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東武は北関東ネットワークを捨てるのか?〜東武鉄道3月ダイヤ改正〜



TAKA  2005年12月25日






(右:館林で改造中の800系・左:配線改良工事中の久喜駅 11/12撮影)



※本記事は「TAKAの交通論の部屋 」「交通総合フォーラム 」のシェアコンテンツとさせて頂きます。


   皆さん今晩はTAKAです。  今日は東武ダイヤ改正についての話題です。その東武のダイヤ改正が3月18日に行われる事になり、概要が発表されました。和寒様も交通総合フォーラムで「 鮮明な輸送体系変革〜〜東武鉄道のダイヤ改正 」と言うレポートを書かれていますが、私もこのダイヤ改正のもたらす意味について考えたいと思います。
 「 東武ダイヤ改正概要 (東武HP)」
 この内容を見る限り、「JR新宿への特急直通」「半直倍増・10分毎運転」と言う大きなアドバルーンは揚がっていますが、実態としては「北関東地域間輸送の切捨て」と言うスクラップ&ビルト色の強い内容のダイヤ改正です。その「北関東との地域間輸送切捨て」を示す内容が「久喜・南栗橋での系統分割」です。
 私は特に「久喜・南栗橋での系統分割」と「東武の北関東ネットワーク」と言う関係を中心にして述べて見たいと思います。


 ●東武は「久喜〜館林間輸送を切り捨てて良いのか?」

 こんどのダイヤの系統分割で最大の問題は「久喜で系統分割する事で久喜〜館林間をJRのフィーダー路線にする」と言う事です。東武の北関東ネットワーク群馬方面の根元であり、かなりの需要が予想できる「館林〜久喜間を見捨てる事」になります。これは絶対にマイナスが多すぎます。
 実際に久喜〜館林間には花崎(12,068人/日)加須(15,333人/日)羽生(11,752人/日)館林(16,412人/日)と言う様に、自社線だけで1日当たりの乗降人数が1万人を超える駅が4駅有ります。(この先の伊勢崎線には1万人/日を超えるのは太田(13,910人/日)しか無い)これだけの需要が有って、久喜では鷲宮〜久喜65,548人/日:久喜〜和戸52,590人/日と言う久喜でのJRへの逸走と言う流動の段差が出来ている物の、久喜でのJR乗換客20,563人/日(自駅乗降客23,327人/日)と言う現況です。
 「 東武伊勢崎線各駅利用客数 (平成13年度関東広告協議会レポートP16)」
 久喜で系統分割すれば幾ら久喜で半直に接続する事で所要時間が短くなるとアピールしても、根本的に久喜をまたぐ流動に対してはマイナスになります。久喜乗換を強制されるならば実際に今有る流動のように、久喜でJR宇都宮線に乗り換えてしまうと言う人が増加する事が十二分に考えられます。JRは乗換こそ階段使用の乗換で乗換抵抗が有っても、スピードも速くで上野・池袋・新宿・渋谷へ直通します。これに久喜半直乗換が適う筈がありません。
 また久喜に半直の始発を持ってきたからといって、JR東北線からの流入が期待できるほど甘くは有りません。そう考えると館林以南の客が減らなくても、久喜逸走での久喜以南の乗客減と言うマイナスが大きくなり、単純に考えれば中途半端な方策です。
 今回の久喜系統分割は「東武北関東ネットワークからの乗客を、久喜でJRに逸走させ、久喜以北はJRのフィーダー路線にする」と言う事になります。それは明治38年に初代根津嘉一郎が東武鉄道が窮地の時に買収・増資を敢行し、利根川架橋を断行し、明治40年に足利市延伸を実現させて、今の東武鉄道の基礎と「東武北関東ネットワーク」の基礎を築いて以来、営々と積み上げてきた東武の北関東ネットワークを(徐々にでも)放棄すると言う事を意味します。この意味は東武鉄道に取り非常に大きな意味が有ると言えます。


 ●東武は東北線以北区間は「特急輸送と本当のローカル輸送」に割り切るのか?

 今回のJR直通及・両毛特急増発・伊勢崎線直通準急削減・快速の区間快速化の4つの行為と久喜・南栗橋での系統分割は、正しく東武が「北関東地区輸送は特急+ローカルに絞り、地域間輸送を諦める」と言う事です。今まで無料で東京(浅草)に直通していた伊勢崎線準急(特に昔のA準急)・日光線快速を切捨て、その地域間輸送の代役に特急をあてると言う方針の大転換が訪れる事になります。
 私はそんなに簡単な話ではないと思います。特に日光・鬼怒川系統は今回JR直通でも梃子入れが困難なほど、その観光地共々落ちる所まで落ちていると言う状況です。地域間輸送では日光線は東側でJR宇都宮線に逸走していますし、自動車・高速道路へも逸走しています。伊勢崎線系統でも、JR高崎線・上越新幹線本庄早稲田への逸走及び自動車・高速道路への逸走が進んでおり、今まで無料優等に乗っていてくれた客が、特急に転移してくれるとは簡単には言えません。
 このように特急も劣勢の状況です。その状況でも東武の両毛地区路線の地域間輸送を支える柱になりえるのでしょうか?私は疑問です。久喜・栗橋でのJR宇都宮線への逸走であれば、以南地域での流入客減と言う限定的影響で済みますが、そうならずに、上記の様に無料優等→特急への乗客転移の変わりに、根本的な所から東武から乗客が逸走すると考えられます。これが発生してしまうと、その結果として東武は北関東ネットワークを根本的に捨てざる得なくなる事を意味します。


 ●今回のダイヤ改正は東武の北関東ネットワークにとり「終わりの始まり」を意味する。

 つまり今回のダイヤ改正は「東武の北関東ネットワークの終わりの始まり」と言う事になります。久喜・南栗橋と言う幹の部分で系統を切断してしまえば、その先は立ち枯れしかありません。「東武北関東ネットワークはJR宇都宮線のフィーダー路線で生きていく」と言うシナリオは、上記の様な根本からの逸走の可能性を考えると、極めて困難であると言えます。
 そうなった場合一番最初に末端路線が枯れて行く事になります。その時に色々な方策が実施される可能性が有ります。例えば有力な方策としてバスの様に「(久喜以北の)東武群馬鉄道・(南栗橋以北の)東武栃木鉄道」と言う様な分社化と、それに伴う大幅な合理化が行われる可能性が大きいとも言えます。
 しかしそれだけで留まるか?と言えば極めて厳しいと言えます。その先に有るのは「閑散路線の廃止」です。そうなれば小泉線・佐野線佐野〜葛生間等は真っ先に廃止対象となるでしょう。しかしそれだけではすまない可能性が有ります。今回「東武北関東ネットワーク」に大鉈が振るわれた事で、久喜・南栗橋以北では優等の恒常的に走っている伊勢崎線久喜〜太田間・桐生線・日光線・鬼怒川線以外は、大幅な合理化もしくはその究極としての廃止が浮上する可能性が否定できなくなりました。


 ●これは「東武は都市近郊輸送鉄道に転換する」との意思表示なのか?
 東武社内では「収益力の有る路線路線は伊勢崎線東武動物公園以南(野田線含む)・東上線坂戸以南」と言う認識が、前からあったのは事実です。(鉄道ピクトリアル97年12月東武特集で東武の内田(元)社長がインタビューで述べている)
 今回のダイヤ改正は華々しくアドバルーンを掲げた陰で、「地方閑散路線をどうすれば良いか大変悩む」「東武は三分の二が地方閑散路線ですから、大変危機感を感じる」(上記インタビューより引用)と言う根本認識の下で、遂に北関東の不採算路線の粛清への第1段階を歩み出したと考えるのが正しいのかもしれません。
 その証拠が、地域間輸送列車として、それなりに価値のあった快速の「区間快速化」と、利用客の比較的多かった伊勢崎線準急の久喜〜館林間切捨てです。これは「望みの有りそうな所も切り捨ててでも、久喜・南栗橋で分割して収益力の有る近郊区間を改善する」と言う事です。これは東武鉄道108年の歴史の中で、前述のように明治40年の利根川架橋完成・足利市延伸により地域間輸送鉄道としての地位を歩みだして以来の大変革になります。
 けれども民間企業としてはこれが正しいのかもしれません。不採算を切り採算性の有るところに力を注ぐと言うのは、民間企業としては正しい行動です。それは否定できません。財務内容に劣る東武鉄道に、採算性の劣る「東武北関東ネットワーク」を支える力がもう無くなったと言うのが、正しい実情かも知れません。
 その採算性の有るところへの活性化策が「準急立替による半直倍増」と言う事なのでしょう。実際今回の方策で半直が増え利便性は大きく向上します。和寒様指摘の様な夕ラッシュ時の需要と輸送力のアンバランスも解消されます。
 しかしその反面特に昼間に大きく輸送力も増える事になり、昼間は輸送力が過剰になる可能性も高いと言えます。今は昼間1時間の輸送力は準急6両*6本+半直10両*3本=66両だったのが、ダイヤ改正で半直10両*6本+区間準急6両*3本=78両と約18%輸送力が増加します。これだけ輸送力が増えたら空気輸送状況が現出されるのではないでしょうか?東武伊勢崎線沿線が昼間にそれほどの輸送力が必要なほど成熟しているのでしょうか?そう考えると昼間の半直増強策はリスクの有る方策で有ると言えます。
 そういう意味では今回のダイヤ改正は、「朝夕ラッシュ時に半直を増強して(特に夕ラッシュ時の)輸送力のアンバランスを解消する」と言う方策は正しい物の、昼間の「未だ可能性の有る伊勢崎線館林〜久喜間輸送を切り捨て、空気輸送の可能性と言う効果が疑問視される半直増発に注力している」という事になります。でもこれは酷評でしょうか?
 今回のダイヤ改正が「東武は都市近郊輸送鉄道に転換する」との強い意思表示とも捉えられると言えますが、一気呵成の方向転換はリスキーな側面も抱えていると言えます。果たしてどうなるかこの結果は注目に値すると言えます。


 近年参入退出規制の緩和に伴い近鉄北勢線・名鉄岐阜四線等大手民鉄のローカル線の廃止が進んでいます。これは時代の流れとして致し方ないことですし、民営鉄道としては当然の話です。この様な不採算路線は近鉄・名鉄・東武等の多くの路線を持つ民鉄に多く存在します。「東武北関東ネットワーク」もその様な路線で有る事は間違い有りません。
 現状では確かに北関東地域の東武各線の需要は、大きく高崎線・上越新幹線・宇都宮線・自家用車に吸い取られていて、やせ細りつつある状況にある事実が有ります。しかしこの事実を加速させるだけの今回のダイヤ改正で、今後とも「東武北関東ネットワーク」各路線が生きていく事が出来るのでしょうか?
 果たして東武鉄道の北関東ネットワークは、生き残る事が難しくなった現状で、近鉄・名鉄各路線に続いてリストラされるのでしょうか?今回のダイヤ改正は短期的にはスクラップ&ビルト策ですが、長期的には北関東ネットワークのリストラ策の第一歩で有ると言えます。今回のダイヤ改正を見るとリストラの日も遠くないのでは?とひしひしと感じられます。正しく「東武北関東ネットワーク」の終わりの始まりと言う事であると思います。「東武の北関東ネットワーク」の現状は、リストラの基盤造りをしなければならないほど追い詰められていると言えます。その事を踏まえて今回の輸送体系変革を見なければならないと言えます。



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