このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください





鉄道における「ブレークスルー」の重要性について考える。



TAKA  2006年01月26日



   
(左:池袋に停車中の湘南新宿ライン   右:池袋の埼京線・湘南新宿ライン分岐点)

   
(左:横須賀線との合流点蛇窪信号所 右:戸塚駅での東海道線・横須賀線の渡り線)


 私は何時も移動には、公私に渡り公共交通機関6:自動車4の比率で交通機関を利用しています。東京では特別の事が無い限り、公共交通機関の方が移動には確実だし便利です。只それでもなかなか自動車の誘惑には勝てません。(だから4割も利用している)なぜなら歩くのが好きでないから乗換が非常に負担になるからです。
 多分人により程度の差が有れども、「座れて」「階段乗換が無い」そんな公共交通機関があれば正しく「理想の公共交通機関」と言う事が出来るでしょう。
 現在は「駅のバリアフリー化」でエレベーター・エスカレーター設置工事が急速に進んでいますが、究極のバリアフリー化は乗換その物がなくなる「直通運転化」が進む事です。今では「 都市鉄道等利便増進法 」等の法律が出来て、鉄道のシームレス化の為に直通運転の促進等の動きが進んでおり、「 相鉄・JR直通運転構想 」「 東西線・西武新宿線直通構想 」等の目だった動きも出ています。

 例えば私の家から神奈川県内に移動する時は、今までは池袋でJRに乗り換えた後新宿で小田急線・渋谷で東急線・品川で東海道線or京急線にもう一度の計2度乗り換えないと、東京練馬区〜神奈川県には行けませんでした。
 しかし現在では「湘南新宿ライン」が出来ているので、京浜・三浦・湘南方面(東海道線・横須賀線沿線)には池袋の乗換1回で行けます。正しく「湘南新宿ラインがもたらしたシームレス化の効果」です。
 正しく「湘南新宿ライン」は関東における直通乗り入れによるシームレス化の象徴的路線で有ると言えます。元々関東では都心に対しては「地下鉄への乗り入れ運転」が進んでおり、その点では別に珍しくない例ですが、「湘南新宿ライン」はその直通運転を「多額の投資をせずに実施した」と言う点に優れた「ブレークスルー」が存在しています。
 湘南新宿ラインの効果自体は各種鉄道雑誌やHP等でも述べられていますが、私はちょっと視点を変えて、湘南新宿ラインの成功を踏まえつつその成功の要因である「ブレークスルーの重要性」について述べたいと思います。


 ●湘南新宿ラインは何故成功したのか?→既存インフラを使い既成概念を打ち破ったブレークスルーが要因

 何故湘南新宿ラインは成功したのでしょうか?それは「需要が有る所に有効策を打った」と言う点と「既存インフラを有効に使ったブレークスルー」と言う点が湘南新宿ラインの最大の成功要因で有るといえます。
 本来湘南〜新宿は小田急が横浜〜渋谷は東急が結んでおり、必ずしも「直通が無い区間」では有りませんでしたが、民鉄は「低速運転」で有名であり、「早く移動したい」と言う需要を満たしていませんでした。そこに湘南新宿ラインは、蛇窪経由の距離的ハンデを比較的高速運転で補い既存民鉄路線に所要時間を武器に競争を挑むと同時に、今までは無かった湘南〜渋谷・横浜〜新宿等需要は多そうでも微妙に直通が無かった区間をカバーしたと言う、ニーズの捉え方の絶妙さが第1の成功の要因です。
 又そのニーズのキャッチを支えたのがインフラの有効活用です。これだけの新しいルートで有るにも関わらず、湘南新宿ラインがラッシュ時を含めた毎時4本運転体制に持っていくのに、写真に有る3箇所のキーポイントの内蛇窪信号所・戸塚で上手く既存インフラを使い、車両以外の大きなインフラ投資は(埼京線延伸時の各駅ホーム新設投資を除けば)池袋・新宿の配線改良だけで新ルートを作ることが出来たという点が、第2の成功の要因です。
 湘南新宿ラインは既存で遊休路線であった山手貨物線等を上手く活用する事で、上記のように大型の投資を避け低コストでドル箱になれる副都心直結ルートを建設することが出来ました。これは新宿(三丁目)・池袋延伸の為に、地下鉄13号線乗り入れ・10両化工事・渋谷駅改築と言う巨額の投資を迫られる東急と対比すると、「既存インフラ活用が出来た」と言う点で非常に恵まれています。
 この「需要路線に低コストで参入できるように工夫をする」と言う事が成功の要因です。需要ルート上の貨物線・短絡線を旅客線に転用するブレークスルーが有ったから湘南新宿ラインが成功したのです。


 ●今の鉄道に必要なことは「既存を生かすブレークスルー」

 湘南新宿ラインの成功から見れば明らかな通り、既存のインフラを最大限に生かすという事が必要であるというのは明らかです。鉄道事業は「インフラが金を稼ぐ」産業で有る事は誰も否定できません。しかしインフラが有ってもその活用について既定観念で考えると、そのインフラは上手く利用できません。
 インフラの利用策を固定観念で考えずに、その固定観念をブレークスルーして上手くインフラを活用しネットワーク化したりして、インフラを最大限に生かすという事がこれからの鉄道業には必要です。そうしないとインフラの利用率が上がらず、資産効率の向上が進みません。低コストのインフラで最大限に稼ぐ事が収益向上には必要なことです。
 そのブレークスルーの成功例が「湘南新宿ライン」であり、ネットワークを利用した都心ルートの複数化に成功した目黒線〜東横線複々線への東急の新ルート建設です。湘南新宿ライン開業後、現在では「JR・東武日光線直通運転」等の、最小限のインフラ改良で直通運転を実施する例が増加してきています。此れも「湘南新宿ライン効果」と言う事が出来るでしょう。
 今の時代では新線を引くより既存改良の方が得ですし、既存改良するより、改良しなくて済む既存資産の有効利用を図る方がお得です。それに遊んでいる資産が有るのなら使ったほうがお得です。これからは鉄道事業においても、保有資産の有効活用と使用効率の向上を真剣に考えなければなりません。
 その「既存インフラの有効活用」により利便性が向上すれば、利用者にも当然メリットが有ります。「経営者に収入増のメリット」が有り「利用者に利便性増大のメリット」が有る事が低コストで出来るのなら、此れほど素晴らしい事はないでしょう。この事は今後とも他交通機関から鉄道に利用者を引き付けて行くためにも必要なことです。


 ●これから可能と思われるブレークスルーは?

 実際に可能なブレークスルーによる直通運転は何処で可能なのでしょうか?少なくとも「需要拡大が期待できる」「少ない投資で可能である」「運行等で無理が無い」と言う事が、実施路線選択の基準になると思います。(趣味的側面で大風呂敷を広げても意味が有りません。現実性を追求する事が重要です)
 その条件に当てはまる直通運転には、大きく言えば湘南新宿ラインの2匹目のドジョウともいえる「短絡線の有効活用」であると思います。その中で有る程度の需要が期待できる所を探さなければなりません。
 私が考える焦点は「りんかい線〜京葉線直通」になります。池袋・新宿・渋谷・臨海副都心〜舞浜・幕張が結ばれたら、利用客は多く存在するでしょう。その上実現にインフラ上の制約はゼロで、明日にも直通運転は可能です。又今総武線経由で行い制約の多い房総特急の新宿直通も臨海線経由に振れれば、総武緩行線の制約も緩和され、増発も可能になり房総特急の活性化に繋がります。
 しかし此処での制約は「間にTWRを挟むのでTWRの運賃を徴収するのに(現在の新木場乗換の様な)関所を何処かで作る必要が有る」と言う問題だけです。これさえブレークスルーすれば直ぐにでも直通運転可能です。
 この問題は「運営をJR東日本に委託しTWRは施設使用料を取る」上下分離等の方策を行えば可能です。これによりTWRは固定的収入を得られ、巨額の債務返済を安定的に行う事が可能になり、同時にインフラ以外の車両等の資産をJR東日本が買うことでTWRのキャッシュフローを改善し、借入金繰上げ返済等でTWRの経営改善を図ることも可能です。
 其処まで話を進めなくても、上手く料金配分の協定さえ締結する事が出来れば、TWRの上下分離と言う複雑な操作をしなくても簡単に可能です。東武鉄道と東京メトロ間で「半蔵門線直通を巡る運賃に関して運賃配分の協定が結ばれて、半蔵門線直通列車利用客が北千住乗換の安い切符で利用されて東武が減収になる」運賃問題が解消されたとの話も有ります。この様な柔軟な運賃配分協定さえ結べれば、埼京線〜TWR〜京葉線と言うブレイクスルーは直ぐにでも可能になります。
 このブレークスルーが、東京の鉄道ネットワークにもたらす効果は、極めて大きい物が有ります。今関東で可能なブレークスルーの中で一番低コストで簡単であるが、一番メリットの有る物だと言えます。これを実施すれば、千葉臨海地域の活性化に寄与する事は必定です。このブレークスルーの唯一の問題点は乗り入れ先の「山手貨物線(埼京線)」の線路容量だけです。その効用から考えても、(運賃精算が比較的やりやすいと考えられる)落日を迎えつつある房総特急の新宿直通からでも始めるべきであると考えます。


 ●結論に変えて

 この様なブレークスルーを行わないと、将来的に鉄道事業は「小子化」「人口減少時代」に飲み込まれて、ジリ貧になりかねません。需要のパイが減るのであれば、利便性を向上して利用頻度を上げるか他の交通機関から客を奪わない限り、売上の向上は望めません。関連事業で補填するのも必要ですが、もっと根本の幹の部分の鉄道事業を活性化させるブレークスルーを見つける事が、現在の鉄道経営には重要で有ると言えます。
 「湘南新宿ライン」「東武〜JR直通運転(栗橋連絡線)」の様な低コストブレークスルーのネタは、例示した埼京線〜TWR〜京葉線の事例以外にも未だ存在すると思います。「都市鉄道等利便増進法」に基づく大規模改良も良いのですが、其処まで大規模にしなくても既存インフラを有効活用したブレークスルーのネタは安価に見つける事が出来るのでは無いでしょうか ?
 実際は「運行に関係する事業関係者が少ない(調整の手間の問題)」「既存インフラに余裕が有る」等の条件が揃わないとなかなか出来ない事ですが、インフラ有効活用によるブレークスルーの「ネタを探す」事が、成長のネタに乏しい鉄道事業者に取って成長への方策になるので、今後の鉄道事業者に必要な事ではないでしょうか?
 
 但し条件は「難しくなく実現可能」と言う条件がつきます。多額の投資をすれば何処でも直通運転は可能になります。しかしそれでは鉄道会社の経営に貢献するどころか足を引っ張る事になります。先ず探すべきは「需要の有るところに低コストで出来(鉄道会社のメリット)」「利便性が高くなる(利用者のメリット)」所です。簡単に運営者と利用者のメリットを両立させる案を考える事こそ真の「ブレークスルー」なのです。それは決して難しい話では有りません。
 その様な点から考えれば、「(通勤路線で)フリーゲージトレイン活用で異軌間鉄道直通」等の案は、余りに高コストになり、通勤鉄道では費用対効果の点で非現実的な話です。
 あくまで鉄道事業は公共性の高いビジネスです。その点から考えれば、鉄道オタクや一部の評論家等が言う「無謀な直通案」はとんでもない話になります。その様な事をしたら鉄道会社の首を絞めることになり、それは最終的には運賃や運行体制等に跳ね返り利用者の為にもなりません。その様な非現実的な事を言う事は「罪」であり「社会的犯罪」と言えます。
 マニアが夢を話すのは良いですが、鉄道輸送は現実の世界です。建設的な話をするのなら「現実に即した」範囲内で「費用対効果」を考えた上でのブレークスルーを考えないと誰も相手にしなくなります。この手の「一歩踏み外すと妄想に入りやすい」内容の議論を、一般社会に通用する議論にする為には重要な事であるといえます。そうでなければ議論する意味は有りません。





※ブラウザの「戻る」ボタンでお戻りください





このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください