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房総半島横断鉄道を辿る 〜いすみ鉄道・小湊鉄道乗車記〜

 皆さん今晩はTAKAです。5月8日(フォーラム発起会の翌日でしたが)偶々午前中仕事で上総一ノ宮に行く用事が有り日曜日の事もあり午後がフリーになり車も無い状況だったので(車は便乗だったので)、「只東京へ外房線で帰っても仕方ない」と思い近いローカル線であったにも関わらず乗車の機会の無かった「いすみ鉄道・小湊鉄道」に乗車してみる事にしました。
 私にとっても土地勘が全く無い地域ではない物の(時々車で通る)、始めて乗車の鉄道でありそんなに資料等が無い状況ですが、両鉄道の状況を基にレポートを纏めて見ました。御笑覧下さい。

 ☆当日の乗車ルート
 上総一ノ宮13:04→13:21大原(駅で時間調整)大原13:55→14:26大多喜(駅周辺を散策)15:59→16:20上総中野16:38→17:48五井

 ☆参考文献・参考サイト
 ・鉄道ピクトリアル1996年4月臨時増刊号「関東地方のローカル私鉄」
 ・数字で見る鉄道2003(運輸政策研究機構発行)
 ・ いすみ鉄道株式会社 ホームページ
 ・ 小湊鉄道株式会社 ホームページ
 ・ 千葉県の鉄道とバス(県交通計画課HP内)
 ※それ以外の資料に関しては引用時に適宜説明いたします。

 (1)いすみ鉄道・小湊鉄道の概況

 先ずはいすみ・小湊両者の鉄道事業の概要です。

 会社名    営業キロ   車輌数  職員数  輸送人員    輸送密度    資本金     営業収益    営業費用    営業損益 
 いすみ鉄道  26.8km   7両  33名   604千人   764人/日  269百万円  123百万円  261百万円  −123百万円
 小湊鉄道   39.1km  14両  83名  2104千人  1769人/日  202百万円  711百万円  709百万円     2百万円


※いすみ鉄道・小湊鉄道の各駅利用人数は「上記紹介サイト 千葉県の鉄道とバス 鉄道輸送の現状 県内鉄道各駅乗車人数 」を参照下さい。
 会社の経営形態としては「いすみ鉄道→千葉県34.2%・大多喜町15.17%株所有の第三セクター」「小湊鉄道→九十九里鉄道50.5%・京成電鉄29.8%所有の準京成系民間鉄道」と言う形でかなり異なります。
 又元々「いすみ鉄道→旧国鉄木原線からの転換路線」「小湊鉄道→戦前の房総縦断を目指した軽便鉄道が生き残った」鉄道であり、昔は「木原線→大原〜木更津(久留里線)間の房総横断を目指し大原方から建設」「小湊鉄道→五井〜安房小湊間の房総縦断を目指し五井方から建設」された路線であり、其の両線が目的を達成できずに偶々上総中野で接続・終点とし今の形となったと言うのが「房総半島縦断鉄道」の現実です。
 (木原線は1934年・小湊鉄道は1928年に上総中野まで開業)
小湊鉄道・いすみ鉄道は小湊鉄道五井〜上総鶴舞間・いすみ鉄道大多喜〜久我原(逆向きの感じだが)で国道297号線といすみ鉄道大多喜〜大原間で国道465号線と平行しています。又鉄道に並行するバス路線は小湊鉄道がこの地域のバス運行者であることも有り一般路線では平行路線はありませんが、高速バスでは上総牛久で 小湊バスで茂原〜横浜・羽田空港路線と接続する上総牛久〜安房小湊線京成バス・鴨川日東バスの東京〜安房小湊線 が上総牛久・鶴舞・大多喜に停留所が有る状況です。又両バス路線ともアクアライン経由のバス路線であり、東関道市原インター経由で千葉・東京方面を結ぶ路線がなく、高速バスも準並行路線で終わっているのが特徴です。
 この様な状況から両鉄道の状況は「沿線地域の数少ない公共交通機関」として存在はしているが、ライバルは国道を利用するマイカーであり、数字指標を見る限り、東京・千葉の最遠のベットタウンに掛かっている小湊鉄道は善戦しているが、東京・千葉から距離の有るいすみ鉄道は利用数・経営的にも苦戦しているのが伺えます。

 (2)いすみ鉄道に乗車して(大原〜大多喜間)

 早速試乗記です。5月8日はGWの最終日で房総は「手軽な観光地」として客を集めたみたいで行きの車では京葉道路が宮野木JCT〜千葉東JCTで渋滞していました。元々ボトルネックの区間ですが仕事の我々は「長かったGWの最終日だから遊びに行く人間なぞ居ないだろう」と思っていましたが、房総の観光地は近場で有るので「最後の遊び」で行く人が多いのかもしれません。大多喜・養老渓谷等の観光地も有る午後の目的地はどんな感じなのか興味が募ります。
 午前中に仕事を終わらせ打ち合せ方々の昼食後、12:30過ぎに上総一ノ宮の駅まで送ってもらいます。上総一ノ宮の駅では昼間は上り千葉方面は平均毎時2本有りますが下り鴨川方面は平均毎時1本しかありません。次の列車を待っていると次の13:04発は上総一ノ宮でわかしお9号を待避します。けれども先を急いでもいすみ鉄道が無いので各駅停車で行く事にします。わかしお9号はE257系5両編成ですが半分強の乗車率です。まあ連休最終日の昼間の列車ですから、乗車率が悪くても仕方ないでしょう。それに対して6両編成の普通列車は部活帰りと思える学生等が多く半分強の乗車率が有りました。
 普通列車で15分強で大原に到着です。途中の各駅でもそんなに出入りが無く同じぐらいの乗車率でしたが、流石に比較的街の大きい大原では50人位電車から降ります。入れ違いで13:21発の東京行きビューわかしおが出発していきます。向こうは9両編成ですが乗車率は多めに見ても30%位です。観光から帰るには少々早い時間ですが、房総の観光の場合に実際はJRではなく車を使う場合の方が圧倒的に多いのかも知れません。
 大原でも30分程度時間に余裕が有るので、駅周辺をふらふらして見ます。駅前広場は「普通の田舎の駅」と言う感じで小さな駅前広場と平屋建てのJR・いすみ鉄道の駅舎が仲良く並んでいます。駅前の店舗もこの近辺で言えば上総一ノ宮と一緒で、店は有る物のローカルな日常品を売る店やちょっと田舎仕様の喫茶店の様な店が主体で若者の入るような店は有りません。もっと大きい店や若者向けの店(マック等)は東側の国道128号線沿いに行かないと無いのかもしれません。

 [1]JR・いすみ鉄道 大原駅                   [2]大原駅前状況
     

 駅前を一通り回った後、いすみ鉄道の駅に入ってみます。いすみ鉄道大原駅運転手の詰め所のプレハブが有るだけで実質的には無人駅で「料金は車内でお支払い」になっています。しかし私が大原駅に着いた時からすでにいすみ鉄道の車輌は止まっています。着いた列車を待合室代わりに使っているみたいで、エンジンはアイドリングで止まっておりすでに乗客が居ます。
 基本的に上りが大原駅で外房線上りの普通or特急に5分〜20分の間合いで接続していますが、下り同士の接続はそんなに考慮されていないようです。(実際私も大原で30分も時間調整)エンジンを切るのは空調等の問題が有ると言っても、駅で30分もアイドリングで止めておくのは無駄な話です。色々な理由は有るのでしょうがもう少し効率的な運転方法が有るような気がします。

 [3]いすみ鉄道大原駅といすみ200形
 

駅前をブラブラした後発車10分ぐらい前に乗車します。発車10分前ですが座席は有る程度埋まっています。オールロングシートで座席定員が44名ですから30名近い人が乗っています。比較的普通の人が多い感じでしたが私が乗った後学生がどんどん乗ってきて比率は半々位になります。
 発車時間の数分前になったら運転手が乗車して暫くしたら発車です。最終的には座席が埋まり立ち客が多少出る程度(約50名位)の乗客が乗り出発です。出発すると西へ大きく曲がり国道465号線と平行して大多喜を目指します。線路自体は線形は直線と曲線が混じり合った路線ですが、保線状況は過疎ローカル線と考えれば「まあそれなり」の線路で40km/h〜50km/h程度の速度で運転されていますが時々大きな振動を感じます。
 乗客は大原から大多喜に向かい減っていく感じです。只下車する人は殆どが学生で、上総東・国吉では下車が多い感じがしました。上総東では小さな駐輪場もあり駅から自転車で出て行く姿も散見されました。又国吉では中学生の部活帰りの集団が乗ってきてかなり賑やかになります。(結果的に乗客が一番乗っていたのは国吉〜大多喜間)大多喜では半数以上の人が降り出発していきました。出発して行った列車が「上総中野で小湊鉄道の接続が無い」「国吉で乗った中学生と老人が乗客の大部分」と言う状況から、いすみ鉄道の利用の大部分は大多喜までで其処から先の利用は少ない学生と老人しか居ないと言う感じがしました。
 
 [4]いすみ鉄道車内(大原発車時)                 [5]いすみ鉄道車内(国吉)
       

 [6]いすみ鉄道車内(大多喜発車時)                [7]大多喜駅乗降状況
       

 (3)大多喜市内を散策して

 大多喜まで列車に乗ってきましたが、前述の通りこの列車は上総中野で小湊鉄道に接続しておらず上総中野で1時間半近く足止めを受けます。それならば「房総の小江戸」と呼ばれる「本多忠勝公開祖の上総大多喜10万石の城下町」を散策しながら時間調整をしようと思いました
 只大多喜は通った事はあれども街中を歩いた事はないので、只駅周辺・旧市街地・夷隅川周辺をふらふら歩くだけになりました。(大多喜城(県立博物館)は有名だし坂を上るのも辛かったので敢てはずしました)
 ※ 大多喜町市街地観光地図 (大多喜町HP 全域と市街に分かれている)
   大多喜市街地地図(主に駅周辺・ゼンリンデーターコム)
 先ずは駅周囲です。駅は町役場周辺の旧街道と大多喜城の中間に位置しています。大多喜駅にはいすみ鉄道本社と検車区等が併設されており、いすみ鉄道の中核をなしています。又駅前には 観光案内所 があり町役場方面に商店街が続いていますが寂れた感じであり、駅前も又活気に乏しい感じで列車が来て乗降客が居なくなると静まった感じになります。その様な感じから見ると駅前は「房総の小江戸」と言う感じはしません。

 [8]いすみ鉄道大多喜駅前                     [9]大多喜駅構内状況
       

 そういう訳で見るところも無いので、駅前の道を旧街道・夷隅川の方に下ります。そうすると古めかしいつくりの建物(建物自体は新しい感じだが)が有り建物の前には踏切があります。看板を見ると「 房総中央鉄道館 」と有るので、早速200円払って入ってみます(一日乗車券を持っている人は無料と有りました)
 中身自体はそんなに驚くほどの物ではありません。鉄道模型とオーナーの趣味で集めたと感じる各種のグッズ類が飾ってあり、其の中にいすみ鉄道・国鉄木原線のコーナーもありました。その様な物に見慣れている人たちには「刺激の乏しい」と言う感じはしますが、普通の観光客には観光の一環として一見の価値が有るかもしれません。只大多喜の駅にも案内が無かったので、せっかくいすみ鉄道や木原線を扱った展示館なのですから駅に案内を出す位の協力はしてあげるべきかも知れません。(有ったのかも知れないが私は気付かなかった。気付かなければ意味が無いですから・・・因みにいすみ鉄道のHPの「房総の小江戸散歩」の地図には載っていました)

 [10]房総中央鉄道館(外観)
 

 房総中央鉄道館を見た後旧街道に出てみます。旧街道沿いは「川越の蔵作りの町並み」に比べたら町並み・賑わい共比べ物にならないですが(それは歴史的に同じ城下町でも「大国である武蔵の中心的物資集散地」として栄えた川越と「房総半島の夷隅郡周辺の物資集散地」と言う規模の大多喜の歴史的な街の規模の差から来ると言えます)それなりに風情の有る昔ながらの町並みが有ります。只観光客も殆ど居ないし観光客向けの店にも乏しく(観光施設は「渡辺家住宅・商い資料館」位しかない)生活密着の店と混在している感じで、観光地としての街づくりはイマイチなのかな?と言う感じはしました。(川越市と大多喜町では自治体としての規模も違うので、大多喜町が幾ら頑張っても限界は有るでしょうが・・・)

 [11]大多喜町旧街道沿いの町並み                  [12]夷隅川沿いから見た大多喜町旧市街・大多喜城
       

 旧街道の町並みを散歩した後、夷隅川の対岸の方へ移動していきます。旧街道から一歩はずれて夷隅川沿いまで行けば住宅が主になります。此れまで大多喜の町を散策してきましたが、未だ大きな商店等を見てきていません。人口11,500人程度の街ですからそんなに発展していないと言えますが房総半島の中心に位置し夷隅郡の中央で国道が混じる交通の要衝と言う事を考えると、大型スーパーが1軒位有っても良い物です。なので国道297号線大多喜バイパスと国道465号線の交差点まで足を伸ばしてみることにしました。

 [13]大多喜バイパス沿いのショッピングセンター
 
 
 大多喜バイパスと国道465号線の交差点である船子交差点まで行ったらいきなり大多喜バイパス沿いに「島忠」「いなげや」等の大型ショッピングセンターや「ガスト」等のファミレスやマクドナルド等が並んでいます。又車の通行量も市街地とは比べ物にならないぐらい多くショッピングセンターの駐車場も車で一杯です。
 やはりこの周辺は車主体の生活でなければ成り立たない様になっています。房総や九十九里地域で公共交通が有るのは茂原・木更津までの外房・内房線周辺の市街地・住宅地だけで、それ以外は「電車やバスが走っていればOK。1時間に1本走っていたら充実している」と言うのが公共交通の現状です。その様な状況である事と、道路がかなり整備されている状況から考えると、この様な市街地が寂れバイパス沿いのショッピングセンターが栄える現状は致し方ないのかもしれません。

 (4)再びいすみ鉄道に乗車して(大多喜〜上総中野間)

 船子交差点から再びいすみ鉄道に乗るために大多喜駅に戻ります。駅に居ると20名程度の人が居て観光客と思しき人が半分位を占めています。私は多少時間が有ったので駅待合室で休憩していると15:36発大原行きがやってきます。向こうにはすでに20名程度の人が乗っており駅周辺・待合室に居た人の殆どが大原行きに乗っていきます。時刻表を見たら明らかです。東京に行くのであればこの後の小湊鉄道経由よりこの列車の方が特急に接続し便利です。
 「大原廻り」 大多喜15:36→16:04大原16:11→17:22千葉17:34→東京18:13 2時間37分
 「大原廻り特急」 大多喜15:36→16:04大原16:17→(ビューわかしお20号)→17:34東京 1時間58分
 「大原廻り(1本後)」 大多喜16:14→16:41大原16:47→18:01千葉18:09→18:51東京 2時間37分
 「大原廻り特急(1本後発)」 大多喜16:14→16:41大原16:53→(新宿わかしお号)→18:16秋葉原18:20→18:24東京 2時間10分
 「五井廻り」 大多喜15:59→16:20上総中野16:38→17:48五井17:50→18:51東京 2時間52分
 「京成高速バス」 大多喜17:03→東京駅八重洲口18:45 1時間42分
 上記に日曜午後15時半過ぎに大多喜を出た場合の東京までの所要時間を示してみました。有る意味当然の結果ですが、単純に所要時間で見比べれば高速バス→大原廻り特急→大原廻り普通→小湊鉄道ルートと言う事になります。距離で比較すれば高速バス・小湊鉄道廻り→大原廻りと言う事になります。結果は房総半島横断鉄道には極めて厳しい結果がでています。
 15:36発大原行きが出た後、奥に留置した車輌がアイドリングを始めます。可笑しいな?と思ったら上総中野行きが入線して来て、お客さんを降ろし始めたら奥に留置中の車輌が大原よりへ動き出し入換を始めたと思ったら上総中野行きの後ろに連結されます。この列車は16:32上総中野→17:35大原18:14→19:03上総中野と言う運用になりますが、今日は日曜日ですから通勤需要・部活帰りの遅めの帰宅学生需要が期待できない中で大原17:35着だと接続列車が普通のみ(特急は約1時間待ち)と言う観光には便利でない接続・時間から考えると2両編成は過剰です。大多喜〜上総中野間が1閉塞で有ることも関係しているのかもしれませんが、何で下り列車の此処で1両増結したのでしょうか?空で2両で運転することによる非効率等を考えると疑問が残ります。
 15:59定時に上総中野行きは2両編成で発車します。乗客は私以外にお婆さん2名に若者1名に小学生姉妹2名だけで、途中(東総元)から1名乗車してきましたがお婆さん1名・若者1名が久我原で降りただけで、上総中野まで寂しい限り動きは有りません。
 車窓もこの地域になると国道からも離れ住宅もめっきり減り山と谷間の少ない畑が有るだけの寂しい風景が続きます。需要の少ない過疎地帯で有る事は沿線の風景を見れば一目瞭然です。

 [14]いすみ鉄道車内(小谷松発車時)
 

 大多喜から20分強で上総中野に到着します。お婆さん・小学生は迎えに来た車等で姿を消しいすみ鉄道→小湊鉄道に乗り換えるのは私だけです。上総中野の構内は一応いすみ・小湊の両線が線路はつながっていますが、実質的にはいすみ・小湊共に棒線が途切れて折り返しているだけで只接続していると言う状況です。
 上総中野では15分強時間が有ったので駅の周りを少し散策してみます。駅舎はローカル線によく有る(この後小湊鉄道の各駅に見る形)木造ですが、隣に立派なコンクリート製の竹の形をした公衆トイレが有り非常にアンバランスな形になっています。この辺りは筍が名産なのでそれをモチーフにするのはわかりますがもう少しバランスを考えて欲しい物です。
 駅前には広場が有りますが広場の周りには工務店とタクシー&観光会社の他は目立った店は広場の先の県道にも無く、駅前広場で子供がキャッチボールをしているのどかな状況です。両鉄道は大きな町が有るから上総中野を目指したのでなく、安房小湊・久留里の目的地を目指して進んでいたら上総中野で接続し此処で延伸の力が尽きたと言う状況がありありと見えます。

  [15]上総中野駅駅舎と駅前広場                   [16]上総中野駅広場の状況
       

 (5)小湊鉄道に乗車して(上総中野〜五井間)

 いすみ鉄道を終点上総中野で下車し駅周辺をウロウロした後、房総半島を縦断し東京に戻る為に小湊鉄道に乗り換えます。小湊鉄道に関しては和寒様がご自分のサイト「 以久科鉄道志学館 」の中で「 佳き時代の香薫〜〜小湊鉄道各駅停車 」と言う記事を書かれています。内容的には私は通過しながら見ただけですが、和寒様の記事は各駅についての事を中心に非常に細かく又丁寧に書かれています。しかしせっかく此処まで書いてきて「いすみ鉄道だけ・上総中野でお仕舞い、後は和寒様の記事を御覧下さい」と言うわけにも行きませんので、続きを書くことに致します。しかし小湊鉄道各駅の紹介等は私の分には無いので和寒様の記事も合わせてお読み下さい
 16:30頃に上総中野駅に戻り小湊鉄道の列車の到着を待ちます。駅に戻るとすぐ小湊鉄道の列車が入ってきます。2両編成のディーゼル車で1961年製のキハ200系の2両編成です。列車を見る限り1988年の木原線転換時に製作されたいすみ鉄道のいすみ200型に比べたら、旧国鉄キハ20系を基に作られたキハ200系は老齢の車輌ですがそんなに古めかしい感じはしません。車内もそれなりに綺麗に清掃されており、古めかしくてもボロいと言う感じでは有りません。そう見ると車齢が若くてもどうも車内の清掃がイマイチのいすみ鉄道の方が整備が行き届いていない感じがしました。(どちらも窓ガラスの清掃は今二つと言う感じでした)

 [17]上総中野駅でのいすみ200系と小湊キハ200系
 

 到着した小湊の列車からは数人の人が降りましたが待っているいすみ鉄道に乗り継ぐ人は居らず、いすみ鉄道の車輌は2両編成ながら乗客ゼロで出発していきます。小湊鉄道の方には私を含めて6名程度の人が乗ります。(見た目私を含め4人が鉄道趣味系の人間系でしたが・・・)やはり市街地の規模が小さい事もあり、いすみ・小湊共にこの駅からの乗車は少ないです。
 乗車するとまもなく出発です。小湊鉄道はツーマン運転で乗車客が有る無人駅を発車するとすぐに車掌が回ってきます。私も無人駅の上総中野から乗ったので乗車券を買おうとしたらビックリ女性の車掌が乗務しています。小湊鉄道のHPを見たら 嘱託社員で車掌の募集 を行っています。私も本当に久しぶりのローカル鉄道訪問ですが、左記の小湊のHPの嘱託社員募集の所に出ているような女性が車掌で接客しているとローカル線のイメージも変わります。その点はいすみ鉄道と大違いです。
 上総中野時点では6名だった乗客も市原市に入り「上総牛久以南では唯一の有人駅で折り返し列車も有る駅」の養老渓谷で2両計で30名近く乗車してきました。乗ってきた乗客の殆どは高齢層の観光客です。「養老渓谷」と言えば房総でも名の知れた観光地です。そう考えると房総でも名の知れた観光地のもより駅からGWの最終日の夕方に乗ってきた客の数が30名近くと言うのも寂しい数字です。しかし「上総牛久以南では本数も激減し 養老渓谷(126名/日)以外はどの駅も50名以下の乗客しか居ない 」と言う厳しい現実の中では、さびしい数字でも無視できない状況です。

 [18]小湊鉄道車内(養老渓谷出発時点)


 養老渓谷を出た後列車は房総半島の分水嶺を越えるために、幾つかのトンネルを越えて進みます。この区間は山岳区間の為に駅間はかなり開いています。又駅の周りにも集落は少なく駅も整備されている物の無人駅で殆ど乗降客が居ません。養老渓谷〜上総牛久間で乗車があったのは上総鶴舞で2名の観光客らしい老夫婦が乗ってきた以外乗降客は殆ど有りませんでした。上総中野〜上総鶴舞間では小湊鉄道は房総縦貫のメインルートの国道297号線(大多喜街道)から外れて居る為元々人口が少ない地域で有る事が影響していると思われます。
 養老渓谷を出たときと殆ど変わらない乗客数で上総牛久に到着です。上総牛久からは運行本数も非常に増え(平日下り基準で五井(30本)上総牛久(10本)養老渓谷(5本)上総中野)沿線風景も東京の郊外の最外延部と言う感じになってきます。又上総牛久は茂原発アクアライン経由成田空港・横浜への高速バスと大多喜・勝浦方面のバスの接続地(駅前で接続している)になっており、道路も国道297号線とアクアラインに繋がる国道409号線との接続ポイントであり交通の要衝です。その為乗客も多く10名以上の乗客が有ります。
 上総牛久からは市原市を縦貫している国道297号線を又身近に見ながら進んでいきます。比較的線形が良い為60km/h程度の速度で走行していますが、軌道の整備が悪い為かカメラを車内で構えると手振れする位揺れています。又その速度でも整備されていてそれなりに空いている国道297号線を走る車に抜かれていきます。(車の速度超過は明らかですが)

 [19]小湊鉄道と並行する国道297号線(上総牛久)         [20]小湊鉄道車内(光風台出発時点)
      

 上総牛久以北の沿線は住宅と田畑と国道沿いの店等がまだらに存在している状況です。只光風台は小湊鉄道で一番新しく出来た駅ですが、住宅地に対応する為にできた駅だけあり駅の南西斜面に新興住宅地が広がっていて多少雰囲気が変わり感じです。
 しかし上総牛久以南とは異なり上総牛久〜五井間各駅ではどの駅でも2〜3名程度の乗降が有ります。上総牛久以南の市原市内は国道297号線の交通量を見てもかなり流動は多い感じです。光風台をすぎた頃には2両とも座席に多少空席が有る程度の乗客が有ります。日曜日夕方の上りで養老渓谷からの観光客(約40名)が有ることを考えてもかなり乗っています。此れ位乗れば鉄道としての存在意義は有るといえるでしょう。
 その様な沿線・乗客の近郊的な状況に対して、小湊鉄道の状況は「時計が止まった鉄道」と言う感じです。車輌は前に紹介した1961年製ですし、駅舎は 和寒様の記事 で丁寧に触れられていますが、基本的には新設駅の光風台以外は「大正にタイムスリップした駅」状態です。(なんせ殆どの駅で木造・構内踏切ですから・・・)非常に良い味は出していますが、日常利用者はこの車輌・駅舎の状況を如何思っているのでしょうか?
 上総牛久で対向列車と交換したあと、海士有木でも下り列車と交換します。上総牛久以北は上総三又以外は交換可能です。(一番閉鎖区間が長いのは上総牛久〜馬立間で4km・5分間)この状況からするとこの区間はもう少し増発が可能です。
海士有木は昔の計画では千葉延長線(後に京成に免許譲渡→ちはら台までは京成千原線として完成)が分岐予定でした。海士有木も駅自体は「駅前に店も無い有るのは住宅と空き地だけ」と言う状況ですが、進行方向右側のこどもの国・ちはら台方面には車窓からも丘の上に結構住宅地が見えます。
 
 今更「歴史のIF」ですが京成千原線が海士有木まで乗り入れていた場合小湊鉄道はどうなっていたでしょうか?京成の競争力の弱さが引っかかりますが、小湊の上総牛久以北区間の人口の状況から考えたら、今の市原ニュータウン内で苦戦している現状よりかも以外に善戦したのかもしれません。けれども今延伸しても厳しいことには変わりなく、少なくともバブル期前に海士有木延伸・小湊鉄道直通が出来ていたら小湊鉄道の上総牛久以北区間の状況は変わっていたかも知れません。
 (しかし京成と小湊の関係は芳しく無い様で、京成は1944年に安田系の小湊を戦時統合を口実に安田保善社から持ち株(約74%)を買い取り系列に入れてますが、過去に「佐原押上連絡自動車商会」をめぐり昭和10年に対立する等で京成・小湊の関係は好ましくなかった様で、昭和53年までは京成の子会社になっていたが京成の経営危機の時に「京成→九十九里鉄道へ小湊株の売却・京成→小湊鉄道社長個人に売却」と言う複雑な小湊の系列脱出策が行われ、今は小湊の株主構成は「第1位九十九里鉄道→50.5%・第二位京成電鉄→29.8%」となっている現状から、京成・小湊間の関係はスムーズでなかった可能性は高く、その様な状況で「千葉〜海士有木間新線」は積極的で有るべきメリットの多い小湊が「免許取得→京成乗入へ規格変更→千葉急行電鉄へ免許譲渡・共同出資」とズルズルと後退させられた段階で海士有木まで延伸できなくなった事は確実になったのかもしれません。)
 ※上記は「鉄道ピクトリアル96年4月特別号関東地方のローカル鉄道」「97年1月特別号京成電鉄」中の記事を参考にしました)

 海士有木をすぎ、東関東自動車道館山線の下を潜ったら五井の駅すぐ其処です。右にカーブしながら内房線に接着し五井の駅に到着、房総横断鉄道の旅は終わりになります。五井の駅には小湊鉄道本社・鉄道の車庫等があり駅もJRと共用ながら橋上駅舎で近代的な造りです。
 列車から降りた後、駅自由通路に出て鉄道部の車庫を見てみます。橋上通路自由通路から見てみたら・・・、タイムマシンにでも乗ったのでしょうか?未だ木造の車庫が残っています。和寒様の記事の最初の「五井」の所にも 車庫の写真 が出ていますが今も未だ殆どが変わっていません。(奥に洗車機らしき物が出来たが・・・)下の写真と見比べて見てください。鉄道マニア的には「良い味出している」のですが、車輌・施設・駅の全てが時代が止まった様な近郊鉄道が果たして好ましいのか?それとも設備更新を止めたがゆえに今何とかギリギリ収支均衡を保っているから存続できているのか?考え方は複数出てきて、どれも正しくどれも間違っているとも言え非常に難しい問題で有ると改めて考えさせられました。

 [21]海士有木で交換する対向列車                [22]車窓からこどもの国・ちはら台方面を見る
     

[23]五井駅に停車するキハ200系(内房線ホームより撮影)    [24]小湊鉄道五井車庫全景
     

 (6)平行の国道465号線〜国道297号線を走って

 5月8日にいすみ鉄道・小湊鉄道を試乗したあと、17日に仕事で午後車で上総一ノ宮まで行く用事が有り仕事の後三時過ぎからフリーだったので、高速で帰るのも勿体無かったので上総一ノ宮〜大原〜465号線〜大多喜〜297号線〜市原インター〜東関道のルートで帰り、車で走りながらもう一度よく沿線を見てみました。
 3時半過ぎに上総一ノ宮を出て海沿いの国道128号線を走ると大原まで20分位で到着します。沿道は畑が広がり昔から風景は変わりません。只大原の近くになると沿道にショッピングセンターが有りショッピングセンターだけが繁盛している状況です。駅前の衰退の状況と国道沿いのショッピングセンターを見ると如何に公共交通が弱く車中心の社会になっているか分かります。
 国道128号線から大原の交差点を右折して国道465号線に入ります。国道465号線は国道としては規格が高いほうではなく、片側1車線の道路が大原〜大多喜間を結んでいますが、大原市街地と大原市新田のトンネル前後の区間では「乗用車がすれ違うのは問題ないが、片側に大型車が来ると乗用車でもどちらかが止まらないとすれ違えない」と言う状況です。この国道465号線に恒常的にバスが走るとなったときにはこの2区間の改修を行わないと路線設定は厳しいかもしれません。
 国道465号線といすみ鉄道は大原〜大多喜間でほぼ完全に平行して居ますが、平行のバス路線は無く大原〜大多喜間の公共交通はいすみ鉄道しかない状況です。しかし人口の集積は国吉の駅周辺に多少有るだけで人口の絶対数が少なく、住民は車を利用できる人は殆ど車利用で残念ながら高級交通を利用するのは「学生か交通弱者か」と言うのが偽らざる状況です。

 [25]いすみ鉄道と国道465号線(西大原〜上総東)        [26]国道465号線といすみ鉄道新田野駅(駐輪場に注目)
      

 [27]いすみ鉄道新田野駅を発車する列車             [28]国道465号線と並行して走るいすみ鉄道(大多喜〜上総中川間)
      

 国道465号線を進むと大多喜で房総縦断の国道297号線にぶつかります。丁度その国道の交差点が写真[13]の所になります。この場所は大原・安房小湊・市原からの道路の接点で、夷隅郡の大多喜周辺地域から車でのアクセスが便利な所です。人口1万人の町に不相応な規模のショッピングセンターでしたが、周囲の道路環境を見ればショッピングセンターの立地には納得です。
 此処で此処から先の旅の腹ごしらえにおおたきショッピングプラザのマクドナルドに寄りました。(大原駅前にも大多喜駅前にも無かった物です)おおたきショッピングプラザの裏に車を止めようとしたら裏に牛久〜勝浦間急行バスのバス停があり、隣接の住宅団地の後ろにはいすみ鉄道が走っています。バス停は屋根・自販機・数台の利用者用駐車場(有料)が用意されていて、中々立派な施設です。それに対していすみ鉄道は地域最大級のおおたきショッピングプラザから200m位の距離で、しかもその間には数十戸の小規模団地が有るのに駅がありません。確かに大多喜駅からは1km有るか無いかの距離ですが大多喜〜上総中川間は駅間距離が3.9km有るので駅が有っても可笑しくはありません。小湊のバス停がどれ位利用されていたかは分かりませんが、少なくとも大多喜〜上総中野間の各駅より利用客が有ると思われる立地です。
 少なくともそういう点ではバスの方が柔軟かつ機動的に対応していると感じました。いすみ鉄道に限らずローカル鉄道の場合、この様なショッピングセンター近接地等にも積極的に駅を設置するべきだと思います。(ローカル鉄道の分無人駅でいいのですから・・・建設費以外のコストは加速の増加による動力費の増と駅のメンテ費用位ですから積極的に考えるべきです)

 [28]ショッピングセンター内小湊バス停留所          [29]いすみ鉄道(踏切の所)とおおたきショッピングプラザ(右奥)と住宅団地(左奥)
      

おおたきショッピングプラザ周辺地図(ゼンリンデーターコム)

おおたきショッピングプラザで小休止した後、今度は市原を目指して国道297号線を進みます。国道297号線は大多喜〜市原を結んでいる房総縦断国道ですが大多喜〜上総鶴舞間では厳しい山間地を上総中野経由で迂回しているいすみ鉄道・小湊鉄道ルートとは平行せず、直線でショートカットしています。
 その為かなり大多喜市街地を出た所で数箇所のヘアピンカーブを含む厳しい坂道が待っています。道路幅員はかなり有る物のトレーラー等の大型車がその区間を通るとすれ違うのが厳しい状況で難所となっています。只このルートは 京成バス・鴨川日東バスの東京〜安房小湊線小湊バスの上総牛久〜安房小湊線 の他に鉄道と平行していない区間ではローカルバスとして一般路線の小湊バスの大多喜〜上総牛久線が走っていますが、朝の時間以外は2時間に1本程度しか走っていません。
国道297号線を走ると大多喜の次に市街地になるのは市原市内に入っての鶴舞地区になります。鶴舞は元々は鶴舞藩2万石の城下町で今の市原市南部地域の中心地でした。今でも鶴舞自然公園等の観光地の他かなり大きな市街地と商業高校・循環器病センター等の公共施設も有り、又大蔵屋団地等の団地も有ります。( 上総鶴舞駅と鶴舞周辺の地図(ゼンリンデーターコム)
 只地図を見て明らかな様に市街地は国道から登った丘の上にあり小湊鉄道はこの手前で勾配を避けてか南側に大きく曲がっていて小湊鉄道の上総鶴舞駅は市街地や大蔵屋団地から1km以上離れている状況で鶴舞の市街地のアクセスは上総牛久駅前から30分に1本程度出ている小湊鉄道バスが主体になっています。その為上総鶴舞は駅国道沿いに有る物の利用客が非常に少なくさびしい状況です。
 私も国道297号線を走っていて始めての小湊鉄道の駅だったのでふらりと寄って見ました。駅前は多少広いロータリーみたいになっているので車を止めて駅舎を見てみました。駅舎は小湊鉄道特有の「大正時代物の味の有る駅舎」です。それで駅前に行ってみたら驚きました。「関東の駅百選」に選ばれている駅で、平日夕方なのに乗客(学生)が1人しか居ないのに私を含めて4名写真を撮っている人が居ました。難しい所ですが平日でもこの様な観光客が居るのなら土日の昼だけでも有人でもいいかもしれません。又上手く折り返しができれば一部の上総牛久折り返し列車を上総鶴舞まで持ってこれれば利用客は増えるかも知れません。但し国道297でパークアンドライドできる駐車場や鶴舞市街地を結ぶバス路線(牛久〜市街地間バスを振り替えるか?)等の利便性向上策が必要なのは言うまでもありません。でもそうすると今の良い雰囲気は無くなるでしょう。「関東の駅百選選定駅=観光地」と考えると其処は難しい所かも知れません。
 上総鶴舞で写真を撮っていたら上り列車が20分位待てば来る時間だったので、ここで待って列車の写真を狙いました。来た上り列車には2両編成で合計10名程度の乗客しか乗っていませんでした。上総鶴舞からも乗客ゼロ(待っていた学生は下り利用の様だった)でした。平日はこんな物かも知れません。

 [30]上総鶴舞駅駅舎                         [31]上総鶴舞駅構内
      

 [32]上総鶴舞駅に入って来る上り列車                 [33]国道297号線と小湊鉄道(上総川間〜上総牛久)
      

 上総鶴舞で上り列車を見送った後、早速私も列車を追いかけながら国道297号線で上総牛久を目指します。すぐ車を出して制限速度+α程度の速度で走り出すと暫くしたら隣駅の上総川間に止まっている列車に追いつきます。並んでしまうと信号の無く流れている国道の乗用車の方が有利で、上総牛久の手前で車を止めて写真を撮ることが出来ました。この様に並走してみると車の速度の優位さは明らかです。
 [33]の写真を撮った後、上総牛久の駅を覗いて見ます。国道297号線から上総牛久駅へ行く為に上総牛久市街地への道である国道409号線に入ります。上総牛久駅周辺の国道409号線は「国道」と言う名前から考えれば狭い道路ですが、かなり商店があり地域の中心の町の感じがします。上総牛久は国道297号線と国道409号線の交差点であり交通の要衝です。上総牛久からであれば東京へも409号線・アクアライン経由と297号線・市原IC経由東関道のどちらのルートでも東京・横浜へアクセス出来るので道路交通の便はかなり良いと言えます。
上総牛久駅周辺の地図(ゼンリンデーターコム)
 上総牛久駅前は駅舎は小湊スタイル(木造で創業時から変わらない)の駅舎ですが、駅前は多少の広場になっており大多喜・鶴舞・勝浦へのバス停がありバスも待機しています。又駅構内には今は駐車場になっていますが昔の貨物用の側線らしき場所と倉庫らしき物が有り(上総鶴舞にもあった)地域の物流の中心だった過去の状況がしのばれます。
 しかし駅前はそれなりの人が居て駅前と国道沿いに店が有り地方の町の中心の駅前と言う感じです。駅の構内には先ほど写真を撮った上り列車と下りの上総中野行きが入ってきて交換します。上総中野行きは30名程度乗っており、20名近い人が降りて改札口を出て行き自転車や迎えの車等で去っていきます。又上り五井行きは20名以上の人が乗り出発していきました。
 やはり上総牛久は統計に出ているように小湊鉄道の乗客流動的には大きな谷間で、上総牛久〜五井間は「鉄道として存続できる最低限の流動・最低限の周辺人口が有る」地域であると言うのがこの状況からも実感できます。

 [34]上総牛久駅駅舎                         [35]上総牛久駅前広場状況
     

[36]上総牛久駅構内                         [37]国道297号線と小湊鉄道(上総牛久〜馬立間)
     

 上総牛久を出た段階ですでに18時頃で日が落ちかけていましたので、東京に戻る為に国道297号線を市原インターに向い進みましたが、もう一箇所見ておきたいと思い既に日が暮れかけていましたが、もし計画が実現していたら千葉への分岐駅になり京成が乗り入れていたか小湊の分岐駅になっていた海士有木に寄って見ました。
 海士有木は五井から2つ目で所要時間8分・駅間距離5.4kmと言う距離であり、東京駅までも直通快速を使い乗換時間を考えなければ1時間10分程度で付ける距離であり十分東京への通勤圏内と言える立地です。海士有木周辺は前に乗ったときも沿線にかなり住宅があり、国道297号線沿いにもそれなりに住宅の有る地域です。
 駅自体は国道から道を入った奥に有りますが、駅前は既に19時前で店じまいした店が一軒有るだけで閑散とした感じです。幾ら五井に近い住宅地の中で「店が殆ど無い駅前」「木造の駅舎」「側線と倉庫跡の残る構内」は完全にローカル線の様相です。ましてや下の写真の通り「人が売る券売所」「構内踏切の有る姿」です。此れが東京駅から1時間強の所に有る路線の駅とは思えません。ローカル線風情を楽しむ趣味的には好ましいでしょうが、日常利用する立場で見れば明らかに「時間が止まり取り残された駅」としか言いようが有りません。
海士有木駅周辺の地図(ゼンリンデーターコム)
 東京駅から1時間強の位置にありながら30分に1本ローカル線の気動車が来るだけの田舎の駅と言う海士有木の状況は、果たして好ましいと言えるのか?と感じます。地図を見ても駅の南側〜国道沿いにはそれなりの人口集積が有ります。通勤距離としてそれ相応の立地なのに、現実は住宅は有れども良好な住宅街とは言えない状況が有ります。原因は何なのか?少なくとも日常利用にも有る意味抵抗を感じるレベルの小湊鉄道の前近代的な運営状況も有るのではないかと思います。
 千葉急行電鉄→京成千原線の苦しい経営状況から、なんとか「海士有木まで延伸・小湊の改軌及び電化・沿線を区画整理を含めて総合的に開発」と言う事が出来なかったのかと思います。今では既に手遅れですが市原・土気・大網や小湊沿線の光風台の様に等の千葉県の「東京駅から1時間+α」地域のニュータウン開発が進んでいたバブル期であれば、小湊鉄道も都市近郊鉄道に脱皮する機会が有ったのかもしれません。此れを「取り残された」と見るか「バブルに踊らされなく救われた」と見るかは別にして考えさせられる事だと改めて思いました。

 [38]海土有木駅駅舎                         [39]海土有木駅内部
     

 [40]海士有木駅構内(向かいのホームの後ろは畑)
 

 (7)まとめに変えて 〜果たして房総横断鉄道の貧弱な鉄路を維持できるのか?〜

 今回5月にいすみ鉄道・小湊鉄道を利用して見て又並行国道の国道465号線・297号線を利用して見て、一応大原〜五井間で房総を横断している鉄道を利用し周囲の状況を見てみました。私にとって久しぶりのフォーラム投稿の「 夏の会津路一周記AIZUマウントエクスプレス鬼怒川温泉直通記念訪問記 」以来のローカル鉄道訪問でしたが、比較的恵まれているであろう関東地方に有るにも関わらず乗降数・沿線人口共に少なく、改めて地方過疎地域の鉄道の厳しさを感じさせられるローカル線訪問であったと言えます。
 そこで今回の訪問記のまとめに変えて、「いすみ鉄道・小湊鉄道の現状」「県の「房総半島横断鉄道活性化プロジェクト」は有効なのか?」「いすみ鉄道・小湊鉄道の取るべき道」の3項目に分けて意見を述べたいと思います。

 1.いすみ鉄道・小湊鉄道の現状

 今回訪問したいすみ鉄道・小湊鉄道は全て同じ状況に有るわけではありません。ですからこの鉄道を「接続して繋がっている」と言うだけで十羽一絡げに語るわけにも行きません。
 その為いすみ鉄道・小湊鉄道について、上総中野で別れている経営上の分類の他に、置かれている状況・環境に応じて房総横断鉄道を利用者の流れ・駅利用客数等から大きく3つの区間に分けてそぜぞれの状況に応じて考えたいと思います。

 Ⅰ小湊鉄道五井〜上総牛久間→市原市内住宅点在地域を結ぶ郊外路線。1日当たり利用客が各駅共130名〜900名程度有る。
 Ⅱ小湊鉄道上総牛久〜いすみ鉄道大多喜間→房総半島内陸部を貫くローカル線。1日当たり利用客が各駅共50名以下。
 (養老渓谷と上総中野のみ100名以上)
 Ⅲいすみ鉄道大多喜〜大原間→大多喜と大原を結ぶ都市間利用的路線。学生利用が多く乗り通し利用も多い。

 この様に「ローカル線である」とも「都市近郊鉄道である」とも言えない、複数の性質(私は上記の3つに分けられると考える)を持ち合わせている鉄道です。この分類から見るとⅠ→千葉の近郊鉄道・Ⅱ→典型的過疎ローカル鉄道・Ⅲ→地方にある(此処の場合外房線の)フィーダー路線に分類されると考えます
 只この分類は、公式の分類ではなく私の主観的分類です。しかし「当たらずしも遠からず」と言う現状です。又存続問題・運営上の対策を考える上で分かりやすくする為に乗降人数から分類した物であります。以下においてこの分類を基にいすみ鉄道・小湊鉄道について考えたいと思います。
 
2.県の「房総半島横断鉄道活性化プログラム」は有効なのか?

 先ずは今存在する具体的活性化策について考えたいと思います。今回訪問のいすみ鉄道・小湊鉄道に関しては流石に関係自治体の千葉県や沿線自治体もこのままで良いとは思ってないようで、県等が主体となり国交省の「公共交通活性化プログラム事業」を使い、房総横断鉄道活性化プログラム推進委員会が「 房総を横断するローカル鉄道の活性化策と沿線地域観光振興策の策定に関する報告 」を平成16年度に行っています。(※ 同報告施策イメージ図
 この報告では「小湊鐵道といすみ鉄道との乗り入れ」「デュアル・モード・ビークル(DMV)による運行の可能性」「沿線地域PRのための鉄道とバスを組み合わせたツアーの実証実験及び参加者のアンケート調査」「小湊、いすみ両鉄道とアクアライン高速バス等を組み合わせた企画乗車券の設定等による旅客誘致方策の検討」「沿線観光資源をPRし、観光客誘致を促進するための利用者向けガイドブック及びガイドマップを作成」と言う5項目について検討を加えています。
 この中で後ろの3項目に関しては沿線地域のPR・企画乗車券の設定・ガイドブックの作成等、有る意味効果は疑問のですが一般的な施策であり、養老渓谷・大多喜と言う観光資源を抱えている小湊・いすみ両鉄道の活性化にとって多少なりとも役に立つ施策で有るとは思います。但し効果は「多少」であり決定的な対策になる物ではないと考えます。それに対して問題は「直通運転」「DMV導入」と言う施策です。直通運転は有る意味いすみ・小湊量鉄道に影響する施策ですし、DMVは未だ実験中ですがローカル線導入を期待されている技術です。その2点に絞り活性化プログラムの意味について考えて見たいと思います。

 (Ⅰ)直通運転は有効か?→五井乗換ではハンデだし、少なくともJR特急・高速バス利用より早くならないと意味は無い。
 直通運転に関しては前に大多喜〜上総中野間の試乗記の時に大多喜〜東京間の所要時間を比較しましたが、現実問題として大原経由JR特急・京成高速バスよりかも所要時間で1時間以上掛かります。又非電化で有るので五井から千葉方面に乗り入れるのは難しく、上総上のでは直通しても五井での乗換を強いられる事に有ります。
 それで「距離が短いのを利用して所要時間を短縮しよう」としても、今のいすみ鉄道・小湊鉄道の軌道状況等ではとても高速化は無理な話です。と言って高速化をするだけの投資をしても沿線人口の絶対数が少ないから採算が取れるだけの利用は有りません。その様に考えると、直通運転をしても活性化への寄与は限りなく少ないと言えます。

 (Ⅱ)DMVは有効か?→DMV輸送力以上の瞬間的輸送量が有る?又バスの輸送力で軌道を維持する必要が有るのか?
 JR北海道が研究開発しているDMVですが、一般的には「ローカル線生き残りの有効策」と思われていますが、果たして本当なのでしょうか?奇しくもいすみ鉄道は昭和29年にレールバスキハ01が初めて投入された路線です。(「 国鉄木原線と小湊鉄道 」参照)このレールバスは今の富士重工製レールバスよりももっとバスっぽい簡単に言えば軌道上しか走れないDMVであったということが出来るでしょう。
 この木原線での昭和20〜30年代のレールバス採用の時点でも通学時には輸送力が足りずに普通型気動車が使われていました。同じ事が今にも言えないでしょうか?現有のいすみ200系は定員が103名でバスよりは定員が多い程度ですが現況で2両連結で運転しないと運べない状況も有りますし、1両で運転の場合もそれなりに乗っています。此れを敢てより定員の少ないDMVにかえるメリットは何処に有るのか?と言う気がします。多分DMVを導入しても大多喜〜大原間では賄い切れない場合が発生すると言えます。そうなると既存のレールバスも保有していないと間に合わなくなります。こうなると2重投資です。私はDMVはいすみ鉄道の場合キハ01の二の舞になると考えます。
 もし「DMVで十分の需要しか恒常的に無い」と言う場合、「何故バスをレールの上に走らせる必要が有るのか?」と言う疑問にぶつかります。既に国道・県道と言う基盤が有るのならバスで十分なら道路を走らせればいいのです。その様に考えるとDMVは中途半端であり無駄が出てくると言えます。少なくともいすみ鉄道にDMV導入の意味は極めて乏しいと言えます。

 この様な理由から考え、県の「房総半島横断鉄道活性化プログラム」は有効か?と考えると大きな疑問になると言えます。しかし最後まで諦めずに何とか鉄道を存続させる方策を考える必要が有ると言えます。私の個人的考えは「全部救う事は不可能でも、もう少し現実的方策と覚悟で救う部分が有る」と考えます。

3.いすみ鉄道・小湊鉄道の取るべき道は?
 
 いすみ鉄道・小湊鉄道の「房総横断鉄道」に関しては、上記の千葉県の活性化プログラムでも残念ながら「生き残りの切り札」とは言えない状況です。現況では特にいすみ鉄道は「座して出血死を待つ」だけですから「活性化プログラム」から一歩でた方策を考える必要が有ります。以下においては具体的生き残り策について私見ですが考えて見たいと思います。

「1」先ずはできる所から合理化して支出を減らすと同時に増収策を考える。
 
 今のいすみ鉄道・小湊鉄道の現状はそのままで存続できるほど甘くはありません。特にいすみ鉄道は大多喜〜大原間も簡単に存続できるほど良い状況ではありません。その様な状況では「安全性を絶対的に確保できる範囲での限界までの合理化」が存続の為の最低条件になります。
 又今回の僅かな訪問でも、特にいすみ鉄道に「無駄な状況」が散見されました。正直言って「濡れ雑巾」です。その部分に関しては徹底的に見直しを行い、少しでも鉄道を生き残らせられる様にしなければなりません。先ずは徹底的な努力が必要です。
具体的には下記の項目は今直ぐにでも、いすみ鉄道・小湊鉄道両方に合理化が出来る要素が存在すると言えます。
 ・無駄な動力費の削減→駅停車中のアイドリング・無駄な増結運転等は直ぐに辞め動力費を減らす。(いすみ鉄道)
 ・保有車輌削減→運用合理化で保有車輌の削減を行う。出来ればいすみ・小湊両鉄道で車輌の融通し予備車輌削減を行う
 ・駅務の合理化→乗降客の少ない駅員常駐駅の見直しを行い券売機導入等で無人駅化する。(小湊鉄道五井〜上総牛久)
 ・運転のワンマン化をする→末端区間の利用者数の少なさから車掌添乗を見直し人件費を削減する。(小湊鉄道)
 以上の項目はそんなに困難無く実施可能で有ると考えます。只削減できる経費は少ないとも言えますが、それでも厳しい経営状況から考えると無駄な話ではありません。先ずは安全性を最大限担保しながらできる所から収支改善の最大限の努力をすべきで有ると考えます。それが経営改革の第一歩でると考えます。
 
 又同時にいすみ鉄道では「従業員意識の改革」が必要です。乗車日の5月8日はJR西日本の尼崎事故の後で鉄道に厳しい目が向けられて居た時期ですが、大原〜大多喜間で乗った列車で(好ましいことでは有りませんが)初めて「膝を組みながら運転する運転手」を見ました。昔の旧国鉄末期を見ているような感じでした。この様な従業員のレベルでは経営の自主的改革は出来ません。
 この様な状況がまかり通っている事自体が問題ですが、この現状はいすみ鉄道の従業員には鉄道マンとしての最低限のレベル・意識すら確保されていないと言う事を示す可能性があります。収支改善の合理化と同時に従業員意識の改革も必要で有るとも、この低レベルさを示した現状から見ると言えます。
 
 その様な意識改革・合理化策の後それだけでは縮小均衡になってしまうので、可能な限りの増収策を考える必要が有ります。しかし上記の「房総半島横断鉄道活性化プログラム」でも観光客へのアピール等の方策は打ち出されています。それらも観光客等の定期外客の増加と言う意味で増収策にはなります。
 しかしそれ以外にも打てる策はあります。此処では増収策として「観光客誘致」以外の増収策について考えたいと思います。なかなか「抜本的増収策」が有るわけでは有りませんが、今回の訪問で次の2点はそんなに手間もかからず実施できる方策ではないかと感じられました。
 ・大多喜〜上総中川間(国道297号線との交点付近)に新駅を設置する。(いすみ鉄道)
→近くに大型ショッピングセンターと小規模団地が有る。無人駅であれば設置費用はそんなに掛からないのだから、少しでも利用が望める地域には積極的に新駅を設置すべきである。又ショッピングセンターとの提携(買い物をしたら帰りの運賃を値引く等)等の方策もあわせて検討すべきです。
 ・駅の集客を高める為に駅にコンビニ的な売店等の設置を行う。(いすみ鉄道大多喜・大原 小湊鉄道光風台・上総牛久等)
→小湊鉄道五井〜上総牛久間の殆どの駅は有人駅であり、いすみ鉄道も大多喜は駅構内に本社があり職員が常駐しているのですが鉄道業務だけに専念している形です。此れは非常に勿体無いと言えます。せっかく駅員を置くのならせめて売店等を置いて多少の増収策になるようにしたい所です。具体的には無人駅だが利用客の多く周りにコンビニの無い大原や有人駅だが環境が似ている大多喜・上総牛久や利用客も多く周りに住宅がありしかも道路が通っている光風台は、比較的売店を作っても需要が有るような気がします。この様な駅は積極的に副業を行うべきであると言えます。

 この様な「自助努力で出来る収支改善・経営改革」策を実施すべきで有ると考えます。現況で収支均衡状況である小湊鉄道は未だ良いですが、いすみ鉄道はこの様な改革策をしても「焼け石に水」の状況です。しかし何もしないわけにはいきません。少しでも病状が回復する努力をすべきです。
 その上で未だ色々な方策が有りますが、本当に地方交通として必要な区間(いすみ鉄道で言えば大多喜〜大原間)を維持する為に公的な欠損補助を求めるにしても、可能な限りの方策を取った後でなければ、税金投入の支持は受けれないといえます。その為にも自助努力でのできる限りの改革は必須で有ると言えます。

「2」取捨選択をハッキリさせる。

 私は基本的にはいすみ鉄道・小湊鉄道を活性化させる方策は、上記の徹底的な合理化・可能な限りの増収策の後に、県の方策より抜本的な所に踏み込んで、残念ながら房総横断鉄道の維持は諦め「壊疽している部分を切除して、残りの部分を救う」と言う方策、つまり部分廃止→一部代替バス化による採算性改善しかないと考えます。

 上記のⅠ〜Ⅲの区間の中で今のままでも鉄道として維持できるのはⅠの小湊鉄道五井〜上総牛久間だけです。少なくとも現況で路線収支的に黒字なのはⅠ区間だけでしょう。小湊鉄道の鉄道事業は最初に紹介したとおりほぼ収支均衡です。駅利用客数から見て「五井〜上総牛久間は黒字・上総牛久〜上総中野間は赤字・全体で収支均衡」と言う状況で有る事は間違いありません。沿線も住宅がそれなりに立ち並び、沿線のバス会社が同じ小湊鉄道の為平行国道の297号線にはバス路線が運転されていません。その為沿線の住宅地の需要を主体に公共交通として小湊鉄道が利用されておりその存在感は無視できない物が有ります。
 又この地域は五井の乗換時間を考慮しても最遠の上総牛久から千葉まで50分強・東京駅まで1時間45分程度で行く事が出来、東京の通勤圏として十分通用する地域です。地価下落から都心回帰が進んでいる今日この頃でも急に人口・鉄道利用者が減少するとは考えにくく、少なくとも環境的にはローカル線でも良いレベルに有ると言えます。その点から考えても「特段の対策を打たなくても鉄道存続が可能」と言う事が出来ます。
 
 それから簡単には廃止できない区間はⅢのいすみ鉄道大多喜〜大原間です。この区間は大原・大多喜・大多喜女子の各高校の通学需要を中心に手堅い需要があります。少々古いデータですが94年度で通勤定期利用客で大原〜西大原間で1192名・上総中川〜大多喜間で832名の利用客が有ります。(上記鉄道ピクトリアル特集より)大多喜〜小谷松間では331名に減少する状況から見ても、いすみ鉄道の中では大原〜大多喜間の需要は突出していると言えます。
 この旅客の流れは私が乗車した時にも見る事が出来ました。「バスで輸送できる量」と言う点では、この区間はYesになりますが(Ⅰの区間は国道の混雑も懸念されるし、かなりの本数が必要になる可能性が高い)平行国道のネックポイントの存在や2両連結が必要な通学需要の集中や大多喜の街としての過疎対策としても鉄道に存在意義は有ると言えます。
 その様な状況から考え、この区間は「社会的観点から考えても鉄道存続の意義は有る」と言う事が出来ます。

 問題は中間のⅡの区間です。この区間は沿線の人口は極めて少なく地域の大動脈国道297号線からも離れている区間です。元々「需要の有る地域を目指して」作られた路線ではなく、「房総縦断・横断を目指して線路を引きやすい地形の所を引いていたら偶々双方がぶつかりそこで計画を断念してしまった」と言う形で作られた為、元々沿線には人口集積が無くその為に需要が極小であると言う地域です。
 実際的に駅前にそれなりの家が有るのは養老渓谷・上総中野だけであり、駅の周りに家が見えないと言う駅が多数有るのがこの区間の現実です。又「房総横断鉄道」と言う位置付けからしても、上総中野で実際に接続しているのは5往復で、私が利用した時にも乗り換えて利用したのは私だけ、大多喜から対千葉・東京では大原周りの方が早いと言う現実からして見ても、その意味は無いと言うことが出来ます。
 この様な状況では「鉄道として存在意義は有るのか?」と言えばNoと言う事になります。又この地域は国道297号線から離れた平行道路が県道の状況です。養老渓谷と言う観光地が控えていると言えども観光客は車の方が多い状況で、現実問題の判断として「鉄道を維持するのか」「その投資を道路に振り向け、公共交通はバスに任せるか」と言う2者択一の中から選択をしなければならない状況に追い込まれていると言えます。

 この様に全体を状況から分けた区分で見て見ても、表題の命題「果たして鉄路は維持できるのか」にたいして、結論から言えば書いて有る様に「半分Yesで半分No」と言う事になります。少なくともⅠ・Ⅲの区間に関しては鉄道として生き残る方策は有るだろうし、そのための対策をすれば未だ生き残る価値は有ると言えます。しかし問題はⅡの区間です。この区間を鉄道として存続させるには「如何に沿線人口を増やし」「如何に観光客を呼び込むか」と言う努力がかなりのレベルで必要です。
 元々基礎数字が少ないのですから、鉄道会社が幾ら努力しても利用してくれるパイが無ければ何も意味を成しません。基礎数字を増やさなければ如何にもなりません。しかしそれが出来れば「過疎で大多喜町は苦しまない」と言う事が出来ます。その様な状況では「このまま座して出血死を待つか」「壊疽している部分を切り捨てるか他を救うか」と言う究極の選択を迫られていると言えます。少なくともⅡ区間ではその様な究極の決断を迫られている状況に有ります。
 その為に「出血死」ではなく、「壊疽しつつある」上記のⅡの区間小湊鉄道上総牛久〜いすみ鉄道大多喜間を廃止して、この区間は代替バスに任せて鉄道はⅠの通勤区間とⅢの大多喜市街地〜大原町連絡の区間のみ残して利用客の多い区間に特化すると言う事です。そうすれば現況より採算性は改善され、小湊鉄道に関しては大きな投資部分を除き自立する事が可能でしょうし、いすみ鉄道に関しても赤字が減少して存続に明るい見通しが出てきて次の方策を生み出す余力が出てくると思います。

  「3」残った部分に関してはそれ相応の投資をしてレベルアップを図る。
 
 その様に区間廃止と言う「外科手術」をして「合理化も行った後でも、現状では残りの区間に関して生き残れるほどレベルの高い状況ではありません。特に線路等のインフラのレベルに関して言えば「安全運行が出来る最低限のレベル」で有り、小湊鉄道の場合車輌等も入換の時期が迫っています。長期的に生き残らせるにはインフラ部の保守向上は安全性確保の為にも必要です。「壊疽している部分」を切り捨てる代わりに、生き残れる最低限の投資は必要不可欠です。

 [41]いすみ鉄道軌道(西大原〜上総東)  [42]いすみ鉄道軌道状況(総元〜西畑)  [43]小湊鉄道状況(月崎付近)
           

 写真ではイマイチ分かり辛いですが、軌道のバラストは既に多くの箇所でやせ細り墳泥が出ている所も多々有り自然芝生軌道の所も結構多くあります。又木製枕木は朽ち果てつつある所も多く50km/h程度の走行でも前にも述べたように「車内から写真を撮ろうとしても列車のゆれで写真がぶれる」状況です。この様な状況では抜本的改善策を取らないと長く鉄道を維持する事は困難になると考えます。
 又いすみ鉄道では「 いすみ鉄道経営改善計画(平成16年度〜平成20年度) 」を策定していますが、その中で「(4)鉄道施設(土木構築物・電路・線路)の老朽化に伴う修繕の効率化」と言う項目で平成16年度〜20年度の修繕計画は下記の様になっています。
 ・橋梁調査結果により早急に修繕が必要と判断された「此華橋梁」の修繕は、安全確保を図るため速やかに修繕工事を実施。
 ・繰り延べされている大原駅及び上総東駅の分岐器の重軌条化工事については、磨耗が著しいため、先端軌条部のみ施工。
 ・上記以外の鉄道施設にかかる抜本的な修繕工事については、原則として本計画期間内には実施しないこととする。
 ・鉄道の安全輸送を確保する為に必要な修繕については、原則として通常の修繕費の範囲内(23百万円〜37百万円)で実施。
 率直に言って、「経営改善の為にインフラ修繕を先送り」と言う計画です。今の状況では安全性が阻害されないのならば経営改善の為に仕方ないでしょうが、現状のままでは平成20年度以降も大規模修繕の原資が出てくる可能性は低いと言えます。その様な状況ではどんどんインフラは痛んで行き最終的にはインフラが崩壊して行き運行すら危なくなっていきます。
 この様な危惧を回避する為にも、かなりのレベルでインフラ改善は必要です。それには先ずは原資をひねり出さなければなりません。その為にも壊疽部分を切離し足しロウでも収支を改善し原資をひねり出す必要が有ります。
 又この状況は小湊鉄道も同じような状況に有ると言えます。収支は小湊鉄道の方が健全では有りますが、車輌の経年が28年〜40年以上経っていていすみ鉄道の車輌の経年17年と比べると深刻な状況です。やはりいすみ鉄道と同じように(有る意味それ以上に)小湊鉄道も路線・車輌・駅舎等の改善にかなりの金額の投資が必要で有るといえます。
 しかし此れだけ痛んだインフラの改善には多額の投資が必要になります。「外科手術」による採算性の改善だけでは費用が捻出できるとは必ずしもいえません。その為に 近代化補助 等の活用や一歩進んだ 群馬型上下分離方式 の採用等も考慮に入れて総合的にインフラ改善策を考えて進めていく必要が有ると言えます。

 この様に長々となりましたが、いすみ鉄道・小湊鉄道の「房総半島横断鉄道」の試乗記を今回書きましたが、改めて思うことはこの路線が「存続の厳しいローカル線」であると言う事です。
 しかし地域の状況を考えると簡単には「全線廃止」と言う事も言えないし、都市近郊鉄道から山間ローカル線まで、一応一本で繋がっているルートの中で複数の状況が共存している現状が複雑にしているとも言えます。
 又この前2回見に行った会津鉄道等に比べると、鉄道存続に対する地域の危機感も鉄道会社自身の改革意識も低いと言わざる得ない状況です。其処に別の意味での問題の深さが存在していると言えます。
 今回も色々と書いては見ましたが、やはり地域と鉄道の関係について考えることは難しい物であると改めて感じました。それは行政や鉄道会社も同じように戸惑い難しく感じているのかもしれません。しかしそれでは前には進みません。その様な状況から脱出できる一助になりいすみ鉄道・小湊鉄道が存続しより発展すれば、それに勝る物は無いと思います。

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