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鉄道模型おきらく研究室:レイアウトと列車のページ

ボギー車の実感的曲線走行に関する一考察  byどんぶりさん
2006/2/26 リリース
 

はじめに

近年、小型レイアウトの関心が高まっている。従来はR250程度であった曲線レールでは最近になってR100程度の製品が発売されたり、あるいはBトレインショーティーや鉄道コレクションといった小型車両が充実したりと、デスクトップサイズのレイアウト制作が容易に行える環境が整ってきた。

その勢いに乗る形で、筆者も工場地帯の貨物線を意識した小型レイアウトの制作にとりかかった。曲線の最小半径は約R150である。(ただし、フレキシブルレール使用のため、実際はR140に近い部分もあるかもしれない)。動力車は、最小通過半径データベースを参考にしてKATOのDD13 とし、タキやホキといった臨港線に似合いそうな貨車を買い足している。

曲線通過時における不自然さと車体、レールとの関係

ある日、カワイのコキ5500を購入し、早速入線させて試運転を行った。走行性能には全く問題がなかったものの、曲線通過の際に車体が大きく振れるような挙動を見せた。列車の進行速度に対して車体の振られ方が大きく、不自然な曲がり方を見せ全く実感的ではなかった。レイアウトの制作、運転を楽しむにあたって、「できるだけ実感的に」という指針があるため、以後コキ5500がレイアウトを走行することはなかった。
実験風景1
Fig1.カワイ製コキ5500の入線風景

その後、KATOのワキ5000を購入した。コキ5500と同様に車体長が長いボギー車のため、不自然な曲線通過が懸念された。しかし、ワキ5000は曲線通過に不自然さがなく、その後はレイアウトの準主役を務めている。(ワキ5000って好きな車両なんです)

同じボギー車にも関わらず、カワイのコキ5500とKATOのワキ5000で評価が分かれた理由は何か。両者を観察しているうちに、ある違いに気がついた。

はみ出しの例
(A)カワイ製コキ5500
はみ出さない例
(B)KATO製ワキ5000
Fig2.カワイ製コキ5500とKATO製ワキ5000のR150通過における違い

Fig2.のように、カワイ製コキ5500では曲線通過時に車体から外側にレールがはみ出しているのに対し、KATO製ワキ5000では車体下部からのレールのはみ出しはない。他の車両について調べてみても、同様に曲線通過時に違和感を持った車両は車体からのレールのはみ出しが認められた。

違和感のあるはみ出し例
(A)TOMIX製タキ25000(曲線通過時に違和感あり)
違和感のないはみ出し例
(B)KATO製タキ1000(曲線通過時に違和感なし)
Fig3.他の車両における曲線通過時のレールはみ出し
(ただし、タキ25000はR150は通過できないため、参考データとする)

以上から、車両が自然に違和感なく曲がれるかどうかは、曲線通過時の車体からのレールのはみ出しの有無によって左右されると推察される。そこで、本稿では、「ボギー車の実感的曲線走行を実現する曲線半径と車両形状」について考察する。なお、なぜレールがはみ出すと違和感が生まれるかという点については、回転中心と車両速度等の関係を研究する余地があり、別の機会に考えていきたい。(早く言ってしまえば「分かりません」(笑))

 

車体からのレールはみ出しに対する境界条件の解析

 

急曲線を走行するボギー車の位置関係をFig.4に示す。一方の台車中心を点A、他方の台車中心を点Bとすると、車体幅からのレールのはみ出し量はABの中間位置で最大値をとる。なお、車体幅は形式ごとにバラツキがあるが、実車の標準的な車体幅約2900mmを1/150し、本稿では約 20mmとして考える。
平面図1
Fig4. 急曲線走行中の車両とレールの位置関係
Fig4.をさらに解析する。

レールの曲線半径をR、車両のボギー間距離をL、曲線の中心点を点Oとし、車両の中心位置における「点Oからレール外側までの距離」と、「点Oから車体外側C’までの距離」を考える。
記号の定義
Fig5. 急曲線走行中の車両とレールの位置関係(その2)
点Oからレール外側までの距離ORは、レールのゲージが9mmであるから以下のように表せる。

OR=R+(9.0/2)=R+4.5 −−−(1)

 

次に、三角形OACにおいて、OA=R、AC=0.5Lより、三平方の定理よりOCを求めると

OC=√(OA^2+AC^2)=√(R^2+0.5L^2) −−−(2)

点Oから車体外側C’までの距離は

OC’=OC+10=√(R^2+0.5L^2)+10 −−−(3)

 

車体外側からレールがはみ出るかどうかは、(1)と(3)の大小関係で決まる。つまり、(1)=(3)となる場合が車体外側からレールがはみ出るかどうかの境界条件となる。

R+4.5=√(R^2+0.5L^2)+10 −−−(4)

 

ボギー車の実感的曲線走行を実現する曲線半径と車両形状

 

上記(4)をさらに変形し、曲線半径Rとボギー間距離Lとの関係にグラフ化するとFig6.のようになる。

計算結果の例
Fig6. 曲線半径Rとボギー間距離Lとの関係

図中赤線より下は、車両が通過しても外側レールが車体からはみ出さない範囲であり、赤線より上は外側レールが車体からはみ出てしまう範囲である。両者をそれぞれ「実感的領域」「非実感領域」と定義する。例えば、ボギー間距離L=80mmの車両がR100の曲線を通過する場合は外側レールが車体からはみ出て実感的な走行は望めないが、R150以上ならば車体からはみ出さず、実感的な走行が期待できると読める。

さて、次に具体的な車両で検証を続けたい。

ホイルベースの比較
Fig7. ボギー車のサイドビューとボギー間距離

Fig7.は、筆者がテストした車両のボギー間距離を示す。コキ5500はボギー間距離は95mmであった。なお、標準的な20m級旅客車両のボギー間距離も約95mmであったため、コキ5500と旅客車両はほぼ同一として比較ができると判断する。

ホイルベースごとの境界条件の違い
Fig8. 曲線半径R、ボギー間距離Lと実際の車両のボギー間距離

Fig8.は、Fig6.のグラフにFig7.で掲出したボギー間距離を重ねたものである。筆者のレイアウトの曲線R150(=公称値。ウチのレイアウトのR150は小さめです。R140ちょいだと思います)において、コキ5500や20m級車両、タキ25000は車体からレールがはみ出る「非実感領域」に属し、ワキ5000、タキ1000は車体からレールがはみ出ない「実感領域」に属することがグラフから読み取れ、実感的か非実感的かの境目はボギー間距離が80mm程度であることが分かる。

車両ごとに見ていくと、ボギー間距離が長いコキ5500や20m級車両を実感的に走らせるにはR210以上が必要であるが、ボギー間距離が短いタキ1000ではR100以下でも実感的に曲線を通過することができる、と読み取れる。

 

以上、「ボギー車が実感的に曲線を走行できるボギー間距離と曲線半径との関係」を考察した。「実感的かどうか」という判断は個々の主観によって大きく左右され、また車両の形状によっても差が出てくるが、小型レイアウトをお持ちの方が車両を購入するときの参考となれば幸いである。
 
20m級車輌の例
参考:20m級車両の曲線通過(R150を選択した時点で通過はあきらめてました)
 
(はいで記 どんぶりさん,ご投稿ありがとうございます.曲線の半径が200Rならホイルベース90mm以下,150Rなら75mm以下,100Rなら60mm以下にすれば良いということですね.大変参考になりました.)



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