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Chang! 韓国遊学日記2002年8月  △TOPへ


釜山港

ムグンファ号のこども室
◆8月24日・混雑旅
 朝、船のデッキに出ると、そこには釜山の町並みが広がっていた。山の中腹にまで広がった市街地、赤いアーチ橋。どことなく神戸を連想させる、変わらない町並みだ。
 前日は朝まで大分の友たちと歌い、踊り明かし、昼に見送りを受けて旅立った。心の準備をする余裕もなっかたが、それから19時間。列車と船を乗り継いで、僕は今、韓国の土を踏んだ。船内で出会った国土交通省官僚の方と、地下鉄で釜山駅へ。肩に食い込む荷物のおかげで、汗びっしょりだ。おまけに釜山駅の入り口は、新幹線工事のため3階に移動。階段が辛い。

 土曜日とあって列車はセマウル、ムグンファとも満席で、仕方なくムグンファの立席券を買った。異国の列車旅。いつもなら心踊るのだが、今日は前途多難な留学旅行。ちょっとグッタリしてしまった。
 最後部の座席と壁の間に座り込み、景色も見えないまま旅は続く。でも車内は大混雑。こんな形でも座れた僕は幸せだ。隣に座り込んだおばちゃんから、参考書を使っての「即席韓国語講座」を受けた。少しは上達したかな。
 大田で、忠北線に乗り換え。この列車も座席が取れず、「定位置」の旅が続く。そして釜山を出発してから5時間たった午後3時、ようやく僕が10ヶ月間を過ごす街、忠州に到着した。

 駅には3月から留学している晶子さんと、下宿のおじさんが待っていてくれた。僕は下宿ではなく寄宿舎の生活になるが、準備が整うまでこちらにお世話になる(らしい)ので、車で下宿へ。ムグンファの中でキムパブを食べて以来、はらぺこだったお腹に、とにかく辛いインスタントラーメンが染みた。

 だいぶ疲れているはずなのに不思議と元気になり、晶子さんに市内を案内して頂いた。アメリカ型のショッピングセンターや若者向けの商店街があり、思っていたより都会に感じたが、
 「まだ街を知らないから、そう感じるだけですよ」
 そんなものかも。

 バスで下宿に戻ると、日本からの先輩たちが集まっていた。日本人同士なのに、韓国語で会話してる! 5ヶ月で、こんなに出来るものなんだと、ただただビックリ。おいらも頑張らないといかんな。
 夜はみんなで、日本の花火で遊んだ。なんだか不思議な気分だ。この先、何があるのか想像もつかないが、とにかく生きて行こう。


◆8月25日・生活開始
 朝、川で泳ぐ。
 といっても清流なんかではない。まわりは田んぼばかりの田舎だけど、大分川みたいなただの川だ。しかも女の子の前で、普通のトランクス1丁(笑)。まさか、今年の初泳ぎがこんな形とは・・・ でも楽しかったから、いいや。

 午後は晶子さん、九州工業大学からの留学生・雅之兄さんとともに市内へ。晶子さんの友達と、フラッペを食べたり眼鏡屋さんに行ったりして街を知った。
 ショッピングセンターで、これからの寄宿舎生活で必要な、洗剤やシャンプーなどを買い出し。洗濯かごを買ったら、おまけに洗剤が付いてきた。いや、逆だ。いったいどっちがおまけなのか分かんねえや。

 今日からいよいよ寄宿舎生活。2人1部屋の共同生活だが、ルームメイトはまだいないようだ。
 日本だったら、普通の学生寮と留学生宿舎は別個だが、ここではまったく分け隔てがない。でも、こういうのも貴重な経験だ。さっそく、同じ階の学生と友達になった。日本語を1年間ならったそうだが、意志疎通は難しかった。おいらも韓国語頑張るぞ!

◆8月26日・意欲
 この日初めて、大学へ足を踏み入れた。
 これから10ヶ月間の学び舎となるここ忠州大学は、今年40周年を迎えた工学系中心の大学だ。規模は大分大学と同じくらい。図書館は立派で、建築の本もずらりと揃っている。この点は、分大より数段上だ。

 大分からの留学生の担当である、土木工学科の金敬鎮教授とともに、学長先生へ挨拶に行く。大分大学の学長室にも行ったことがないので、とにかく緊張。学長先生を前に、用意していた台詞は、頭から飛んでいってしまった。
 「はじめまして」
 「どうぞ、よろしくお願いします」
 必死に覚えたんだけどな。

 夜、雅之兄さんの友達とグラウンドで飲んだ。といっても僕は、まったくといっていいほど意志疎通ができない。皆さん、年下の僕を可愛がってくれようとしているのに、なんだか申し訳ない気分だ。
 話したい。いっしょに笑いあいたい。
 そう願う気持ちが、きっと勉強への意欲になっていくのだろう。

◆8月27日・日常
 朝寝坊。今までは元気にやっていたが、引越し、出発前夜祭、移動と、だいぶ疲れがたまっていたはずで、ようやく出てきたのかもしれない。体が、今は「旅行」ではなく「日常」と分かってきたのだろう。

 車で1時間半の清州まで、外国人登録へ出向いた。乗せて頂いたのは、9月から九工大へ留学するトンビョン兄さんの車。いろんな人にお世話になっている。ろくに言葉も出来ない僕がやっていけているのも、皆さんのおかげだ。ただただ感謝。
 逆に、日本語が出来ない韓国人が大分大学にきて、やって行けるだろうか? いやいや、来年以降そんな人が来たときこそ、僕がサポートせねば。それがお返しだ。

 外国人登録は、指の指紋をばっちし全部取られるが、これは外国人に限ったことじゃない。さすがは「住基ネット先進国」。

 寄宿舎の生活は、だいぶ慣れてきた。食事も「何でも食べてやろう」と思っているが、たいていのものは、おいしく頂いている。ただ胃は日本式で、毎日の刺激に最近はお疲れのようだ。これを乗り越えれば、強くなるだろう。トイレで使った紙は流さずごみ箱へ、も習慣になった。
 夏場の「水シャワー」だけは慣れず、特に上半身がつらい。週1回は別府の湯に浸かっていた大分での日々が、ちょっと恋しかった。

◆8月28日・心の風景
 とうとう寝坊で、朝飯を食べ損ねた。早く目覚しを買おう。
 午後は、図書館で日本語サークル「笑顔」の皆さんと、お互いの国の言葉を勉強。語学留学といっても韓国語講座は週1回で、あとは生活の中や、こんな「勉強会」で身につけていく。こんな毎日を、10ヶ月間続けるわけだ。

 寄宿舎にきて、初めて洗濯した。屋上の物干し場からは、学生街と田園風景か見渡せる。夕暮れの中を、轍の音を響かせ列車が走っていく。なぜか、僕にとって心安らぐ、大切な風景だと思えた。

◆8月29日・学びたいこと
 午前中、学科挨拶へ。この時点でまだ、どの学科に所属するかは決めていなかった。大分での専攻を考えれば当然、建築工学科だが、本当にやりたかったのは都市計画だから、都市工学科にも行ってみたい。
 建築の担当教授はお留守。都市工学科に行くと、日本語が堪能で、韓国文化の講義もやって頂く鎮教授がいらっしゃった。鎮教授は交通工学のプロフェッショナル。本棚に並ぶ交通工学の書籍を見て、強く関心を持った。やりたい学問は、ここにありそうだ。
 「都市工学科でおねがいします!」
 まだまだ言葉はできないが、講義も受講してみたい。

 夜、雅之兄さんの友達に、飲みに誘っていただいた。ワーホリで日本に半年間滞在されていたそうだ。日本語は少し忘れかけているそうだが、それでも堪能。
 みなさんの会話は、2〜3%しか聞き取れない。とにかく2ヶ月耐えれば、だんだんと分かってくるよと雅之兄さんに慰めらる。もちろん2ヶ月後分かるためには、絶え間ない努力が必要だ。
 ちなみに飲んだ店は居酒屋ではなく、ちょっと洒落た若者向けカフェ。日本の学生で飲むといえば居酒屋が定番だけど、韓国ではこんなお店が多いそうだ。
 男女トイレが上でつながっていて、女子トイレの音が筒抜けで、しかも特段気にしている様子もないのは、ちょっとした驚きだった。女同士でも、音を隠すために水を流す日本が気にしすぎ‥‥なのかな? 男の僕にはよくわからないや。

 行きのフェリー以来、ひさびさの「生」がうまかった。おごちそうさまでした。

◆8月30日・喜び
 いつも通りの勉強会。もちろん、まだまだ話せるうちにも入らないが、1週間前に比べれば聞き取れるし、単語をつなげて表現できるようになってきた。楽しい。いずれスランプが訪れるのだろうが、伸びていることが分かる幼稚な今の感覚は、きっと大切で幸せなのだと思う。
 泣くこと以外で意志を伝えられるようになった、幼児の嬉しさのように。

 今日は金曜。寄宿舎は静かだ。
 みんな遊びに行ったわけではない。生活の拠点を実家に置く人が多く、週末は帰省する人が多いのだそうだ。僕は簡単に帰るわけにはいかない。静かな寄宿舎で一人、ラジオに耳を傾ける。

◆8月31日・世界の今
 「今からどこに行くの?」
 「市内まで行こうと思ってます」

 「テレホンカードありますか?」
 「ないよ」

 こんな何気ない会話ができることが、とても嬉しい。日に日に、出来る範囲が広がっていく。無上の喜びだ。

 午後から、分大からの留学生友達と市内まで出かけたが、強風と雨で街歩きを断念。この時は呑気にも、台風の接近を知らなかったのだ。
 初日以来、久しぶりに下宿屋さんにお邪魔してTVを見ていると、既に南部や東海岸で甚大な被害が出ているようで、しかもこれから直撃するようだ。
 日本では恐らく、韓半島へ「外れた」と表現されているのだろう。しかしその外れた先に、人がいて生活があることに、今まで思い至ってはいなかった。

 北韓の貧困も、アフガンの戦争も、その時同じ世界で起こっていること。
 恐らく日本では「事後報道」になるだろう韓国の災害を見ながら、そんなことを考えていた。


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