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ほろびゆくMT車



和寒  2006年10月31日





■JAF Mate第44巻第7号(平成18(2006)年8・9月号)記事より


小型クーペ相次いで姿を消す

 「スペシャリティカー」「デートカー」などと呼ばれ、かつて若者を中心に人気を博した小形スポーツクーペ(※)が、相次いで姿を消していた。
 この背景には、自動車ユーザーの車を使う目的が変わり、車への関心・興味が薄れているという原因があるようだ。先頃ガリバー自動車流通研究所が発表したレポートによると、ユーザーの44%は車を単なる移動手段ととらえており、デートの必需品と答えたユーザーはわずか 1%だった。
 これについて車に関する著作も多いライターの清水草一氏はこう分析する。「『車の冷蔵庫化』は常々感じていましたが、これは、先進国では日本だけの、かなり特殊な動きです。欧米では相変わらず、美しく速い車への憧れは根強いですから……(後略)」

 ※引用者注:生産中止となった代表車種としてインテグラとセリカの画像が紹介されている。





■コメント

 筆者の家族が使っている車種は、トヨタのスプリンター・カリブである。ステーションワゴンという機能、モデルチェンジ後で格好良くなった外観、そして筆者の財力でも購入可能な価格などの要因から選択した。現在でも時折街中で見かける車種であって、決して珍しいものではないが、メカニズムとしては間違いなく珍しい部類に入るだろう。未だにマニュアル・トランスミッション(MT)なのである。

 なぜMT車にしたかといえば、運転するときに面白いからという点がまず効いている。これに加え、オートマチック・トランスミッション(AT)車とは異なり、アクセル操作からエンジン駆動までの途中経過にコンピューターが介在しておらず、機械的な誤動作がありえないという安心感が大きいからだ(そのかわり誤操作は全て運転手の責任になる)。実は先日も、見通しの悪い交差点において、急に視界に入った歩行者に動転し、ブレーキとアクセルを踏み間違えるミスをしてしまった。クラッチを切っていたから加速せず、事なきをえたものの、AT車であれば確実に人身事故に至ったであろう場面である。

 そんなカリブも、今年度末に満 9年の車検を迎える。そろそろ代替新車を求める時期にさしかかってきた。さまざまなカタログを見比べていると、今やMT車はほとんどない、という点に気づくのである。

 筆者自身は、AT車への切替もやむなしと考えている。しかし、妻の方が切替に抵抗感を示していたりする。AT車全盛の時代のなかで、家にMT車しかないことから、近年になって何度も延長を繰り返しながら、AT限定でない自動車免許を取得したという事情があるので、意地でも活用したいらしいのだ(苦笑)。そうはいっても、MT車がなければ買い求めようがない。今のところトヨタと日産を見比べているところだが、カリブの時と異なり、MT車の比率は極端に少なくなっている。ほとんど絶滅危惧種と形容してもよいほどだ。その一方、こどもらは三列シート車がいいと主張しており、この系列はまったく家族向けで、AT車のみとなっている。

 AT車の方が運転が楽、という事情は確かにあるだろう。ハイブリッド車などはMT車では決して成立しえない新技術だ。筆者にしても、信号がほとんどない郊外部では運転を楽しんだものだが、街乗りでストップ&ゴーを繰り返していると、MT車の燃費の悪さが気になってしまう。それでも、MT車がすたれていくのはさびしいし、それ以上に怖い。

 「車の冷蔵庫化」とは良く喩えたものだ。メカニズムをたいして理解せず、機能のみを活用するというのは、一抹の危うさが伴うように思われてならない。自動車のメカニズムを知らなければ、運転を楽しむ気になれないのは当然だろう。スポーツ車のインテグラやセリカが生産中止になったというのも、「運転を楽しむ」層が絶対数・比率とも減少したことを示唆する状況といえよう。その状況じたいはよいとしても、自動車のメカニズムを熟知せずに運転している層が多くなっているならば、極めておそろしい事態と指摘せざるをえない(交通事故による死者が漸減傾向にあるのとは矛盾するが)。

 筆者自身は、「運転を楽しむ」ことにまだ多少の未練がある。急勾配・急曲線の悪路を究めていく過程は特に面白い。だからMT車がいいなと思っているが、トヨタ・日産では事実上選択肢がないに等しい。どうしてもMT車にこだわるならば、機能と価格からしてスバルのレガシー(廉価車種)くらいしか選択肢がない。以前は同じメーカーの中の特定車種にAT車が残されていたが、今日では特定メーカーに「運転を楽しむ」層が集中しているのかもしれない。それとも機能に徹して、AT車の三列シート車にするか。満11年を迎える再来年度末まで、悩みは続きそうだ。





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