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−天元に置かれた一石の重さ−(総武流山電鉄)
TAKA 2005年12月07日
皆さん今晩はTAKAです。今日は「関東鉄道めぐり」の第2弾として総武流山電鉄を取り上げます。
総武流山電鉄(以下流鉄と略す)は短距離のローカル鉄道として知られており、関東では珍しく何処の大手民鉄グループにも属してません。一都三県(東京・千葉・神奈川・埼玉)で大手民鉄グループに属してない鉄道会社は公営・第三セクターを除くと秩父鉄道(太平洋セメント系)と総武流山電鉄だけです。(小湊は第2位株主が京成)
※これは太平洋戦争中の戦時統合で東武と京成の間に埋もれてか?対象にならなかった為
そういう極めて珍しい形態で運営されてきましたが、今やつくばエクスプレス(以下TXと略す)が近接地域に開業し非常に厳しい状況に置かれていると言えます。(これに関しては後述します)その様な会社存亡の危機ともいえる曲がり角に差し掛かっている流鉄について今回は取り上げてみたいと思います。
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総武流山電鉄概要
」
●総武流山電鉄に試乗して
今回12月3日土曜日午後に流鉄を訪問しました。西国分寺から武蔵野線〜常磐線を経由し流鉄始発駅馬橋に3時頃着きましした。
(右側)流鉄馬橋駅改札口 (左側)流鉄馬橋駅に停車中の2000系
馬橋は常磐緩行線しか止まらない駅で、しかも西口には工場・川が流れていて開けている街では有りません。流鉄馬橋駅は常磐緩行線の駅から常磐快速線の路線を越えた西側に有ります。流鉄の駅の周りは快速線・工場・川に挟まれていて開けては居ません。
流鉄馬橋駅は1面2線のホームで昼間は朝使用の3両編成が留置されています。自由通路から階段を下りた先に小さな駅舎とホームあります。駅舎は木造プレハブの古い駅舎で券売機は有りますが自動改札はありません。何か昔にタイムスリップした感じです。
流鉄の車両は2000系・3000系の2種類在籍しています。どちらも西武701系・801系・101系の譲渡車両であり、生まれてからずっと西武線沿線住民の私としては極めて懐かしいです。車両自体は2両*2編成・3両*4編成で昼間は主に2両編成が運転されています。
流鉄は15〜20分毎に運転されています。(1時間ごとに15分毎・20分毎になる)大都市圏の鉄道としてはチョット物足りない運行本数と言えます。只利用率は馬橋では10人/両程度の人数しか利用していません。馬橋自体が常磐線と接続している以外何も無いので仕方ないかも知れません。
私の乗った列車は馬橋を出た後常磐線を離れ流山を目指します。しかし少し加速した後いきなりノッチオフしてしまい、55km/h位で惰性運転に入ってしまいます。(この理由は後で分かります)しかし軌道はかなりPC枕木が入っておりバラスト等も補充されていますが、上下に揺れて乗り心地は良く有りません。これはレール(多分40kg/mレール?)のジョイント部で振動が多いので、ジョイント部に段差が出来ているのかもしれません。又元が西武701系・801系と言う事は台車が国鉄101系・103系のDT21台車と同じFS342(コイルバネ台車)ですので、これが悪さをしているのかもしれません。(でも西武時代はこんなに揺れなかった)
次の駅幸谷ではホームにかなりの人が待っていて座席がサラリと埋まります。幸谷はJR新松戸駅に近く、乗換は数分で出来雨にもぬれません、不便ではないので此処から乗る人が多いのかもしれません。新松戸の駅前広場の目の前を突っ切る様に流鉄は走っているのですから、幸谷→新松戸に駅名変更(総合駅化)・馬橋〜新松戸間廃止(合わせて交換駅を鰭ヶ崎に変更)と言う方策を考えても良かったのかもしれません。
(左側)幸谷駅と武蔵野線 (右側)新松戸駅前を走る2000系
流鉄は交換駅が幸谷の次の小金城址しか有りません。小金城址は馬橋〜流山間の完全に中間に有るのですが停車駅が馬橋寄りの方が一つ少ない為、私列車は時間調整をかねて経済運転をしていたようです。それならば馬橋の発車時間を1分程度遅らせれば済むと思うのですが・・・。
(左側)幸谷→小金城址間での車内(土曜日3時過ぎ) (右側)小金城址駅交換風景
小金城址・鰭ヶ崎の各駅で数人〜10人程度が下車します。平和台は完全に流山の市街地ですが駅前に大きなイトーヨーカ堂があり、降車客より上り列車に乗るために待つ人の方が多かったです。そうするとすぐに終点の流山です。駅前は完全に旧市街で「住宅街」と言うより「寂れつつある市街地」と言う感じです。
(左側)流山駅構内 (右側)塗装中の車両
終点流山に検車区があり3両編成の車両が塗装工事をしてました。流鉄はカラフルなカラーに色に合った愛称が付けられています。比較的原色系に近い色でアクセントに白の帯で「N」の字が入っている塗装は、私はなかなかアクセントがあり綺麗で好きです。
とりあえず駅を降りましたがタクシーが待っているだけで目立つ物は何も有りません。駅の周りを一周した後次の列車に乗り幸谷へ向い武蔵野線に乗り換えて、次の目的のつくばエクスプレスの乗換駅南流山へ向いました。
●ほのぼのした民鉄だが今や黒船襲来に戦々恐々?
流鉄は表面的にはほのぼのした大都市近郊のローカル民鉄ですが、近くに黒船が迫ってきています。それは都心直通のつくばエクスプレス(以下TXと略す)の開業です。
元々流鉄はJR武蔵野線と半並行しており鰭ヶ崎駅と南流山駅は700m程度しか離れていません。その為南側の駅勢圏需要のかなりの部分は既にJR運賃1本で行ける武蔵野線南流山に流れていると推察されます。
その上TXが南流山に駅を作り、快速で北千住10分・秋葉原20分に近づきます。これだと鰭ヶ崎駅〜南流山駅700mより遠い1kmを15分かけて歩いたとしても、南流山経由の方が早くなります。少なくとも南流山半径1km程度の中に有る流鉄駅勢圏の人たちが東京方面に出る場合は殆どTXを利用するでしょう。
TX・JR武蔵野線 南流山駅
しかしTXが置いた「天元の一石」と言えるのが流山セントラルパーク駅です。この駅は流鉄の鰭ヶ崎・平和台・流山の3駅から1km強程度の等距離に置かれています。流山セントラルパーク駅は流鉄の頭上に置かれた「天元の一石」です。これで睨まれてたら流鉄は手も足も出ません。少なくとも前からJRに取られていた南側の駅勢圏だけでなく、上記3駅の北側〜東側の駅勢圏もTXの流山セントラルパークに持っていかれてしまいます。唯一の救いは普通しか止まりら無い事と、バス等のアクセス手段が未だ未整備と言う事ですが、それでも秋葉原まで30分掛かるか掛からないかです。これでは東京に行く人は流鉄の駅前の人以外はキス&ライド等で流山セントラルパークに流れてしまい、誰も流鉄を利用しなくなってしまいます。正しく流鉄にとっては「黒船襲来」と言うより会社存亡の危機です。
(左側)TX流山セントラルパーク駅 (右側)流山セントラルパーク駅に入るTX普通
●「天元の一石」がもたらした競争は何をもたらすのか?
事実一説では流鉄の乗車人員は4割減ると言う調査もあり、流鉄はTXとの交差協議で補償(かなりの金額を要求していたと推察される)を求め、TXの工期・開業次期を左右するほど頑強に抵抗していました。
「
常磐新線に関する公聴会
(P7〜P12)」 最終的には補償として融資を受け土地を買いそこでの事業収益で欠損を補完する道を選びますが、確かにこれだけTXに強烈な「天元の一石」を打たれてしまうと、「そんな補償で足りるのだろうか?」と老婆心ながらにも流鉄の経営が心配になってしまいます。
これは需給調整規制が無い現在だからこそ打てる一石で有ると言えますが、TXに出資している流山市としても、ゆっくり走り乗換が必要な流鉄より都心直結のTXの駅の方が重要で、自治体としては流山セントラルパーク駅は流鉄を裏切っても是が非でも欲しかった一石なのでしょう。
しかしこれが競争の負の側面で有る事は否定できません。実際流鉄は極めて不利で厳しい競争に曝されます。これに生き残れればラッキーと言うレベルの劣勢な戦いです。これに負ければ鉄道廃止と言う話が現実化してしまいます。そうなると、代替駅が1km程度離れてしまう今の鰭ヶ崎・平和台・流山3駅の駅前の人々(特に平和台駅・流山駅西側(江戸川寄り)に住んでいる人)とJR新松戸まで1km以上歩く必要がでてくる小金城址周辺の住民には今より不便になってしまいます。
幾らTX開業で便利になったと言えども、少数派で有れどもこれらの利便性が落ちる事を容認する事は好ましく有りません。今回TX沿線では新線開業に伴う需給調整規制撤廃後の本格的競争(競争といえないほど一方的とも言えるが)が各地で行われています。
「
つくばエクスプレス訪問記
」
これらの競争がどの様になるか?競争とは如何なる結末を迎える物か?これから真剣に見ていかなければならないと言えます。「需給調整規制撤廃」や「参入退出規制の緩和」等は地域の交通に極めて重要な影響をもたらします。その事を肝に銘じなければならないと言えます。
●しかし先ずは流鉄の自己努力が必要
けれども今回利用してきてどうも流鉄には危機感が感じられません。少なくとも運行のコストに関する効率の悪さはかなりの物であると言えます。
実際各駅には駅員が常駐していますし(しかも馬橋・幸谷には2人居た)、ツーマン運転が行われています。これはこの規模の関東の中小ローカル鉄道では「合理化努力が足りない」部類に入ります。少なくとも馬橋・幸谷駅は委託化、それ以外の中間駅は無人化、車掌が集札兼務等の湘南モノレール形態や運転のワンマン化等のレベルの合理化は簡単に行えると言えます。
確かに合理化は首切りを伴う物であり有る意味困難を伴う物ですが、同時に流鉄にとって「今そこに有る危機」はその様な事を言ってられないレベルで有ると思います。
最終的にはTX開業に伴い補償を受けていて、当座の経営基盤はそれで補える事は確かに見通しが立っているのでしょう。しかしそれに胡坐をかいているのは間違いです。前述の公聴会で流鉄代理人の弁護士は「公共交通を守る」と言う視点の話をしていますが、それには流鉄自体を筋肉質にする事が重要です。
TX開業前には売上623百万円・経常利益34百万円と言うのが流鉄の鉄道事業成績でこれは決して悪い数字でありません。しかしこれが開業後はどうなるかは分かりません。単純に考えて原価が変わらなければ売上が5%(約31百万円)減れば利益は殆どなくなってしまいます。これでTX開業ショックを乗り切るのは先ず合理化が必要で有る事は明らかです。
経営者としては苦渋の決断になる事は否めませんし、今働いている流鉄の社員はサービスのレベル等の視点でも今回利用して問題は無いレベルです。その様な状況でリストラを勧めるのは私とて気が引けますが、そんなことを言っていられない危機的状況で有ると思います。黒船が置いた「天元の一石」は極めて強力です。その事に流鉄が気付いて先に手を打たないと、本当に「地域交通」を維持できなくなる日が来てしまうのではないでしょうか?私は極めて大きい危機感を今回感じました。
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