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格安超高速鉄道という意外〜〜iDTGV
和寒 2006年11月30日
■新幹線のライバルTGV
改めて紹介するまでもなく、フランスSNCFの TGVといえば、世界中で最もよく知られた超高速鉄道の一つであり、わが日本が誇る新幹線最大のライバルでもある。その最高速度は、一度限りの試験運転とはいえ実に 515.3km/h。翼をつければ空を飛べるほどの超高速であり、新幹線も ICEもあるいは新鋭 AVEなども 500km/h台の領域には達していない。
左: TGVの最初期編成(パリ・リヨン駅にて) 右:世界最高速度のロゴをまとった大西洋線列車(パリ・モンパルナス駅にて)
新幹線と TGVの違いはどこにあるのか。誤解を招きそうになるが、敢えて喩えてみよう。新幹線は“電車”であり、 TGVは“汽車”なのである。これは、新幹線が動力分散方式で TGVが動力集中方式という、駆動メカニズムの違いを指すものではない。列車を運行するにあたって、そもそもの発想や概念がまったく違っており、それを表現するには“電車”と“汽車”という単語が適切だと思える、ということである。
左:ずらり居並ぶ大西洋線列車 右:夕陽を浴びて(ともにパリ・モンパルナス駅にて)
新幹線は最初から高密度運転を意識してつくられている。 200km/hを超える高速列車だというのに、ほとんど全ての区間において「常時」、一時間あたり10〜15本程度まで運行可能な体制を整えているというのは、世界じゅうを見渡しても類例が乏しい。三戸祐子のいう「定刻発車」とは、高密度運転の必要性から生まれた成果なのだ。
二編成つないだ南東線列車(グルノーブル駅にて)
これに対し TGVでは、高密度運転はあまり意識されていない。多くの支線区直通列車が集約される南東線パリ−リヨン間などごく一部の区間を除いては、線路容量はさほど高いとはいえない。二編成をつないだ長大編成はもとより、二階建て列車Duplexが早い時期に登場したというのは、“汽車”の線路容量のままで輸送力増強を図る工夫のあらわれ、と評することができよう。
■TGVの新機軸
そんな TGVで新しい試みが始まっている、と伝え聞いた。Duplex編成を活用した列車の名は iDTGV。現時点では情報が極めて限られており、詳しいことがよくわからないものの、どうやらインターネットを活用した超格安列車のようなのだ。
iDTGVの案内画面
iDTGVの予約画面
(このサイトは何故か英国のアドレスである)
南東線のDuplex編成(パリ・リヨン駅にて)
超格安の仕掛けはこういうことらしい。まず、インターネットでチケットを予約する。そして、自分のプリンターでチケットを発券する(※偽造対策はどうするのだろうか?)。列車はDuplexだから輸送力は抜群だ。乗車する際に改札を行って、車内での検札はしない(※車掌は添乗しないということか?)。今のところ各方面一日一往復のみの限定的設定で、航空の格安キャリアを意識して安値のチケットを提供しているらしい。例えば、パリ−マルセイユ間で19ユーロよりというから、とんでもない破格の超安値ぶりである。
左:Duplex車内(2階) 右:Duplex車内(1階)
途中駅での乗降が(少)ない TGVならではのサービスともいえるが、日本でも航空との競合が厳しい区間で導入できないものか。例えば、余剰となるであろう 500系を活用して新大阪−博多間無停車列車を設定するとか、東海道新幹線に二階建て車両を導入し(または旧型車を3+3座席に改造するなどして)東京−新大阪間直行列車を用意してみるとか。早割運賃導入や格安キャリア参入などにより、日本の航空は需要を大幅に伸ばして成功をおさめている実績もあるのだから、 iDTGVには学ぶ点が多いと思われてならない。
それにしてもこの種の情報が、趣味誌はもとより専門誌でも
「運輸と経済」(平成17年 3月号)
などを除きあまり伝えられていないというのは、どうかと思う。インフラや車両といったハードに関する情報感度に対して、サービス提供というソフト面への関心が低いことの証左というしかない。もっとも今までは、高速鉄道という同じカテゴリーのなかで差別化したサービス提供がなかったのだから、当然といえば当然のことなのかもしれないが……。
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