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富 山 港 線 訪 問 記

-都市近郊ローカル線がLRTで蘇るのか?-



TAKA  2004年05月22日



※本訪問記は04年5月に他サイトのオフ会で富山訪問時に書いた訪問記(そのサイトでは過去ログ扱いされている)を加筆・修正したものです。
 その為執筆日は訪問日の2004年5月22日にしています。予めご承知置きください


 今回は私が昔に書いた旅行記を編集し、掲載する事にしました。一昨年の5月になりますが、他のサイトのオフ会に参加させて頂き、高岡(万葉線)・富山(富山港線)を参加の皆さんと見てきました。
 富山では「富山港線LRT化」が進んでいて、遂に 本年4月29日に「富山ライトレール」が完成・開業 し、日本初ともいえる路面電車・郊外鉄道直通の近代的LRTが登場することになります。
 岐阜と比較して見てくると、富山は正しく成功例です。都市近郊の衰退しつつあるローカル線が、大手鉄道会社から友好的に分離し改良工事を行いLRTに再生されると言う、都市近郊ローカル線の再生の良い例になる可能性が高い路線です。
 本来なら昔の訪問記を載せても仕方ないのですが、岐阜の話も書いたので、成功例の富山の話も書こうと思い、今回死蔵している訪問記を編集・復活させる事にしました。
 原則として、訪問記は昔のまま、自分の意見や社会的状況を今の時代に合わせた内容で修正して、今回掲載する事にしましたので、ご理解のほど宜しくお願いいたします。


 (1)富山港線LRT化計画の概要

 富山港線LRT化に関しては、すでに事業会社として「 富山ライトレール 」が一昨年の4月17日に設立されており、現在新設併用軌道部分や富山駅前駅舎の新設等が着々と進んでいます。
 「富山ライトレール」は、会社構成は「資本金が4億9800万円、富山市が33.1%、富山県が16.1%+基金8000万円、民間が残りの50.8%を出資」と言う構成の会社です。出資先には北陸電力・インテック・富山地鉄・富山第一銀行・日本海ガス等計15社で、富山の主要企業そろい踏みの感じで作られた会社です。それだけでも富山市・富山県の事業への意気込みがわかります。
 富山港線LRT化事業の骨格は平成15年11月の富山港線路面電車化検討委員会の「中間取りまとめ」の内容が骨子となっています。
富山駅周辺整備について 」「 富山港線路面電車化検討委員会−中間とりまとめ− 」「 開業にむけて出発進行!富山ライトレール

 基本的には「富山港線LRT化」事業を45億円(専用軌道整備20億・併用軌道整備9億・車両16億)掛けて、
  1.富山港線について15分間隔運転に適当な交換設備・低床車両(を整備
  2.中学校前踏切〜富山駅北口間を路面(綾田北代線〜ブルーバール)に単線で移設
  3.関連街路の整備(八田橋改修他)
  4.電圧を600Vへ降圧を実施
  5.新駅3駅設置
 等の事業をし、平成18年度のLRT化開業を目指すというのが計画の概要です。
 ※ 現在の工事の状況についての参考写真

 将来的には、北陸新幹線富山駅乗入と富山駅周辺北陸線連続立体工事が竣工した段階で(開業後10年・平成28年頃)高架下を通り富山駅南口に乗り入れ、今富山市内を走っている、富山地鉄市内線に乗り入れを行う予定です(詳細は決まっていません)。
 これにより、富山駅高架下から岩瀬浜・大学前・南富山の3箇所へ、路面電車交通が整備される事になり、同時に富山地方鉄道市内線で浮上している「 市内線環状化 」が実現する事になれば、富山市内の軌道系公共交通網は、より一層整備され利便性は向上することになります。


 (2)富山港線(及び沿線)訪問記

 実際に2004年5月22日〜23日に他サイトオフ会に参加して、22日に富山16:38→岩瀬浜16:59・岩瀬浜17:22→富山17:41で富山港線を試乗、23日朝にLRT軌道予定区間と富山港線隣接の県道30号線と県道142号線を通り車窓より富山港線沿線を、帰り間際の夕方に富山駅北口周辺を見てきました。

 ○富山港線に試乗して

 2004年5月22日に、実際に富山港線に試乗してきました。土曜日の夕方であり、通勤主体の富山港線の実態を示しているとは言い辛いですが、上記試乗の列車は偶々3両編成の電車で、各車両とも(われわれオフ会の参加者を除いて)大体各ボックスに1名に欠ける程度の乗客が乗車していました。
 この時間は前の列車が24分前に出ていて、昼間の時間帯の毎時1本が夕方の毎時2本になり、その増発に3両の電車が入る時間帯なので、比較的輸送力過剰でありこの程度の乗車率なのでしょう。富山駅で乗車後乗車客はほとんどなく、各駅で五月雨式に下車して行き、最終の岩瀬浜駅ではわれわれを除くと数名の下車客が有るだけでした。
 又途中駅の城川原でキハ120系単行と行き違いしましたが、部活帰りの中学生を含めて(競輪帰りの客も少し居た感じ、競輪場駐車場は閑散としていたが、富山行きは競輪場前にも停車したので)立ち客が通路を塞ぐ位の乗客が有りました。

 
富山駅富山港線ホーム(停車中の列車はキハ120系単行)

 終点岩瀬浜駅では折返しの時間を生かして駅を出てみました。駅前は県道の交差点ですが、鄙びた駅舎に駅敷地内に月極駐車場・自転車が数台おいてある駐輪場があるだけで、駅周囲も店はコンビニのサークルKが有る位で、住宅は有るが栄えているという感じではないですが、駅の富山寄りの河川(運河?)敷に岩瀬カナル会館という観光施設の感じの飲食施設の入った観光施設が有るので、駅のホームの富山寄りに連絡口ぐらい作っても良いのでは?とは感じました。
 元々工場地帯への通勤線だったのですから、少なくとも競輪場への来客以外は観光等の定期外客の獲得に熱心でないのは分かります。只これからは観光資源等が有るのなら、定期外客の拡充に注いだ方が良いのかもしれません。

   
(左:富山港線岩瀬浜駅ホーム状況(写真奥・ホーム富山寄り突端の先に観光施設がある) 右:富山港線岩瀬浜駅舎)

 岩瀬浜で20分強待った後17:22発の列車で富山へ戻りました。帰りも我々オフ会の参加者以外は行きの岩瀬浜行き列車の乗客数と同じ位で、岩瀬浜では数人しか乗らない状態、そこから富山へ向かい増えていく状況でした。
 帰りの電車も城川原でキハ120系単行下りと行き違いましたが(富山17:19発)、向こうの列車は多少の立ち客が居ました。しかしキハ120系単行ですから・・・。土曜日の夕方という時間帯と夕ラッシュ用に毎時2本に本数が増えたと言うことも有るのでしょが、キハ120系では若干輸送力不足(立ち客を容認すれば適性?)だが、電車3両では輸送力が余り過ぎという事でしょう。
 そう考えると輸送量から見て毎時4本のLRT化は輸送力的には適正なのかもしれません。

   
(左:富山港線車内状況(岩瀬浜17:22発、富山到着直前に撮影) 右:同列車富山駅17:41着の状況)


 ○富山駅北口の状況

 富山駅北口は業務地域として再開発された地域で北陸電力・インテック等の上場企業の本社やホテル・公共施設等が立ち並び整然と開発された地域です。ただ駅前広場は北陸新幹線乗り入れ・北陸線高架化との絡みでしょうが、とりあえず整備してあるという様な簡易的整備がされている状況です。
 しかし「ビジネス街」と言う形で整備されているようで、ビルの地下の飲食店以外は目立った商業施設は有りません。駅の南北のビジネス街・丸ノ内周辺の官庁街・西町のショッピング街と言う3部構成で富山の街は出来ているとも言えますが、現状では富山駅北側再開発地域だけポッカリ孤立した感じです。その孤立解消と町の一体化の為にも富山ライトレール・富山地鉄市内線の連絡と環状線新設は有効で有るとも言えます。

   
(左:LRT導入計画空間(富山駅北口広場) 右:富山駅ホームから富山口方を見る(北陸線高架時に線路を移設する区間))

 駅前のメイン街路のブルーバールは再開発に伴い整備された道路の様で、道路幅員が非常に広くゆったりと作られています。歩道を多少縮小して再整備すればLRTを複線で導入する空間は十分確保できる余地はあります。

   
(左:LRT導入予定空間(駅前広場→ブルーバール) 右:LRT導入予定空間(ブルーバール→駅前広場) 

 ブルーバールを右折した先の綾田北代線は写真の通り片側2車線ですが、歩道も狭く拡幅余地も無いので、LRTは単線で乗り入れるのが限界です(実際単線で工事されている)。途中の八田橋は中間報告にも有るとおり改修をしないとLRTの荷重に耐えられない感じで、その上中学校前踏切で富山港線に入る所は南西の角にビルが建っていますが、曲線のでの擦り付けを考えるとこのビルの買収も必要であると思われます。

   
(左:LRT導入予定空間(ブルーバール) 右:LRT導入予定空間(ブルーバール→綾田北代線))

 
 ○富山港線沿線の状況(平行道路を走って)

 翌日は沿線を見る為に、完全に平行している県道30号線を岩瀬浜まで走りました。県道30号線は片側1車線でしたが所々は拡幅が行われており、車は走りやすい環境です。日曜日の朝であったためかスムーズに流れており、ただ土曜日夕方車窓から見た県道30号線もスムーズに流れており、車が富山港線を追い抜くというローカル線特有の事象が頻発していました。
 その後岩瀬浜から富山市街に戻るときに使った県道142号線(産業道路)は、海寄りには三菱レーヨンと東ソーの大型工場やリサイクル施設の工業団地が建ち、富山市街に近づくとロードサイド型の店舗が立ち並ぶという地方都市にはよくある光景で、意外に通行量も多く片側2車線で右折帯もあるという走りやすい道路環境と相まって、富山市北部の海岸地域から富山市街へ一番早く行けるルートとして完全に機能しているという感じでした。
 県道142号線通過時に近接の北陸本線東富山駅にも寄りましたが、駅前こそ店も少なく富山から1駅目の駅とは思えないローカル駅でしたが、店はすぐ近くの県道にロードサイド型の店舗があるので、駅前の旧型の店は敗退してしまったというのが正しい所でしょう。しかし富山港線より本数が多く、昼間こそは毎時1本でも朝夕のかなり広い時間帯は毎時2本強有り、終電が富山発22:50と富山港線より1時間遅いということから考えて、富山港線の大広田・東岩瀬の各駅の東側の駅勢圏はかなり東富山に侵食されているのではないかと感じました。
 この様に富山港線沿線は車での移動もストレスを感じない程度に道路も整備されており、富山市街からも距離が無く道自体は坂道も無くフラットな為、雪が降る冬以外は自転車が、富山港線・LRTの競争相手になる事が予測されます。自動車・自転車・JR北陸本線と富山港線を囲む競争相手は強敵で多いということが出来ます。

 以上私の富山港線訪問時に感じた、富山港線を取り巻く状況の感想ですが、一言で言えば富山港線を取り囲む環境は極めて厳しいという事が改めて分かりました。只沿線を見る限り、必ずしも悲観的状況では有りません。
 確かに競争相手が多いものの、富山港線周辺には富山化学等の大工場や競輪場が有ったり、沿線には住宅地が途切れなく続き沿線人口は多いというように、普通のローカル線に比べて、まだ恵まれた状況と潜在需要が存在することは疑う余地はありません。そこから今回のLRT化計画が出てきたことは間違いないでしょう。
 しかし、富山県は人口当たりの自動車保有台数が日本一である現状を裏付ける様に、各住宅や沿線駐車場に車が多く置いてあり、県道142号線のように車利用が圧倒的に便利な環境が整っているという事が、富山港線LRT化の敵になる可能性も否定できません。そう考えると今回の富山港線LRT化計画には「はたして計画通りに行くのか?」「LRT化は車社会を変える事はできるのか?」という危機感を改めて感じました。


 (3)富山港線LRT化計画に対しての私見

 以上のように実際に富山港線LRT化計画の概要を踏まえて、実際に他サイトオフ会で見学に行ってきましたが、果たして富山港線のLRT化は成功するのでしょうか?以下において私個人の見解を基に考察してみたいと思います。

 ○富山港線LRT化の大本→富山駅連続立体の絡みで出てきた計画?

 私が色々と調べてみると、富山港線LRT化計画は基本的に「富山港線を如何にして富山駅高架化の計画と摺り合わせるか?」ということに対しての回答として出てきたというのが直接的な動機ではないかと感じます。ローカルで不採算の富山港線を高架化するのにも問題が有るし、富山港線を仮線に振る用地も無い。北陸新幹線開業時に幹の北陸本線が第三セクターに分離された段階で、富山港線だけをJR西日本が運営するのは負担になる。その問題の解決策がLRT化で無いかと推察します。
 ですからまず都市の公共交通の活性化のためにLRTを考え出したというよりかは、「現況では”放置プレイ”のまま野垂れ死にしそうな富山港線に高架化費用40億は出せない。その対案として費用を掛けLRTにしてそれで活性化をさせて生き残らせよう。座して死を待つよりかは良い」というのが本音のような気がします。
 それは中間報告の行間からも読み取れますし、「 公共交通をよくする富山の会 」のサイトにも詳しく書いてあります。
 (参考資料)「 路面電車化へ踏みだす「JR富山港線現地調査」−土居靖範立命館大学教授に同行して−
 上記サイトに書いてありますが、「まず始めに富山港線の存続ありき」で「その方策がLRT」ということは、あながち間違えていないといえるでしょう。状況としても北陸本線連続立体化工事と北陸新幹線建設に伴う北陸本線仮線用地を富山港線線路用地に求めラップする部分を路面電車化し、路面電車が走れる設備を導入するために富山港線をLRT化する。そのついでに増発等の利便性向上策を行い富山港線を活性化させようというのが、本事業の旗振り役・富山市の本音ではないでしょうか?


 ○果たして富山港線LRT化計画は十分検討された上での計画なのか

 私の推測も含まれますが、上記の様な背景の基に1年前に出てきた「富山港線LRT化計画」、十分練りこまれた計画なのでしょうか?
 富山港線LRT化に対しての内容は、すでに富山港線路面電車化検討委員会の 最終答申整備計画 が公表されています。今その方針に従い「富山ライトレール」が設立され、実際に免許も取り整備工事が進んで、やっと開業までこぎつけています。
 この最終答申・整備計画は基本的には前述の「中間取りまとめ」を基本に作られています(経営形態と財政補助の部分以外は中間報告とほぼ同じ)。中間取りまとめも3回の会合で内容が決定されており、沿線地域住民へのアンケート等は取っていますが、答申自体の内容は予め事務局の富山県・富山市が作成したもので、それを検討委員会に諮っただけであることは、間違いないと推察されます。
 ただJR西日本が富山港線と吉備線の分社化の上LRT化をすると表明したのが2003年2月で、富山市が議会に富山港線路面電車化を表明したのは5月、委員会の第一回会合が7月で、中間取りまとめ公表が11月です。この様に表面に出る前のかなり早い時期から計画の検討を進めていたのは間違いありませんが、表面化してから9ヶ月の短い期間で、街づくり等まで視野に入れた十分吟味されたLRT化の計画立案がされたのでしょうか?その点が疑問です。
 私的には需要予測とそれに基づいた収支計算に疑問があります。今の富山港線の利用客数は約2500人/日(平成11年度「 公共交通をよくする富山の会 駅ごとの旅客輸送状況 」検討報告書p6では約3400人/日)ですが、LRT化で増発・新駅設置・新規乗客の誘発等を行うと約70%増の4200人/日に増加するとのシミュレーションをしています(検討報告書p6)。
 果たしてこの計画は旨く行くのでしょうか?レポートの所でも述べましたが、富山港線沿線は自動車交通に障害の少ない地域で、平地なので自転車も脅威になります。全線で住宅地が連なっていても今の状況ですから、LRT化による活性化計画を行っても70%も乗客が増えるのでしょうか?
 今は対距離制運賃で最高200円の運賃も全線均一で200円になります。これは今利用客が多い下奥井〜蓮町間では値上げになることを意味します。増発等による利便性向上に引き換え値上げになっても乗客は増えるのでしょうか?
 富山港線路面電車化調査委員会では沿線にアンケートを実施しており、その中で運賃は現状の水準で不満を表明している人は約9%で他項目より低く、LRT化計画ではこのアンケートで不満の多い運行頻度・終電時間に対してはケアをしていますが、実質的運賃上げについては何も表明していません。そのような形の調査では、アンケートでは63%の人が「利用は増える」と言っていますが、実質運賃値上げを知ったらこの比率は減るのではないでしょうか?
 そうなると、根本の需要予測が怪しい?となると当然収支計算も怪しくなります。現在の収支計算は、償却前収支で「LRT化の4200人/日では約9%の赤字」「11年後の市内線乗入後は5000人/日に乗客数が増え約5%の黒字」となっています。確かに市内線直通をすれば便利になるので利用客が増えるのは必定です。只乗り入れは増収要因(利用者が800人/日増加)ですが、同時に原価増の要因にもなるはずです。その当たりがどれ位反映されているか(800人増で約8%赤字→約5%黒字ではそんなに原価増は反映されていない?)が疑問点です。その様な点を少々考えただけで粗が見えてきてしまいます。そのような計画が練りこまれた計画なのか?考えると、老婆心ながら富山港線LRT計画について事業の収支面で不安が出てきてしまいます。


 ○しかしながら”座して待つより打って出よ”の決断は正しい

 実際今の富山港線がJR西日本の”放置プレイ”で半身不随状態にあることは間違い有りません。平成7年〜12年の5年間で沿線人口→3%減に対し富山港線利用客→25%減は、明らかに沿線住民に富山港線が見捨てられたことは間違いありません。なんせ今や昼間はキハ120系単行での運行で十分な需要量です。1時間毎はキハ120系単行1両で運転できる運転間隔です。今の設備であれば城川原で交換可能なので、キハ120系単行2両に増やせば30分毎の運転が可能になります。全駅が無人駅でワンマン運転あれば、今の毎時1本運行体制は最小コストの運行体制です。そこから踏み出す最小の投資でのサービス向上を怠っていたということはJR西日本の”放置プレイ”と言われても仕方ありません。
その様な路線に高架化で40億も投資はできないでしょう。まして其処に北陸新幹線の平行在来線問題が絡んできます。そうなると富山港線廃止が現実の問題となってきます。
 そのような廃止議論の前に、先手を打って高架化に必要な投資に近い金額の45億円を投資して利便性向上と存続への方策を実施し”放置プレイ”のJR西日本から富山港線の経営を切り離し、地域の影響下に置く事で富山港線を維持しようという考えは基本的に正しいと考えます。
 少なくとも今のまま高架化に40億円投資してもまったく意味を持ちません。北陸線連続立体化は北陸新幹線乗り入れとワンセットですが、実質的に富山港線を高架化しても道路交通の障害幹線道路の踏切が解消される訳ではありません。そうなると高架化の必要は無い事になります。それなら利便性向上のための生き残り策に45億円を投資したほうが社会的には有用な投資になります。そう考えれば今回の決断は正しい決断と言えると考えます。
 ましてJR西日本は手切れ金を払っても富山港線を切離した方が、経営的にはメリットが多いです。そして地方も富山港線活性化で地域の公共交通を整備できるし、富山地鉄市内線に接続すれば、富山市北部と富山市中心街を結ぶ動脈に育てる事も可能です。
 その様に考えると、今回と山ライトレールの経営が軌道に乗れば「誰も損しない最高の解決策」と言う事が言えると思います。


 ○本計画のポイントは「富山地鉄市内線直通」によるネットワークの構築

 本計画はローカル線のLRTへの改良と言う点でも大きな特徴が有りますが、最大のポイント及び成功の鍵を握る項目は「富山地鉄市内線直通運転によるネットワーク構築」と言う点に有ると言えます。
 正直言えば、LRT化・増発等だけでは、決定的な利用客増には結びつきにくいと言えます。確かにLRT化・増発で利便性は向上しますが、最大の難点は富山駅北口を起終点にする点です。前述のように富山駅北口はビジネス街として開発された業務地域で、富山港線沿線住民が目的地とする地域ではありません。主要目的地は県庁・市役所の有る丸の内や西武・大和の両百貨店が有る商業地域の西町である可能性が高いと言えます。
そうなると富山港線沿線→丸の内・西町へのアクセスは、現況では富山ライトレール→富山駅自由通路→富山地鉄富山市内線となるはずです。このルートは間の乗換に自由通路を長い距離歩かなければならないと言う大きな欠点が有ります。沿線距離が短い富山港線沿線では歩く事を嫌って自転車・自動車に逸走する危険が多く有ります。
 これを解消するには、今は無理で高架化完成が必要なのは百も承知ですが、富山ライトレールと富山地鉄富山市内線への乗り入れになります。これが完成すると、富山駅を中心に南富山・大学前・岩瀬浜への3本の公共交通ルートが完成する事になり、LRTのネットワーク化が出来る事になります。
 このネットワークはその先にも前述構想の「環状線建設」や、もう一歩進んで南富山で富山地鉄不二越・上滝線に乗り入れ、富山港線に習って不二越・上滝線もLRT化する等のネットワークの発展を構想する事が可能になります。(富山ライトレールに富山地鉄が出資しているので、富山ライトレール及び企画者で富山ライトレール最大の出資者富山市との連携は難しくない筈である)
 このネットワーク化は何処まで進むかは正直言ってわかりません。今分かっているのは「富山地鉄富山市内線乗り入れ」だけです。これだけでもネットワーク化による利便性向上を図ることが出来ますが、上述のようにこれを「始めの一歩」とした、富山市内の交通機関を変えるネットワーク化の可能性を示したというのが本計画最大のポイントで有ると言えます。

 
富山地方鉄道富山市内線(大学前電停)



 ○問題は”ピーク時の輸送力は大丈夫か?”

 只計画上の問題以外に潜む問題は「朝夕の輸送力は足りるのか?」と言う問題です。LRT化するということは車両は必然的に小型化します。又軌道上を走る以上は特認を受けない限り軌道法の制約で車両編成長が40mに制限されていたはずです。40mということは電車約2両分です。今は3両まで入れるのでLRT化後は輸送力が3分の2に減ることになります。昼間はキハ120系単行で運行本数も毎時1本だったのが毎時4本に増える以上問題ないでしょうが、朝・夕のラッシュ時には本数が毎時2本から毎時4本に増えることで時間当たりの輸送力は問題ないでしょうが、沿線大工場等への通勤が集中する時間帯や競輪場へ客が集中する時は瞬間風速的に輸送力が不足する可能性が有ると考えます。
 日本のLRTで最大の広島のグリーンムーバーは車長約40mですが、富山では朝夕の為にずっと5連接車のグリーンムーバークラスのLRTを運行するには非効率的です。キハ120系単行に輸送力的に匹敵する「赤momo」クラスが好ましいでしょうが、そうすると朝夕には併結運転が必要になります。ましてや利用客は70%増の計画です。1日あたり1700名増加の計画が根本になっています。この増加分が平均に散ってくれれば良いのですが、そうは行かないでしょう、需要が有っても輸送力不足では勿体有りません。
 富山ライトレールでは高岡でも導入している「 量産型MOMO」が7編成導入 されます。車両の導入に関しては、輸送力と需要の現実的兼ね合い・費用の問題を検討しなければならないと思いますが、多客時に輸送力不足になる懸念は否めません。その点の対策を考えなければならないと思います

 
富山ライトレール導入車両とほぼ同型車両の万葉線「赤momo」



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 この様に本年4月に開業する富山ライトレールは、日本初の「普通鉄道転換LRT」であり、LRT仕様で作られた本物のLRTで有ると言えます。その点は極めて画期的で有ると言えます。
 一昨年に富山の見学に行った時には、本構想が発表され現実に向けて動き出した時期であり、私もその実現に一抹の疑問を抱いていたのは事実ですが、日本で戦後初になる併用軌道の都市計画決定・ 軌道法特許 と言う難関を通り過ぎ、此処まで形が出来てくると、今やその実現は疑う余地の無い所まで来ていると言えます。
 正直言えば、此処までの道のりは、交通総合フォーラムでとも様が「 富山のLRT計画具体化に思うこと 」で述べられた様に、かなり難関があった物と推察します。その難関をクリアし、此処までたどり着かせた関係者の努力に率直に敬意を表したいと思います。
 又そのLRTの運営には富山市が主体となりつつ、富山財界に出資を仰ぎ財界総動員の協力体制を作り上げ、同時にJR西日本が運営安定化のために10億円の資金を出すスキームを作り、市民に対しても当初私が危惧していた「市民の協力を得られるのか?」と言う事を払拭するように、「 路面電車化支援の募金 」を募ったり、「 電停ベンチ設置事業への寄付金(寄付すると記念プレートが付けられる。1口5万円で168口全部埋まった) 」などの市民参加型の事業も行われ、ベンチ寄付金が全部埋まった事を見れば明らかのように、市民の関心も高まりつつ有ると言えます。
 加えて富山ライトレールの企業努力もかなり行っており、電停広告・電停個性化スペーススポンサー等の広告だけでなく、新設電停の命名件売却( インテック前・粟島(大阪屋ショップ前)2件が売却 )など珍しい増収事業が行われています。この様な努力は企業努力として評価できます。富山市が中心となり、富山ライトレールの大まかなスキームを作ると同時に、富山ライトレールが事業の採算性・地域密着性を高めると言う努力があってこそ、戦後初の併用軌道新設による日本初のLRT新設事業が成立したのだと思います。
 
 富山港線と同じ様な状況に有る路線は色々有りました。富山ライトレール設立時に丁度廃止をめぐる動きが活発になっていた岐阜は、最終的に名鉄・岐阜市・市民団体の調整が上手く行かず廃止されていますし、同時期に分社化・LRT化の話が出てきた吉備線は、其処から先話が出てこなくなっています。
 その様に他の都市のLRT化の話が完全に失敗や行き詰まり状況になっているのに、富山港線LRT化だけが順調に事業が進んでいます。この差は非常に大きいと言えます。
 少なくとも今の段階では富山は成功例と言えます。間違いなくLRT1番列車は順調に発車する事は確実です。1番列車が順調に発車しそうな富山と、市民運動が大願成就せず廃止されてしまった岐阜では、明確に成功例と失敗例が明示されていると言えます。
 富山の成功の要因は「自治体の積極的なイニシアチブ」「運行会社(JR西日本)の(転換補助金的)資金的協力と円滑な資産譲渡」「富山財界総動員の協力体制の確立」など、岐阜ではとても達成できなかった内容が上手く行う事が出来たことに有ると言えます。今後この様な事例は色々な所で発生すると言えます。その時に「運行主体変更の発議→LRT化による利便性向上→第三セクターのLRT運行」と言う富山が歩んだ道と同じ道を歩む時に、富山の成功例は事業の成功の為に重要な参考例になるのではないでしょうか?
 それほど富山ライトレールの事例は、今の段階では稀有な成功例ではないでしょうか?富山ライトレールは今後とも、10年単位の長期間大事業になりますが「富山地鉄富山市内線乗り入れ」「富山地鉄富山市内線環状線建設」などの、富山市内のLRTのネットワーク構築に積極的に関与し、富山に「全国有数のLRTネットワーク」が構築される原動力になれば、富山と日本のLRT発展に大きな足跡を残せると確信します。





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