの選手が海外雄飛を目指す志は否定すべきでないが、「海外移籍封建制」的な風潮をつくったことは、監督としては如何にもまずかった。

  ※念のためにいえば、最盛期の選手を中心として人選を固定化することは、選ばれた選手の士気を強め、選手相互の結束を高め、単純な足し算以上の実力を涵養できた可能性はあった。それゆえ人選面での評価は実に難しいのだが、「結果」が明らかに失敗だった以上、やはり批判は免れえない。

 人選でもう一点まずかったのは、本大会で不調だった選手を交代させられなかったことである。中村俊輔の不調は見ていて痛々しいほどだった。宮本主将の消耗・憔悴ぶりは誰の目にも明らかだった。FW柳沢だったと思うが、なんでもない場面で転ぶ選手もいた。しかし、攻撃の起点は中村に依存せざるをえなかった。守りの要宮本主将は、出場停止にならなければ第三戦も先発していたはずである。不調FW陣の先発をいじったのは第三戦になってからで、代わりに出た玉田が強敵ブラジルから先取点を挙げた以上、人選の誤りは明確といわざるをえないだろう。

 先には日本代表選手の層の分厚さは先例がないレベルとしたが、最も重要な選手である宮本と中村の代わりになりうる選手を用意できなかったのは痛かった。守備陣はそもそも人数が少なく、もっと手厚く人材を用意しておくべきだった。中村の代わりについても、アジア予選での実績を通してみれば、小笠原や福西は遜色ないどころか中村をも凌ぐ要素を持っていたというのに、中村依存から脱却できなかった。結果的にフル出場を果たせたから問題は顕在化しなかったが、三都主の代わりとなりうる人材の少なさは深刻であり、村井の負傷が代表チーム構成に影響を与えた可能性を指摘できる。





■荒れ野と化した日本代表

 代表監督がジーコからオシムに代わり、日本代表も顔ぶれが大幅に入れ替わった。先代から生き残っているのは今のところ、守備的ポジションを務めていた選手が多く、海外組は皆無、遠藤や巻など控え組だった選手が重用されている点が特徴的だ。その一方、先代主力の多くは精彩を欠いている。中田英寿は代表どころかサッカー選手そのものから引退した(中田の引退表明文は強い感動を催すものがあった)。中澤も日本代表から引退した。宮本や小野らのように、所属チームでの出場機会が減っている選手さえいる。日本代表となった選手たちは、この四年ですっかり消耗してしまった観がある。

 それどころか、次代を担うと目されていた選手らの影も薄くなっている。大久保は伸び悩んでいるし、田中達也は負傷の影響がまだ抜けていない様子だ。FWの新星は我那覇や播戸など遅咲きの選手が目立つ。DFの人材不足はさらに深刻で、闘莉王が台頭しているほかは、若い世代の選手が少ない。MF陣だけは相変わらず人材豊富、阿部のようにDF起用される選手もおり、その点は救いであるが……。

 先々代やさらにその前からの代表選手の推移を考えれば、諸行無常がむしろ当然とするべきかもしれないが、この四年の消耗は看過できない。もともと先代日本代表は、二十代後半の脂が乗り切った年頃の選手が多く、二十代前半の若手はごく少数しかいなかった。最盛期の選手を擦り潰し、若手選手の育成も進んでいないとあっては、やはり問題といわざるをえない。オシム監督が一気に世代交代を図っているのは、次大会で最盛期を迎える選手、彼らを支えるより若い世代の選手発掘を目指しているからであろう。先代日本代表では、この若手育成がまったく機能していないに等しかった。

 オシム監督の試行錯誤は、この四年の欠落を回復する取組ということもできる。であるならば、先代のつけ回しを払っているようなもので、強い徒労感の伴う作業でもあろう。次の四年間を棒に振らず、無駄にしないためには、オシム監督の努力に期待するだけではどうにもならないだろう。サッカー協会も相当に力を入れた取組をする必要がある。やや突飛な連想となるが、的確な選手強化・補強を重ねて今シーズンJ1初優勝を果たした、浦和レッズのフロント陣を協会に招聘するくらいのことをしてもいい(※)。少なくとも、この四年の「実績」を考えれば、協会はよくよく反省する必要がある。選手や監督は強い批判の対象となるが、協会はその限りではないので、敢えて書き記しておく次第である。

  ※エメルソンがチームを離脱しても、力が落ちるどころか、さらに強力なチーム構成を実現した、フロントの辣腕ぶりはたいしたものである。生え抜き選手の養成、外部からの選手補強、これほど成功した選手強化事例は近頃珍しいのではないか。このノウハウを日本代表にも活かさない手はないように思えるのだが……。





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