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つ く ば エ ク ス プ レ ス 試 乗 記

〜 都 の 東 北 に 発 生 し た 競 争 の 状 況 は ? 〜



TAKA 2005年 9月 10日


(北千住駅に進入するTX秋葉原行き列車)


 
 8月24日に開業したつくばエクスプレス(以下TXと略します)は「首都圏最後の大型新線プロジェクト」であり、久しぶりの大型新線開業であると同時に高速運転や新機軸を投入した「未来の鉄道」として色々な所から注目を集めています。
 開業初日にはご祝儀乗車を含め、平日なのに「 19万人を超える利用客 」(NIKKEI NET)が集まり、事後精算の乗客を含めれば平成17年度見込み輸送人員135,000人/日の1.5倍の乗客が集まりました。

 それだけ注目も集めている路線ですが、実際に「 大都市地域における宅地開発及び鉄道整備の一体的推進に関する特別措置法 」に基づいて作られた路線であり、鉄道建設費だけで約8000億円の建設費を投じており、同時に左記法律に基づいて沿線で約3000ヘクタールの開発を行い25万人の住民が住み、茨城県内だけでも経済波及効果は「堅く見積っても12,500億円」(東洋経済9/3号)と言う首都圏でも超大型の開発プロジェクトです。
 
 今回偶々9/3に半日仕事が空き時間が取れたので「1度は乗ってみないと何も話が出来ない」と思い、かなり強行軍でしたが、TXを含む「都の東北の競合各路線」を駆け足で訪問してきました。開業直後の「ご祝儀乗車」が多い状況でしかも土曜日でしたので、「実情を示している」とは思いません。
 しかし「話のネタ」程度になれば良いと思い、今回訪問し試乗記を書くことと致しました。(この日を逃すと次は10/1まで時間が取れない)その点を踏まえて読んで頂ければ幸いに思います。
 又TXの開業の経緯や今直面している状況に関しては、すでにフォーラムで和寒様が「 TXデビュー簡単レビュー 」で述べられているので、私のほうは写真を多用して「見てきた感じと状況」を中心に述べたいと思いますので宜しくお願い致します。

 [今回の経路]
13:30秋葉原→TXで北千住(ホームのみ)・八潮・三郷中央・南流山(ホームのみ)・流山おおたかの森で途中下車しながら移動→14:32守谷→14:42→関東鉄道常総線→14:59取手→15:22→常磐線特別快速→15:54上野→秋葉原16:30→TX快速→つくば17:15→つくば駅前散策→18:10→関鉄高速バス→東京駅19:35→19:45から30分間東京駅八重洲口で高速バス利用状況を見学

 ※「午前中仕事の立川からTXへの移動」「比較の為に常磐線特別快速に乗りたい」「常磐方面の複数の交通機関を利用・比較したい」「需要の多そうな所の駅に降りてみたい」等の前提条件の下にこのプランは考えて有ります。

 [今回訪問各社のHP] つくばエクスプレス(TX)   関東鉄道  


 「1」TXに始めて乗って見て (TX秋葉原→守谷間)

 せっかくの今回の試乗なので、最初に本命のTXに乗って見ます。只スケジュールの制約的に取手から特別快速に乗る為には守谷で関鉄常総線に乗り換えなければなりません。なので時間も有るので乗換駅・TX開通で開発が進みそうな途中駅に寄りながら守谷を目指す事にしました。
 
先ずはJRで秋葉原に入りTXに乗り換えます。今回は乗り過ごしで立川→東京→秋葉原経由で来たので山手線ホームからTXを目指しますが、TXの出入口が有る東口へ新しい連絡通路・出入口が出来ておりそんなに抵抗無くTX出入口へ向う事が出来ます。TXに乗る前に東口をちょっと見回してみましたが、駅前広場も出来ていますし、 9月中旬にはヨドバシカメラもオープン し、 西口の神田市場跡地の開発(秋葉原クロスフィールド) と合わせて劇的に変化しています。今や「アキバ=ヲタク系の街」と言うイメージが強いですが、TX開業を含め秋葉原駅周辺のこれらの一連の開発で出来つつある街が「もう一つの秋葉原の顔」になっていくのかもしれません。

 (1)JR秋葉原駅新設構内通路
 

(2)秋葉原駅東口交通広場とTX出入口
 

 駅広場の入り口からTXのコンコースを目指します。コンコースは地下3階でエスカレーターを乗り継いで降ります。都心地下鉄の宿命と言えどもTX秋葉原駅はコンコース地下3階・ホーム地下5階と言う深い所にあり地下のTX→高高架の総武緩行線乗換を考えると垂直方向で7フロアの乗換を強いられます。エスカレーター等の整備はされている物の時間は掛かりますので、TXにとってはネックになるのかもしれません。
 コンコースに下りると広い吹抜が出来ています。多分開削工法で開削したスペースを有効利用しているのでしょうが、近年の地下駅ではMM線各駅等でも地下の圧迫感を解消する為に導入されています。惜しむらくはターミナル駅であり此れだけのスペースが有るのだから、 TXが提携して置いた構内売店のampm だけでなくもう少し多くの構内店舗やくつろぎのスペース等を置いて「実利(店舗収入)を兼ねたゆとりと賑わいの空間」を演出しても良かったかも知れません。
 駅のコンコースの先には券売機と改札口が有りますが、券売機には行列と整理のガードマンが立っています。開業時のご祝儀利用が多いから切符購入が多いのでしょうが、都心側ターミナル駅なのに券売機・自動改札の数が普通の地下鉄駅並と言うのはちょっと少ないのではないかな?と感じます。只パスネットが使える自動改札駅で券売機に行列が出来ている状況から考えると、未だ開通見学特需のご祝儀乗車が多い事は間違いありません。(この状況は利用客の状況に関しては割り引いて見なければならないことを示している)

 (3)TX秋葉原駅コンコース
 

 (4)TX駅構内に展開中のampm店舗(売店)
 

 (5)TX秋葉原駅券売機前の行列
 

 私はパスネットを持っているので、券売機に並ぶ人を尻目に早速入場しホームへ降ります。只人で賑やかなのは券売機前の行列だけで、後はカメラを持つ人が目立つだけで人の数は普通の地下鉄駅と変わりません。
 ホームは腰の高さのホームドアが有る以外、規模・イメージ的にも普通の地下鉄駅と変わらぬ感じであり、ターミナル駅と言うことを考えるとちょっと物足りない感じですが、前述の様なそんなに多くない利用客数(20m6両編成で運べる想定輸送量なのだから・・・)を考えると、ターミナルと言う立派な施設でなく此れ位の設備でも十分なのかも知れません。
 早速先も急ぐので13:30発の快速つくば行きに乗車します。この快速列車は秋葉原〜つくばを45分で結ぶTXの看板列車で一部にテーブル付きのクロスシートが採用されています。只混雑的には最前部は鉄道マニアで賑わっていますが、それ以外は北千住到着時点で立ち客がチラホラと言う程度の利用客で、そこから初乗り体験ご祝儀の「物見遊山客」を除くと空席が多少有る程度の利用客しか居ない状況です。

 (6)13:30秋葉原発TX快速つくば行き乗車状況(南千住〜北千住 3両目)
 

 (7)13:30秋葉原発TX快速つくば行き乗車状況(南千住〜北千住 2両目)
 

 此処からは「途中下車の旅」です。乗換駅・利用客の多そうな駅等キーポイントになりそうな駅を選んで1駅10〜15分程度ですが途中下車して様子をみる事にします。その途中下車駅は乗換駅で北千住・南流山・流山おおたかの森の各駅、キーポイントの駅として八潮・三郷中央の各駅です。
 下車先ずは一つ目北千住です。北千住は東京の北東方面へのターミナルであり、TXをライバルとするJR常磐線・東武伊勢崎線と都心へ向う千代田線・日比谷線の2本の地下鉄が乗り入れている一大ターミナルです。
 とりあえず快速を降り、次の普通列車が来るまでの間列車からの乗降状況を見てみました。大体北千住では下りでは降車も有る物の(秋葉原〜北千住間280円で近距離も安くないのだが、下りで降車客が有るのは驚き)それの倍以上の乗車が有り、乗ってきた快速は立ち客が10〜15名/両程度で発車してゆきました。又到着の上り列車も明らかに降車>乗車の状況であり、見た感じではかなり北千住で他社線に乗り換える人がいる感じです。
 
 (8)北千住駅乗降状況(下り快速つくば行き)
 

 (9)北千住駅乗降状況(上り列車)
 

 今回は駆け足訪問なので、早速次に来た普通列車で今回のTX開業で始めて鉄道が通った埼玉県八潮市の新しい玄関口となった八潮駅へ向います。
 北千住を出るとTXは荒川を越えすぐ地下に潜り足立区内の青井・六町を通った後、地上に出て八潮の駅に滑り込みます。八潮の駅は2面4線+引き上げ線4線の構造になっており、緩急接続も行われており一つの拠点駅になっております。
 又ホームから見える地域では未だ途中の物の 都市再生機構により駅周辺の区画整理事業 が行われており、駅前の交通広場では 東武バスの路線再編 で新規路線が乗り入れるようになっており、元々高速道路のインター等(首都高八潮南出入口)が近く自動車交通が便利だったのに加えてTX新駅開業で鉄道も便利になり、拠点性が高まり変わりつつある地域のひとつです。
 只惜しむらくは、都市機構による区画整理も進み、駅前には ショッピングモールや大型マンションの建設 も進んでいますが、未だ駅東部の区画整理は工事中で進んでいない状況であり人口集積が進んでいません。その為 TXが八潮駅高架下に作った高架下店舗(まだ部分完成) も閑古鳥が鳴いている状況です。この状況はこの後三郷中央や各駅で見れる状況です。この事が将来的にはTX発展の基盤に成るとも言えますが、今の段階ではTXのダメージになる可能性も有るのではないかと感じました。

 (10)八潮駅前交通広場
 

 (11)八潮駅西口状況
 

 (12)八潮駅高架下店舗状況
 

 次は区間快速に乗り隣の駅の三郷中央へ移動します。区間快速は八潮・三郷中央に連続停車( TXダイヤ )しますが、此処に何処からの利用客が増えて欲しいかのTXの戦略が見えてきます。
 三郷中央も八潮と同じように 都市機構施行の区画整理事業 が行われています。(この後訪ねた駅では 流山おおたかの森 でも区画整理事業が行われている)只駅前で八潮と同じように 大型マンション が建設されていますが、此処も八潮と同じように区画整理地周辺は低層住宅が雑然と立ち並び、バス路線はコミバスを含め入って来ては居る物の、現況では只区画整理されつつある土地と駅と駅前広場が有るだけの状況になっています。
 三郷中央では駅の施設を少し見てみました。駅自体は相対式2線2面の普通の規模の駅です。駅自体は最新の駅だけ有り、 ユニバーサルデザインに基づいた駅デザイン がされており、エスカレーター・エレベーターも完備されておりバリアフリー等についても十分対応がされています。
 只気になった点は、写真(15)に写っている改札口・売店等の関係です。改札脇に風が防げる待合コーナーがありそこに飲み物の自動販売機が有るのは、お客様へのサービスにもなりますし同時に販売の面から考えてもベストの位置に自動販売機が設置されていると言えます。この様な事はお客様へのサービス充実と物販の極大化を同時に達成できるいい例で有ると言えます。
 しかし問題はオープンカウンターの接客通路と売店の関係です。TXでは各駅にampmの売店が設置されていますが、何処もブレハブの売店で後付であるのはすぐ分かりますが、今開業している売店では売り子はampmの制服を着て全く別に運営されています。秋葉原等の大駅であれば分離しなければ運営できない位の売上が有るでしょうが、それ以外の駅ではそれだけの売上が有るかは大いに疑問です。駅員が駅務と合わせて一体運営しないとどちらも採算が取れない位の販売量しか達成できないと考えます。今のままでは駅務は合理化できず、売店は赤字で閉鎖となりかねません。
 この問題フォーラムでも 埼玉高速鉄道の話のときに和寒様が話をされた内容 ですが、今回も駅務・販売の合理的運営が実施されませんでした。多分駅の建築工事時には売店運営の形態等に関しては何も決まっていなかったのでしょうが、駅の設計・建設時に何にでも対応できるフリースペースとして駅務室と一体で整備する等の方策は取れなかったのでしょうか?只ですら厳しい鉄道経営で有る事は分かっていた筈なのですから、何故建設時から「最低限の人数で出来る合理的駅運営」について検討されなかったのか?疑問が残ります。(売店はTXの乙工事と言う仕方ない点があるのはわかるが・・・)

(13)三郷中央駅駅前広場
 

(14)三郷中央駅ホームから西側を見る(右奥の大きな建物が三郷市役所)
 

 (15)三郷中央駅改札口(改札正面のプレハブが売店)
 

 (16)三郷中央駅に入線する秋葉原行き列車
 

 東京近郊の準市街地で区画整理が行われている2駅を見た後、TXの他線との乗換駅になる南流山・流山おおたかの森の二駅を覗いて見ます。この駅は武蔵野線・東武野田線との接続駅になる重要な駅で、守谷を含めこれら3駅は当分の間北千住以北での中核となる駅です。
 その為どちらも快速の止まる駅ですが、やはり乗換駅だけあり乗降客は多いです。南流山では10名程度/両ぐらいの客の出入りが有りましたし、流山おおたかの森では緩急接続も有る場合が有るので、その場合にはホームにかなりの人出があり乗降を含む乗換客もかなり有ると言えます。
 武蔵野線の場合新松戸でのJR乗換が緩行線だけなので、所要時間的にはTXにアドバンテージがありますし、東武野田線の場合柏乗換でもおおたかの森乗換でも他社線乗換であり乗換経路が短く高速の分TXにアドバンテージが有ります。その為乗換客は十分期待できると言えます。
 特に流山おおたかの森は、東武野田線からの乗換客(特に野田方面から)が非常に有望であると同時に、前述のように駅周辺で 都市機構による大規模開発 が計画されているので、短期・中期・長期的にもTXの鍵となる駅で有る事は間違い有りません。
 又短期の側面では武蔵野線・東武野田線・関鉄常総線を培養線にして、これらの各線から乗換駅で如何にして乗客を集めるかが、特に沿線開発の進んでいない今を含む短期の時点で考えると、TXの経営(特に増収)に対し大きな鍵を握る点になることは間違いないといえると思います。

 (17)南流山駅での乗降状況(下り列車)
 

 (18)南流山駅改札口(奥のエスカレーターが武蔵野線方面)
 

 (19)流山おおたかの森駅連絡通路(正面が東武野田線・右がTX)
 

 (20)流山おおたかの森駅での緩急接続状況
 
 
 (21)流山おおたかの森駅と駅前の区画整理施行地
 

 (22)流山おおたかの森駅(右が東武野田線・左がTX)
 

 段々守谷での乗換タイムリミットが迫ってきたので、流山おおたかの森から守谷に移動します。守谷では降車客が多く皆ぞろぞろと降りていきます。降りた客の中で半分ぐらいは関鉄常総線ホームに流れ残り半分は駅前広場等に消えていきます。やはりTXは守谷で大きく乗客が段落ちすることは間違いありません。
 守谷でも流山おおたかの森と同じように改札が2階同一フロアにあるので、簡単に乗換が出来るようになっています。(TXホームが3階・関鉄ホームが1階)又守谷の高架下でもTXが八潮と同じ 高架下店舗を建設中 で、駅前広場の建設等と合わせて、これから一層賑わいが増す状況が出てくるとも言えます。
 同時に守谷駅は今まで関鉄常総線のお得意客であり発展の原動力であった「 常総ニュータウン 」の南守谷・新守谷の各地域のど真ん中を通ることになります。このニュータウンはTX沿線で既開発のニュータウンとしては大規模であり、 関鉄高速バスの南守谷線・水海道線が団地内を細やかに高頻度で走っている 状況から、対東京でかなりの流動が有る事は間違い有りません。この常総ニュータウンの客がどれだけ常総線・高速バスから流れるかは未知数ですが、この地域での関鉄とTXの競争は両社の社運を掛けた競争でありどの様に展開していくか非常に注目して行きたいと思っています。
 又守谷駅は国道294号線に隣接しており、294号線を北上すれば常磐道の谷和原ICまですぐの距離に有ります。(つくば〜常磐道桜土浦ICより近い)その為守谷でTXと連接する事で常磐道高速バスの欠点である「首都高速での渋滞による定時性問題」を解消しようとして、関鉄が 守谷〜常陸大宮・大子線 を日立電鉄バスが 守谷〜日立線守谷〜多賀・大甕線 を開設しています。此れは高速バスもTX接続で定時性が高い新ルートを作れるメリットが有り、TXにとっても培養線として生かせる事になります。この動きに関しては「競争」に相対する「TXと高速バスの協調」の事例として注目したいと思います。
 
 (23)守谷駅ホーム状況(下り)
 

 (24)守谷駅コンコース状況(正面が常総線・右手がTX・左の仮囲が15日開店予定の店舗)
 

 (25)守谷駅駅前広場(奥の道路が国道294号線)
 

 (26)守谷駅(左が駅前広場・中央が関鉄常総線・右がTX)
 


  「2」ライバルの関鉄&JR特別快速に乗って (守谷→取手→上野間)

 とりあえずTXには守谷まで乗ったので、此処で一度TXから離れてライバルの一つの常磐線特別快速に比較乗車する為に関鉄常総線で取手に移動します。
 
 先ずは関東鉄道についてですが、元々守谷地域から東京方面への通勤・通学等に関しては関鉄常総線〜常磐線と言うルートが主流であり、関鉄常総線は積極的に気動車を増備しラッシュ時には4両編成運転等を行い常総ニュータウンからの輸送に努めてきました。つまり関東鉄道にとって常総線守谷地区からの輸送は高速バスに並ぶ収益源であり、正しくこの地域(取手〜守谷地区)の輸送が関鉄を「日本最大の非電化私鉄」に押し上げた原動力となったと言えます。
 今回のTX開業はその様な「関鉄の牙城・金城湯地」に殴り込みをかけられた状況です。実際駅前探検クラブで「 7:00発守谷→上野 」と言う検索をすると、TXの方が8分遅く出ても20分早く着くことが出来る状況で(運賃もTX経由860円に対し関鉄経由990円)、関鉄にとっては非常に厳しい状況です。
 関鉄も朝ラッシュ時の運用合理化やワンマン運転実施の合理化策と 快速の新設での下妻方面からの乗客招致 等の方策を打っていますが、非常に厳しい状況で有る事は間違い有りません。その様な状況の中で如何に生きていこうとしているのかは非常に興味の有る点だと言えます。

 さて実際はTXと常磐特別快速の繋ぎだったのですが、関東鉄道がその様な厳しい環境の中で如何なる状況になっているか、興味を持ちつつ乗車してみる事にしました。
 早速駅前広場の見学を終えた後、関鉄守谷駅に向います。関鉄守谷駅は今回のTX開業に合わせて橋上駅舎化と2面4線化の大規模な改良工事が行われました。しかし実際に運転されている車両は2両運転の列車が殆どで、明らかに過剰な設備と言える状況です。接続の利便を考えると橋上駅舎化は適当であったと思いますが、2面4線(待避線新設)化は過剰な投資であったと思います。折返しが可能な1面2線の設備で十分であったと言えます。
 暫く待つと2両編成の取手行き列車が入線してきます。時刻表を見ると毎時3〜4本は確保されていて、車両は 最新型のキハ2300形 であり(キハ0形・310形・300形・350形は流石に古めかしく感じるが・・・)、ダイヤ・車両とも関東近郊の他中小私鉄とそんなに遜色の無い状況です。
 到着の列車からは約10人/両の人々が降りてきます。又それより多少少ない人々が来た列車に乗車していきます。今までは取手に向かって片方向で増えていくだけの輸送形態でしたが、TX開業で明らかに守谷が取手と並ぶ輸送の一つのキーポイントになったことは間違いありません。
 守谷で乗降が共に有った為、各車とも座席が埋まり多少の立ち客が出る位の乗客数で守谷を出発します。線路の軌道状況も大手民鉄には劣る物のローカル私鉄としては整備されている方で(時々第4種踏切が有るのにローカル色を感じたが)最高速度70km/h位で淡々と走っていきます。本来この速度決して遅くは無いのですが、100km/h以上は当たり前のTXから乗り換えると遅く感じるのは致し方ないのかもしれません。沿線はちょっと郊外色が強い感じの住宅と農地の混在地帯の感じであり、駅周辺には住宅が多く駅間には農地の多い風景が並びます。又この区間は平行して国道294号線が走っていてそれなりの交通量(渋滞までは行かないが、飛ばせるほど空いている訳ではない)が有ります。その様な状況から関鉄常総線の守谷〜取手間は「それなりに市街地化が進んでいる郊外住宅地」と言うことが出来ます。
 守谷〜取手間の中間駅では各駅とも数人の乗降が有り、少しずつ乗客が増えつつ取手を目指します。20分程度で取手に着きますが、乗客は守谷出発時点から+α程度増えたぐらいです。取手では常磐線への乗換改札へ向かう人々と外に繋がる改札へ向かう人々が半々位です。TX開業前だったら常磐線乗換客がもっと多かったかもしれません。

 (27)関東鉄道守谷駅(取手行きホーム)
 

 (28)関東鉄道取手行き車内
 

 取手からはJR常磐線特別快速に乗ります。常磐線特別快速はJR東日本が 2005年7月ダイヤ改正 で対TX用のアドバルーンに先手を打って登場させた新種別で、昼間毎時1本しか走りませんが新型車量と130km/h高速運転で所要時間を短縮させてTXの高速性に対抗させたJR東日本の意欲作です。
 実際7月ダイヤ改正に関してはJRも異例と思えるぐらい車内広告等の宣伝もしていますし、究極は下の写真(29)のようなE531系やE653系の写真とダイヤ改正のアピールをラッピングした宣伝車両を走らせています(常磐線と武蔵野線に走っているのを目撃)。只10時台〜15時台(上りは14時台)に毎時1本だけではちょっと本数が少なすぎます。(実際今回の訪問でも常磐特別快速がネックになった)まだ様子見の状況なのでしょうが、TXとの競争の状況を考えると運転時間の延長と増発は考えてほしいものです。(先手必勝という考えも大切です)
 
 (29)常磐線ダイヤ改正広告ラッピング車両
 
 
 (30)E531系と常磐線特別快速
 
 
 常磐線特別快速は流石にE531系15両編成だけあって、収容力が大きく座席に空席がある程度で取手に到着します。取手からも約10分前に出た取手始発の快速列車(写真(29)の列車)が北千住で特別快速に抜かれるので特別快速が日暮里・上野への先着列車になります。その為か快速をやり過ごし特別快速を待つ人も居り、1両当たり数名の乗車(最前部)がありました。
 特別快速は取手を出た後、利根川を超えどんどん加速していきます。しかし100km/hを超えた段階でいきなりノッチオフ・・・。最高速度130km/hが売り物の特別快速にしては物足りません。ましてやTXに乗った後では各駅停車の速度にしか感じません。しかし運行支援用の液晶モニターに表示されているダイヤを見てみると、どの駅でもほぼ定時(誤差数十秒程度)運転でした。実際かなり特別快速は所要時間短縮していてもダイヤ的にはまだ余裕があると言えます。
 この事は裏返していえばそれだけ今までのダイヤが遅かったと言う事を示しているといえます。「TX対抗ダイヤ改正で常磐線が少しでも改善した」と言う事だけでもTX開業に伴う「競争の効果が有った」と言う事ができるかもしれません。

 (31)常磐線特別快速車内(北千住〜日暮里間)
 

 特別快速は柏・松戸と停車し乗客を入れ替えながら上野へ向かいます。両駅ともそんなに差は無い物の降車<乗車の比率で乗降があり、座席が埋まり少々の立ち客が有る位の量(思ったより少ない量)で日暮里に向かいます。特別快速の売りの一つは「北千住通過」ですが、特別快速は北千住通過の分乗客が少ないのかもしれません。
 今回乗ってみて、TX対抗のJR東日本の意気込みは良しですが、結果的に見れば現状ではその目玉の一つの特別快速は「中途半端な列車」と言う点は拭えません。JRにしてみれば「特別快速よりフレッシュひたちに乗ってほしい」というのがいつ得割らざる心境かもしれません。でももう少し踏み込んだ方策を立てた方が良かったのではないかな?と言う感じはしました。


「3」TXと高速バスの「ガチンコ勝負」を比較して (秋葉原→つくば→東京間)

 今回常磐線特別快速に乗るためにわざわざ守谷で折り返してきましたが、この状態ではまだTXを完乗していません。それにせっかくならば最速列車の快速に乗らなければ面白くありませんし、ただTXでつくば往復では普通のヲタクをする事が変わりません。なので一策を講じてつくばからの帰りは今までの東京〜つくば間交通の主役の高速バスを利用して比較しながら東京へ戻ってみることにしました。
 
 もう一度TXの秋葉原駅に戻ってきたのは16時過ぎでした。すでに16時発の快速は出発した後なので、つくば先着の区間快速をやり過ごして(これが後でメガライナーに乗れない原因になる)16時30分発の快速でつくばを目指すことにしました。
 発射時間の5分位前には折返しの列車が入線して来ます。入ってきた列車も立ち客がちらほら居る位の利用客です。こちらの快速の乗客は少なめのです。只最前部は(私も最前部かぶりつきを狙っていたので人の事は言えないが・・・)初乗り系・鉄ヲタ系の人が多かったので、乗車率が高かった感じです。
 定時に発車しトンネルの中を北千住へ進んでいきます。新御徒町・浅草のホームにはざっと見で30名位の人が待っています。準ターミナルの北千住で乗客を乗せた(100名近くの人が待っていた感じ?)後、快速は本領発揮区間に入ります。他の試乗記・訪問記等でも書かれていますが、加速しつつ荒川を渡った後120km/h近いスピードで青井・六町を通過し、120km/h+αのトップスピードを維持したまま南流山を目指します。(この後も終点までの各駅間で同じような速度で走っていた)  快速は北千住の後南流山・流山おおたかの森・守谷と連絡駅だけに停車していきます。そのうち流山おおたかの森では緩急接続もしていましたが、基本的に乗客の出入りは有る物の斬減傾向にありました。只快速の停車駅は他の駅に比べ乗換駅だけあり乗降が多かったことは間違いありません。
 守谷を過ぎた後、デットセクションを通過し交流に切り替わりつくばを目指します。快速は比較的距離があると思われるデットセクションを惰性でもトップスピードで通過していきます。けれども照明が切れるわけでもないし減速するわけではないので、交直切替があったことは運転席で標識か電圧計を見ていないとわかりません。
 常磐線も関鉄常総線もそうですが、地磁気観測所の存在に伴い30km以内の区域が直流電化が不可能であると言うことは、茨城県県南地域の鉄道交通にとって最大の足かせであったことは否定できません。もし常磐線のデットセクションが土浦・水戸以北にあればもっと近郊列車の増発が可能でしたでしょうし、関鉄も直流電化が可能であれば、少なくとも水海道までは電化していたでしょう。(鉄道ピクトリアル特集「関東地方のローカル鉄道」での関鉄へのインタビューで電化についてかなり話していた)そのように考えると「茨城の鉄道の足かせ」である問題が、今後守谷〜つくば間の開発が進み増発が必要になったとき、高額な交直両用車両の増備の必要性が足かせになる可能性もあると感じました。
 そうしている間に列車は減速を始め、つくばトンネルに入り終点つくばに到着です。つくばの駅は地下2階にホームがあり地下1階がコンコースとバス広場等への通路になっていますがかなりにぎやかです。只公共通路である等の問題もあるのでしょうがせめてampmの売店だけでなく、もう少し店舗等がありにぎやかさ等も演出できていれば収入やイメージの点からも違っていたかもしれません。
 TX快速は秋葉原から45分で到着ですが、この時間は非常に短いと言えます。たとえば新宿から小田急で45分と言うと海老名に着けるか?と言う時間です。その時間でつくばまでたどり着けると言うTXの速度は、聞いている限りは「ふ〜んそうなんだ」と言う感じですが、実際に体感してみると感激する位素晴らしい物です。このTXの速度は今後の沿線開発と競争に大きなアドバンテージになることは間違いありません。

 (32)トップスピードですれ違うTX列車(速度計に注目)
 

 (33)デットセクション区間を通過するTX列車(左の架線柱の標識と電圧計に注目)
 

 ここで地上に出てバスターミナルに向かい東京行き高速バスの乗り場を探します。そうすると何か見慣れないJRバス関東の大きなバスが出て行きます。何と乗る目的だったメガライナーが出発していくでは有りませんか・・・。これは不味いと思いつつバス停の時刻表を見てみたら次のメガライナーは20時台と2時間半以上待つことになります。「これは待っては居られない」とメガライナーの乗車を諦め普通の高速バスで帰ることにしましたが、「それならば昼も食っていないので、軽く腹ごしらえするか」と思い周囲をぶらついて見る事にしました。
 
 TXつくば駅&バスターミナル周辺は 筑波西武オークラフロンティアホテル を中心とした「計画され整然とした中心市街地」が広がっています。道路には自家用車も多いですが筑波西武の前等にはそれなりに人が出ていて賑わいもあります。計画された都市であるので立体的に歩行者と自動車が分離されていますしそれらの配置自体にも余裕があります。と言いつつ散策は本当の駅の周りだけで切り上げ、「筑波にも有るんだ!」と私を驚かせたお気に入りのオークラの中華料理のメインダイニング桃花林(新宿店は時々使う)で夕食をとり、高速バスで東京を目指すことにしました。

 (34)TX筑波駅前のバスターミナル(写真左端がTX入口)
 

 (35)筑波西武と専門店街
 

 バスターミナルに行って見ると東京行き高速バスは 10分〜15分間隔で運転 されており、TX以上の頻発運転です。JRバス関東と関東鉄道も今回のTX開業時に「運行本数を維持した上での値下げ・経由地追加」と言う TXを完全に迎え撃つダイヤ改正 を行っており、敢然と競争を挑む姿勢で居ます。
 この姿勢は勇ましいものですが、競争相手のTXは時間と定時制で不利・運賃で同等・居住性で有利と言う極めて強力な競争相手です。この結末がどうなるか非常に興味があり今回筑波からの帰りはTX快速列車と比較をしながら競争の実態を見てみるために、あえて高速バスを選択しました。

 バスターミナルについたら、18:05頃に高速バスは待つことも無くすぐ来ました。流石の運行頻度ですが、TX開業後も前と同じだけの需要があるかは大いに不安です。実際写真を撮りながらバスの周りに居た数分のうちに乗った乗客はわずかに2名でした。私が写真を撮り終わり乗車したらすぐに出発しました。その為つくばセンターからの乗客はわずかに3名です。途中桜土浦インターまでに7つの途中停留所があるので途中からの乗客が多いのかな?と思っていたのですが、団地等を縫いながらバスは進めどバス停に停車する気配はありません。あれよあれよと言う内に桜土浦インターに着いてしまい常磐道に乗ってしまいます。結局の所18:10発の高速バスの乗客はわずかに3名と言う事になりました。
 つくば発の土曜日の18時台の上りバスと言うのは確かの乗客の居ない時間帯なのかもしれません。これが平日ならばもっと多かったのかもしれませんが、それでも3名では回送と変わりません。3名で運賃収入は3,450円です。この運賃収入ではいくら割引等を使えども常磐道の高速料金と首都高の高速料金すらまかなえるとは思いません。ましてや人件費・燃料代・車両費等が賄えるとはとても思えません。この様な「乗客一桁」の状況が平日でも続くのであれば、つくばセンター線高速バスの採算性は極めて悪くなると言うことができます。
 そのような車内もガラガラの状況でバスに揺られてしまい、午後の強行軍の疲れが出てきてついウトウト寝てしまいます。起きて見たらすでに下道を走り隅田川を超えるところでした。常磐道高速バスは上りのみ首都高を途中で降り上野駅経由ですが、このバスは上野駅で私以外の2名が降りてしまい東京駅までは私一人になってしまいました。渋滞に巻き込まれなかった事もあり東京駅日本橋口には15分早着(19:30)で着きました。最後極めてさびしい状況でしたが、TX開業によるつくばセンタールート高速バスのおかれている厳しい状況がひしひしと伝わってきました。
 
 (36)つくばバスセンター5番乗り場の東京行き高速バス(関東鉄道)
 
 
 (37)18:10発東京行き高速バス車内(桜土浦IC付近)
 
 
 この様なつくばセンタールート高速バスの惨状を見てしまい、「下りの状況も観ておきたい」と思い、東京駅八重洲口の高速バス乗り場に移動して、TX開通で影響の受けるであろうルートの下りの乗車状況を少しの時間見てみることにしました。
 土曜日と言えども20時近くなのですから、当然下りはそれなりの乗車客が有っておかしくはありません。また本数が多いのでなかなか難しいと感じていますが、短い時間で見れる限りの乗車状況を見てみました。その結果が下記の通りです。

☆東京駅八重洲口3番乗り場高速バス乗車状況 (乗客数は概算)
時間行き先(1) 乗客数 行き先(2) 乗客数 
19:40つくばセンター 約20名 守谷・水海道 約20名 
19:50つくばセンター 約10名 
20:00つくばセンター(メガライナー) 約24名 南守谷 約17名 
20:10つくばセンター 約18名 江戸川台(1番乗り場) 約13名 


 (38)19:40発つくばセンター行きと守谷・水海道行き
 
 
 (39)つくばセンター線メガライナー(JR東日本バス車)
 

 (40)20:00発つくばセンター行き(メガライナー)と南守谷行き
 

 わずか30分間の調査ですが、見た感じは「最低二桁は乗っている」と言う状況です。けれども「TXと競争して生き残っていけるだけの利用客が乗っているのか?」と言う事になると厳しいと思います。土曜日の夜の特定時間と言う極めて統計的には不十分な量の調査でしかありませんが、TXと完全ガチンコ勝負する高速バスが極めて劣勢に立たされていることはこの不十分な調査からも否定の余地は無いと言えます。
 常磐方面は私にとってはなじみの無い地域なので恥ずかしながら殆ど高速バスは乗った事がありませんが、7月下旬の平日に千葉NTで打ち合わせの後15時半頃から時間が空いたので、千葉NT→木下→我孫子→取手→水海道→東京とTX開業前の様子見&時間調整に出掛けた事があります。そのとき水海道18:20発の高速バスで東京に帰りましたが、その時は新守谷駅の段階で10名程度は乗車しており、又東京17:50発の水海道行きに新守谷駅前ですれ違いましたがこちらは8割程度の乗客が乗っていました。平日夕方上りが10名程度と言うのは普通にしても、帰宅客が使うには早い17:50発のバスが8割乗っていると言うのには、正直言ってこの地域の高速バスの威力に驚いたことを覚えています。
 その時と今回の状況の比較を見てみると、同じ時間帯で無いのであくまで参考と言う事になるとしても、高速バスの苦戦は否定できません。利用者のグロスの量が変わったことは有り得ないのでこの減少分はほぼ間違いなくTXに食われたと言う事になると思います。この状況からTXと直接競合する常磐道高速バスルート特に関鉄のドル箱であったつくばセンター・水海道・南守谷の各線は決定的な打撃を受けつつあるのではないかと感じました。


 「4」TXと競争各線を訪問してみて(感想編)

 今回土曜日半日と言う本当の駆け足でしたが、TXとその開業によりもたらされた「都の東北」の競争の状況について見てきました。最後に結論方々見てきた各線への感想等をまとめてみたいと思います。

 [1] TXがもたらした物は何か?
 今まで「都の東北」は江戸の鬼門の方向に当たりもともと方角が良くない事も有ってか(それはほんの一つに過ぎないが)首都圏の中でも比較的「辺鄙な住宅地」と見られる地域でした。もともと複々線の常磐線1本しか東京へ繋がっていない方面で「便は良い」とは御世辞にも言えない地域で、開発が比較的遅れていても常磐線の輸送力は逼迫しそれが開発の足かせとなる循環の中で、大げさかもしれませんが開発に閉塞感が漂っていた地域であったと言えます。
 そのような地域に「首都圏最後の大型郊外新線」であるTX開業は、少なくともその「閉塞感」を打破し開発を促進する原動力となるものだと言えます。「都の東北」への玄関口であった上野・日暮里・北千住より都心で便利な秋葉原に乗り入れその上最速でつくば〜秋葉原が45分と言うTX開業は開発に対して極めて大きなインパクトを与えることになります。
 山手線ターミナルまで守谷から32分・つくばから45分と言う時間距離は、守谷=日野・町田・戸塚、つくば=高尾・海老名・藤沢と大体同じ程度の時間距離になった事を示しています。今までこんな事が想像出来たでしょうか?それ位TXの開業は革命的なものであるといえます。
 これは開発に大きく計り知れないインパクトを与えることになります。またこのインパクトは開発への大きなインフラになり原動力になります。また同時にTXは 大都市地域における宅地開発及び鉄道整備の一体的推進に関する特別措置法 」に基づいて鉄道開業に合わせて駅周辺等の一体的な開発が自治体( 埼玉県千葉県茨城県 等)・ 都市機構 等が中心になり行われています。これらの区画整理等による基盤整備もまた開発への大きな原動力になります。
 この様な住宅開発に必要な所要時間の短縮・開発基盤の整備等による開発へのインフラの整備が、TXの整備・開業により「都の東北」にもたらされた物であると言えます。

 [2] でもTXは経営的に成立するのか?
 しかし良い事尽くめのように見えるTXですが、実際に存在する最大の問題は「経営的に成立するのか?」と言う問題です。
 TXは 運賃申請時の収支見込 で年間148億円の経常損失を見込んでいます。此れには減価償却費等のキャッシュフロー的に外に出て行かない物も含まれているにしても、実際の経営的には厳しいものがあります。又沿線自治体が「 赤字時・資金不足時には責任を持って補填する 」と一筆を入れているので資金供給等の面で裏づけが有るにしても、その負担は税金に跳ね返ることになり決して好ましいことではありません。そのような事から考えるとTXの経営問題は非常に重要であると言えます。
 TXに関しては資金スキーム的には「 都市鉄道整備費無利子貸付対象事業 」として40%(10年据置10年償還)、自治体からの無利子貸付で40%(12年据置10年償還)の合計80%と言う 公的資金投入による補助 が入ってます。これはSR等に比べて極めて恵まれた資金スキームですが、据置が長くても最終的には返済しなければならないので、10年目までに償還債務を払えるまでに稼げるようにならないと不味いということを意味します。果たして其処までいけるのでしょうか?
 此れに対しては悲観と楽観の両方の見方ができると思います。
 悲観的に見れば「需要予測を2回も変えて目標を低くしても、現実に今駅の周りは全部空き地の状況でそれだけ乗るのか?それに「 JRからは10万人が移行してきても、それだけでは需要目標達成(5年後に27万人)は難しい 」と言う状況で、需要目標どおりの乗客が乗らなければ20年で黒字化40年で累積債務解消の目標も苦しくなり、債務が返せなかったり追加支援が必要になる」と言う考え方もできます。
 又楽観的に見れば「秋葉原〜つくば45分の所要時間は沿線開発を加速度的に進める。それに駅周辺で良好な住環境形成のための基盤整備が進んでいるし、特に茨城県内には基盤整備が進んでいない地域にも開発余地は十二分にある。この状況でマンション等の建設が進んで「秋葉原まで数十分で2000〜3000万円台のマンション」等の安くて優良な住宅供給が進行すれば、沿線人口は加速度的に増えて5年で今の利用客の倍増程度は達成できるだろう」と言う考え方もできます。
 この悲観論・楽観論に対して私の考えは(短期的には厳しいのは百も承知ですが)中長期的には楽観論です。逆に楽観論なんですが将来的には楽観論の中の最悪シナリオである、今の20m6両編成運転では通勤輸送が賄いきれず、輸送力増強(増発or編成増強→編成増強は8両まではそんなに困難無く可能そうである)に迫られその投資負担が重くなり債務返済が苦しくなる可能性を危惧しています。
 その根拠は「TX開業でもたらされた物」の大きさです。今各所で開発が進んでいますが、今分譲している三郷中央駅前徒歩1分の「 三郷中央センターマークス 」で 3LDKで2000万円台後半程度 、柏の葉キャンパス駅徒歩11分で区画整理地外で開発の「 オーベル柏の葉ヒルズ 」も3LDKで2300〜3000万円程度で販売されてます。その上守谷まで行けば 常総ニュータウンで1600〜3000万円台で土地販売 をしており、 建物付きでも駅徒歩12分で4000万円前後で販売 してます。なんか不動産広告になってしまいましたが、要はサラリーマンで手が届く2500〜4000万円の物件が秋葉原駅から30分強の所要時間の所に売り出されてると言う事です。
 此れは相場から考えてリーズナブル(山手線から30分でこの価格の物件は多くないはず)であり、うまく誘導すれば区画整理地内だけでなくその周辺地域でも大量に開発が進み住宅が供給される可能性が大きいことを示しています。この流れは南流山接続の武蔵野線沿線の 越谷レイクタウン や東武野田線の野田市周辺にも「秋葉原まで1時間以内」と言う謳い文句で開発が加速する可能性があります。沿線の開発が加速度的に進めば当然TXの利用客は大きく増加します。こうなれば需要予測は達成可能でしょう。逆に通勤利用客が増えて通勤ラッシュが厳しくなり今の輸送力で賄えなくなる危険性があります。
 これらはまさしく[1]で述べたような「TXがもたらした物」の恩恵です。すでに開発の基盤は揃いつつあります。この動きに応じて民間でも 三井不動産の柏の葉キャンパス駅前プロジェクトの様なショッピングセンター 等の開発のけん引役となる施設の建設も進んでいます。この様な基盤整備やショッピングセンターの建設はTX開業でこの地域にもたらされたものであり、これらが又地域の開発を後押しする好循環にTX沿線地域は入ったと言えます。
 但しこの好循環に入ったと言えども、今からマンション開発をするとしても土地選定と取得に半年・計画と設計に半年・建設に1年と順調に行っても2年はかかります。開発とはそれだけ期間のかかるものですから、今から急激に開発が進んでも沿線人口とTX利用客が目に見えて増えるまで最低3年程度はかかるでしょう。其処まで耐えられれば、TXはまずひと段落つけるはずです。其処で沿線自治体等が上手く開発を進める方策を打ってあげれば開発は継続的に増加するでしょう。そうすれば次のネックの10年目の償還開始まで経営的には一息つくことができ、短期的には厳しいTXの経営も中期的にはそれなりに成立する可能性が高いと考えることができます(長期的には償還問題で厳しいが・・・)。
 確かに経営の合理化等も必要ですが赤字額・借金額を考えたらそんな物では収まりません。要は「如何に継続的に開発を促進させるか?」「それにより如何に乗客と収入を増やすか」と言う点がTX経営の鍵であると考えます。

 [3] 競争相手の状況(1) 〜常磐線への影響は大きいか?〜
 さてライバルの状況ですが、まずはJR常磐線です。TXと準並行路線であり、常磐線の培養線のうち北側から流れ込む武蔵野線外回り・東武野田線春日部方面・関鉄常総線に関しては流入客のかなりの部分を奪われる状況にあり、まさしく乗客を奪われるライバルと言える状況です。
 実際JR東日本では「 1日あたり10万人の利用減となり、年間120億円の減収になるだろう 」と予測しています。此れは極めて甚大な影響です。2004年度のJR東日本の在来線の総輸送人員5821百万人の約0.2%・在来線収入11924億円の約1%に該当します。此れだけの利用客・収入が失われて「JR東日本が潰れる」と言うことは無いにしても、常磐線(水戸支社)へのダメージは大きい物になると言うことができます。
 その為もあってか今回JR東日本のとった対応策は迅速なものであったと言えます。前にも述べた「特別快速増発・特急増発や停車駅増加」と言う内容の 2005年7月ダイヤ改正 をはじめに、TXと競合する 土浦以南6駅の美化工事 を開始し、まさしく矢継ぎ早にTXへの対応策を打っています。
 その先手を打った効果は出ているようで、2005年7月ダイヤ改正の結果「 ダイヤ改正後1週間で特急利用客が4%増加 」等の効果を出しています。TX開業後も維持できるかは微妙であるにしても「ダイヤ改正の効果はあった」と言うことができます。
 今回図らずも新線開業で競争が発生しましたが、今の段階では「競争が刺激になり利便性向上に結びつきプラスになった」と言う事ができます。此れはTX開業が常磐線利用客にも間接的に好影響をもたらしたとも言えますし「競争の正しい効果」と言うこともできます。
 只TX開業に伴う競争の正念場はまさしくこれからです。TXとて「 移行客が10万人では黒字化はおぼつかない 」と言っていますのでさらに積極的な競争を仕掛けてくる可能性は否定できません。しかし今の段階ではTXと常磐線の関係には「競争の正のスパイラル」が働いています。この様に競い合うことで利便性を向上させることは、交通機関の競争だけでなく地域間競争を勝ち抜くためにも必要なことです。今まで遅れてきた「都の東北」地区の発展のためにも、TXと常磐線が切磋琢磨しながら競争していくことは必要なことであると考えます。

 [4] 競争相手の状況(2) 〜いまや関東鉄道は存亡の危機に立たされた〜
 次にもう一つの競争相手関東鉄道についてです。関東鉄道は鉄道事業で取手の流れていた客が守谷に取られることでの減収で影響を受け、高速バス事業でドル箱のつくばセンター線と守谷地区各線が完全に競争する関係に追い込まれます。まさしく収益事業の2本柱が危機に追い込まれる「存亡の危機」に立たされたといえるでしょう。
 状況については今回非常に興味があったので、常総線とつくばセンター線には乗車し状況を見てきましたが、前述の通り特にドル箱の高速バスは「壊滅的打撃」と言っても過言ではない状況です。この打撃はTXのフィーダー輸送を強化したことの増収では回収できるものではないと思います。
 過去において新線開業に伴う既存の交通機関への影響と言う物は「多摩都市モノレールと立川バス・東葉高速鉄道と京成及び新京成・埼玉高速鉄道と国際航業バス」等数多く存在しました。この中で立川バスと新京成はかなり大きなダメージを受けていますが今回の関東鉄道は今までで最大の影響かもしれません。
 現実問題として関東鉄道の事業としての 営業利益は鉄道事業・バス事業・関連事業でほぼ3分の1ずつ 生み出しています。このうち3本柱のうち2本の事業が大打撃を受けることになります。
 まず関東鉄道の鉄道事業に関しては「新京成北習志野の悲劇」が守谷で繰り返される事となるでしょう。常総線需要の根源たる新守谷・南守谷からの乗客は直接TX守谷駅に流れるでしょう。又今まで守谷以北から取手まで乗りとおして東京方面に向かっていた客も守谷で降りてしまうでしょう。それに加えて中間地帯の中で取手より守谷が近い戸頭地区等の客も運賃の安い守谷経由に流れる可能性があります。関東鉄道ではより遠方の下妻・下館方面の客を守谷へ誘導しようと 快速の新設・割引切符の新設 をしていますが、焼け石に水でしょう。此れだけのダメージではワンマン化等の合理化でも追いつかない可能性は高いと言えます。正しく致命的なダメージであると言えます。
 同じくバス事業の根幹である高速バス事業ではドル箱路線がTX完全平行路線である為に、前述のように利用客が根こそぎ浚われて行く状況が発生しつつあります。関東鉄道では「 乗り換えないバスの特性を前面に、往復割引料金や回数券の導入などを協議していきたい。利用動向を見てダイヤや発着、経由地を工夫する 」等の対策をとり、実際に運賃値下げと経由地追加を行っていますが、前述の通り散々たる状況です。年間200万人のつくばセンター線の利用客は半減することは多分確実であると言えます。又同じことは守谷地区高速バス各線にも発生するでしょう。唯一有利なのは帰りの通勤客が「着席性と快適性」で、着席保障優等列車が無いTXを避けてホームライナー的利用をする可能性があるだけです。しかし此れも片輸送ですから効率が悪くなるので、必ずしもプラスとはいえません。
 この様な状況で如何にして生き延びていくかは非常に困難であると言えます。そういう意味では関東鉄道は正しく「存亡の危機に立たされた」と言う事ができます。
 
  [5] TXのもたらした「競争の弊害」について考える
 今回のTXは「需給調整規制」の存在しない中で、競合路線がある中に割り込んで開業し競争状況を引き出しています。競争自体はそれで競り合い利便性が改善する等同じような力を持つ者同士(TXと常磐線)であれば好ましいものですが、力の差が隔絶したもの同士(TXと関東鉄道)であると優勝劣敗がはっきりしその弊害を引き起こします。
 この様な競争による優勝劣敗の影響として気になるのは、関東鉄道が今運営している茨城県南地域のローカル生活路線が維持されるのであろうか?と言う問題です。今までは常総線水海道以南・高速バス路線の収益で内部補助を行いローカル線が維持されてきた側面はありますが、上記のような状況ではもう関東鉄道に内部補助をする余裕は有りません。そうなった時に競争の負の側面として「敗者による不採算部門切捨てによるローカル線廃止」と言う問題が浮上してきます。
 茨城県内では日立電鉄・鹿島鉄道が廃線の危機にさらされ、今年3月日立電鉄が廃止されましたが、今度鹿島鉄道の廃止問題が再燃して来ました。鹿島鉄道は関東鉄道の100%子会社ですが、廃止問題に際して 「かしてつ応援団」なる高校生の団体 等の運動が中心になり茨城県の補助等で存続が決まりましたが、今回TX開業に伴うダメージで 関東鉄道が07年度以降の補助の打ち切りを表明 し又廃線問題が浮上しています。
 正直言って関東鉄道としても国交省の「 ベストプラクティス集 」にも取り上げられた鉄道の存続の動きに水を差す行動は好ましくないと考えているでしょう。しかし上述のように関東鉄道の置かれている立場はそのような状況ではありません。TXとの競争のダメージで県の補助を受けても赤字の鉄道に対し内部補助をするほどの余力が関東鉄道に失われていることは間違いありません。正しく競争で劣勢にたちつつある関東鉄道の「競争の負の影響」が表面化しつつあるといえます。
 本来論で言えば「民営鉄道が内部補助で公共交通を維持するのは如何な物か?」と言う考えも有りますが、民営鉄道各社は「公共交通に従事するものの責任感」で内部補助で支えてきたと言うのが、感情としては当たらずしも遠からずと言う所であると考えます。しかし競争時代では民営鉄道の立場としてはそんなことは言っていられません。
 もっと問題なのは鹿島鉄道はTXで大きな恩恵を受ける茨城県内に有る物の地域は直接TXの恩恵を受けないと言う点です。地域はTXで恩恵を受けないのにそのTXの影響で地域の公共交通が存続の危機に立たされるというのは、地域としては納得のいく話ではありません。と言ってTXの犠牲者である関東鉄道に支援打ち切りを非難するのも筋が通らない話です。
 こうなるとその地方を管轄する地方自治体が調整しなければなりません。ましてや同一県内で恩恵を受ける地域と被害を受ける地域が存在しているのですから県が調整に入り関東鉄道の補助の肩代わりをする等の対応策をとらないと、競争の弊害だけを鹿島鉄道沿線地域に押し付けることになります。
 決して競争が間違えているわけではありません。「需給調整規制」が無い状況では関東鉄道が競争で劣勢に追い込まれるのも致し方ありません。しかし競争と言う名の自由主義経済の神々の見えざる手は万能では有りません。その神々の見えざる手の失敗のフォローは官の役割です。
 そのようなことを踏まえTXの大株主であり、かしてつ応援団の要望を受け入れ鹿島鉄道に補助を出し鹿島鉄道存続を後押しした茨城県が、責任を持って競争の弊害の調整に当たるべきであると考えます。それは同時に地方公共交通維持に最低限の責任がある地方自治体の責務であると言えますし、自由主義経済の根本に有る矛盾を調整すべき立場にある組織としての責務であると言えます。又それは鹿島鉄道だけでなく関東鉄道に対しても、直接であるか間接であるかは別にして茨城県南地域のローカル公共交通維持のために限定的でも良いので何かしらの援助・補助をするべきであると考えます。


 今回強行軍でありましたが、TXとその関係交通機関を見てきて色々な事が発生していると感じました。TXで競争力の増した「都の東北」地区が挑む「地域間競争」や「需給調整規制」が無くなったとのTX・JR・関鉄の間での競争等、正しく今流行の競争があちらこちらで行われていると感じました。
 TX自体は新設鉄道としてすばらしい完成度であると思います。又地域開発と一体になった鉄道建設もまだ完成形は完全には見えてないものの、良い地域環境を生み出す素晴らしい物であると感じました。
 しかし同時に競争の優勝劣敗による敗者の苦境やローカルの公共交通の危機等、其処に存在する問題があることも又感じました。世の中には日向が有れば日陰があるものです。確かにTX開業は華々しく正しく日向です。しかしその裏には日陰があることを踏まえ、今後TX開業による開発の促進・TXの盛業当の日向の部分に注目すると同時に、関東鉄道グループにTX開業により生じた日陰がどの様な経過を辿ってどの様になるか?じっくりと観察していく必要があるのではないかと感じました。




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